第248話 深き谷の不思議な石
時刻はまだ午後5時。部屋の掃除やお風呂の準備なんかでバタバタとしていたが、少し落ち着いてきた。夜になる前に実験してみようとドローンで次階層の入り口のところに移動してきたところだ。
キャノピーを開け、深き谷から拾って来た石を何時も階層入り口の守り手がいる辺りに落としてみた。魔物が石を嫌って離れていくかどうかの実験だ。ドサッという音に驚いたのかコカトリスが飛び退いた。石を確認しても、石から距離を取って近づこうとしない。
石を挟んで、コカトリスの正面にドローンを降下させた。これくらい近くにドローンを降下させるとコカトリスは襲ってくるのだけど石が邪魔になるのか襲ってこない。石を挟んで正面から魔石ライフルを発射する。こちらをにらみつけたまま撃ちとられ、魔石とドロップ品に変わっていった。ドロップ品は鶏冠。化粧水の材料になる。
「やっぱり、谷の石は、魔物を寄せ付けない効果があるようだな。」
僕の前で操縦をしているロジャーが言ってきた。
「そうだね。それなら、谷から森を抜けるまで、この石を並べておけば、魔物に襲われることが少なくなるんじゃないかな?」
ドローンから石の方に手をかざし、アイテムボックスの中に石を収納する。ほんの10m程の距離しか離れていないのに、収納時にゴッソリと魔力が持って行かれた。魔力操作がしにくい素材だ。
実験を終え、工房に戻る。タブレットで結界を切ることができるからドローンで直接工房の中に戻った。
今回の実験に出かけたのは、ロジャーと僕だけ。他のメンバーは、部屋の掃除や夕食の準備をしていてくれた。僕たちもお風呂に入って、部屋着に着替えて食堂に集まっている。仮面は無しだ。
「で、実験結果は?」
ミラ姉が聞いてきた。
「やっぱり、魔物は石を嫌うみたいだ。嫌うと言うか恐れると言うか…、どちらなのかは分からないけど近づこうとしない。」
「それでさ、深き谷から、海沿いの道までこの石を設置してみたらどうかなって話をしていたんだ。もしかしたら通路に魔物が近づかなくなるかもしれないってね。」
「それなら加工する必要もないし、すぐにできるかもね。ただ、深き谷の急な坂道も何とかしないと普通の人じゃ下れても上れないわよ。」
「下りも危険だな。歩きだったら体力的には大変だけど、上りの方が安全だと思うぞ。」
「でも、あそこに道を作るのは難しいよね。どうせなら、線路を作って乗り物事行き来できるケーブルカーでも作ったらいいかもしれないね。」
「それってどんなんだ?」
ロジャーに聞かれて、紙を精錬してイラストで説明した。でも乗り物事移動させるようなケーブルカー何て地球では見たことないから、想像上の乗り物だ。
坂道の傾斜に近い角度を付けてて乗り場を水平に近くなるようにして線路の上を走らせるんだけど、動力をそのケーブルカーが持っているわけじゃなくて、滑車に巻き付けてロープを引いたり緩めたりすることで移動させる乗り物だ。なるべく力を使わなくていいように、乗り場と同じ重さの重りをロープの反対側につけておく。滑車で丁度釣り合う重さにだ。重りの重さを可変にできれば殆ど動力を使うことなく荷物を移動させることができる。安定した移動の為には線路が必要だけど、乗り物に直接ロープを括り付けて移動させても良いのかもしれない。滑車さえ作ればなんとかなる。
「それ、面白いかもしれない。研究所で作れると思うしな。線路とケーブルカーは、研究企画部長に丸投げしよう。その内、海の幸が食べ放題になるかもしれないぞ。」
トラックとケーブルカーでこの国の流通事情が一変することになるかもしれない。トラックドライバーの育成が緊急課題になるかな…。石の効果が十分にあるなら、武装トラックにする必要がなくなる。安全を期して、冒険者二人で行けば何とかなる。
移動速度は、魔物に追いつかれることは無いのだから索敵さえきちんと行えば、安全にものを移送できるはずだ。それに、ちゃんとした索敵ができなければ、幾ら武装していても魔物に襲われることになるのだからやっぱり武装は無意味だ。
トラックの装備の考え直しやドライバーの育成方法なんかをワイワイと話しながら楽しい時間を過ごしていった。レイも、楽しくできているだろうか。後で、ダイアリーを確認してみよう。
今日、久しぶりに工房に来たけど、僕がいないときにここの工房を整えてくれるゴーレムか何かを作る必要を感じた。レイが、学校に行くことができるようになれば、休みにこだわらず、転生することができるようになる。まあ、レイもこっちでしたいことがあるだろうし、学校に行っても特に何をできるってわけじゃないからな。できるだけ、休みの日に合わせて転生をするとしてもだ。
ゴーレムメイドなんか作れないかな…。差し当たって魔力登録者の言うことしかわからなくても良いからこの工房のハウスキープができるゴーレムが欲しい。
そんなことをアンディーに話したら、明日作ってみようということになった。勿論、シエンナも全面協力してくれるそうだ。今回の転生は明日まで。明日の夜には、地球に戻ることになる。
色々と国王陛下には課題を貰ったけど、研究所の皆さんにトラックとケーブルカーを早めに開発してもらいたい。そうすれば、海の幸が気軽に手に入るようになるはずだ。
航空機は、明日かな。今頃、父さんたちに話して、ラジコン飛行機を買いに行ってくれてるんじゃないかな…。でも、こっちの世界みたいにお金を稼いでいるわけじゃないからな…。活動資金どうにかして作らないといけないな。向こうの世界で。魔道具を使用できる人が増えたら、バッグなんかも販売できるんだけどな。
明日の朝に期待して、国王陛下に貰った課題の進展状況と、ケーブルカーのことをダイアリーに書き込んだ。学校での出来事が詳しく書いてあったけど、いつも通りにできたということが分かった。これで、いつでも転生可能だ。
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