第267話 国守の魔術契約
「賢者さま、朝ですよ。」
まだ、眠い。寝足りない。昨日は、早く寝たのに…。
「おい。起きろ!出かけるぞ!迎えが来てる。」
「あっ。ロジャー。お早う。」
「やっと起きたか。宮廷から迎えが来てる。すぐ来いとさ。多分今から風呂入れられて着せ替えさせるぞ。仮面の魔法陣は、ペンダントにコピーしているか。風呂では、仮面を外させられるぞ。」
「大丈夫。額にルーン文字で刻み込んでる。魔力を浸透させてるから1週間はどうしても消えない。」
「じゃあ、もしもレイが帰って来ても1週間は森の賢者様を続けないといけないってことだな。」
「そうだね。そう言うことになるね。でも、しょうがないよね。仮面を外さないといけない場面が絶対あるから。」
「まあ、そう言うことだ。目は覚めたか?着替えて出かけるぞ。」
僕とロジャーは、王宮からの使いの馬車に乗せられて王宮に向かった。それからはいつもの流れだ、清められ、着替えさせられて朝食をとる。しばらく、休憩の時間があった。
「ロジャー、今日の儀式の流れ教えてもらった?」
「いや、全くだ。しばらく休憩しておけということだけだ。」
二人で休憩していると、執事長からお呼びがかかった。
「森の賢者様、お一人でこちらへおいで下さい。」
僕だけ陛下の私室に呼ばれた。いるのは陛下と妃殿下のみ。ティモシー様もいない。護衛騎士もだ。
「ここに入ることができるのは、本来王室と王室に直接使える者だけ、執務室とも違う特別な場所なのだ。そして、ここに其方を呼んだのはこれから行う国守の魔術契約についてすべてを話すためじゃ。ここまでは、良いか?」
「はい。ということは、今回行う魔術契約は、レイたちが行ったものとは少し違う契約だということですか?」
「そうだな。違うと言えば違うな。あの契約は、国の中で行われた契約。儂は、あの上に居る。あの契約も儂をある意味縛っておる。国王として、国民を守るという意味でな。魔術的にもだ。だが、それは、儂が国王だからだ。国王という務めを果たさねばならぬ立場だからじゃ。そういう意味では、儂が、国王という立場を失えば、その縛りは無くなる。ここまでは良いか?」
「何となく。分かりました。それで、今回の契約はどこが違うのでしょう。」
「儂は、この国の代表。お主は、儂と対等な魔術師だ。国という儂とお主という魔術師が契約をすることになる。この国を守る契約をな。対価は、お主とお主の仲間そして、お主の砦を決して害さぬことじゃ。それこそが対価。お主も、この国とわが王宮、王室を害さぬと言う対等な契約なのじゃ。」
「なるほど、国守の契約と言っても、契約内容は、害さないという約束なんですね。守るという訳ではなく。」
「それは、そうだろう。お主は、国から守られたいのか?お主には、力があるだろう。害されなければ自らを守る力は持っているであろうが。だから、国も守ってくれとは言わぬ。お主の力を国を害することに使ってくれるなと言っておるのじゃ。それが、国守の魔術契約のないようじゃ。もちろん、お主の力を借りる時には対価は支払うぞ。そしてな、この国守の魔術契約には、オマケが付いておる。互いに縛りあうだけでなくな。だから、行う意味もあるのだがな。」
「オマケですか。結界か何かが張られるとかそんなのですか?魔術を大量に使うから、作物がたくさんとれるようになるなんて言うのかもしれないですね。」
「お主、鋭いな。それだ。それなんじゃよ。この契約は、大量の魔力を使って互いを縛りあう物だ。しかし、その魔力は、この国に降り注いでいくのじゃよ。縛りあうって言ってもがんじがらめにして動きが取れないようになるって言うんじゃないからな。お互いの魔力回路に刻み込まれるって言うことだ。その為に一時的に使用された大量の魔力は、魔力回路に契約を刻み込んだ後、この国中に降り注ぐのじゃ。そして、薄い結界を張り、作物を実らせる。」
「だから国守の魔力契約って言うんですか?」
「うむ。そうだな。それ以上の意味もあるのだが、お主には、関りのないことだろうさ。」
「分かりました。それがすべてなのですね。私にかかわりがないことというのは少し気になりますが…、納得です。では、その方法は、これから教えて頂けるのでしょうか?」
「お主に関りがないことが気になるか…。すまんな。余計な一言だった。お主に関りないとはな。お主くらいの力を持った魔術師なら、我が国を滅ぼすこともできるということさ。それを防ぐための契約なのだよ。なっ、お主には関りがなかったであろう。」
「なるほど、強力な魔術師が国に仇なすことを防ぐための契約という側面もあるということなのですね。」
「そう言うことだ。」
「じゃあ、その契約はどうやればいいんでしょう。体も清めましたし、朝ごはんも食べ終わりました。」
「まあ、そう急かすな。普通は、数年から数カ月かけて行う魔術契約なのだぞ。一番最近行われたのが、お主たちが倒した、ヒドラが前に倒されたと言われる500年ほど前になる。」
「ヒドラが500年前に倒されていたんですね。この国でですか?」
「そのようだな。しかし、かなり深い階層であったと聞いておる。その時にその討伐に当たったのが異国の魔術師だったのだ。その魔術師との契約だったそうだ。」
「そうなんですね。では、国守の魔術契約には、この前献上したヒドラの魔石が必要なのですか?」
「そうだな。絶対必要なわけではない。しかし、Sランク以上の魔物の魔石は必要じゃ。そのランクが高く、取り込むことができる魔力が大きいほど、効果が大きいと伝えられておるな。」
「国守の魔術契約が大変なのは良く分かりました。1年かけてコツコツやっても良いのですが、何かを始めるのですよね。では、始めませんか。その為に来たのですから。」
「そうだの。では、始めるとしようか。しかし、お主は、契約の危険性など気にならないのか?」
「ええっ。危険なのですか…。それなら、少し考えさせてもらいたいのですが…。」
「まったく。お主という奴は…。気にならないのかと聞いただけで、危険だとは一言も言ってないではないか。」
「本当ですよね。危険ではないのですよね。魔力を全部吸い取られて死んじゃったりするとかないですよね。」
「まあ、仮に魔力を吸い取るような道具があったとしても、魔力切れで気を失うだけだろうが。そんなもんはないがな。魔力切れで、魔物に殺された話ならたくさん聞いたが、魔力切れで死んだ者の話なぞ聞いたことは無いぞ。」
「信じますよ。信頼してますからね。騙したりしないでくださいよ。」
「では、魔力契約の流れを説明しよう。お主と儂は、これから6か所の祭壇を回り、魔力を奉納することになる。その6か所の出発地は、ここの王宮じゃ。ここから王室ゆかりの者つまり儂らじゃな。儂らが魔石に詰め込んだ魔力をすべて奉納する。その時に使う魔石がドラゴンの魔石じゃ。お主は、その魔石に魔力を一杯にして同じようにここで奉納するのじゃ。さすれば、出立の儀は終了じゃ。」
「その時に使ったドラゴンの魔石は、どうなるのですか?また使えるのでしょうか?」
「さあな。王国の書にはやり方しか書いてないからな。どうなるかは知らぬ。ただ、魔石は、全ての儀式が終わるまでは、ここ祭壇に捧げられたままじゃ。終わった後確認に来ればよかろう。」
「いや、別にドラゴンの魔石が欲しいわけではなくて、どうなるのかなっていう興味があっただけですから、終わった後確認に連れてきてもらう必要はないですよ。」
「まあ、最後もこの祭壇に来るのだから、おのずとわかるであろうよ。最後は、この祭壇で、ヒドラの魔石に儂とお主が魔力を注ぎ込みながらドラゴンの魔石の上に重ねるのだそうだ。それは、魔術契約の最後、契約結びの儀の時じゃ。」
「じゃあ、後、5か所ですか?の祭壇はどこにあるのですか?」
「この国の各地に散らばっておる。それを決められた順に回らないといけないのじゃ。それで、本来なら半年から1年かかるのだがな。お主たちなら数日で終わらせてしまうのであろうな。ムハハハハ…。本当に、面白い奴らじゃて。」
陛下は、笑いながら僕の肩を叩いて。
「では、王宮の祭壇に参ろうか。」
そう仰ると、僕を連れて、誰もいない王宮の通路を歩いて行かれた。
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