第7章 国守の魔術契約編

第243話 陛下の謁見とゴーレムバス

 朝になった。昨日の夜は流石に眠れなかった。何しろ朝、起きて4時間後にこっちの世界に来て、5時間後には夜中だったのだから…。明け方にウトウトした気もするけど寝た気がしない。今日の午前中位なら眠くならないと思うけど…。謁見中に眠くならないか心配だ。緊張してるからさすがにそれはないとは思うけど…。


 今日は、午前中に国王陛下と話をする。何の話かと言うと良く分からない。アンディーの話だと、アンディーとロジャーで日程についてはほぼ話し終わったと言っていた。僕の提案通りの日程で許可をもらったそうだ。では、何を話すのだろう


 宿で朝食を取り、くつろいで居ると王宮からの使いの馬車が来た。護衛としてアンディーが同行する。僕一人でウロウロするとどんなトラブルに巻き込まれるか分からない。


 直ぐに、国王陛下の執務室に案内された。


「森の賢者レイモンド卿よくぞ王都に参られた。」


「もったいなきお言葉、痛み入ります。して、今日の用件とは何でございましょうか。魔術契約の日程については、レイより聞き及んでおりますが。」


 あれ。今、レイモンド卿って呼ばれた気がするけど、どういう意味だ?まあ、いいか。


「そなたも異世界から来たものであれば、こちらの宮廷作法などなじんでおるまい。いつも通りの言葉で良い。滞りなく会話することに専念いたせ。」


「有難うございます。では、そうさせて頂きます。」


「うむ。一つは、今回、そちらが開発したゴーレムバスのことじゃ。砦から王都までを快適に移動することができる魔道具であると聞いてな。ロイヤルカーも快適なのだが、乗車できる人数がそう多くないからな。それをできるだけ多く購入したいのじゃが、お主の力でどうにすならぬか?」


「申し訳ありませんが、ゴーレムバスの開発は、研究所で行ったものでございます。大量生産の手伝いはできると思いますが、研究所に直接言っていただいた方が宜しいかと思います。」


「そうか。では、そうしよう。研究所にはミーシャも勉強に行きたいと申しておるからな。所長とも知らぬ仲ではない故、多少の無理は聞いてくれるだろう。それでは、次の用件なのだがな。聞くところによるとお主らの研究所では、バスよりも高速で大型の乗り物を開発しているようだが、国外との移動に使用できる、大人数を一度に移動させることができる高速の乗り物など作ることはできぬか?」


「どうしてでございましょうか?ドローンやマウンテンバイク、ゴーレムバイクなど国外との行き来も随分と楽になっていると聞いておりますが…。」


「王宮の者など一部の者は、依然と比べ物にならぬほど安全で早く国外へ移動できるようになっておる。しかし、国民はそうではない。この国の国土は瘴気の森と魔の森に挟まれ、南北を高い山脈で塞がれた陸の孤島と言って良い地形にある。国外から攻め込まれる危険はないが、物の行き来が容易ではないのだ。特に海の産物は、高級品だ。ダンジョンの中に偶に産することがあるが、一般の国民に届くことはほとんどない。それを何とかできる移動手段がないかと思ってな。」


「航空機と言うものがございますが、その運用には広大な施設が必要になります。出発する側にもですが、受け入れる側にもです。それに、空を飛ぶ魔物の対策が難しいです。非常に速く移動しますが、一定の場所を結ぶ乗り物ですから、必ず離陸と着陸をしないといけません。その時に魔物に襲われると対処が難しいと思われます。」


「そうか。危険が排除できぬか。しかし、その航空機とやら試作してはもらえぬか?我が国内での運用で試してみたいのだ。」


「畏まりました。資料をそろえて、小型試作機を作ってみましょう。その…、海の産物が手に入りにくいと言うことですが…、もしかしたら、解決策が見つかるかもしれません。」


「どういうことだ?海産物は、魔の森か瘴気の森を越えねば手に入る町まで行くことができぬのじゃぞ。」


「魔の森のルートですが、そのルートを整備し、魔物の進入を許さぬ砦で峠を守ることは難しいでしょうか?」


「かつて、我が祖先もそのルートを開発しようとしたことは記録に残っておる。しかし、深き谷で防いでいる魔物が巨大で強大すぎるのじゃ。普段は、谷に現れることは無い。谷が狭く通れぬことを知っておるからな。しかし、偶に餌を求めて現れる。それが現れた時には、谷に逃げ込むしか策はないのだ。逃げ込み遅れれば食われる。だから、谷を広げ整備することができぬのじゃよ。」


「何故、そのように巨大で強大な魔物が谷には入ってこないのですか?そのように強大なら、谷にある岩など蹴散らしてしまえばよいものをそうしないのは何故でしょう?」


「そんなことは、考えたことがなかったの。ティモシー、何故、魔物が谷に入り込まぬのか研究されたことはあったのか?」


「さあ、存じませぬ。ただ、魔の森で魔物に出会ったら深き谷へ逃げ込むようにという教えのみは存じております。以前、帝国へ献上品を届ける際、魔物に追われ、命からがら逃げ込んだことがありますが、谷に逃げ込めば、魔物たちはおって来ませんでした。教えの通りだと安堵したことを覚えております。」


「そのような事実があるのでしたら、谷に何か魔物を寄せ付けない物質なり、結界なりがあるのかもしれません。それが、分かれば砦を谷の前に備え、谷を行き来できるように整備することも可能かと思うのですが如何でしょうか。」


「魔物を寄せ付けぬ砦を作るということか?」


「可能であれば、魔物を寄せ付けず、谷のこちらに通さない砦を作りたいと思います。」


「ほほう。では、国守の魔術契約の後の依頼はそれだな。小型航空機か?その試作も含めて、お主には、いくつも依頼せねばならぬが、頼んだぞ。」



 その後、夕食に誘われたが、研究所でバスの製作について話したいと断り、アンディーと研究所に向かった。ドローンで1時間弱。途中タブレットで所長と企画部長に来訪を連絡した。


 研究所の創設者が来るということで、研究員も全員、1階フロアで並んで待っていた。アンディーと僕がフロアに現れると盛大な拍手で迎えられた。


「森の賢者レイモンド様、ようこそいらっしゃいました。資金、施設、そして、研究の示唆、および商品のヒントいつもありがとうございます。レイモンド様の指示で開発した商品や製品も少しずつ増えております。また、我々が独自に開発した物もできつつありますので、是非、ご意見を頂きたく存じます。」


 所長からの挨拶だ。流石だ。気持ちが伝わって適切、無駄なし。丁寧な言葉なのに分かりやすい。頑張ってるってこと伝わった。


 一番最初に見学させてもらったのは、ゴーレムバスの製造工房。合成されたコアを動力となる足の部分、コントロールコアに分割し、ミスリル導線で連携させる。それは精錬窯でできるようになっていた。ミスリル導線は、錬金術師が最速で大量に製造しているそうだ。


 次に車輪の接合やミッション部品の組み立てと揺れを吸収する結界と収納の魔法陣を組み合わせた部品。これは、精錬魔術師チームが大量生産している。バスのフレームとボディーは鍛冶師チームが担当して突貫作業で製造している。


 素材が足りなくなりそうな発泡メタルとコアの合成をして、子宮の製造を応援することにした。合成コアが後5個までになっていたのに30個追加され、発泡メタルは残量測定ができないほど増えた。喜んでもらえると思ったのだけど、研究員の皆さんは、絶望的な顔になってしまった。


「ゴーレムバスは、後なんだい姓増する予定だったのですか?」


 僕が担当チーフに聞くとチーフは絶望的な顔をして応えてくれた。


「3日前、所長から至急バスを量産するようにと指示があって、手持ちの材料で作れるだけ作ろうと頑張っていました。現在まで8台完成し、後、5台しかできないと危ぶんでいた所です。やっと、休めると思っていたのですが…。」


「あの…、皆さん、休みなしで働いていたのですか?」


「いえ、ちゃんと寝ていますよ。部屋には帰っていませんが…。しかし、このチャンス逃すわけにはいかないのです。目標は、王都への旅行シーズンが始まるまで、後2週間で30台完成です。」


「そうです。このバスは1台金貨300枚で購入して頂けるのだそうです。材料費は金貨20枚程度と聞き及んでおります。私たちの働きで一台金貨280枚を研究所が手にするのです。それが30台分。この研究所の運営費の十数年分を稼ぐチャンスなのです。私たちのボーナス倍増も夢ではないのです。」


 確かに、金貨8400枚ともなれば、全員に金貨数枚のボーナスは、支給されることになるとは思うけど、休まず働くなんてだめだ。それに、多分だけど、バスよりも高級カジュアルバッグの方が金貨を稼ぐことになると思う。だからなおさら無理はして欲しくない。


「分かりました。では、皆さんのお手伝いをします。出来上がった部品をここに持ってきてください。」


 素材から作るのでなければ、精錬コピーはそんなに魔力も時間も必要ない。アイテムボックスの中で組み立てるから部品を移動させたり、接合したりする時間がかからない分短時間で完成させることができる。集められた素材と部品を使って10台のゴーレムバスを組み立てて行った。


「アルケミ・ゴーレムバス10。」


 何が起こっているのか分からず、戸惑い顔の皆さんを待たせること20分。10台のゴーレムバスが完成した。


「3日間ご苦労様でした。後12日間で15台の完成を目指してください。それから、出来上がったバスは、走行試験がてら順次王都に運ぶと喜ばれると思いますよ。」


 唖然とした表情で、並んだ10台のゴーレムバスを眺めている皆さん。誰からともなく拍手がなされ、ゴーレムバスチームから盛大な拍手を受けて次の見学場所に移動した。

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