第226話 ギルド依頼と試験車両0号

 玲から返事が来た。パケット通信。地域番号と、各魔道具に割り振られた識別番号のみで管理する。つまり、ゴーレムは誰とも契約しないということだ。強いて言えば契約はしないけど、識別番号は、持っているという状態だ。それなら、ゴーレムとの使役契約や魔力登録を行わなくても魔道具が使用できるということになり、遠隔通信の魔道具は、個別の魔道具でなくなるということだ。


 魔力登録を行わない前提なら、相手を指定するのもスイッチが必要だ。しかし、数字のみのスイッチで良いことになる。まあ、省略したいなら、省略番号などを設定できるようにしておけばよい。番号を入力して、通話ボタンを押せば、登録なしで相手に通話をつないでくれる。そんな魔道具なるはずだ。


 タブレットのマザーをその魔道具の通信網の中に入れてしまえば、同一コアの問題が打開できるかもしれない。今後の研究課題だ。玲からの回答を森の賢者からの開発のヒントとして研究班に伝えた。研究班は、研究室ごとに中継基地を割り振って、研究員ごとに遠隔通話の魔道具を渡し実験してみたいと言ってきた。


 ここにいる研究員は今のところ50名ほどになっている。所長は、有望そうな人材がいればあちらこちらでスカウトしてくる。勿論、十分人となりは見極めているそうだ。その全員の研究室に遠隔通話の魔道具を付けてみると言っていた。ミスリル導線では、割高になる為、アルミニウム導線と銅の導線で魔力の伝わり具合を試してみると言っていた。


 音を魔力に変え、魔力を音に変えるためには泥沼セイレーンの魔石がいる。泥沼セイレーンは、ロックバレーダンジョンの6階層にいるが、初級ランクの冒険者では到底採集に行くことができる場所でもなければ、討伐できる魔物でもない。最低Cランク以上で、船を持っている方が確実だ。船を使えば、階層入り口から1日もかからずセイレーンの巣に到着することができる。


 大樹の誓とファルコンウィングが暇にしているだろうから、船をそれぞれに貸してセイレーンの魔石採集をしてきてもらおうかな…。初めはロジャーたちに一緒に行ってもらえば安全に採集する方法を伝えられるだろうから、操船の訓練もかねてちょうどいいかもしれない。


 すぐに研究企画部長に連絡を入れた。


「企画部長、町の冒険者ギルドに泥沼セイレーンの魔石を依頼しようと思うんだけど一つ幾らぐらい報償金を出したら良い?」


「それって何の為の素材なんだ?」


「遠隔通話の魔道具。セイレーンの魔石1個で32台分の遠隔通話の魔道具ができます。そして、ゴーレムコアも1個で同じく32台分です。」


「つまり、ゴーレムコア1個と泥沼セイレーンの魔石1個で32台の遠隔通話の魔道具を作ることができるんだな。それで差し当たり何個必要なんだ?」


「まずは、この研究所と砦の中で試用実験を行いますから、最低でも4個くらいですかね。それで、成功すれば、町とロックバレーの拠点まで繋いでいくって方向で良いのではないかと思います。」


「それは、モノレールもなのか?」


「いや、モノレールは、王都から近くの町までというレールから作った方が良いのじゃないですか?この砦からじゃ運用実験になりませんよ。乗り手が少なすぎて。」


「それは、そうだな。それで、モノレールの建設計画は進んでいるか?変ちくりんなゴーレムを作ったようだけど。」


「それは、どうでしょうか。まずは、王都からモノレールを作るなら所長に国王陛下に話してもらって、建築許可を取らないといけ何いんじゃないでしょうか?」


「わかった。その件については、所長と詰めておく。では、話を戻してセイレーンの魔石の依頼金額だな。これから大量に必要になるのなら、そこそこ魅力的な依頼にしておかないと集められない。それに、これは俺の予感だが、遠隔通話の魔道は、爆発的に売れると思う。しかし、今後タブレットに遠隔通話の機能を付けるならそんなに高く販売することは難しい。それでだ。ゴーレムタブレットの通話機能付きをいくらで販売するかでその魔道具の値段が変わる。その値段によってセイレーンの魔石の依頼料も変わるという訳だ。」


「写真機能通話機能付きなら金貨200枚ですかね…。べらぼうに高いです。そんなの買う人がいますかね。」


「その値段は妥当だな。連絡機能のみのタブレットが金貨50枚。写真機能付きのタブレットが金貨150枚。それに通話機能か着いたタブレットが金貨200枚だな。それなら、通話機能だけのタブレットは、金貨50枚で良いか?」


「はい。良いと思います。そちらの方が連絡機能のみよりも作りが簡単ですから。」


「よし。それなら、有線の遠隔通話魔道具は、金貨10枚でどうだ?もしも、その魔道具からタブレットに連絡できるならもっと高く売れるんだが、できるのか?」


「通話機能が付いているタブレットにならできるようになると思いますが、文字通信のタブレットには無理です。音声を文字に変換することができないと思います。間に、何か別の魔道具を通せば可能になるかもしれないですけど…、それはかなり難しいです。音声を使役せず、魔力登録もしていないゴーレムの情報信号に変える魔道具が必要になりますからね。」


「わかった。それなら、やっぱり、金貨10枚から販売だ。大量に出回るようになったらもっと安く売ることができるだろうがな。そして、泥沼セイレーンの魔石の買取価格も同じ金貨10枚でどうだ。ギルドにそう伝えれば、報奨金は金貨8枚には設定するだろう。」


 僕たちは、エリックさんに連絡して、冒険者ギルドに泥沼セイレーンの魔石を金貨10枚で買い取るからギルドから素材採集依頼を出してくれるようにお願いしてもらった。保証金として、金貨300枚渡して、ギルド契約をしてもらったからすぐ、掲示板に貼られただろう。


 タブレットで、ファルコンウィングと大樹の誓、ミラ姉とロジャー、シエンナに連絡して、泥沼セイレーンの魔石の依頼を受けてもらうことにした。素材回収の依頼だから特に契約をしに冒険者ギルドに向かう必要はない。今頃、連絡を取り合って、ロックバレーのダンジョンに向かっているところだろう。


 その後、僕は、錬金術師の研究者と一緒に、レールの構造や駆動方法、1本のレールの上でどのようにして安定して走行できるようにしたらいいのかなどについて話し合った。玲の家でコピーしたプラレールを参考にして作っていったのだけど、大型の魔物や盗賊の被害を最小にするためには、その通りだと強度的に難しい。それに、レールの上はできるだけ乗りにくくしたい。レールの上にでかい障害物やでかい魔物が乗っていたら危ないからだ。


 その結果、懸垂式けんすいしき跨座式こざしきの中間的な形にしたらどうかという案が有力になってきている。つまり、懸垂式のようにレールを支える橋脚の部分を大きく作るのではなく、あくまでも一番高い所にあるのはレールで、しかも、できるだけ細くしてその上に脅威となる物を乗せにくいようにしたい。跨座式にするとその上で安定させるためにレールを太くする必要があるのだけど、細く縦長にして深くそこにはめ込むことで、レールを細くても丈夫で、深く跨らせることで走行中の安定を図ろうと言うのだ。左右の席は、基本的にセパレートしているけど、所々に座席から梯子で登って反対側に移動できる場所を作っても良いかもしれない。


 そして、上りと下り2本のレールは、しばらくは、町の中だけにしか作らない。町の中で上りと下りの列車はすれ違うことにする。ほとんどは、駅の中ですれ違うことになるのだろうけど、王都などでは、町の中ですれ違うことになるかもしれない。


 そんな構造とレールの作り方なんかを話しながら、レールの試作品や列車の試作品などを作っていった。まずは、大きさが1m程の実物の20分の1モデルだ。大きさを20倍にすれば重さは8千倍だ。勿論、軽くするための素材の工夫はするし、空間も大きくするから完全に8000倍になるわけではないがそれに近い重さにはなる。


 錬金術師の皆さんに頑張ってもらって車両を作ってもらった。そこにゴーレムコアを組み込んでゴーレムバイクのように車軸で駆動部分を支える構造を作った。車体の内側とレールとの間にも車輪を入れ、列車が傾くときにレールにぶつかって破損しないように車両とレールの距離を一定にする仕組みを作る。


 1m程の高さの△の頂点にレールを置き、幅は1cm程高さが40cmのレールを乗せた。その20cmのレールを深く跨ぐ感じで高さ50cmの車両が乗っかる。その20cmのレールも少しだけ△で下に行くほど厚みが増している。その傾きに垂直になるように内側の車輪は車体を固定している。レールをつないで50m程の円形のコースにした。ゴーレムコアには、列車の中にセットいた魔石から魔力を送る。魔力のオンオフは、同一ゴーレムコアから信号を送ることで行うようにした。普通のゴーレムのコアを分割しても十分に動かすことができる位の力は残っている。


 コアと使役契約を行い、試験車両0号と名付けた。


「試験車両0号、コアから魔力を受け取って移動開始だ。」


 ゆっくりとレールの上を走り出す0号。


「成功です。」


 研究チームのメンバーから歓声が上がった。


「流す魔力量を増やしてスピードを上げてくれ。」


 徐々にスピードを上げていく0号。レールを支える橋脚がギシギシと音を出してきた。


「レイ様、まずいです。このままじゃ、橋脚が倒れます。」


「0号、スピードを落とせ!」


 ギシギギギギシギギギ…。


 一周50mなのにさっきのスピードは無理だったか…。急カーブは、よっぽど対策しないと危険だな。そんな話をしながら、試験を終了した。今回の試験で使ったのは、懸垂式に近い形の跨座式だ。一番高い所にある1本のレールの上を車両が走る。その為、右座席と左座席は分離する必要がある。細い一本のレール上を走ることができるモノレールのアイディアがないか玲に聞いておこう。この世界にあったモノレールの建築はまだまだかかりそうだ。


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