第237話 初魔術発現

 誕生会の次の日、今朝は、レイからの書き込みもなく、朝もゆっくりとしたスタートだった。今日は日曜日。休日にしては早い時間、8時丁度だ。昨日は、夕方には家に戻っていたけど、やっぱり疲れていたようだ。朝ご飯も食べずにベッドでうだうだしていると、上村さんから携帯に電話がかかってきた。


「もしもし、玲君。今、大丈夫?私、上村エリよ。」


「大丈夫だよ。どうしたの。」


「やっぱり、変だよ。昨日の11時過ぎに変なことが起こったんだよ。」


「変なこと?…、まさか、異世界に転生したとか?」


「そんなはずないでしょう。今、電話してるんだから!とにかく、電話じゃうまく説明できそうにないから、会ってお話しできない?ベルも一緒に連れて行くからさ。玲君のお家が良いかな。玲君のお父さんやお母さんにも相談したいから。」


 そんな訳で、上村さんと本田さんが家に来ることになった。父さんや母さんにも相談したいって言ってから、我が家ラボで話をした方が良いかもしれない。我が家ラボには、結界を張ることができるようにした。僕が満タンに魔力を貯めると1週間くらい結界を張り続けることができる。まあ、かなり大きな溶岩プレートで結界を張るんだけど精錬の仕方が甘いからなのか、すぐに魔力が抜けてしまうから1週間しか結界が持たないんだ。


 上村さんからの電話のことを両親に話したら、二人とも何も言わずに上村さんをラボに案内することを了承してくれた。15歳の誕生日のことも以前話していたし、二人がもうすぐそれを迎えることも、誕生日プレゼントを相談した時に話している。僕も両親も上村さんの電話で魔術回路の成熟で使えることになったスキルや属性魔術のことなんじゃないかと思っている。


 その相談をされても、すぐに答えられることは少ない。質問内容を聞いてダイアリーを通してレイに相談するしか方法がないんだ。でも、今まで、僕がしたことやできることを二人に役立てることはできるはずだ。魔力の流し方や魔道具の使い方なんかだったら、しっかり教えることができる。


 1時間程後、午前9時。本田さんはよっぽど急がされたのだろう。寝癖髪がアホ毛選手権を行っていた。3か所くらい。そんな本田さんを今まで、見たことなかったけど、触れないことにしたはずなんだけど…。


「玲君、今日はご免。ベルは、アホ毛、沢山立ててるけど、昼前には自然と落ち着くから気にしないで。いつものことなの。休みの日に遊びに行ったらね。」


「う、…、うん。で、相談って言うのはどんなこと?」


「単刀直入に言うね。一つは、昨日貰ったプレゼントのこと。家で見せたら、そんな高価なもの貰っちゃいけませんって言われてさ。手作りだって言ったんだよ。それでも、信じてもらえなくて…。変なこと疑われたんだよ。変な人とお付き合いしているんじゃないでしょうねなんて。それでさ、本当に手作りなんだよねって、言ってもどうしようもないんだけど…。それでどうしたら良いと思う?お家の人がさ、手作りなら、この生地でバッグ作れるだろうなんて言い出してさ。安物の生地を渡してきたんだけど、そんなこと急に言われても作れるはずないよね。」


「じゃあ、一つ目の解決策だけど、その生地で上村さんのと同じデザインのバッグ作ればいいんだよね。でも、生地が薄すぎて全く同じにならないし、お家の人に魔力操作のスキルがなければ、魔道具を扱うことなんてできないよ。」


「魔道具の必要なんてないよ。それに金属パーツもいらない。ただ、玲君がバッグを作ることができるって分かればいいんだよ。」


「カラんちで見せたら私のにも回して。うちも変なこと言ってたから。」


「了解だよ。じゃあ作ってみるから、生地貰っても良いかな。」


 僕は、上村さんから生地を受け取って同じデザインのバッグを作った。ジッパーや留め具も手持ちの材料で作ることができたから、溶岩プレートの魔道具部分以外は全く同じデザインの物を作ることができた。


「これでどう?」


 生地を受け取って3分くらいしか経っていない。


「えっ?もうできたの?」


 上村さんが唖然としていた。


「へぇーっ、玲ってそんなに短時間でバッグ作ることができるんだ…。それに、バッグデザインはとってもお洒落だし、〇リー〇・〇・〇リー〇に何となく似ているけど全く違うものだし、売ることはできるわね。全く違うところが素晴らしいわ。」


 僕が、バッグを精錬コピーするところを見ていた母さんがぶつぶつ言っていた。


「あれ?そんな短時間でできるんなら、こんなに朝早くから押しかけないで良かったじゃない!」


「それは、結果論。普通バッグづくりなんて言ったら一人で作るなら何時間もかかるはずなんだから。下手したら何日か掛かりの仕事よ。」


「で、他にも相談事ってあるの?」


「このバッグづくりが一番ご迷惑な相談事のはずだったんだけど…、そんなに大変でもなかったの…?」


「一度作ったら、同じ形で作るのって僕にとっては難しくない作業だからね。」


「それで、相談って何だったの?」


「それは、そのバッグを作れないかってことと…、私のこと。昨日、言ってたでしょう。15歳の誕生日に何か起こるかもしれないって。」


「うん。言ってたよ。異世界だと成人の儀って言うのがあって、教会に行くと魔道具で、魔術回路を活性化してくれて、どんな属性なのかやどんな魔術を使えるのかなんてのを教えてくれるんだ。こっちの世界には、そんな便利な魔道具なんてないからね。でも、15歳っていう年齢と15年という期間が魔術回路の成熟に必要なんじゃないかなって思ってね。それで、何か変わったことがあったの?」


「少し前に、手の平がぼんやり光った気がするって言ってたでしょう。その続きなのか分からないけど、昨日寝る前に、土属性とかストーンバレットとかクリエートとか、何か厨2的な言葉が頭にくっきりと浮かんできてね。これって玲君が言ってたことかなって思ってね。そうなの?そんな言葉に思い当たることある?」


「ある。あるよ。それ、アンディーと同じ属性だ。ちょっと待って、

 アルケミー・ガラスブロック。」


 僕は、10cm四方のガラスブロックを精錬して取り出し、上村さんに手渡した。


「上村さん、それで何か作ってみてよ。」


「え?道具は?」


「上村さんの魔術。そうだな…。ちょっと待ってて。」


 僕は、一旦ラボを出て自分の部屋に行って、何か上村さんが作り易そうなはないか探したけど、僕の部屋にそんなものがあるはずもなく、諦めて台所にあったガラスのティーカップを手に持ってラボに戻った。


「上村さん、そのガラスブロックを変形させてこれと同じものを作ってみて。不必要なガラスブロックは、残しておいていいからさ。自分の魔力回路に魔力を流し込んで、イメージするんだ。このガラスブロックの形が変わってティーカップになっていくって。クリエートの魔術を持っているならできるはずだよ。」


 上村さんは、右手にガラスブロックを持って左手はお腹の辺りに当てて、真剣な表情でガラスブロックを見つめていた。


 すると、ガラスブロックが変形し始めて3つのティーカップが右手の上にでき始めた。出来上がったティーカップは、上村さんの右手からこぼれ、床に落ちそうになった。


「うぁっ!」


 一個目のティーカップは、本田さんが受け止め、2個目は僕が何とか受け止めることができた。3個目のティーカップは上村さんの右手の上だ。


「初魔術発動おめでとう。」


「えっ?ええっ!玲君の手品じゃないのよね。このカップって私が作ったの?」


「カラ、手品できるようになったの…。凄いね。誕生日過ぎたら私も手品できるようなるのかな…。」


「信じられない。私、手品なんてできないよ。それに、さっきのガラスブロックは、どうなったの?ググググクニュ―って勝手に形が変わってティーカップになっていったわよ。」


「それが、クリエートの魔術。手品じゃないよ。僕も、初めて魔術で作ったのってカップだったんだ。陶器のカップだけどね。じゃあ、このカップは、記念に持って帰って。」


「こんな上等そうなティーカップ、3つも持って帰ったらまた何か言われるわ。ねえ、初魔術発動記念ということで、私たち3人で持っておいていい?」


「私たちにプレゼントしてくれるの?」


 本田さんが取っても嬉しそうに、キャッチしたティーカップを眺めている。曇り一つなく輝いてるティーカップは、とっても上等そうに見える。上村さんが参考にした我が家のティーカップの何倍も上等そうだ。


「そもそも、それの材料の持ち主は玲君だし、玲君からプレゼントみたいなものよね。」


「作ったのは、上村さんだから上村さんからのプレゼントだよ。それから、そのガラスブロックの材料は、この前、砂浜に行った時採集した砂なんで、実質無料素材だよ。」


「そうなの?砂でガラスブロックを作ることができるの?無料素材なら、遠慮なく頂いておこうかな。玲君ありがとう。」


「それと、クリエートの練習用にガラスブロックをいくらか渡しておこうか?」


「ガラスブロックってかなり重かったよ。そんなのを練習用って渡されても家に持って帰れないでしょう。」


「それは大丈夫。魔術回路は活性化してるし、魔力の扱い方もうまくなってるみたいだから、今持ってるバッグに入れて行けばいいんだよ。まず、10個くらい入れてみてよ。」


 僕は、ガラスブロックを10個25kg程度の重さを上村さんに次々と渡した。1個づつは大体2.5kgていどだからちょっとずっしりするくらいだけど10個となるとバッグの方が心配になる重さだ。


「あれ?全然重くならないんだけど…。さっきと同じ重さよ。これ。」


「ねっ。だから言ったでしょう。そのバッグに入れて行けば大丈夫だって。試しに、一つ取り出してみて。バッグの底から取り出すん字で出すことができると思うよ。」


「う、うん。…、あれ?取り出すことができる。何の違和感もなく、見てもいないのに手元にあるわ。どうして?」


「魔力操作がうまくなると、バッグの口を開かなくても手元に取り出すことができるようになると思うよ。練習してみて。」


「カラばっかり良いな。私も何か練習道具欲しいな…。」


 アホ毛3本の本田さんが何か言ってるけど、属性も分からないからバッグの中に何を入れていたら役に立つのか分からないんだよね。それで、まず、今日貰ったティーカップを収納してみたらって教えてあげた。そうしたら、手に持っていたティーカップをバッグに入れたり、出したりして遊びだして、いつ割ってしまうか心配な感じ。しょうがないから、発砲アルミボールを3個くらい渡して出し入れの練習をするように言うと、嬉しそうに、発砲アルミボールを出したり入れたりして練習を始めた。何か、ペットの猫がボールで遊んでいるみたいで可愛かった。


 大騒ぎして、押しかけて来た割には、大したことなくて良かった。それから、ストーンバレットの練習にいった。レイと母さんたちが色々やらかした廃校がある場所にだ。


 結論から言うととっても物騒な魔術だった。下手したら死人が出る。攻撃魔術だとしても、もう少し穏やかな魔術を手に入れないと地球では利用の仕方がないということが分かった。



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