第255話 湖の錬金魔術師

 直ぐにモノレールでフォレストメロウの冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドにある通信の魔道具で連絡を取ってもらおうと思ったからだ。


 ティアさんに連絡をとって貰い、湖の錬金術師の所への訪問の許可が下りた。その時、魔道具も見せてもらいたいとお願いしたかったのだけれど、次の機会にすることにして、ドローンで湖に向かった。


今日こんにちは~。」


「レイ、なんか間の抜けた挨拶になってるぞ。」


 ロジャーが変なこと言ってきた。


「はーい。お待ちしておりました。Sランク冒険者のアンデフィーデッド・ビレジャーの皆さんですよね。この度は、依頼をお受けいただき、ありがとうございます。」


「いや、我々は、依頼の相談に来たのではなく…、」


 ブラウン所長が話をしようとするのを目で押さえて、ミラ姉が前に出た。


「今回も依頼を出していたのか?」


「はい。実は、セイレーンの魔石の採集をお願いしたくてですね。かなり深い階層でないと手に入れられないらしく、Aランク程度じゃ手に入れることがむつかしい魔石なんです。」


 錬金術師の弟子が答えた。


「セイレーンの魔石か…。泥沼セイレーンじゃダメか?」


「泥沼セイレーンとは、どのような魔物なのですか?」


「ロックバレーのダンジョンの6階層にいる魔物で、音に乗せたスリープか何かの魔法を使う。その魔術の範囲内に入る前に討伐するため、実際は、どのような魔法を放つかは、分かっていない。もしかしたら、麻痺かもしれん。」


 弟子とと話しているのはミラ姉だ。


「お師匠様が、必要なのは、何種類かの音に乗せた魔法を使うセイレーンで、かなり深い階層のボスクラスだと聞いています。その魔石が半分ほどで良いので欲しいと仰っているのです。勿論、半分でも金貨100枚は出す準備をしています。」


「かなりレアな魔石なんですね。で、その魔石の半分を準備できると言ったら、私たちの質問に答えて、研究所で共同研究をすることを承知してくれますか?」


 こんどは、僕が尋ねた。


「今ここでですか?しかし、私の一存で応えるわけにはいかないので…、お師匠様とお話ししていただけますか?」


 奥のリビングのような場所に通されて、ゆったりとした大きなイスに座って待つように言われて待っていると、前にも会った、白髪、白髭の湖の錬金術師が部屋に入ってきた。


「お主たちか?セイレーンの魔石を持っていると言うのは。」


「はい。そうです。偶然手に入れることができた魔石ですが、今持っています。ただ、これから素材として使いたいと思っているのでセイレーンの魔石を全部お譲りすることはできませんが、半分以下であれば、かまわないと考えています。」


「そうか。一つでなくても構わない。ただ、ここには精錬術師が居らんからな、魔石を半分にするとなるとかなりのリスクがあるのではないか?分割時のリスクを考えたら丸ごと一つ売ってしまった方がお主らの得になるのではないかと思うのだがな。」


更に、付け加えて、


「わしは、本当に必要な魔石の量は、儂の小指の先の更に半分程が二つ。直径2センチほどの球形の魔石が一つで良いのだが、実験が成功し、何体かオートマンを製造する時のことを考えると、そのセットが最低でも3つは欲しいのじゃ。その3セットを金貨100枚で買い取ると言うのではどうじゃ?もしかしたら、魔石半分よりもはるかに少ない量で金貨100枚が手に入ることになるぞ。」


 確かに、今言われた量の魔石ならセイレーンの魔石の半分から20セット以上作ることができるだろう。


「湖の錬金術師様、3セットをお譲りしますから、錬金魔術師のスキルや持っている魔術について教えていただけませんか。実は、私の友人が錬金魔術師という職業を得たのですが、成人の儀を受けることができないため、スキルや魔術を知ることができず困っているのです。」


「ちょっ…、」


 所長とミラ姉が僕を引っ張ってリビングから連れ出した。その間は、アンディーとロジャーが引き受けるようだ。


「レイ。あんた、一番大事な物が違うんじゃないの。まず、研究所へ来てもらうことからじゃない。」


「そうですよ。そうすれば、おのずとスキルや持っている魔術も分かってくるのですから。」


 所長とミラ姉からお説教をされそうになったが、今回は、僕の話の進め方は間違っていないと思う。多分、湖の錬金術師は、僕たちと共同研究をしたがると思うからだ。


「所長、ミラ姉、まあ見ててよ。湖の錬金術師は、きっと僕たちと共同研究をしたがるからさ。」


 そういうと、リビングに戻って行った。


「湖の錬金術師様、その返事は、私と森の賢者、そして、そこにいるアンディーで作った魔道具を見てなさって下さいませんか?」


「お主たちが作った魔道具だと…。冒険者のお主らが作ったものなど見て何になると言うのだ?」


「それは、見てから判断してください。シエンナ、メイの登場だ。頼んだよ。」


「はい。メイ、出ていらっしゃい。」


 呼び出されたメイは、メイド服の黒いスカートの横をちょっと摘まんで、見事なカーテシーを行った。


「なっ何なのだ、このゴーレムは、ど、どこのダンジョンから連れてきた。そ、そこの冒険者がゴーレム使いなのか?」


「メイ、そこのテーブルの上を拭いてくれないか?」


 僕が指示すると、メイは、スカートのポケットに当たるところに仕込んでいるマジックバッグ、『メイドの隠し袋』の中から台拭きを取り出し、台を拭き始めた。


「何?人の言うことが理解できるのか?このゴーレムは…。」


「どうです。面白いゴーレムでしょう。所長、どうぞ。」


「えっ?あっ。そうか…。湖の錬金術師殿、我々の研究所では、このような魔道具の研究を数多く行っておるのだ。そこで、そなたに是非、研究所で共同研究か研究所に集う若い研究者たちの指導を行ってもらいたいのだが、どうだろうか?」


「このようなゴーレムの研究も行っておるのか?」


「あなたが、研究対象としたいのであれば、チームで研究することもあなた一人で研究することも可能だ。研究所なのだから、そこで得た知識は、研究所全体で共有することになるがな。それでも、一人で研究を進めるよりも多くの成果を得ることができると思うぞ。勿論必要な資材の調達も研究所が行う。あなた個人で手に入れることにとやかくは言わないが、資金面でも潤沢になると思うぞ。」


「わしは、これでも資金面に苦労したことは無い。必要ならいくらでも資金を手に入れる伝手はあるからな。しかし、共同研究というのも面白そうじゃ。弟子も一人では儂の技術やスキルを引き継ぐことが難しそうだからな。その研究所の話、前向きに考えようではないか。」


「しかし、先ほど、儂のスキルと使用できる魔術を教えて欲しいなどと聞こえたが、それは、別の話なのか?」


「そうです。その話をしていただければ、セイレーンの魔石先ほど仰っていた3セットを差し上げます。」


「まあ、儂のスキルと魔術をお主が聞いても何の足しにもならないと思うがな。そんなものお安い御用じゃよ。儂の職業は錬金魔術師。先ほど主が言っていたお友達と同じ職業じゃ。スキルは、アイテムボックス。その中で様々な錬金魔術ができる。できる魔術じゃったな。一番最初にできるようになった魔術は、身体強化かの。これが錬金術師と錬金魔術師の大きな違いなんじゃよ。それと今取り組んでいるのがオートマンの作成じゃ。そのオートマンがしゃべったり、人の言うことを聞き取ったりするのにセイレーンの魔石が必要なのじゃ。それと錬金術師との大きな違いは、錬金釜が要らないということかな。アイテムボックスの中で錬金術を行うからな。それと、これは内緒なのだが、地中から金属を集めることができる。それくらいかな。これで、そのセイレーンの魔石3セットは、手に入ったのか?」


「はい。差し上げます。」


 僕、セイレーンの魔石から直径2cm球を3個と直径1cmの球を6個切り出して、成型した。


「今度、そのセイレーンの魔石の使い方教えてくださいね。僕たちのゴーレムにおしゃべりしてもらいたいですから…。」


「では、研究所では、オートマンの共同研究をやろうではないか!」


「はい。宜しくお願いします。」


 湖の錬金術師様とは研究所へ来ることができるようになったら、ギルドに連絡してもらえれば迎えに来ますと約束して、研究所へ戻ることにした。オートマンは、試作段階にも入っていないということで見ることができなかった。

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