第241話 本田さんの誕生日
本田さんと上村さんに11月3日の約束をした二日後。本田さんの誕生日。
僕と、上村さんは今、保健室にいる。昼休みで、保健の先生はいない。本田さんは、給食が始まる前、気分が悪くなったと言って保健室に行き、休んでいる。給食は食べたみたいだけど、半分くらい残したそうだ。保険の先生は、食器を持って行ってくれているところだ。しばらく一緒にいるように頼まれたから、すぐには戻ってこないだろう。
「誕生日なのに大丈夫?」
上村さんが心配そうに本田さんの顔を覗き込んで尋ねた。
「大丈夫。気持ちの問題。落ち着こう。ふ~っ。」
独り言?
「どうしたの?急に。今朝まで元気にしてたよね。」
僕が聞くと。
「目の前に真っ黒な何かが出てきたの。なのにみんな気が付かないの。あるけどないの。そして、教科書が中に入っちゃったのよ。授業中に…。びっくりして思わず声を出したら、先生がびっくりして。」
「ぐげぇー、なんて声出すからだよ。僕もびっくりしたもん。」
「そんな声出してないもん。とにかく、ビックリして声を出したら気分が悪いのかって言われてね。元気ですなんて言えないから、そのままここにいるの。」
「でも、元気なのね?」
「うん。大丈夫。落ち着いた。玲君に聞いたら分かるかなって思って呼んでもらったの。カラはついでに呼んだだけ。」
「急に呼び出されてびっくりしたわよ。本田さんが呼んでるから保健室に来てなんて言われたらびっくりするでしょう。」
「ごめん。でも、カラも最近似たようなことあったようだから、一緒にいてくれると心強いと思ったんだもん。」
「ついでだけどでしょう。」
ペロッと下を出す本田さんだけど、すぐに上村さんからデコピンをされて額を押さえてうめいていた。身体強化付きのデコピンならかなり痛いと思う。
「それって、ストレージかアイテムボックスのスキルだと思う。」
「アイテムボックスかもしれなの?それって玲君と同じ?」
「ストレージもアイテムぽっくのスキルも熟練度で大きさが変わるけど、大きな違いは、ストレージは触っている物は大きさに関係なく収納出来てアイテムボックスは、収納口を移動できるってことかな。アイテムボックスの収納口の大きさは注ぎ込まれる魔力の大きさで変わるんだよね。」
「例えば、このベッドを収納する時、ストレージのスキルだとこのベッドに触って収納しようと思えばできる。アイテムボックスは、このベッドが収納できる大きさに入り口を開いて収納するみたいな違いかな。」
「じゃあやってみるね。…、ええっと、収納。」
目の前のベッドが消えた。
「ああっ。黒いのが開いた。大きくなったよ。」
「それじゃあ、本田さんのスキルは、アイテムボックスだね。使える魔術は何だろう。あっ、その前にベッドを元に戻しておかないと、保健の先生が帰って来た時、大騒ぎになるよ。」
「そ、そうだね。ええっとどうやって元に戻すの?」
「アイテムボックス・オープンで入り口を開いて、欲しいものを指定すれば出てくるよ。」
「アイテムボックスオープン・ベッド。」
ベッドが現れて、元あった場所に収まった。良し。これで騒ぎになることは無い。
「玲君、このアイテムボックスの中に入れられない物ってある?」
「生き物や魔力が動いている魔道具かな。でも、魔道具は、自分の魔力なら魔力が動いていても収納できるよ。他の人の魔力が動いてるものはだめだね。水なんかも収納できたよ。他には、空気もいれることができたし、空気から窒素だけやヘリウムだけを分離することもできたよ。これは、僕が精錬魔術師の職業を持っているからかもしれないけどね。」
「へぇ、アイテムボックスってすごいんだね。私も色々収納して試してみよう。」
『ガラガラガラガラ…。』
保健室のドアが開いて保健の先生が戻ってきた。
「本田さん、もう大丈夫なの?」
「はい。友だちと話して少し落ち着きました。もう大丈夫です。」
「そう。まあ、熱もなかったし、気分が悪いのか治れば、大丈夫ね。担任の先生には、伝えておくから教室に戻って良いわよ。」
「はい。ありがとうございました。失礼します。」
僕たちは、保健室を出て教室には戻らず、裏庭のバスケットコートの所に行った。
「それでさ、
「玲君の家に誰か来るの?」
「女の子?」
二人同時に質問してきたけど違う質問だった。
「ええっと、そう。僕の家と言うか、僕の中に何だけど、レイって言う男の子。」
「玲君の中に霊がやってくるの?」
「玲君はイタコですか?霊媒師ですか?」
「それって、レイ違いだね。同じような名前だからややこしいんだけど、異世界に僕が転生した時に、異世界からやってくるのがカタカナのレイ。異世界では、僕はレイモンド・フォレス・ポインターって言う名前があるんだけど、こっちに来た時のレイには名前はない。僕自身と同じ扱いなんだよね。だから玲なんだけど、これは僕と同じ漢字の玲で、そんな風に父さんと母さんは呼んでるんだ。それで、二人にお願いしたいことが会ってさ。」
「何?」
「できることならなんでもOKよ。」
本田さんは、基本OKのようだ。上村さんは、きちんと話を聞いて返事をするタイプ。安請け合いはしない。本田さんも僕からのお願いだから気軽にOKしたのかもしれない。
「レイを学校に連れて行って欲しいんだ。というか、レイが学校にいる時のサポートをお願いしたいんだよね。」
「レイのサポート?」
「レイは玲君で、こっちにいる時のレイは玲君の知識や常識は持っていないの?」
「それが問題なんだよ。僕の記憶や知識は、本で読んだものみたいに自分の物と言うよりは、思い出さないといけない知識なんだ。一番に浮かぶのは向こうにいる時の知識や常識。その感覚は、僕が異世界で感じる時のそれと同じと思うから間違いないと思う。だから、思わず非常識なことをやっちゃう可能性もあるんだよ。」
「例えばどんなこと?」
「目の前に強盗や人殺しがいたら躊躇なく、攻撃魔術をぶっ放すようなこと。それに、魔術を人前で使用することもあり得るかも。」
「まあ、非常識っていっても、日常的に強盗や人殺しが側にいるわけではないし、ましてや学校の中に現れる可能性ってごくごく小さいから大丈夫じゃない?」
「それに、レイって学校なんか行ったことは無いし、こんなに大勢の人が集まっている場で過ごしたこともないからね。給食も食べたことないんだよ。金曜日は、給食当番じゃないから大丈夫だと思うけど、給食の時も頓珍漢なことにならないようにそれとなく教えてあげてくれないかい。」
「まあ、それくらいなら全然大丈夫。朝も迎えに行ってあげるわ。」
良かった。上村さんが一緒に引き受けてくれるなら一安心だ。
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