第224話 お洒落バッグ

「アンディー、玲からお願いの手紙が届いてる。」


「なにー?ええっ、カジュアルでお洒落なバッグを作って欲しいだって?」


「なんか、デザインサンプルのデータも一緒についてた。」


「で、カジュアルって何だ?」


「ええっと、格式張らないとか何気ないっていう意味らしいよ。」


「それで、お洒落ってどんな時に使うんだよ。」


「どうしたの?」


 ミラ姉が食堂にやってきた。みんな、食事を終えてくつろいでいる時間だ。


「玲からバッグづくりの依頼が来たんだけど、カジュアルでお洒落なバッグを作って欲しいんだって。見た目の容量は、少ないけど、溶岩魔道具で拡張するらしいんだよな。それで、そんなのどんな時に使うんだって話してたところ。」


「カジュアルって何?」


「格式張らないとか何気ないっていう意味らしいんだ。」


「お貴族様がパーティーの時に持っているバッグやポーチにみたいじゃないってことね。」


「あっ、そういう意味か。それで、絵も送って来てるんだけど、これ、見てくれる?」


「えっ?それ、まあ、可愛い。出来たら私も欲しい。王都に行く時なんかに着替えやドレス入れるバッグが欲しかったの。この大きさだったら王都で買い物する時に持っていても邪魔にならないし、小銭やハンカチを小物入れの所に入れておけば、アイムバッグ使ってますって感じにならくて良いじゃない。薄い溶岩プレートならそんなに重くならないだろうし。この絵を持って研究企画部長の所に言ったら大喜びで試作品を作ってくれるんじゃないの?」


 そう言われて、アンディーと僕は、研究企画部長の執務室に来ている。普段は、研究所の中を駆け回っていることが多い研究企画部長だけど、朝一番だったから執務室で捕まえることができた。


「おう、レイとアンディーか。今日は何だ?アンディーは例の物の施策は進んでいるのか?」


「いや、今日はそのことじゃなくて、森の賢者の依頼を持ってきた。」


 バッグの絵を見せ、カジュアルの説明とどんな時に使うかをミラ姉の話を元に説明すると部長の目の色が変わった。(気がした。)


「カジュアルでお洒落なバッグか、こりゃあ、金の匂いがプンプンするな。レイ、高級魔物の皮。そうだなきれいな色の皮を持っていないか?」


「きれいな色の皮…。あっ、マジックバイパーの皮が一枚あった気がする。」


「マジックバイパーだと。Bランク、下手すりゃAランクの魔物の皮をどうしてお前が持ってるんだ?まあ、そんなことはどうでもいい。その川を見せてくれないか。」


「良いですよ。」


 僕は、マジックバイパーの皮を取り出して研究企画部長に渡した。


「うーん。この虹色に輝く色合い、それでいて滑らかな手触り…。これで作ったカジュアルバッグなら献上品だな。デザイン的に年下の女性向けだから、王女殿下にお使い下さいと献上すれば覚えも良いのではないか…。エレノア殿下、ステラ殿下、ミーシャ殿下用に3つだな。お揃いならエラ王妃も使いたがるかもしれないから、4つの方が良いか。王室が持てば、貴族に広がるのに時間はかからない。高級溶岩魔道具のデビュー作としては、良い機会だな。ムフッ、ムハハハハッ。」


 研究企画部長がぶつぶつと独り言を言ってたかと思うと突然笑い出した。お金の匂いに狂喜乱舞か?まあ、踊ってはないけど…。


「よし、この依頼、任せとけ。でいつまでに試供品が欲しい。今週いっぱいか?」


 研究所では、一週間のスケジュール管理が一般的になっている。レイの提案で7日に1日を休養日にしているからだ。今のところ研究所全体を休みにするとまでは徹底できていないけれど、7日単位で休みを取ることが一般的になってきた。玲の提案を所長と研究企画部長が取り入れた感じだ。二人ともお仕事大好きだけど、たまにはゆっくり時間を取って家族と連絡したり、王都に戻ったりしたいのだろう。


「あの…、試作品を一つで良いので。明日の昼過ぎまでに作れますか?森の賢者の依頼なんです。」


「明日か。分かった。アンディー、レイの物の開発は一時、今だけ止めて、こっちのバッグの開発を手伝ってくれ。それから、レイに別件の依頼なんだが、薄いピンクのガラスブロックとさわやかなエメラルドグリーンのガラスブロック、薄い白のガラスブロックを1000kgずつ精錬してくれないか。お前の研究室に置いていてくれれば、後で取りに行かせるから。」


「そんな沢山のガラスブロック僕の研修室じゃ収納しきれないですよ。素材倉庫に入れておきますから、そっちに取りに言って下さい。」


「おっ、分かった。ガラスの精錬式も完成させないとな。課題は山積みだ。」


 こうして、森の賢者の依頼は、研究所でプロジェクト化された。部長のことだから明日までには試作品を持ってきてくれるだろう。


 それにしても、アンディーは一体何のプロジェクトを進めているんだろう。例のなんていうからますます気になってしまった。


 それから、工房に行って遠隔通話の魔道具作りを見学した。今日は、魔力を流して、魔道具から呼び出し音を流す実験氏をしていた。音が出る魔道具は色々あるから、魔力を感知したら、その魔道具を動作させるようにコアに指示を与えば良い。今あるいくつかの魔道具を組み合わせることでやりたいことを実現していく。今までになかった魔道具作りの発想だ。


 後は、電話機の区別の仕方。折角魔力導線でつないでいるのだから、タブレットみたいに同一コアを使わないといけないと言うような縛りはなくしたい。これについては、玲からヒントを待とう。


 それから、タブレットの音声会話機能は、研究企画部長と所長のタブレットにも付けることにした。だって、二人を探し回るの大変なんだよ。今日は、それが良く分かった。


 夕方まで、僕はモノレールの開発チームと一緒にあれやこれやを作っていた。モノレールチームが今取り組んでいるのがモノレールを支える橋脚の構造と作り方についてだ。土魔法と錬金術を組み合わせて鉄骨構造に土魔術で強化した岩を巻き付けるように作ったらどうかという意見が多いんだけど、その土魔法で土を巻き付けるのにべらぼうな量の魔力がいる。


 一人の土魔術師が一日かけて1本の橋脚を作り上げることができるかどうかというくらいの魔力量が必要だ。仮に、王都からフォレストメロウの町までモノレールをつなぐとして町の中以外は、高い場所のモノレールの上を走らせるとしたら450km以上のレールが必要になる。100mに1本の橋脚が必要だとして4500本。50mに1本だとしたら9000本の橋脚がいる。


 100名の土魔術師が90日かかってようやく王都からフォレストメロウの町までのレールを支えるモノレールの橋脚ができるという訳だ。実際には、もっと時間が必要になるし、本数ももっと多く必要かもしれない。地面の多少の高低差はモノレールの長さで調節する必要がある。それを考えると一本の橋脚を作るのに必要な時間し魔力量が多くなるかもしれない。


 それで、浮上してきたのが、森のダンジョンの8層の鍾乳石の利用だ。というより、鍾乳洞ダンジョンのコーラルゴーレムの利用だ。普通のゴーレムは、1体分のコアしか採集できていないが、コーラルゴーレムの出す石化液が作れたら、簡単に石柱を作ることができるようになるんじゃないかということを僕が言ったら、みんなが食いついてきた。


 それで収納していたコーラルゴーレムの素材を元に、色々な方向に石化液を撒くことができる片腕、二足歩行のゴーレムを作ってみた。指示を出すことができるのは魔力登録した人に限るけど、錬金術に基礎になる鉄骨を加工でもらい、ゴーレムや人の力で小石や瓦礫を肉付けし、コーラルゴーレムの石化液で石化したものを土魔術師が強化する。この連携作業なら一日に百本以上の橋脚を作ることができるし、地面へ立てた後の強化作業も可能になる。16体分持っているガーディアンクラスのコーラルゴーレムの素材でも石化液を出すゴーレムを作ることができた。


 夕方、タブレットで研究企画部長から遠隔通信があった。マジックバイパーの皮で作った超高級品の試作品とキャンバス地で作った日常使い用の試作品ができたから見て欲しいとのこと。マジックバイパーの皮の試作品は、もう少し仕上げて売り出し用にしたいから見るだけにして欲しいと言われた。


 キャンバス地のは、形をイメージできるように作った試作品だから持って帰っても大丈夫ということだった。溶岩プレートを薄く削ったものを仕込んで容量は、女性用のクローゼット1台分くらいの大きさを確保できたそうだ。一度魔力を満タンに充填すると1月以上は、持つだろうということだった。


 研究企画部長の執務室に行ってバッグを見せてもらった。マジックバイパーの皮でできたバッグはカッコ良かった。カジュアルでお洒落という雰囲気の上に、高級・高貴という言葉を付けないといけないような雰囲気のバッグだった。


 キャンバス地のバッグも形はマジックバイパーの皮バッグとほぼ同じだったが、普段使いとしていつも持ち歩いても違和感がないと言った感じのお洒落なバッグだった。これを魔物の皮で作ったらどんな感じになるか楽しみだ。僕たちのパーティーは、魔物の皮は売るほど持っているからね。


 研究企画部長にキャンバス地のバッグを譲ってもらったから、お返しに、キングボアの皮で同じ形のバッグを作ってあげた。くすんだ茶色の皮で光沢がある表面は、マジックバイパーの皮のバッグに比べると少し落ち着いた雰囲気のバッグになった。


「キングボアの皮のバッグか。それも落ち着いた雰囲気でいいな。貴族のご婦人に人気が出るんじゃないか?」


「研究企画部長にプレゼントします。キャンバス地のバッグのお礼です。もう一つ作るので所長にもプレゼントいておいてください。お二人から奥様にプレゼントしてくださいね。」


 研究企画部長は、目を真ん丸にして大喜びだった。やっぱり離れて暮らしていても家族は大切にしているんだね。


 パーティーハウスにバッグを持ち帰ってミラ姉達とあれやこれや相談してシエンナとミラ姉は、青く着色したキャンバス地のバッグを普段使いにして、スノーミラージュの皮で作った城のバッグをお洒落バッグとして使うことにした。二人お揃いのバッグだ。


 アグリケートの女性陣にもプレゼントするけど、キャンバス地の物は色のリクエストを聞いてからにして、革製のお洒落バッグもたぶん自分たちの手持ちの皮で作ることにするだろうから後で注文を受けることにした。


 勿論、ダイアリーにも記述したし、精錬式をホームスペースにコピーした。そして、キャンバス地もお洒落だよと付け加えておいた。


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