第238話 メイドの休暇と冒険者学校

 昨日、叙勲式後、たくさんの貴族の方や教会の方なんかに紹介された。皆さん、この国にとって重要な方々らしいんだけど、覚えられるはずもない。何人かは、タブレットに登録させれた。その方たちは、魔術契約をしてくださる方々ということだった。僕たちも叙爵して貴族の仲間入りした身ではあるらしいけど、立場的には、ほぼ平民と同じだ。まだ、しっかりとした後ろ盾は必要な立場だ。


 国王陛下がいるからいいという訳でもない。森の賢者とは、対等な魔術契約を結ぶことになっている王室だけど、僕たちと対等な契約という訳ではないからだ。


 確かに、戦力的にこの国の力を圧倒しているように見えるかもしれないけど、対人的には勿論、魔物相手でも十分な戦力を持っているという訳ではない。いつ何時、命を落とすような危険に遭遇するとも限らない。だからそこ、僕たちがこの国を守る限り、僕たちを害さないとい魔術契約を結んで下さる方がたくさんいらっしゃるということは安心につながる。


 そして、その魔術契約は、この叙勲をきっかけに、行われることが決まった。かなりの量の魔力を必要とするから、しばらくは、ダンジョンに潜ったりしないようにと注意されている。魔力契約は


 その時に、写真機能のタブレットも契約者に渡す。その準備は、すでに終わっている。ただ、契約後に精錬できるだけの魔術が残っているかが少し心配だ。そして、この契約は、アグリゲートではなく、アンデフィーデッド・ビレジャーと希望する貴族の方々が行い、後日、王族と森の賢者がすべての契約を包み込むような形で行うのだそうだ。


 その日程は、まだ明確にされていない。国を覆い尽くすような契約になる為、公に発表されないのだそうだ。しかし、それが行われた日は、全ての人々に分かるだろうと言われた。それほど、大規模で大きな魔力を使う契約なのだそうだ。


 王族の皆さんは、そのために必要な魔力をコツコツと貯めているらしい。森の賢者もためておかないといけないんじゃないか聞いたけど、以前、会見した時に感じた魔力量だと大丈夫だろうと言われた。


 それで、僕たちは、今日は暇だ。ダンジョンにも行けない。それで、シャルたちを観光に連れて行くことにした。大樹の誓は近くのBランク向けのダンジョンで連携の訓練と素材集めの依頼をこなすと言って出て行った。その足はマウンテンバイクだ。マウンテンバイクに乗っての連携訓練もしてみたいと言うから、一人一台渡したら大喜びで出かけて行った。安全第一で訓練を行って欲しい。


 ファルコン・ウイングのメンバーは、以前からの王都の仲間と会ってくると言っていた。今回の大出世を聞いたらきっと驚くだろうとニコニコだった。今晩は、帰ってこないで飲み明かすんだろうな。


 僕たちが出かけるのは、以前行ったことがあるグリーンレイクだ。シャルたちをドローンに乗せたことがなかったから、ドローンの空中散歩を楽しみながらグリーンレイクまで飛ぶ予定だ。そこでエスに乗り換えて湖を一周した後、海が見える峠まで足を延ばしてみようということになった。エリックさんも誘ったけど、今回は、ブラウンさんと一緒にブラウンさんの自宅で休暇を過ごしたいといって断られた。


 宿の食堂にお願いしてお弁当を作ってもらった。お昼に食べる軽食用のお弁当だ。一緒に出掛けるのは、僕たちのパーティーとシャル、アリア、ドナさんだ。ドローンで20分ほどの旅。周りの景色をドローンから楽しみながらゆっくりとグリーンレイクに向かった。徐々に秋の気配が深まっているこの時期、グリーンレイクの周りは、様々な色に紅葉した木々が立ち並び、湖面をきれいに染めていた。


 僕たちは、王室の別荘の側にドローンを着陸させた。そこでエスに乗り換えて湖の周りをドライブだ。途中の展望地で軽食を食べようということになっている。


 エスのスピードは時速50km位に抑えている。湖1周を間の軽食球形もいれて2時間弱で行おうと言っている。エスの窓は開けている。湖面を渡ってきたさわやかな風が、窓から入ってくる。


 シャルやアリアだけじゃなく、ドナさんも湖側の窓にかじりついて離れない。とってもきれいな景色だ。


「シャルちゃんとアリアちゃん、冒険者になりたい?」


 ミラ姉が、何気なくだと思うけどそんな質問を二人にした。シャルは来月の初氷の月と呼ばれる1月に11歳になり、アリアは二月ふたつきほど前に13歳になったばかりだ。この世界の一月は35日。一年は11カ月、つまり、385日だ。二人とも冒険者学校に入学できる年齢だ。


「どうして?私たち、メイドのお勉強を頑張ってるよ。」


「二人とも頑張ってるのは良く知ってるし、メイドとしても立派に仕事をできているのも知ってるよ。でも、初めからメイドになりたかったわけじゃないでしょう?」


「シャルは、メイドさんになりたかったよ。だから、なれてとっても嬉しい。冒険者って魔物と戦わないといけないんでしょう。危ないし、魔物は怖い。それに、ミラさんたちと一緒にクラスの楽しい。メイドの色々な仕事は、難しいものもたくさんあるけど、ドナ先生にいっぱい教わってるの。でも、ミラさんたちがパーティーハウスを出て行きなさいって言うのなら…。」


「違うわ。シャルたちにはずっとパーティーハウスにいて欲しいわよ。そういう意味じゃなくて…。そ、そう。冒険者の学校で勉強してみたいって聞いてるの。色々な友だちと一緒に勉強したり、冒険したりしてみたくないって。」


「ねえ、シャルとアリア。私も冒険者学校に行くことになっているのよ。私は、先生としてだけどね。一緒に行く?」


「ドナ先生、そうしたら、パーティーハウスのメイドが誰もいなくなります。ミラさんたちが困ってしまうと思います。」


 アリアが心配そうな顔をしてドナさんに言ってきた。


「それはそうね。でも、アリアやシャルには、自分の身を守れるくらいにはなって欲しいし、そんな力を付けるには冒険者って手っ取り早いのよね。スキルの使い方や魔術の使い方も上達するしね…。じゃあ、シャルとアリアが冒険者の学校に行っている間だけ手伝ってくれるメイドさんを探してもらいましょうか?エリックさんに頼めば大丈夫と思うわよ。」


「私たち、冒険者の学校に行った方が良いんですか?」


「そうね。あなたたちの為になると思うの。そして、もしかしたら、大切仲間が見つかるかもしれないわよ。」


「でも、メイドさんは辞めたくないです。」


「うーん…。そうしたら、月に何日か、休みの時にパーティーハウスに戻って来てメイドの勉強も続けてもらおうかな。ドナ先生には、ベン神父に言って学校の授業をしないで良い日を何日か作ってもらうからさ。その日は、シャルたちのメイドのお勉強の日ということにできないかな…?」


「まあ、私は、パーティーハウスから学校に通うつもりでいましたから、授業のない日をパーティーハウスでのメイド授業の日にするのはかまいませんよ。」


「そうしたら、冒険者のお勉強もメイドのお勉強も両方できるの?」


 もう、展望地についてロジャーたちは、エスを降りて、テーブルを出したり、それぞれが持ってきたけいょくをテーブルの上に配膳したりしていた。


「では、シャル、アリアメイドのお仕事に戻りますよ。」


 ドナさんが二人に声をかけてエプロンを付けようとしたのをアンディーが止めた。


「三人とも、今日は休みだよ。準備は僕たちがするからたまにはゆっくりしておいて。」


 ロジャーは、手早くテーブルの上に軽食を並べていった。僕たちは、椅子を並べたり、飲み物を出したりして、みんなの軽食の準備をした。10分もかからずおいしそうな食べ物が並んで、みんなで頂いた。きれいな景色。さわやかな風。もうすぐ冬になるなんて信じられない穏やかな1日だった。


 その後、冒険者学校に通う話を決めた。学校は今月の終わりに開校する予定だ。冬の食糧事情が厳しくなる前に生徒を宿舎に集めて、開校する手はずになっている。その為の、指導者やシスター、お世話をしてくれる人たちを次々に学校施設に呼んで準備を進めている。


 冬の間もゴーレムバスは、砦と拠点間を町経由で往復することができると思うんだけど、こればかりは、実際に雪道で走らせてみないと分からない。だけど、シャルたちは何としてでも学校まで通わせてる。もしも、毎日通うのが難しいようでも、何日かに一回は、パーティーハウスに帰ってくることができるようにしてあげる。これは、僕たちが責任を持ってだ。


 なんか、シャルたちの進路相談みたいな休暇の1日になってしまったけど、それはそれで良かった。冒険者学校の話が終わって、湖のほとりの展望地を出たのが2時過ぎ、それからエスで峠の展望所にやってきた。そこからは、ほんの少しだけど森の向こうに海が見える場所だ。


 森の向こうに薄く丸く広がる海。遠くに海を見ながらこの星の大きさを玲に聞いていたように丸いこの星の広さを実感した眺めだった。


 峠の展望所からドローンに乗り換えて王都まで戻ってきた。いよいよ明日は、貴族の皆さんとの魔術契約の日だ。夜、久しぶりに玲に近況報告をした。僕たちが叙爵したこと。明日は、貴族の皆さんと魔術契約をすること、その後、王室の皆さんの魔力がたまり次第、森の賢者との魔術契約があること。その時は、玲がこっちに来る必要があること。それから、ジャイロモノレールはこちらの世界で実現できそうなこと。


 そんなことを書いてダイアリーをリペアしホームスペースにコピーした。






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