第247話 深き谷と巨大・強大な魔物

「出発します。」


 シエンナの操縦でエスは、谷へ向かう道に入って行った。両側は、V字に切り立った崖になっている。所々に岩が転がっていて通りにくい。エスは、片側8本の足を巧みに使い、急な坂を下って行った。


 魔物の姿はない。魔物に追われた時は、深き谷に逃げ込めという昔からの教えは意味があるようだ。狭いだけが理由ではないだろう。峠の近くにも魔物の姿はなかった。


 エスが進んだ後、転がっている岩を収納しながら周りをサーチしてみた。この谷を中心に魔物の空白地帯がある。谷に魔物が近寄ろうとしていない。しかし、結界などの魔力的な障壁は見つけることができなかった。


 転がっている岩は、多分、上から落ちてきたものだろう。V字の警告の岩肌は、すべすべであまり飛び出しいてる所はないように見えるが所々にくぼんだ場所がある。この転がっている岩が魔物の侵入を防いでいるのなら、あまりきれいに取り除くのは得策ではない。一度エスを止めてもらって外に出てみた。


「アンディー、ここに転がっている岩を下に埋め込むことってできる?」


「やってみる。」


 アンディーは手をかざし土魔術で岩の下に穴を作ろうとしている。いつもなら数十秒で穴ができるのだけど小さな穴がようやく開いたくらいだ。


「ここの岩盤に魔力を通そうとするととんでもなく沢山必要なようだぞ。とにかく魔力の通りが悪い。」


 ミスリルの反対。魔力の通りが悪い物質でできいる谷なのかもしれない。


「シエンナ、ガーディーたちに穴を掘らせてみてくれない。」


 ガーディーたちがこの谷で活動できるかも確認しておきたい。砦作りには必要な力だ。


「ガーディーに何か道具を渡してもらえませんか。」


 シエンナに言われ、ツルハシを総ミスリルで作って渡してみた。もう一つ作ったミスリルツルハシはロジャーに試してもらう。


 ガーディーは、ミスリルツルハシを岩盤に打ち付け穴を穿とうとするけど傷もつかない。かなりの物理的な衝撃を与えているはずなんだけど、穴は穿たれそうにない。


「ガーディーありがとう。調子は悪くないか?」


 ガーディーと情報共有しているシエンナに魔力の流れにおかしなところはないか確認してもらった。


「岩盤に接している場所に魔力の滞りがあるようですが、行動不全を起こすほどではありません。エスも問題なく走行できていますから、大丈夫だと思います。」


 でも、魔力の滞りを起こすのか…。


「この谷に魔物が入り込まないのは、魔力の通りが悪い谷を作ってる岩盤のせいなんじゃないかな。ゴーレムでも魔力の滞りができてしまうのなら生命を持つ魔物にはとっても嫌な場所になるのかもしれないね。」


「ここに転がっている岩のせいじゃないなら、全て片付けたらかなり通りやすい道になると思います。」


「できるだけ、収納して、研究所で調べてもらおうか。もしかしたら新しい素材になるかもしれない。」


 全員の収納を使って谷の岩を収納してみた。岩がほとんどなくなった時に魔物が侵入してくれば、侵入口にこの岩を置いてみればいい。


 深き谷の出口に来た。ここから先は、魔物のが沢山いるようだ。


「シエンナ、魔物をおびき寄せて、ここから谷の中に入って来るかどうかを確認したいんだけどやってみてくれる?」


「じゃあ、俺とアンディーがデッキから魔物を挑発するよ。」


 エスを降りたロジャーとアンディーがデッキに上がった。


「じゃあ、行きますね。」


 シエンナは躊躇なく森の中に入って行く。魔物を挑発するためだから気配を消すこともしない。


「右上に魔物の影が見えます。小さい魔物のようですから排除お願いします。」


 ロジャーの投擲。クナイを投げたようだ。バキバキと枝が折れ、2m程の猿のような魔物が落ちてきた。あれが小さい魔物…。十分大きいような気がするんだけど…。ゴリラよりでかいよな。


「同じ魔物が3体。場所は分かりますか?」


「大丈夫だ。ロジャーが把握している。」


 ハンドサインで攻撃の打ち合わせをしているのか、上から声は聞こえない。アンディーのソードショットとロジャーの投擲、2投で3体の魔物が落ちてきた。素材回収の為、魔物の遺体は僕が収納する。シエンナが側まで行ってくれるから余裕だ。


「前方300m程に大型の魔物を見つけました。アンディーさんロックバレットか何かで挑発お願いします。」


 方向転換をしながらアンディーに支持を出すシエンナ。方向転換官僚とともにアンディーがロックバレットを魔物がいる方向にぶっ放した。


『ガサガサガサガサガガガ…。』


 大きな音をたて、魔物の方に跳んでいく石礫。魔物が僕たちに気が付いた。


「追いかけてきます。谷の方向に誘導します。」


 30m程の距離を保ち、魔物を谷の方に誘導していく。魔物は、僕たちを食料にしようとしてか大きな口を開け、追いすがってくる。ティラノサウルス?大きな口を持つトカゲのような魔物だ。地球の恐竜ティラノサウルスに似ている気がする。


 谷間で200m、後方30mのティラノサウルスは、今のところ魔法を放とうとする気配はない。人の何倍もの脚力と筋力で圧倒し、人を餌にする魔物なのだろう。後100mで谷の入り口。後50m、20m、10m…。ティラノサウルスは、僕たちを追うことを諦め立ち止まった。やっぱり谷の中に入ろうとはしない。


「アンディー、谷で拾った岩をぶつけてみて、あの魔物が逃げ出すか問うか見て見たいんだ。」


「分かった。ロックショット!」


 谷で拾った岩。直径50cm程がティラノサウルスに向かって飛んで行った。ぶつかっても致命傷にはならないと思うくらいの大きさの岩。アンディーは、ぶつけると言うより側に落とすように飛ばしたようだ。


『ドドーン。』


 魔物のすぐ前に落ちた岩に驚くように跳び退く魔物。その岩から更に距離を取った。


「やっぱり岩も嫌がるね。今日拾った岩って使えそうじゃないか。ただ、魔力が通りにくいのは困るんだけどね。」


「ティラノサウルスを討伐したい?」


 僕が上の二人に話しかけるとアンディーが、


「あれってティモシー様が言っていた巨大で強大な魔物じゃないか?」


「じゃあ、迷惑な魔物なんだ。1体だけじゃないかもしれないけど、一応討伐しておこうか。」


「まあ、そうとも言えないことは無いかもしれないけど、討伐依頼って出てるのかしら。」


「一応、王都の冒険者ギルドに聞いてみますか?」


「そうしてくれる?討伐依頼が出ているならついでに討伐しちゃいましょう。」


「この魔物、冒険者ギルドに討伐依頼ありますか?」


「ねえ、シエンナ、この魔物ってどういうこと?」


「さっき、30mの距離でエスを追って来た時にエスがとらえたイメージを添付しました。」


『RCAG:お尋ねの魔物は、討伐依頼が出ております。報奨金金貨50枚です。魔石は別途買取可能。討伐証明は、魔物の一部または魔石です』


 王都の冒険者ギルドから返事があった。討伐依頼が出ている魔物のようだ。


「アンディー、寒さに弱いかもしれないから一度冷やしてみようか。」


「了解だ。でも、さっき見た奴のスピードなら、ロジャーが首を落とせるって言ってるぞ。」


「分かった。二人に任せるよ。シエンナ接近お願い。」


「了解しました。」


 シエンナは、ティラノサウルスの鼻先を通ってエスを追わせるつもりだったらしいけどその前にロジャーに首を落とされていた。遺体を収納して、王都に届けないといけない。王都で解体して貰うことにしよう。


 谷を抜け、魔物の影が濃い森を抜けると海沿いを走ることができるようになる。海沿いの道は、かなり整備されていて走りやすい。海の近くの町に立ち寄って、お土産を買うことにした。


 新鮮な魚や海藻類をたくさん買い込んで帰ることにする。この町で金貨3枚分の買い物をした。ロジャーも同じくらい買いこんでいたから僕たちが買い物をしているあたりには人だかりができていた。


 町を出て、ドローンに乗り換え王都に向かった。冒険者ギルドティラノサウルスの遺体を預けて報償金を貰い、解体を依頼した。かなり上等な皮が手に入りそうだ。


 その後、王宮によって海産物のおすそ分けをした。いつもご馳走を作ってくれる料理人にとっても感謝された。ティモシー様にタブレットで海産物を王室の食糧庫に届けていますとだけ連絡しておいた。最近氷倉庫を購入したばかりだったらしい。タイミングが良かった。


 ロジャーは、商業ギルドに行っていた。魚を買い取ってもらうと言ってだ。金貨10枚が金貨30枚になったって喜んでいた。商業ギルドも大型の氷倉庫を購入していた。こっちもタイミングが良かったようだ。


 王都での用事を済ませて、今日は賢者の工房に戻ることにした。これからのことを周りの目を気にしないで話したいと思ったからだ。森の近くにドローンを着陸させ、エスに乗り換えて森のダンジョンに向かう。ガーディアンの間でコアを採集して扉を開けば、久しぶりの賢者の工房だ。


 結界を切って中に入った。一月近く誰も入っていなかったにしてはきれいだ。警備のゴーレムたちがきちんと整備してくれていたようだ。


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