第246話 活動資金

 朝だ。何か眠い。でも、昨日ほどではない。夜は9時位にベッドに入ってぐっすり眠ることができた。ゲストルームを出て、食堂に向かった。魔道具の仮面は付けたままだ。食事をするとき顔からずらしても認識阻害の結界は張られているから、僕がレイの顔をしていることを周りは認識できない。


 食事を終え、お茶を飲みながら、今日の行動予定を確認する。


「アンディー、今日もレイは、戻らない予定ね。」


「うん。後少し王都での用事を済ませるって言ってた。」


 ここには、新しいメイドもいるから、レイの不在理由については確認する必要がある。


「レイモンド様、今日は、私たちに何か依頼があるのでしょうか?」


「実は、国王陛下からの依頼に関係あることで、グリーンレイクの側の峠を越えた場所。深き谷と言うところに行ってみたいのだが、護衛を頼めるか?」


「今日は、私たちは、何の依頼も受けていませんから、大丈夫です。冒険者ギルド経由での依頼になさいますか?」


 ミラ姉は、森の賢者との会話という態度で話を進めてくる。


「では、一度フォレストメロウの冒険者ギルドに行かないといけないな。その内、こちらの砦にも出張所を開いてもらえないかな…。」


「そうですね。この砦の住人が増えたら、開いてもらえるかもしれませんね。研究所からの素材採集依頼もひっきりなしですからね。」


 今日か明日にはモノレールのレール敷設工事も終わるようだから砦と町の時間的距離はますます縮まることになる。フォレストメロウまでの実験レールが完成したら次は、ロックバレーまで延長することになるのだろうか。ちょっと楽しみだ。


 朝食後、ゴーレムバスで町まで向かった。バスはかなり揺れたけど我慢できないほどではなかった。10分もかからず、フォレストメロウの門の前に到着し、入場の手続きをして町に入った。商業ギルドのカードを見せるだけで中に入れてくれた。


 冒険者ギルドに向かい、受付で依頼書を貰う。アンデフィーデッド・ビレジャーへの指名依頼。深き谷までの移動と護衛。それから谷の石の採集依頼だ。依頼料は、金貨10枚?。Sランクパーティーへの指名依頼にしては安すぎかな…。もう少し出しても良いんだけど、後でミラ姉に聞いてみようかな…。


 指名依頼の場合、提示された金額で受けるかどうかは、パーティーに選択権がある。でも、相場があるから冒険者ギルドで教えてくれると思う。


「レイモンド・フォレス・ポインター様、森の賢者様でございますね。いつもお世話になっております。我が町の冒険者ギルドは領主ともども森の賢者様のお力で今大変潤っております。それで、指名依頼の件でございますが、Sランクパーティーを丸一日雇うには少々金額が少ないようでございますが、最低でも金貨20枚が相場かと…。」


「そうか。最低が金貨20枚なのだな。それは、すまないことをした。では、金貨30枚でお願いしたい。ここで支払えばよいのか?」


「はい。依頼料は前払いになっております。また、ギルドが手数料を頂きますが、ご承諾いただけますでしょうか?」


「うむ。では、金貨30枚。これで、依頼を頼む。」


 僕は、受付嬢に金貨30枚を渡し、依頼書にサインした。依頼書は、すぐにミラ姉に手渡され、確認の後、ミラ姉がサインをして契約終了、依頼書はギルドが保管する。依頼が終わったら、依頼終了証に評価とサインをしてミラ姉に渡すか、直接ギルドに渡せば、パーティーは依頼料を受け取ることができる。依頼終了証は、パーティーが受け取り、それを持ってギルドに依頼料を受け取りに行くのが一般的なんだそうだ。


 冒険者ギルトに指名依頼を出して直ぐ、調剤ギルドに向かった。レイが作りためていた上級ポーションを再精錬して最上級ポーションにしたものを販売するためだ。


 レイが販売すると後々面倒なことになりそうだということで、たまにしかこの世界に現れない僕が販売することになった。商業ギルドのカードがあるから調剤ギルドのカードも簡単に作ることができるだろうと思ったんだけど、やっぱり血を取られた。魔力の色が違うから、僕とレイは、別人扱いだ。カードもレイモンド・フォレス・ポインターとして登録された。


 森の賢者が調剤ギルドに現れたと言うのでギルド内はかなりの騒ぎになっていた。すぐにギルマスの執務室に案内され、ギルマス本人が対応するとこになった。


「森の賢者様、この度は、新たなポーションを卸してくださるということですが、この町のギルドに卸して頂て宜しいのでしょうか?」


「3分の2は、王都の調剤ギルドにと思っているのだが、まず、フォレストメロウの調剤ギルトで鑑定をしてもらおうと思ってな。只、ポーション瓶が手元になくてな。瓶の魔法陣は刻んでおるが、白い瓶で構わぬかな?」


 僕は、最上級回復ポーションをまず10本出して鑑定をお願いした。


「少々お待ちください。鑑定士を連れてまいります。最高級回復ポーションであれば、1瓶金貨100枚は下らぬ高価な品。おいそれと奥へ持って行くわけにも参りませぬ故。」


 鑑定士がギルマスの執務室に連れてこられ、瓶のふたを開けたり魔力をかざしたりとできる限りの鑑定をしたようだ。


「申し訳ございませんが、私に分かるのは、上級回復ポーションをはるかに超える品質のポーションであるということだけでございます。もしかすると、伝説のエリクサーなのかもしれません。その効き目も私には測りかねます。兎に角、1本金貨数百枚の価値はあるかと存じます。」


「私は、そんなに高額な値段でこちらのギルドに卸そうとは考えていないですよ。そうですね。金貨100枚でどうでしょう。これを上手に薄めたら、高級回復ポーションが100本ほど作れると思います。それなら、金貨100枚でも安い買い物だと思いませんか?」


「たった、金貨100枚で卸して頂けるのでしょうか。それならここにある10本全て購入させていただきます。」


 ギルマスが身を乗り出して食いついてきた。売る宛てあるんだろうか?


 最上級回復ポーション10本分で金貨1000枚。当面の活動資金としては十分な金額だ。さっき、冒険者ギルドに支払った、金貨30枚を補充して、森の賢者が使うことができる資金として金貨170枚をアイテムボックスの中に保管し、残りの金貨800枚は、調剤ギルトのカードに入金してもらうことにした。


 商業ギルドにカードには金貨十数万枚が入ってるそうだけど多額すぎてイメージできない。


 活動資金を手に入れ、次は、エスで研究所に戻った。昨日、所長たちと話したトラックの試作を見学するためだ。


 開発方針がチームの中で討議され、練り込まれていったようだ。一つのトラックは、できるだけたくさんの生鮮食品を同時に運ぶことができて、深き谷でも通過することができる位の大きさのトラック。ゴーレムバイクに幅1.5m長さ2.5mの荷台を取り付けたような形で、荷台側には左右に2つずつ、合計4本の足が付いている。悪路をハンドルさばきでよけながら倒れないようにゴーレムフットで二台をサポートする。


 運転者にかなりのテクニックが要求されるかもしれないけどこれならかなりの悪路でも走破することができるかもしれない。そして、この荷台の大きさなら、馬車の5~6台分の荷物を描くる積み込むことができると思われる。荷台の上に砲台を装着すれば、武装トラックになる。結界と収納魔法の組み合わせで、小さな揺れを吸収する仕組みは直ぐに付けられる。


 今の深き谷でも、研究所が提案した武装トラックなら行き来することが可能かもしれない。馬車の荷台5~6台分の海産物を海の町から運びこちらから魔物素材を輸出するなら、十分に輸送料をペイできるだろう。冒険者の安定した依頼としても魅力的な物になるかもしれない。地球で言うトラックドライバー的な物流を担う仕事がこの世界にできるかもしれない。


 ただ、魔物の被害を気にしながらの移動よりも、できるだけ魔物を寄せ付けないルートの方が安全であることは間違いない。その為にも、深き谷の秘密を解明することは大切なことだ。


 研究所でトラックの試作を見せてもらって、ゴーレムバイクを改造した駆動部の製作を手伝った。後は、組み立てと砲台取り付けなんかの細かな調整になり、僕ができることがほぼなくなった。


「レイモンド様、そろそろ正午になります。深き谷へ向かわないと時間が遅くなっては、十分な調査ができないかもしれません。」


 変な言葉づかいで、ミラ姉が谷への出発を急かしてきた。ここでは、スポンサーと冒険者、依頼人と冒険者の言葉遣いだ。


「そうだな。じゃあ、ドローンで峠に向かおうか。その先の谷から森、その先の海の町までのルートは、エスで行くことができるのかどうかを確認するのと、谷に降りて魔物の様子と谷の環境について調査してみよう。」


 今日の調査は、少々欲張りだ。僕自身が行ったことがない場所だからしようがないのだけれど、とにかく出発だ。


 1時間弱で峠の広場に到着した。3人乗りドローン2台で着陸して直ぐ収納。峠の広場を有効に利用した。峠から下を見る真直ぐにくだっいる細い道。マウンテンバイクなら余裕で下ることができそうだけど、エスでどうかな…。


「シエンナ、この道、エスで下ることができると思う?」


「大丈夫だとは思いますが、もしかしたら一度か二度、エスを下りないといけない場所があるかもしれません。」


 僕たちのパーティーならどんなに狭い場所があっても、そこを徒歩で移動できれば大丈夫だ。エスもマウンテンバイクも収納することができるからだ。でも、普通の冒険者はそうもいかない。できれば、移動用の魔道具を降りないで良いルートが欲しい。


「皆さん。乗車してください。出発します。」


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