第264話 森の賢者の飛行機実験

 少し寝てから来たんだけど、やっぱり眠い気がする。国王からの課題の一つ王国―帝国輸送ルートは開通した。バスは今製造中だね。今日は、王都に行くはずなんだけど、その前にモノレールの進み具合を見て見たいな。それに、模型飛行機がカメラを取り付けようとして放置された状態だ。


「ロジャー、王都には何時に着いておかないといけないの?」


「王室との魔術契約は明日から始まるから、今晩の内に宿についておけば大丈夫じゃない。それと、明日か明後日には王都の僕たちの拠点のリノベーションが終わるって言ってたから、今回の魔術契約の儀の間は、そっちに泊まることになるかもね。」


「そこって、僕が止まってもいい所なの?」


「ゲストルームもたくさんあるし、俺が一緒だから良いんじゃないか。今晩の宿の予約は、レイがしてたから心配いらないぞ。護衛の俺と同室だけど、大丈夫だろう。」


「全然大丈夫。それじゃあ、夕方まで時間があるから、アンディーとシエンナを呼んで飛行機の実験を進めようか。」


「そうだな。折角頑張ったから、模型飛行機形にしたいしな。じゃあ、アンディーとシエンナを今から呼ぶぞ。」


「お願いします。」


 時刻は、まだ6時10分。シエンナとアンディーだけじゃなくミラ姉も一緒に来ることになった。一人じゃ嫌らしい。


 6時30分前には、全員揃っていた。誰か一緒に来たらいけないからと僕は仮面をつけている。来たのは、パーティーメンバーの3人だけだったけど、仮面は付けたままだ。


「「「お早う。」」ございます。」


 シエンナだけ相変わらず丁寧なあいさつだ。


「お早うございます。」


「で、レイがここまで作ってくれたんだけど、カメラの取り付けをアンディーにお願いしたくてさ。」


「俺たちも頑張ったんだぞ。でも、なかなかうまくいかなくてな。昨日の夜は、夜中の2時くらいまで作ってたんだけどな。」


「了解だ。カメラ部分の取り付けと、可動部品の作成と取り付け、それにコントロールコアとの接続導線の取り回し間でだな。」


 アンディーは、部品を取り付けるための部品を作って、機体の固定部分を変形させたり、穴を開けたりしている。慣性系のイメージがきちんとできるているのだろう。あっと間に成型し、昨日、レイが作っていたカメラを固定していった。


「早いな…。アンディー。」


 物の15分程でカメラの取り付けは終了し、バランスの確認や動作の確認、ロジャーとレイのタブレットだけじゃなく、他のメンバーのタブレットと僕のタブレットへ映像を転送できるようにアンテナコアを融合した。


「最初に操縦するのは、ロジャーなの?レイと一緒に練習したんでしょう。」


「おう。俺から操縦させてくれ。離陸と着陸、旋回はエルロンの使い方が大切なんだ。」


 そういうとロジャーがコントローラーを手にして操縦を始めようとした。


「ロジャー、ちょっと待って、工房の中の試験飛行は昨日さんざんやったんでしょう。」


「おお。そうだぞ。だから、この中だったら、操縦なんて楽勝だ。」


「だったら、カメラのテストをするついでに工房の外に出る準備をしてから飛ばしたら。そうね、シエンナ、ロジャーと賢者様を乗せてドローンを操縦して。私とアンディーは、先に離陸して工房の結界の外から飛行機を見ておくわ。でも、離陸の様子は見たいから、飛行機が工房内を旋回し始めて離陸するわ。私たちのタブレットにも飛行機のカメラからの映像は転送されるのよね。」


「大丈夫だと思うよ。タブレットに飛行機カメラの映像を受信指示してみて。飛行機カメラから送信を始めるから。その前に飛行機カメラの送信機にグループ設定しないといけないね。」


 細かな設定や書き込みはシエンナが早い。コントローラーにシエンナの魔力登録を済ませて、細かな設定をいろいろしてもらった。これで、メンバー全員がコントローラーを使って操縦できるようなった。


「じゃあ良いか。カメラオン・メインパーティーに送信。プロペラを回すぞ。」


 飛行機は徐々に加速しふわりと浮き上がった。そのままプロペラの回転数を上げ、機首を上に向ける。


「本当、前の飛行機よりもせわしなくないわね。余裕があると言うかゆったりしている気がする。」


「そうですね。前の飛行機よりも大きいのに遅いスピードで浮揚するからでしょうか。全体的に余裕を感じます。」


「でも、タブレットに写されている映像は、忙しないわね。何が写っているのか良く分からないわ。」


「ミラ姉とアンディーは、先に出発しておいてくれ。直ぐに後を追いかける。シエンナ、ドローンの準備お願い。模型飛行機は、工房結界内を旋回しておくように。」


 ロジャーは、ゴーレムコアに旋回を支持してシエンナが取り出したドローンに搭乗した。僕もその後を追いかける。アンディーとミラ姉は、先に上昇して結界の外に出て行った。物理結界は、消してあるから、そのまま上昇して大丈夫だ。


「結界を越えて上昇します。」


「OKだ。模型飛行機は、旋回しながら上昇させている。結界を抜けたら急上昇させる。このドローンを追尾させるからこのまま直進してくれ。」


「了解です。」


「おっ、飛行機のカメラからこのドローンが見えている。」


「並行飛行に移る。」


 ドローンから模型飛行機が見える。急上昇や急降下、錐もみ飛行なんかもやっている。背面飛行だ。ロジャー、すごいな。


「よし。操作性のテストはこの位にして、速度テストだ。シエンナ、模型飛行機に着いて行ってくれ。どれだけスピードが出せるか試してみる。」


「了解です。」


 飛行機のスピードがどんどん上昇していく。スピードが上がれば揚力も大きくなる。上に持ち上げられないようにエルロンとエレベーターで調整しないといけない。ロジャーとゴーレムコアは、調整をうまくやっている。スピードは徐々に上がっているが、機体にがたつきなどは見られない。


 徐々に模型飛行機が、先行し始めた。シエンナは、必死に遅れないようにと加速しているが間に合わない。


 フンディーとミラ姉たちの2号機も遅れ始めている。


「ロジャー、スピードはまだ出そうなの?」


「おう。ゴーレムエンジン的には、もう少し余裕があるようだぞ。先に行かせる。」


 模型飛行機は、徐々にスピードを上げ、20秒ほどで見えなくなった。かなりのスピードで流れていく地上の映像が送られてくる。あっと言う間に100km程の距離を飛行し、ダンジョンの淵に着いてしまいそうだ。


「ロジャー、模型飛行機をこっちにに戻して。スピードは、ドローンの1.5倍くらい出るみたいだね。」


 大型化すれば、もっとスピードが出るに違いない。中の飛行機、小型セスナというらしいけど、それでも時速180km位らしいから、それよりも早いことになる。ドローンは、時速250km位は出るようだからな。


 最高速度と操作性を確認できた。40分位の試験飛行だったけど素晴らしい成果だと言える。この飛行機を人が乗れるくらいの大きさにして、堅牢性と軽量を両立しないといけない。後は、快適性。人が乗った時に快適な空間を維持できるかも大切になる。


 有人飛行機を製造するには、かなりたくさんの課題をクリアしないといけないけど、ドローンよりも簡単な気がするのは、人が乗っている飛行機を知っているからだろうか。ただ、滑走路の建造をしないと航空機は利用開始できないのが難点かもしれない。どうせなら、水上機を作って、湖や港で離着陸できるようにする方がはやく普及できるかもしれない。


 そんなことを考えて工房に戻った。これからは、水上機を主体に実験と設計を考えて作った方がいいかもしれない。このことは、ダイヤリーでレイに知らせて、向こうで資料を集めておいてもらおう。


 工房に着いて、飛行機のことをみんなと相談だ。


「今日の実験で分かったけど、ドローンに比べて、かなりスピードが出るよね。それに、飛行機を人を沢山運ぶことができる位大きくしたら離着陸するための大型の施設を作らないといけないんだよね。それを飛行場って言うんだけどさ。飛行機って飛行場と飛行場を繋ぐことしかできないでしょう。飛行場がないと着陸できないからさ。だから、しばらくの間は、大きな湖や海に着陸できるような飛行機にしたらどうかと思うんだけどどうかな?」


「そんな飛行機って本当にあるのか?」


「うん。地球ではあるよ。水上機って言うだけど船に翼を付けたような格好の飛行機で、勿論、飛行中は、デッキに出ることはできないけどね。どちらかって言うと、水の上に浮かぶことができる飛行機って言った方が良いかもしれないな。」


「それなら、その水上機の翼は、この模型みたいに薄くしないほうが良いんじゃないか?」


「どうして?」


「カッティングスカイっていう魔物いるじゃない?俺も見たことは無いんだけど、物語なんかでよく出てくる魔物。」


 ロジャーが何か説明してくれようとするんだけど、地球の常識とのずれで分からない。


「ごめん。こっちの魔物や物語を知らないんだ。どんな魔物なのかな。絵にかいてもらえる?」


 僕が、紙と鉛筆を精錬して渡すと、ロジャーが描いてくれた。横を向いたマンボウかエイだな。


「こんなのだったよな。」


「そうだな。もう少し左右の翼は小さいかもしれない。でもそんな感じだ。」


 胴体自体が翼の役目をするのか、そこから出た翼は小さい。翼の後ろの方は薄くなっていてそこを上下に動かして旋回をするらしい。どうやって推進力を得ているのかは分からないけど、こんなにずんぐりしていてカッティングスカイって言うくらいすごいスピードで空を飛んで行くと言う話だ。


 地球の飛行機は、主翼に燃料を入れているらしい。だから、人が乗ってり荷物を載せたりすることはできない。しかし、こちらの航空機は、魔力をエネルギー源にしている。つまり、翼を燃料タンクにしなくても良いということだ。つまり、翼の形はどんな形でも大丈夫ということになる。


 マンボウを横にして左右に4つのプロペラを付ける。揚力を得るためには、翼のふくらみは、上の方を若干大きくしておいた方が良いのだけれど、大き目のエルロンを取り付ければ下のふくらみを少しくらい大きくしても大丈夫だろう。


 そう考えると、マンボウ型というかエイ型もこちらの世界の飛行機としては間違っていないのかもしれない。後方に2枚か1枚の垂直尾翼と同じくエレベーターを作る。


 機体の中央は少しだけふくらみを持たせておいて陸上に着陸する時の車輪を格納するスペースを作り、翼の両端には、水面に着陸した時に羽が沈まないようにするフロート付きの車輪を出し入れできるようにしておく。


 地上でのブレーキと方向制御は中央の車輪に任せる。中央前方の車輪が方向性着とブレーキ、後方がブレーキのみだ。左右のフロート兼車輪は、機体の傾きを安定させるためだけの物だ。かなりの量上下できるようにしておいて波や凸凹を吸収して翼を守る働きを持たせる。


 そう考えると良いぞ。水上機の話を出し、みんなからのアイディアを聞きながらマンボウ水上機の形が出来上がっていった。

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