第268話 出立の儀と守りの祭壇
陛下と向かったのは、王宮北の国守の尖塔、最上階だった。国王が移動していると言うのに誰一人着いてはこなかった。護衛もなく、僕と二人で、塔の狭い階段を黙して登っていった。
祭壇には、魔石を乗せられる窪みがあった。陛下は、その窪みにドラゴンの魔石を乗せた。しばらくすると魔石にいっぱい溜まっていた魔力が祭壇に移動していくのが分かった。魔力の動きを感じることができた。優しい光が祭壇に灯っている。祭壇自体が仄かに赤い優しい光を出すようになった。
「森の賢者よ。このドラゴンの魔石に魔力を注がれよ。魔石一杯になるまでな。」
王の言葉に応え、僕は、魔力を注いでいった。僕の魔力の半分ほどでドラゴンの魔石の魔力は一杯になった。祭壇の優しい光が少し強くなり、魔石も同じように仄かに赤い優しい光を出すようになった。
「流石じゃな。このドラゴンの魔石一杯の魔力を貯めるのに、王室の者全員で何日かかったと思う?7日間だぞ。それをわずかの時間で一杯にするのだな。そなたは。」
「はあ…。では、次に行くのはどこでございましょうか?」
「この国の最東北。レトナの山と瘴気の森が交わる場所。
「では、懇意にしているアグリゲートにお願いいたしましょうか?それとも、騎士様の護衛がよろしいですか?」
「騎士どもは、冬支度で少々忙しくてな、この儀式も知らせておらぬ故、お主が懇意にしているというアグリゲートに依頼しようかの。王室からの指名依頼じゃ。一度、執務室に戻って、ティモシーから王都のギルド経由で依頼しようかの。」
僕たちは、誰にも見られることなく陛下の私室に戻り、待機の部屋へと帰された。
「森の賢者様、遅かったですね。どのようなお話があったのですか?」
回りにたくさんの人がいるからロジャーは
「うむ。今回の魔術契約の手順と注意事項のような話だ。王室からの指名依頼をティモシー様経由でアグリゲートが受けることになる。契約が終了してメンバーが到着次第出発するぞ。準備を頼む。」
「準備って何をしたらいいんだ…、ですか?」
「宿の荷物をすべて引き上げて来てくれないか。」
「畏まりました。」
ロジャーが宿に荷物を取りに行って戻って来た1時間半後、王宮の中にはにアグリゲートドローンと護衛の4台のドローンが着陸した。
国王陛下は、騎士長のアンドリュー様だけを従えて中庭にやってきた。
「フォレス・アグリケートの諸君。今回は、少々長い依頼になるがよろしく頼む。私は、今回国王陛下の護衛として同行するアンドリュー・ジョンソンだ。このアグリゲートには同名の者がいるからな。騎士長とでも呼んでくれ。」
「畏まりました。宜しくお願い致します。では、我々のアグリゲートドローンに乗機ください。国王陛下、ご搭乗ありがたき幸せでございます。この度は、ご指名有難うございました。謹んでお受けし、全力で使命を全う致します。」
「うむ。宜しく頼む。」
「森の賢者様、ようこそいらっしゃいました。」
「よろしく。」
当たり前だけどレイ以外のパーティーメンバー全員がアグリケートドローンに乗機している。他のアグリゲートメンバーは、ドローンの護衛として同行する。
「では、行き先をお伺いしてよろしいでしょうか?」
「この国の最東北、瘴気の森とレトナ山脈が交わるちまで行ってくれ。そこに今回の目的地がある。」
「了解しました。シエンナ、離陸、東北方向に向かって出発。」
「了解しました。アグリゲート連絡。離陸後待機。護衛フォーメーション。東北方向に進みます。上昇して、巡航高度1500mで待機。繰り返す。上昇して巡航高度1500mで待機。」
『了解』
先に護衛のドローンが上昇し、1500mの高度で待機している。アグリゲート機が上昇してきて、巡航高度に達した時、一瞬で護衛のフォーメーションが組まれた。
「全機、出発します。」
1500mの高度を時速400kmに近い速度で飛行している。目的地まで直線距離で約2000km地上を馬車で旅するならどんなに急いでも50日以上かかる距離だ。馬をつぶしながら急いだとしても20日はかかるだろう。その距離でも今回の儀式の中では、真ん中の長さの距離というのだ。
王都を発って5時間近くが経過した。その間、魔物に会敵していない。時速400kmで飛行する乗り物を襲ってくることができる魔物はウッドグレン王国には存在しないと思われた。
「前方に瘴気の森が見えている。森に沿って北の方向に進路を変えてくれ。」
「了解しました。森に沿って北に進路を変更します。アグリゲート送信」
『了解』
「もうすぐ到着だ。5時間の連続飛行は疲れただろう。シエンナは、一旦、操縦を変わって休んでくれ。アンディー、しばらくの間で良い、操縦を交代だ。」
「了解、ミラ姉。」
「着陸が近くなったら、もう一度シエンナに交代だ。初めの着陸は何が起こるか分からないからな。」
「目的地が近い。少し高度を落としてくれ。速度も落としてもらえるとありがたい。」
それから15分程は時速100km程の速度で高度200mを進んでいった。
「おっと、停止してくれ。目的地上空に来た。」
陛下が目的地を発見したようだ。操縦をシエンナに後退し、着陸態勢に入った。時刻は、午後4時になったばかり。王都を出て5時間半がたっていた。
「シエンナ、魔物の状況は?」
「かなり魔物の影が濃いようです。100体近くいます。」
「着陸前に魔物を一掃しないといけないみたい。陛下、その祭壇の場所を正確に教えてください。祭壇を囲んで外向きに魔物を片付けて行きます。」
「うむ。あそこ、書面から少し右。木々の色が少し他と違う場所があるだろう。あそこだ。瘴気の森にもかかわらず樫の木が枯れずにある場所。あそこに瘴気の森の守りの祭壇がある。」
「祭壇上空に移動する。着いて来なさい。」
「全機、私に操縦を渡しなさい。」
シエンナが自機も含め5機のドローンを操り、配置した。そのまま高度を落としていく。
「魔石ライフルをアイスジャベリン、中威力にセットして。前方の魔物を一掃します。アグリゲート送信。」
ミラ姉が、全員に支持を出す。
『了解』
「全機、射撃準備、撃て!」
シエンナからの攻撃開始の合図が送信され、一斉に攻撃を開始した。
「ボフ、サム、ソイ。ドローンを降下させて1mで待機させたら祭壇の安全確認に行って。アグリゲート送信。シエンナ、魔物のの状況は?」
「一掃した模様。魔物の気配は感じません。」
『ボフ:安全確認終了。着陸して大丈夫だ』
「シエンナ、ドローンを着陸させて頂戴。」
「了解。」
アグリケートドローンが着陸すると直ぐに祭壇に向かった。ここでは、Aランクの魔物の魔石にいっぱい溜まった魔力を祭壇に移していった。祭壇が仄かな紫色の光を放つ。ドラゴンの魔石の時と同じように、空になった魔石に僕の魔力を一杯にした。魔石も祭壇と同じような、仄かな紫色の光を放つようになった。この儀式は、5分程で終了した。祭壇の扉を閉め、ドローンに戻った。
「次はどこの祭壇でしょうか?」
「次は、グリーンレイクよりも更に西、リトン山脈の麓にあるリトンの風の祭壇だ。ここから2500km程離れておる故、今日はここまでじゃ。近くの町の宿に泊まることにしようではないか。」
陛下の提案に従い、僕たちは、宿を見つけることにした。陛下の注文はそんなにうるさくなく、ベッドがあって食事を出してくれる宿であればよいと言うものだったが、なかなか泊めてくれる宿が見つからず、結局宿が決まって食事にありつけたのは、夜も深まりつつあった7時30分を過ぎた時刻だった。
そうか。こんなに転々と移動しないといけないから騎士団を連れてこなかったのか。お忍びの上に長距離移動。騎士団を連れて移動したら金銭的にも大変なことになる。一年近くかけて、この契約を実行したなんて、500年前の王様と魔術師は凄いな。
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