第240話 魔術契約の儀

「本日の魔術契約の儀、その趣旨は理解していただいていると思うが、再度、確認する。」


 ティモシー閣下が、集まっている貴族の皆さんを見渡し、話し始めた。


「今回の魔術契約は、互いを守護しあうと言う相互契約だ。一方が他方を縛るというものではない。故に、そう強力な物ではないが、その契約に反そうとすれば、相手に伝わるものである。また、基本的に契約相手を害そうとは思わなくなる。そんなものだ。呪いのような類ものではないからその点は安心して欲しい。また、契約の相手は、アンデフィーデッド・ビレジャーと各自である。隣の者と契約したわけではないからその点は、誤解なきよう心して欲しい。」


 次は、ミラ姉からだ。


「私たちを通して、皆さんと契約するのは、フォレス・アグリゲートのメンバーも含みます。また、以前商業ギルドが言っていた、写真機能付きのタブレットの購入条件では無くなりました。この契約をしていなくても写真機能付きタブレットは、購入できますので、お間違え無いようにお願いします。勿論、お約束したように、魔石代金と同額の値引きは致します。つまり、契約をしていない方たちは、皆さんが購入する代金に魔石の金額を上乗せした金額で購入していただくことになります。ここまでは宜しいでしょうか?」


 一人の貴族の方が手を上げ、ティモシー閣下が発言を許可した。


「相互守護契約ということであれば、わが領が何らかの危機に陥った時、救援に来て頂けるのであろうか?直接、貴殿たちに救援依頼をできるようになるということなのか?」


「勿論、可能であれば、救援に参りましょう。しかし、私たちは、冒険者で、冒険者ギルドに属しています。救援の後でもよろしいので、冒険者ギルドへ依頼書を出していただきます。これは、私たちと冒険者ギルドとの契約に関わることですから遵守願います。」


 ざわざわとささやき声が広がっていく。

(それは、心強い…。やはり、この場へ来たことは間違いではなかった…。)などと言う肯定的な声の中に(こんな大勢との契約など意味があるのだろうか…。わが勢のみとの契約であれば、使い用もあるのだろうが…。わが領軍の力には及ぶべきもない力…はたして、まあ、どうせタブレットを購入するのだから…。)


 様々な声が聞こえたが、会場から出て行く者はいなかった。ここから出るとなると、王宮や現王室に叛意を持つ者と思われかねないからだと思うけど…。何しろ、王宮の主要メンバーがそろっていたからだ。


「では、魔術契約の儀を執り行う。それぞれ、準備した魔石をこの契約書の下の箱に入れるのだ。勿論、契約者の魔力で満たしている物をだ。魔力で満たされておらねば、契約後、魔石が残ることになるぞ。今一度、魔力がこれ以上はいらぬか確認するのだ。」


 沢山の魔石が箱の中に入っていた。そして、契約書の上にフォレス・アグリゲートのメンバーが準備した魔石を置き、僕たちが手を乗せる。


「準備は整った。では、アンデフィーデッド・ビレジャーの者たちこの契約を成し、互いに守護する誓いを立てるのだ。」


「我ら、この契約を成し、契約の続く限り、守護することを誓う。」


 言葉とともに魔力を契約書に流し込む。その魔力は、魔石に溜められた魔力と反応し、魔石を光の帯に変えて参加した貴族とつないでいく。契約書の上に置いたアグリゲートのメンバーの魔石の光も一度上に上がったかと思うと、部屋の壁際に立っているメンバー一人一人と契約書を繋いでいった。


 光の帯が乱舞する幻想的な様相が会場を白い闇へと変えた。一瞬後、会場は、元の明るさに戻り、部屋は清涼な空気に満たされていた。


「今回の魔術契約の儀は、これにて結びとする。皆、ご苦労であった。ウッドグレン王国のますますの繁栄と、皆の健勝を祈る。」


 ティモシー閣下の結びの挨拶で魔力契約の儀は終了した。この儀式を通して、僕たちは、貴族の皆さんとの繋がりを得ることができた。叙爵によって得た貴族の身分だけど、立場は殆ど平民と変わらない僕たちが、他の貴族から害されることなく生活していくための足掛かりができたと言えるだろう。


 その後、貴族の皆さんと一緒の立食パーティーへと案内された。儀式会場の外に写真機能付きタブレットの販売会場が作られ、会場にいた50名ほどの貴族の方が皆さん購入されていた。契約者の方は、一台金貨50枚。家族用のタブレットは、一台金貨150枚になる。それでも、今回の契約の儀終了後、112台のタブレットが売れたそうだ。残りのタブレットは、96台。以前127人の方が魔術契約を希望させていたけど実際にされたのは50名。残りの77名の方がタブレットを購入したらほぼ完売してしまうことになる。


 中継基地も増やさないといけないようだし、どうせなら、会話機能付きの小型ゴーレムタブレットを開発して改めて販売した方が良いかもしれない。まあ、研究所の研究に期待しておこう。


 立食パーティーは、タブレットでの撮影会と連絡先の交換で賑わっていた。たった50名の貴族の方々と言っても、この国の貴族の約5分の1の方達なんだそうだ。辺境の貴族の方が多く、普段、王都にいない方々ばかりということだった。だからこそ、守護契約とタブレットに魅力を感じていらっしゃるのだろう。


 連絡先の交換とともに、王都とフォレストメロウの冒険伽ギルドと調剤ギルドの連絡先も伝えておいた。これは、タブレットの情報共有機能で前部に登録した。もしもの時は、僕たちへの連絡も必要だけど、大きな冒険者ギルドに連絡した方が良い時もある。調剤ギルドは、最近、救急要請を受けるようになったからいざという時に連絡すれば、何かの役に立つかもしれない。


 貴族の皆さんとの写真撮影では、ミラ姉とシエンナが一番人気だった。契約に来ていたのが男性が多かったのもその要因だとは思うけど、氷の聖女と不動の盾師の異名がかなり広がっていて、自領に残っている子どもたちから頼まれたと言うのも大きいようだ。だんだん不機嫌になってくるミラ姉がちょっと心配というか、怖かったけど、爆発することなくパーティーが終わって良かった。


 パーティーが終わって、ミラ姉と僕は、国王陛下の執務室に呼ばれた。


「本日は、ご苦労であった。今日、契約に臨んだ多くの貴族は、殆どが我が王家の重臣であり、忠臣たちだ。この国を守る重要な場所を領としておる。今後も契約通り、守護してやって欲しい。」


「承知いたしました。私たちも、多くの知己を得たこと嬉しく存じます。」


「ところで、今日お主たちを呼び立てたのはほかでもない。森の賢者との魔術契約のことについてだ。森の賢者とは、連絡が付くのであろう?」


「国王陛下にお気遣いいただくとは、ありがたき事でございます。実は、昨日、森の賢者より連絡がございまして、陛下にお伺いをお立てしようとしていた所でございます。」


「ほほう。いったいどのようなことだ。」


「陛下。ここが執務室で、この者たちが叙爵したといっても、そんなに気軽に話ができる身分ではございません。少しは、ご配慮というものを致して頂かないと。」


「ティモシー、まあ良いではないか。この者たちは、王宮の礼儀に明るくなく、こちらのルールにのっとって話しておると話が進まないのだ。そういう訳だから、普段通りの話し方でよい。どう言うことだ。」


「陛下も、ああいっておいでだ。普段通りの話し方で良いから、話してみよ。」


「はい。では、ロジャーかアンディーを呼んでもよろしいでしょうか?その二人が、森の賢者から直接話を聞いたようなのです。」


 僕自身も自分が何をしゃべったかは何となく覚えているんだけど、直接聞いてないと言うか、他人の記憶のような変な感じで、細かいニュアンスまで伝える自信が持てないのだ。


「まあ、良い。ティモシー、呼んでまいれ。」


 ティモシー様を通して二人が呼ばれて執務室にやってきた。シエンナは、一緒に着いて来ていない。アンディーたちが一緒に行くかと聞いたも、ついてこようとはしなかったそうだ。


「うむ、ということは、2日後の夜、王都に来るということだな。であれば、3日後の午前に執務室で会う手はずで良いな。ティモシー、3日後の午前の予定を開けてくれ。緊急の事案はなかったはずだな。」


「はい。大丈夫でございます。それで、王室と森の賢者の国守の魔術契約の儀はいつごろを予定しておけばよろしいのでございましょうか?できれば、今月か来月中には終了した方が、よろしいかと存じます。冬の守りもございますし、国守の契約が強固なものであれば、今年の冬も安泰かと存じます。」


「そうだな。火山活動が活発になったこともあるし、地脈が騒がしいからな。できれば、冬前に契約を済ませたいな。」


「あの、森の賢者の都合を言って宜しいでしょうか?」


「うむ。申してみよ。」


「3日後、直接お聞き頂いたが良いのかもしれませんが、事前に知らせてきた情報によりますと、数日間の期間が必要なら今日より、23日後より26日後までの間であれば都合が付くということでございます。」


「ティモシー、国守の契約を行うとなれば、どのくらいの時間が必要だと思う?」


「そうでございますね。森の賢者の魔力量にもよりますが、最低でも2日は必要かと。王都を始点に、国土を覆うことができるように6地点に設置された国守の祭壇魔石を置き、契約者の魔力で魔石を溶かし、光の帯にしていかないといけません。そして、最後にドラゴンの魔石を始点にした王都で光の帯に変え我が国の光の守護を発動させるという手順でございます。」


「それで、あれば、1日3か所の祭壇を回ったとして最終日のドラゴンの魔石での守護の発動を含めて3日ということになるな。そう伝えておくように。それから、ティモシーよ、23日後で大丈夫か?」


「国守の儀に優先する用向きなどございませぬ故。大丈夫でございます。」


「では、お主ら、森の賢者との連絡、滞りなく頼んでおくぞ。それから、3日後の再会楽しみにしておるとも伝えておいてくれ。」


「「「「畏まりました。」」」」




【後書き】

 フォレス・アグリゲートも貴族の皆さんに知られることになり、お呼びがかかる機会も増えることになると思います。次は、国守の儀とやらが大事のようです。


 残り火のように続いてしまった今回の章も、これで完結です。次からは、国守の儀編をお送りします。しかも、季節は穏やかだった夏秋から冬に変わります。地球とは季節の移り変わりも少し意味が違うような…。


 長くなった物語にお付き合いいただきありがとうございます。皆さんからの応援で、何とかここまで続けてきました。この物語の完結まで、もう少しかかりそうですが、お付き合い宜しくお願いします。

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