第242話 ポーション瓶の魔法陣

 魔術契約も終わり、昨日は、みんなで買い物に出かけた。魔道具屋には、つい先日研究所が開発し、販売を始めた冷凍・冷蔵の魔術具が『氷倉庫』と言う名で売り出されたいた。小型のもので銀貨5枚。結構な値段だが、飛ぶように売れているという話だった。


 他には、火の魔石を使った暖房器具なんかも少しずつ販売が始まっているようだった。後一月で冬になる。そうなるとよほどの用がない限り町の外に出ることしなくなる。地方の領主たちの家族も王都の別邸で過ごす。領主たちは、各領を守護するために領軍とともに残るが、富裕層は、冬の間、王都で過ごすことを選ぶ。その為に11月は、旅の季節であるとともに、食料を買い集める月でもあるのだ。


 前半は、保存のきく穀物などが王都に集められ、大量に売り買いされる。そこに出てきたのが氷倉庫だ。もう少し後から売り買いが始まっていた肉や肉の加工食品、それに日持ちする野菜などが11月の前半の安いうちに買って保存ができるということで、大量に売れているのだそうだ。


 さらに、そこにこれから登場するのが、遠距離の移動を短時間で可能にするゴーレムバス(改)だ。今までは、11月の中頃からはじまっていた王都への移動が、ぎりぎりまで各領にいても余裕で間に合うようになる。しかも、2週間の旅行中にかかる費用が必要なくなるとなると、少々高くてもバスを利用した方が良いということになるだろう。


 今回、魔力契約の為に王都に訪れていた各領の領主様たちも、ゴーレムバス(改)を使って、一昨日の夜から送り届けている。その運転は、騎士団の方々が引き受けて下さっている。護衛任務の一環としてだそうだ。バスに2名乗り込んで行きと帰りで運転を担当するのだそうだ。一日に1回魔力の補充をしようと思っていたけど、必要なかった。領主様が、降りる時に補充してくれたからだ。その際全ての領主様が、家族の王都への移動もこのバスでお願いしたいと仰っていたということだった。


 一台のバスで40名だから一つの領から王都まで何往復する必要があるのだろう…。兎に角早急にバスを作って王宮に収めないといけないだろう。


 全ての領主様を送り終わってバスが王都に戻って来たのが今朝の11時だった。昨日、買った物は、女性陣も男性陣も服や食器などが多かったのだけど、手持ちのマジックバッグやスキルのストレージやアイテムボックスに詰め込んで、宿の前に集まっている。


 一足先に帰ると言っていた所長たちもいた。やっぱり家族と過ごす時間を簡単に切り上げるわけにはいかなかったのだろう。それに、新たにアグリゲートハウスのメイドとして雇われることになった人4人と新たにコックとして働いてくれることになった男性1名がバスに乗って砦に向かう。エリックさんが昨日の内に手続きをして、5人にマジックバッグを貸し与えて、引っ越し込みでバス移動できるようにしてくれたからだ。


 メイドさんとコックは、家族と離れて暮らすことになるが、もともと、地方から王都に働きに来ていたということなので、特に気にする必要はないと言われた。特にメイドの4人は、王都より砦の方が実家に近くなるから嬉しいとさえ言っていた。同じ町らしいから、休みの時には、送ってあげよう。


 新しいメンバーを迎えバスは砦に向かって出発した。僕とアンディーが王都に残ることになった。いざとなったらミラ姉が王都に来てくれると約束してだ。今晩の8時46分、僕は地球へ転生する。中学校とやらに行ってみることになるそうだ。そして、お父さんやお母さん以外の人と初めて会うことになる。ベルとカラの二人だそうだ。


「転生まで時間があるな。図書館か巻物屋に行ってみないか?」


 アンディーに誘われて、巻物屋に行ってみることにした。精錬術に使う魔術式や魔法陣が記された巻物を売っている店だ。かなり高額な物が多いけど、役に立つ物は、少ない。しかも、読むだけでお金を取られてしまうものがほとんどだ。その金額も安くはない。つまり、かなりリスキーな売り物屋と言える。


 お金に余裕がなければ、または、魔術のことでよっぽど困っていなければ絶対来ない店だ。


「ここに、上級回復ポーションのポーション瓶に刻む魔法陣は置いてないか?」


「はい。ございますよ。瓶製造の精錬窯に刻むための魔法陣でしょうか。それとも一つの瓶に刻めればよいものですか?」


「精錬窯の方だ。幾らになる?」


「金貨5枚になります。おひとつで宜しいですか?今なら3枚ご用意できますよ。」


「うむ…。今日の所は1枚で良いだろう。必要になったらまた買いに来る。」


「その他にも中級エリクサーのポーション瓶の魔法陣もございますが、如何でしょう。つい最近のドロップ品でございます。上級回復ポーションの瓶をお求めなら、次はエリクサーの研究でございましょう。」


「レイ、どうする?」


「面白いけど、本物かどうかが分からないからね。偽物の可能性もあるでしょう。」


「偽物だなんて、私共の巻物は、鑑定士が鑑定した物しか取り扱っておりません。決して偽物などお売りいたしませんぞ。」


 お店の人が凄い勢いで偽物を否定してきた。今のところ必要ないけど、一応購入を検討してみようかな…。


「それで、その巻物はいくらなのだ?」


「大特価、金貨6枚でお譲りいたします。」


「それは、安いな。精錬窯用の魔法陣なのだろう。それがあれば、中級エリクサーの瓶をいくらでも作ることができるのだぞ。」


「まあ、エリクサーが入っているのであれば、それこそ金貨1万枚でもお売りできませんがね。瓶だけですから作れるのは。」


「それは、そうですね。良し。その値段なら買い取りましょう。僕たちの魔法陣の研究材料にもなりますから。」


「ゴーレムコア制作の巻物なんか入っていませんか?」


「そんなのがあれば、大騒ぎになっていますよ。ゴーレムコアは、今のところダンジョン以外は、作ることはできませんからね。魔石と同じですよ。まあ、魔石が変化した物だろうとは言われてますがね。」


 そんな話をしながら巻物屋で金貨11枚分の買い物をした。そのほかにも色々な巻物を進められたけど、気に入ったものはなかった。


 巻物屋で1時間程、時間をつぶして宿屋に戻った。時刻は、1時になるところだ。僕は、これから少し眠ることにする。夕方まで、眠っておけば、地球に行って夜まで起きていることができるだろう。





「レイ、起きろ。そろそろ時間だぞ。」


 寝る前に、軽く食事をしたからか、思った以上に眠ってしまった。

 今、6時10分。後50分で約束の時間だ。アンディーが気を利かせて夕食の準備をしてくれていた。向こうの時間で朝の10時54分に転生してくるって言っていたから、朝食は食べているだろう。僕も、軽く食べておいた方が良いだろうと話していたからだと思う。


「アンディーありがとう。」


「おう。しっかり食っとけ。賢者様が来ても、この時間じゃあ、夕食取ることができる店は混んでいては入れないからな。」


 早めの食事を済ませて、時間になるのを待つ。ベッドに横になり、アイテムボックスのホームスペースを開く。今日購入してきた上級ポーションのポーション瓶に刻む魔法陣を作る精錬式と中級エリクサーの瓶に刻む魔法陣を作る精錬式をコピーしておく。国王陛下との話は昨日の内に書き込んでいる。


「時間だぞ。」


 アンディーの言葉でダイアリーを開いた。意識が日記に吸い込まれていき、薄くなっていった。




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 目を開けてみる。実の前にお父さんとお母さん。その後ろに女子が二人。うまくいったようだ。ここは、地球だ。玲の記憶を探ってみる。向かって右にいるのがベル。左がカラだ。


「ただいま。お父さん、お母さん。それから、初めまして、ベル、カラ。」


「お帰り。レイ。一月ぶり位ね。」


「お帰り。今度は、学校に行ってみるってな。楽しんでくれ。」


「初めまして、レイ君?本田鈴だよ。」


「初めまして、上村エリです。」


「ええっと、ホンダスズさんがベルだよね。それからカミムラエリさんがカラで間違いないよね。」


「何か玲君がベルとかカラとかって呼ぶの慣れてないけどあってるよ。やっぱり玲君じゃなくてレイなんだね。」


「そうだね。レイ君って呼ばれることってないかな…。レイって呼んでよ。友だちなのにレイさんって呼ばれるのも何か変だしね。」


「じゃあ、私はベルで。」


「私は、カラで良いわ。」


「じゃあ、僕はレイで宜しく。」


 それから、僕たちは、明日の授業のことや勉強のこと、先生の特徴や日頃玲が友だちと話している会話の内容についてなんかを玲の記憶を確認しながら確認していった。明日学校で頓珍漢なことしないようにだ。一日だけだから何とかなるとは思うけど。体育はないし。


 音楽があるけど…。試験とかじゃないから大丈夫だろうということになった。明日の音楽では期末試験に出る音楽史について少し勉強するはずなんだそうだ。クラシック曲の鑑賞もあるから楽しみにしておいてねって言われたけどクラシック曲って何だろう。


 その夜は、母さんたちと焼き肉屋に行った。炭火で焼いて食べるお肉は、とにかく美味しかった。あちらには炭がないと言ったら、ホームセンターに買いに行こうということになった。土曜日にだ。それから、炭づくりの実験をしようということにもなった。今回は、初めてこちらの世界で丸々3日間過ごし、4日目の朝、向こうに戻ることになる。いろいろできそうで楽しみだ。

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