第245話 初めての学校

 目覚まし時計が鳴っている。昨日は夜9時には寝たのにまだ眠い。寝足りない。目覚まし時計を止めて、ベッドから起き上がる。パジャマのままダイニングに移動する。


「おはようございます。」


「お早う。レイ。よく眠れた?」


「はい。眠れたんだけど、まだ、寝足りないような…。時差ぼけって言うんですか。でも、フラフラするほど眠いわけじゃないですから大丈夫。」


「じゃあ、朝ご飯を食べて。父さんももうすぐ降りてくると思うわ。」


「はい。頂きます。」

 僕は、食卓に着いて食事を食べ始めた。玉子焼き、お味噌汁、サラダ。


「お母さん、この黒い紙みたいなものって何?」


「それは、味付け海苔っていうの。前温泉旅館に行った時も食べたと思うけど…。」


「あの時は、たくさんご馳走がありすぎて、この紙みたいのに気が付いていなかったかもしれません。」


「そうね。御馳走いっぱいだったからね。ご飯の上にのっけて、御飯と一緒に食べてごらんなさい。美味しいわよ。」


 お母さんが言ったように、袋を破いた後、のりを手で摘まんで一枚だけご飯の上に乗ってけ食べてみた。甘じょっばい味、ほんの少しピリッとした香辛料が利いていて美味しい。


「美味しい。これ好きだな。」


「良かった。さっ、どんどん食べないと、上村さんたちが来ちゃうわよ。」


 約束した時間は7時50分。今7時だから十分じゅうぶん時間はある。でもこれから身だしなみを整えて、ガクセイフクに着替えないといけない。トイレも行っておかないといけないから、ゆっくり食事をしている時間はないのかもしれない。


 食事を終え、トイレに行って身だしなみを整えガクセイフクに着替え終わったのは、7時40分だった。勉強道具は鞄の中に入っているはずだ。玲が準備していたようで、本田さんが確認してくれた。お母さんから水筒を受け取って、アイテムボックスの中に収納しようとして止められた。


「レイ、この世界ではアイテムボックスなんて一般的どころか誰も持っていないスキルなのだから、人がいる場所で使用するのは禁止よ。」


 使用禁止の割に、玲のアイテムボックスの中にはいろいろな物が入っている。僕が知らない物もたくさんある。帰って来たら、お父さんとお母さんにどうやって使うのか聞いてみよう。


「あっ、アイテムボックス使用禁止って言ったけど、情報検索は大丈夫よ。使用禁止は物理的な物の出し入れね。」


 お母さんが付け加えてくれた。そのすぐ後、


「おはようございます!」


 来訪のチャイムと共に元気な声が聞こえてきた。


 僕とお母さんは、一緒に玄関に出て行った。


「お早う。」「お早う。今日はレイをよろしくね。」


「「はい。任せて下さい。」」


 そんなやり取りの後、僕たちは、学校に向かって歩き出した。時間に余裕はある。ゆっくり歩いても十分間に合う時間だ。


「ベルはあの後、何かスキルか魔術発現することできた?」


「錬金魔術師って言うのが私のスキル?みたい。」


「錬金魔術師って言うのは、職業だね。でも、聞いたことない職業だから今度あっちに戻った時に教会に行って神父さんにでも聞いてみるよ。」


「あっ、でもね。前、アイテムバッグの操作練習の為に玲君に貰っていた発砲アルミボールを色々変形したり、性質を変えたりすることができるんだよ。」


「性質を変えるってどういうこと?」


「良く分かんないけど、硬くしたり柔らかくしたりだね。」


「金属の性質を変えることができるってすごいね。」


「魔力を流している時だけ性質が変わるみたい。形の変更は魔力を流していなくても維持されるけど、性質の変更は魔力を流している間だけね。面白いからいろいろ実験して、昨日は寝るのが遅くなっちゃったわ。」


「ベル、授業中居眠りしないように気を付けてね。」


「大丈夫だって。」


 カラから注意されてたけど、ベルは眠い時は寝るんじゃないかなって思えちゃうんだよね。


 学校に着くまでにたくさんの同年代の男の子や女の子に出会った。地球ってこんなにたくさんの人が一つの町に住んでるんだって感心するくらい。


 学校に到着してベルと一緒に教室に向かった。カラは、隣の教室だから廊下でバイバイだ。


「玲、お早う。今日はどうして本田さんと一緒なんだ?」


「おはよ。途中で会ってね。家が同じ方向なんだ。」


 これは、あらかじめ決めていた返事。三人で登校なんかしたらきっと何か言われるって昨日話していた。


 それからは、特に何事もなく午前の時間は、過ぎて行った。これから給食だ。全員が…、いやたくさんの人間が一斉に水道に向かっている。トイレに向かう人もいるが、水道で手を洗っている。


 こんなにたくさんの人間が同じことをするのを見たことがない。なんか不気味なくらいだ。僕も手を洗った。病気の多くが手洗いで防止できると知っているからだ。水がない時は、清浄の魔術を使う。でも、ここには、こんなにふんだんに水がある。だから、きれいに洗う。


 それから、席に戻ると、当番の子が机を拭いてくれていた。あまりきれいとは思えない布だったから拭かない方が良いのかもしれないけど、断るわけにもいかないのでそのまま拭いてもらった。


 僕に清浄の魔術が使えるなら、こっそり使うんだけど…、机に落ちたものは食べないようにしよう。


 それから、給食が配られる。それぞれ、トレーと食器、スプーンを受け取って、当番に注いでもらい、すべての食器に注いでもらったら、牛乳とストローを受け取り自分の席に戻って来る。


 このシステムは、ロックバレーの拠点の食堂でも一時期行われていたから大丈夫だった。給食は、まあまあかな。お腹いっぱいになって、給食時間は終了した。ここまでは、上手くやってる。特に怪しまれることなんかしていない…はずだ。


 敵意のサーチ…。特にいない。魔物も当たり前だけどサーチには引っかからない。サーチの範囲を少し広げてみた。大丈夫…、え?


「ベル、何かこっちに向かってきている。敵意…、いや、恐怖を感じて必死になって広い場所、逃げられる場所を探してるようだ。」


 今は、給食中だから、外に出ている生徒はいない。でも、後数分で給食は終る。そうなるとたくさんの生徒が外に出る。会敵してしまう。こちらに向かっている物の恐怖は、すぐに攻撃に変わるだろう。今からしばらくは、外に出ちゃあ危ない。


『キーンコーンカーンコーン』


 給食終了のチャイムが鳴った。給食を食べ終えた生徒が外に出て行く。恐怖に取りつかれた物が近づいている。


 見えた。大きい。かなり大きなボア。魔物ではないかもしれない。イノシシだ。まずい。校門の方に進路を変えた。もう一度、進路を変えさせないと…。


「ロックバレット!」


『ガガガガラガラガラッ。』


 直径20センチほどの岩がイノシシの直前のアスファルトを跳ね上げ、砕けていく。イノシシは、自分の方に向かってくる細かい破片と大きな音に驚き、校門から離れる方向に向きを変えた。良かった。


 残っているのは、大小10個程の石。距離は、120m程だろうか。回収できるか、何人かの先生が、音の確認の為に校門の方に向かっている。


「アイテムボックス・収納」


 かなり魔力を使った。こんなに離れている場所にある物を収納したのは初めてかもしれない。やればできるもんだ。


「レイ、どうしたの?顔色悪いよ。」


「ちょっと無理した。魔力切れみたいだ。しばらくしたら治ると思う。」


 それから、昼休みはぐったりしたまま過ごした。


 次の時間は、音楽。魔力切れは、少し解消して、身体を動かすことに支障は無くなった。音楽室に移動して、音楽史の説明を聞いた。昔の作曲家の話だった。音楽の教科書に書いてあるから大丈夫だろう。


 鑑賞曲は、バッハのブランデンブルク協奏曲3番だった。10分くらいの曲で、聞いてい心地よかった。3楽章構成で早い、遅い、早いの構成になっているそうだ。2楽章はあっと言う間に終わっちゃったけど…。ベルは、3楽章が始まる辺りで寝ていたようだった。心地よかったからね。


 無事?一日を学校で過ごして今家に戻っているところだ。反省点は特になし。うまくやった。何人かの友だちとも話をしたし、昨日予習したテレビ番組の会話にも着いて行くことができた。ベルからも合格点を貰った。これなら、何日か学校に行っても大丈夫だ。玲、安心しろ。僕はやったぞ。


 帰ってダイアリーに今日のことを書き込んでおこう。ベルたちと途中で別れ、家に着くと、部屋着に着替えた。お母さんにくれぐれも制服でゴロゴロしないように言われている。制服か汚い上に、しわになると面倒だからだそうだ。


 机で、日記用紙、今日の出来事を整理して書いた。大きなイノシシが学校に入ってこようとしたことは、別に書かなくていいか。クラスメイトと話したテレビのことや、ベルの職業が錬金魔術師だったことなんかも書き込んでおいた。今日の音楽の鑑賞曲についても一応書いておく。ブランデンブルク協奏曲3番。2楽章がとっても短いこと。


 それから、ダイアリーにリペアしようと開いてみると玲からの書き込みがあった。ラジコン飛行機って何だ?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る