第244話 森の賢者の研究所見学

 ジャイロモノレールの試作実験は、レール作りから始まっていた。砦からフォレストメロウまでをまずは1本のレールで繋いでみる。レールは地上3mから5mの高さに設置され今回は、30mごとに橋脚で支える構造になっている。砦からフォレストメロウまでは15km程しかない。ゴーレムバスでも10分もかからない距離だ。


 まず、高さ5mの橋脚を工房内で作る。地下に埋める部分が同じく5m。つまり、この橋脚は10mになる。堅となる穴を掘り、それに石を半分ほど入れる。その中央に強化鉄の骨組みを置き、コンクリートで固めたいところだ。


「チーフ、この橋脚はどうやって作るつもりなんですか?」


「鉄骨を入れた後、コーラルゴーレムの石化液で固めて作ります。固まった橋脚を土魔術で強化して完成です。既に300本ほど完成していて、アイテムボックス持ちやストレージ持ちが移動させ、土魔術師が設置固定強化をした後、更にコーラルゴーレムの石化液で補強しています。」


「レールも橋脚を繋ぐように作っていってますから、後2日程でフォレストメロウまでは、繋ぐことができるはずです。」


 その話を聞いた後、駆動列車2両と間に挟まれた客車1両の試作列車も見せてもらった。ジャイロが動いていないため、地上の線路の上の車体は、両方から固定され倒れないようにしてある。始発の駅にもこの車体を固定する仕組みを作る必要がある。始発の駅は、砦の門の前に建築中だった。地上に設置された線路は、駅舎から飛び出し、徐々に高さを増している。100m程で高さ3mになり、その高さを維持した1本のレールがはるか向こう側まで続いている。


 後2日で、この線路が完成し、ジャイロモノレールの試験車両が砦とフォレストメロウの町を往復すると思うとなんかわくわくする。


 ジャイロモノレールの実験では、何も手伝いすることなく次の見学場所に移動した。そこは僕がデザインと試作品を依頼したカジュアルバッグの制作工房だった。この工房には、女性が多かった。やがて、工場に移管される工房らしく、開発と言うよりは、制作に追われている感じだったけど、たくさんの人が製作に携わっているのが分かった。


 この工房の案内は、研究企画部長のアントニオさんだった。


「この工房では、現在、様々な素材で1日約100個のカジュアルバッグを製造しています。既に、2カ月先までの製造分まで予約でいっぱいになっておりますが、工場に製造移管する為、技術者の教育に力を入れているところでございます。」


「このバッグの平均単価っていくらくらいなのですか?」


「素材やデザイン、容量で大きく値段が変わりますが、そうですね。高級素材で作ったものが金貨100枚。普通の素材で作った容量少なめの物で金貨2枚程度でございましょうか。1日の平均卸売価格が金貨1000枚となっております。その平均で言えば金貨10枚程度と言えるでしょう。」


 1日に金貨1000枚を稼ぐ部門だ。やっぱりゴーレムバス部門を越えていた。まあ、バッグの素材は高いから、利益はどちらの方が大きいかは分からないけど、やっぱりバッグ部門かな…。


 次に訪れたのが有線遠距離通話魔道具部門だ。地球で言うところの電話みたいな道具の開発チーム。この開発には、レイも関わっているそうだ。電話の呼び出し音がなんか変だった。なんというか…、悲鳴?というか馬のいななきと言うか。それで、タブレットの振動のようにコアを振るわせてそこにベルを取り付けたらどうだろうかと提案してみた。昔の映画やテレビ番組で出てくるリリリンみたいな音がするようにだ。


 馬のいななき音は、セイレーンの魔石が出せる大きな音だったらしい。魔石の個性で色々な音になるし、あんまり気持ちがいい音じゃなかったから振動でベルを鳴らす方に変更するということにしたらしい。その内素敵なメロディーでも奏でるようになってくれたら良いのだけれど、まだ先の話だろう。


 同じ仕組みをタブレットにつけることで、タブレットで通話できるようになったと聞いて驚いた。流石異世界だ。そう言えば、僕のタブレットってどうなってるんだろう。以前登録した気がするけど…。


 アイテムボックスを開いて確認するとタブレットは出てきたけど通話機能は付けてくれてなかった。仕方ないから、アンディーのタブレット借りて通話機能をコピーしよう。有線遠隔通話の魔道具の名前について聞かれたけど遠話の為の魔道具だから遠話機ってのを提案したけど、どうなんだろう。タブレットに遠話機能を付けた物は携帯遠話機かな…。何となく電話機にゴロが似ていて言いやすい気がするんだけど、こっちの世界の人はどう思うかな…。


 次の部所は研究企画部長の秘密開発部所なんだそうだ。だから今回はパス。開発が完了したら見せるから楽しみにしていて欲しいと言われた。最後に開発チームが精錬窯開発部門。これから、この研究所の中心テーマになる部門ということだった。


 今作ろうとしているのが、レイの上級ポーションを作る為の精錬窯。かなりいいところまで開発が進んでいるらしい。初級ポーションの精錬窯はほぼ完成してるということだから頼もしい。


 それで、一つだけ僕から新しい部門の提案をした。武装トラック部門だ。輸送コストをできるだけ下げて、たくさんの荷物を運ぶことができる魔道具。魔の森を2名ほどの乗員で走破し、海産物などを積み込んで戻って来ることができる魔道具の開発だ。その荷台は、二重構造にする必要がある。


 下には、生き物ではない素材や食料を積むことができるアイテムバッグ構造。上には、アイテムバッグで運ぶことができない生き物を新鮮なまま輸送するための生鮮輸送構造。死んでいればアイテムバッグの中に入れて輸送できるから生きたものを輸送する荷台だ。揺れを少なくして、生き物がストレスなく運ばれるようにしてもらいたい。基本的にゴーレムバスの構造で良いと思う。


 初めは、生鮮輸送のシステムは付けなくても良いけど、いずれ生き物を生きたまま輸送できるようになれば、ずいぶんとこの国の食生活が豊かになると思う。


 精錬した紙にトラックの構造と荷台の構造を簡単に描いて企画部長に渡した。このトラックならモノレールの橋脚やレールを乗せて研究所から工事現場まで往復することができるかもしれない。また、このトラックの荷台には、コーラルゴーレムも乗せて運ぶことができるかもしれない。紙に描いた図で説明しながら、王都から戻った後の研究所見学を終えた。


その後、パーティーハウスに案内され、所長や企画部長と一緒に夕食を食べた。今回、初めてまともにパーティーハウスで食事を食べた。畑で採れた野菜や果物も美味しかったし、後で紹介された新しいコックさんの料理もおいしかった。


それから、ゲストルームら案内されてそこに寝た。所長と研究企画部長は、研究所のそれぞれの家に帰って行った。寝る前に飛行機の資料と出来たらラジコンの飛行機を購入してその精錬式をホームスペースにコピーしておいてほしいと書いておいた。


レイからは、ベルトカラに会って、色々話を聞いたとだけ書き込みがあった。

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