第254話 教会訪問と錬金魔術師

 ジャイロモノレールの試験走行に目途が着いた頃、僕だけフォレストメロウに降ろしてもらって、教会に向かった。ニコライ神父様に錬金魔術師の職業について聞くためだ。それに、しばらく教会に行ってなかったら、様子を見ておこうと思ったのもある。


今日こんにちはー。」


 バタバタと足音がして、小さい女の子が出てきた。


「あっ、コンニチは。レイたんだ。」


「コンニチは。君は、ええっと…。」


「わたちは、エマたんよ。何かご用事でしゅか?」


 小さいのにしっかりしてる子だな。


「神父様に用事があるんだけど、いらっしゃるかな?」


「神父たま。いるよ。マリンたま、呼んでくるね。」


 そういうと、またパタパタと音をたて、奥に引っ込んでいった。


「エマちゃん、どうしたの?」


 エマに手を引っ張られてフローラがやってきた。


「あっ、レイさん。今日こんにちは。お久しぶりですね。」


今日こんにちは。お久しぶりです。御無沙汰してしまって。皆さん元気ですか。」


「はい。元気にしてますよ。神父様呼んできますね。」


「神父様は、今どこにいらっしゃるのですか?」


「診療所の方です。もうすぐお昼の休憩時間に入るので、こちらに戻って来ることができます。もう少しだけ、お待ちいただいて良いですか?」


「時間はあるので、大丈夫です。」


「では、神父様がいらっしゃるまで、食堂でお茶でもどうですか?レイさんたちが作ってくれた果樹園で採れた果物でフルーツティを作っているんですよ。」


「美味しそうですね。頂きます。」


 僕は、フローラに案内されて食堂にやってきた。食堂では、小さな子たちが5人ほどでくつろいで居た。


「シャルたちやケインたちがいなくなって寂しくないかい?」


「みんな、7日に1日位帰って来てくれるんで、大丈夫ですよ。それに、その時、色々お土産も持ってきてくれるんです。この前なんて、ケインが、給湯の魔術具って言うのを買って来てくれて。それで毎日のお清めが冷たい水でしなくて良くなったんですよ。子どもたちは大喜びでした。」


 この国では、お湯を使って体をふくことも一般庶民にとっては、贅沢なことと言える。普段は、寝る前や起き抜けに水を浴びたり、水で濡らしたタオルで体をふくことや清浄の魔術で体を清めるのが一般的だ。


「教会の中には、お風呂なかったかな…。」


「お風呂なんて贅沢な物、教会にあるはずないじゃないですか。」


 そうだった。お風呂は、お貴族様くらいしか持つことができない贅沢な物なのだった。だから、フォレストメロウから砦までたくさんの人がお風呂を楽しみにやって来るんだ。


「教会では、みんなで砦のお風呂に行ったりしないの?」


「私やマリンさんは、お休みを頂いた時に行ったことがありますけど、子どもたちを連れて行くのは難しいですね。バスに乗せるだけでも喜ぶんでしょうけど。」


「バスは子どもたちは、無料にしていなかったっけ…。」


「無料ですけど、今、教会には小さな子どもたちも含めて8人が暮らしているんです。その全員を私とマリンさんでお風呂に連れて行くのはちょっと難しいです。かといって、半分をお留守番させても、一人で連れていくことになりますし…。」


「そうか。そうだね。教会にお風呂があると良いのにね。」


「そうですね。これから冬になりますし、でも、給湯の魔道具があるから今年の冬は、楽になりそうだってマリンさんが言ってました。」


 そんな話をしていたら、神父様が診療所から戻ってきた。


「やあ、レイ君、今日こんにちは。お久しぶりですね。」


「ご無沙汰いたしました。皆さん、お元気そうで良かったです。フルーツティー、頂いています。とっても美味しいです。」


「レイ君たちに作ってもらった果樹園で採れたフルーツで作ったんですよ。野菜もフルーツもとっても助かっています。で、僕に用事って言うのは何なのですか?」


「実は、知り合いの職業のことでお尋ねしたいことがありまして、他人の職業のことを聞いても大丈夫なんでしょうか?」


「あまり、褒められたことではないと思いますが、内容次第ですね。」


「やっぱり、そうなんですね。実は、成人の儀を受けることができない友だちがいるのですが、その子の職業が、錬金魔術師だったんです。でも、職業名と身体強化の魔術が使えることと多分アイテムボックスのスキルを持っていること以外、持っている魔術や属性も何もわからなくて、それで、錬金魔術師について分かることがあったら教えて欲しいって頼まれた物ですから。」


「どうして成人の儀が受けられないのか分からないのですが…、何か特別な事情があるのですね。まあ、そのことは、追及しないことにしましょう。錬金術師ならレイ君の研究所にもたくさんいらっしゃるからどのような職業か聞いてみればよいのでしょうが、錬金魔術師となるとそういう訳にもいかないでしょうね。」


「そうなんです。錬金術師の皆さんにはどのような職業科聞いてみたのですが、友だちの錬金魔術師の職業とは違うみたいなんですよね。一番の違いが、身体強化が使えるということ。錬金術師も僕と同じように基本的に物質に魔力を及ぼして魔術を発動させるんだそうです。ですから、魔術素材や魔道具の製作に特化した魔術師だということなのです。だから自分の体に魔術を及ぼすことはできない。それが、錬金術師の皆さんが錬金魔術師との違いで、根本的な違いなんだそうです。レアな職業だからどのような職業科分からないって言われて。」


「その通りです。あなたの精錬魔術師と同様に伝説的にレアな職業です。私たちの教会の側に精錬魔術師と錬金魔術師が揃ってしまったなんてなんという奇跡なのでしょう。その方は、森の賢者様と呼ばれる方ですか?」


「いいえ、その関係者ですが、森の賢者ではありません。で…、その…、教会で分かっている錬金魔術師のことについて教えていただけないでしょうか。」


「分かっていることですか…、それは、おとぎ話みたいなことになってしまいますが良いですか?実際には、あまり分かっていないのです。例えば、大地に手をかざして、金を取り出すことができるとか、そう、錬金術そのものです。人形に命を吹き込み、自らのしもべを作ることができるとか、魔石さえ作ることができるという伝説もありましたね。そう言えば、フォレストメロウの近くに錬金魔術師がいるという噂も聞いたことがありますよ。」


「その錬金魔術師の名前と住んでいるところって分かりますか?」


「名前は聞いたことはあるのですが…、住まいは存じません…、そうだ。先日、フォレス・アグリゲートという方たちが、指名依頼を受けて、依頼を達成したということでしたが、それって、レイ君たちのパーティーのことじゃなかったのですか?名前は、…。そう、湖の錬金術師と名乗っているということでした。」


「その方のところ行きました。あの方が錬金魔術師だったのですね。教えて頂いてありがとうございます。お礼と言っては何ですが、教会に建築可能な場所があれば、お風呂作りましょうか?これから冬になります。お風呂があると病気を防ぐこともできますよ。」


「お風呂ですか…。でも、そのような贅沢な物、教会に作ってもらって良いのでしょうか?」


「体を清潔に保つことは、病気の予防になるでしょう。そのことを教会がきちんと広めて頂けばよいのではないでしょうか?それに、領主様からの依頼と許可があれば、町に銭湯を作っても構いませんよ。何なら、その銭湯を教会が運営したらどうでしょうか?お風呂の掃除や受付の手伝いなら、孤児院の子どもたちでもできるのではないでしょうか?そのことも含めて、領主様に相談なさっていただけませんか?」


「レイ君。何かとってもすごいことをサラッと言っていませんか?銭湯を作る土地は、教会の横の広場を使えば何とかなると思いますが、砦にあるような銭湯を作るとなるとどのくらいのお金がかかると思っているのですか?大分、予算に余裕ができてきたと言っても、そんなお金は教会にはありませんよ。」


「銭湯作りは、僕たちのパーティーがお布施として引き受けますよ。許可さえあれば、石材や木材は持っていますから1日か2日頂ければ完成させて見せます。でも、パーティーメンバーに許可を貰わないといけませんね。許可を貰ったらタブレットで連絡します。そうしたら、領主様の許可を取って下さい。あっ、それから、教会のお風呂と銭湯は別物ですから、両方の立てる場所を決めておいて下さい。メンバーの許可を取ったらすぐに連絡するので、場所は決めていてくださいね。」


 神父様に念を押して、教会を出た。まだ、3時だ。今から湖の錬金術師のところに行っても良いのだけれど、一人じゃ心細い。一度パーティーハウスに戻ってミラ姉か誰かに着いて来てもらおう。


 駅に行くと、直ぐに実験走行中のモノレールがやってきた。今回の運転手のスミスさんに聞くと、この往復で20往復目になるということだった。それで、実験走行の客車に乗り込んで砦まで連れて行ってもらった。


 パーティーハウスに帰ると、メンバーは、全員揃っていた。そこで、教会のお風呂のことと、教会の横に建てる銭湯の話をした。そこで、教会の横に建てる銭湯は、砦の銭湯の半分くらいの大きさにした方が良いと言われた。今、町からかなりたくさんの人たちが砦の銭湯に入りに来ているからという理由だ。


 そして、今後、砦の銭湯は少し豪華にしてレジャーの要素も取り入れることにして、町の銭湯は、日ごろ使いの銭湯という風にしたら客の奪い合いにはならないだろうと言われた。それならと、町の銭湯を作る前に、砦の銭湯を少し豪華にすることから始めることになった。


 銭湯の話は、その位にして、錬金魔術師の話だ。今から湖の錬金術師の所に行っても良いけど、なんと言ってスキルや魔術を教えてもらうのだと聞かれ、返事に困った。全く考えていなかった。


 スキルと魔術を教えてください何て言っても教えてくれるはずはないし…。研究所に来てもらって共同研究しませんかなんて言っても絶対来てくれそうになかったよね。


 まあ、前回指名依頼にAランク評価もくれたし、御用聞きに行ってもいいかもしれないと言われ、僕とミラ姉で一緒に行くことになった。そんな話をパーティーハウスのリビングでしていたら、エリックさんが、所長に魔伝話を入れたらしく、研究所から大急ぎで所長がやってきた。


「湖の錬金術師の所に行くんだって?私も連れて行ってくれないか?」


「はい。それは良いですがどうしてですか?」


「ずっと以前から、研究所か学校に来てくれないかと手紙を出していたんだが、なかなか返事が来なくてな。短期の研究参加でも良いからとお願いに行こうと思うのだよ。」


「ちょうど良かったです。僕たちも湖の錬金術師がどんなスキルや魔術を持っているのか知りたくて、この前、指名依頼でAランク評価を頂いたから、もう一度言ってみようかと言ってたんですよ。」


「それなら、昨日のゴーレムメイドを連れて行ったら良いぞ。話がスムーズに進むと思うぞ。」


「それなら、私が一緒に行くより、シエンナの方が良いんじゃない?」


「いや、製造過程なんかを聞かれたら僕はその場にいなかったから、細かいことは分からないよ。アンディーも連れて行った方が良いかな?」


「それなら、俺も行くよ。一人で留守番何てつまらないからな。」


 パーティーメンバー全員と所長が一緒に行くことになった。メイは、シエンナのアイテムボックス中でお休みだ。






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