第235話 15歳の誕生日

 朝、土曜日だと言うのに早く目が覚めた。少し緊張している。何しろ友だちの誕生日を祝うなんて始めだ。自分ちで誕生会を開いた覚えもない。両親と一緒ならいつもやってたよ。病院の中や家で。でも、友だちの誕生会に行ったこともなければ、僕の誕生会に呼んだこともない。今年の誕生日は、快気祝いと一緒になっちゃったけど、僕の誕生日が夏休み中だってことも関係あると思いたい。


 アイテムボックスの中にアイテムバッグは入れている。自分の無属性魔力を流した物だからか、アイテムバッグは入れることができる。コテージなんかは、結界を切っておかないと入れることができない。


 後で分かったんだけど、アイテムバッグって魔力登録をしないといけないらしい。その方法は、最初の登録者が許可している状態で魔道具に魔力を流すことで完了だそうだ。最初の登録者っていうのが、魔力を補充した僕になるから、僕の魔力の影響下で登録すればよいということになるらしい。登録の終了は、僕の魔力を完全に登録者の魔力で上書きすること。そうすることで僕から次の使用者に完全に移動する。上書きには、たくさんの魔力が必要になるけど、それをしないと僕も次の使用者もアイテムバッグを使用することができることになる。わざとそうしておくことも可能で次の使用者が決めることだ。


 その他に休みの日にしたかったことは、ジャイロモノレールの実験だけど、必要な素材や部品を書き出すくらいしかできなかった。そうこうしているうちに時間になって待ち合わせ場所に向かった。時間前に着いたんだけど、二人とももう来ていた。


「お早う。ごめん。待たせた?」


「全然待ってないよ。カラが家に来るのが早くて、さんざん追い立てられたから早く着いたの。」


「何言ってんの、そうしないといつも遅刻するのはベルでしょう。中体連の最後の試合の日だってあんたがのんびりしてたから遅刻しそうになって監督に怒られたんだからね。」


「あははは。そうだったわねぇ。もう2カ月以上前のこと言わないでよ。」


「ええっと。そろそろカラオケボックスに行こうか。予約してるから大丈夫だと思うけどさ。」


「あっ、そうね。行きましょう。」


「今日は、予約なんてしてくれてありがとう。朝早いから大丈夫だとは思ったんだけど、予約が取れてるなら安心よね。」


 本田さんがお礼を言ってくれた。


「どういたしまして。」


 そんな話をしながら歩いてカラオケボックスに着いた。すぐに部屋に案内され、飲み物とスナック類、ちょっとした軽食を選んで頼んだ。カラオケボックスでの誕生会なんだから二人ともすぐに歌い出すのかなって思ったけど、そんなことは無かった。


「じゃあ、今から、カラの15回目の誕生日と私の15回目の誕生日これは、後4日後だけどね。を祝う会を始めます。まず、玲君からお祝いのメッセージをお願いします。」


「えっ?まず、僕からなの?…、ええっと、考えてなかったな。上村さん、今日は、おめでとう。僕のことを話すの変かもしれないけど、実は、僕、誕生日を迎えられたから、元気になれたんだ。誕生日には危篤で、母さんと父さんが呼ばれていたんだ。でも、異世界に行って、魔術回路を活性化させられて…、運よく生き延びることができた。15歳の誕生日ってそんな大切な日なんだよ。だから、二人ともこれからも元気にそして、こんな僕とも仲良くしてくれてありがとう。上村さん、君も多分今日、魔術回路を活性化させることになると思う。完全にね。困ったことがあったら相談して欲しい。僕だけじゃ何もできないかもしれないけど、僕の仲間が何とかしてくれると思うんだ。本田さんもだよ。二人ともおめでとう。」


「えっ?何か感動的なメッセージ貰ったんですけど…。それに、玲君の仲間って誰の事?魔術のことで助けてくれる仲間って…。異世界の人たち?でも…、15歳の誕生日って玲君にとってそんな大切な日だったんだね。そして、私たちにとっても大切な日になるかもしれないんだ。分かった。何かあったら、必ず相談するよ。ありがとう。」


「ええっと、では、乾杯したいと思います。カラと私の15回目の誕生日と魔術回路を活性化に…、カンパーイ!」


「そうだね。誕生日と魔術回路を活性化にカンパーイ。」


 カチンとグラスをぶつけ合いジュースを飲み干した。まあ、いくら乾杯っていっても杯を乾かすって言うことで空にする必要はないんだろうけど、まあ、何となく乗りで飲み干した。


「では、しばらくの間ご歓談のお時間といたします。楽しいおしゃべりをしましょう。」


「ねえねえ。カラ、本当に魔術回路活性化したの?」


「分かんないわ。魔法なんて使ってる自覚ないし、魔力は玲君が手伝ってくれたから回路の中に流し込むことができた気がするけど、一人じゃまだ無理。」


「じゃあさ、二人に魔力操作の練習にもなる贈り物があるんだ。受け取ってくれる?」


 僕は、アイテムボックスのかなから取り出したバッグを二人の前に出した。


「何これ。〇リー〇・デ・〇リー〇のバッグに似てるようで全然違う。ロゴもないしどこのバッグなの?」


「僕の手作りバッグ。どう?」


「玲君って手芸の天才?プロが作ったバッグと変わらないじゃない。」


「素敵なバッグ…。二つあるってことは、私も貰えるの?」


「玲君、ちょっと待って。どっちのバッグが誰へのプレゼントか当てましょうクイズしましょう。」


「えっ?そんなことクイズにするの?でも、正解者に賞品なんか準備していないよ。」


「そんなの良いのよ。当たったら良かったね。拍手ーってだけでね。」


「クイズに不正がないように、玲君、このコースターの裏に、オレンジのOと黄色のYそれぞれがカラのKかベルのBかどちら宛てか書いて伏せていてね。二人で自分の色を予想して言うから。違う。言うのは自分の色じゃあ面白くないわね。相手の色にしましょう。3ハイで相手の色をコールよ。準備は良いベル。」


「玲君、合図をお願い。」


「じゃあ、行くよ。3ハイ!」


「「黄色。」」


 二人とも、黄色コールだ。


「ええっ、カラが黄色だと思うよ。明るい色だし。バーッと派手だな色だしね。」


「私は、本当はももう少し薄い黄色にしたかったけどなかったんじゃないかなって思ったの。ベルの色は本当は、レモンイエロー。私は、オレンジ。赤と黄色って雰囲気でしょう。お姉さんっぽくて。ベルは、明るいぼんやりさんだからレモンイエローでも、なかったから黄色って思ったのよ。違う?」


「色を選んだ理由は、そんなに明確じゃないけど、何となくで上村さんが正解だよ。」


「ええっ、私そんなにぼんやりさんじゃないです!って黄色が嫌なわけじゃないわよ。好きな色だしきれいだし、お洒落で素敵。」


「私も、オレンジは好きな色だよ。ありがとう。それに手作りなんて本当にすごいわ。」


「じゃあ、使い方説明するね。」


「使い方って…、これバッグでしょう。知ってるわよ使い方なんて。荷物を入れる者よね。お洒落な感じだから、お出かけ用かな。」


「そ、そうなんだけど。このバッグは、使い方の理解と登録が必要なんだ。」


「これって、もしかして魔法道具なの?」


「そ、そうなんだ。とにかく登録をやってみよう。」


一昨日おととい、公園で練習した、魔力操作を思い出して。右手から魔力を出したでしょう。暖かいものを手から放出する感じ。バッグの底に硬い石みたいなのがあるからさ、それに魔力を流してみて。一昨日おとといのあの感じを思い出しながらだよ。」


「わっ!手がスーッて、硬いプレートが無くなったみたい。でも、中には入らない。なんか変な感じ。」


「本田さんは、登録ができたみたいだね。」


「上村さんは。一昨日の魔力操作を思い出して、手から暖かい魔力を出す感じだよ。」


「あっ。できたみたい。プレートの感覚がななくなった。」


「僕の魔力で満たしているから僕もまだ、二人のアイテムバックの中の物を取り出したり、僕が中に入れたいと思ったものを入れたりできるんだけど、自分の魔力で僕の魔力を全部上書きしたら完全にそれぞれ専用のアイテムバッグになるんだよ。でも、バッグの中に何か入れている時は、魔力の補充はしないといけないよ。魔力が完全になくなったら中に入れているものが飛び出してくるからね。」


「魔力の補充ってどうやるの?」


「登録した時と同じだよ。プレートの場所に手を置いて魔力を流し込むだけ。バッグの外からでもできるから手に持っている時に時々流し込んでいたら良いよ。」


「で、このアイテムバッグの中にはどのくらいの量が入れられるの?このかばん一杯分位?」


「多分だけど、クローゼット1台分位らしいよ。魔法陣の大きさと溶岩プレートの大きさで容量が決まるらしいからね。」


「クローゼット…。そんなに入れたら重くて持てないじゃない。」


「それが、魔道具の便利なところで、アイテムバッグの中にいくら物を入れても重くならないんだ。不思議でしょう。」


「ただし、生き物は、入れることができないよ。生きているものもね。それから、種は大丈夫みたい。生命活動を休止してるからかな…。野菜なんかも大丈夫みたいだよ。」


「いやーっ、このバッグの中に白菜やキャベツは入れないでしょう。流石に。お洒落バッグだよ。買い物用のエコバッグじゃないんだから。」


 上村さんの突っ込みはもっともだ。流石に八百屋に持って行って狩った野菜を詰め込むようなことはしないかな…。


 その後、玲君の友だち作り作戦なんかを話したけど、現実味がない作戦ばかりだった。大体、強盗に襲われそうな人を助けるとか、通り魔に襲われそうな人を助けるなんて現実、起こりそうにない設定ばかりを言うから、とっても笑って楽しめた。


 兎に角、受験頑張って、高校で友だち一杯作ろうって言うのが一番現実味のある作戦だった。


 二人の誕生パーティーを終えてカラオケボックスを出たのが昼過ぎ、3時位。こんな日曜日の昼間から、事件なんて起こるはずもなく、何事もなく、家に戻った。


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