第222話 遠隔会話の魔道具作り

 アンディーは、今日も研究所に行くと言っていた。何を作ろうとしているのか聞いても教えてくれない。そもそも、アンディーはどこの研究部門に参加していているのかも知らない。


 今朝は、アンディーの後ろをこっそりついて行くことにした。研究所に入ると、工房の方にはいかず、研究室の方に入って行った。研究室は今、いくつものプロジェクトにが動いていていくつもの班に分かれている。精錬術師や工学魔術師様々な部署が入り混じっていて、どこで何をやっているのか正確に把握しているのは所長と研究企画部長の二人位だ。


 そして、アンディーを見失った。


 しょうがないから、僕はモノレール研究班の実験場に参加した。ここの研究班は、実用模型を作ろうとしていた。それを大きくすれば、実用できるというくらい正確な模型だ。モノレールの中心課題は二つ。王都行きを登り、王都発を下りとするとどうやってその二つをできるだけ少ないレールの本数で運用するかということと、レールの破壊や破損をどうやって知るか。そして、その仕組みをどうやったら通信手段に使えるかということだ。


 レールの破損や破壊を知る手段については、先日企画部長たちと話して目鼻がついている。音声通信については、泥セイレーンの魔石が利用できないかと模索中だ。僕は、今回はそちらの研究に参加することにした。泥セイレーンの魔石は、音を魔力に変えたり、魔力を音に変えたりすることができる。その性質をうまく使って音を魔力に変えてミスリル導線に流し、流れてきた魔力をもう一度音に変えることができたら良い。


 ゴーレムは、契約者や契約者が指示した人の魔力を感じて言葉や視覚情報として受け取っている。だから、ゴーレムの情報を直接受け取ることができるシエンナは、ゴーレムを通して会話を聞き取ることもゴーレムが見ている視覚情報を受け取ることもできる。しかし、ゴーレムは、魔力として受け取ることができない人。つまり、一般の人の話し声を聞き取ることも理解することもできない。


 視覚情報は、受け取ることができる。しかし、音声は難しい。誰の声も会話として理解できるというゴーレムを作ることができないのもそもそも、ゴーレムが音を聞いていないからだ。


 音を魔力に変え、魔力を音に変える仕組み。全くモノレールとは関係ないことをモノレール班が研究してるのが面白い。


 単純にコアの一部にセイレーンの魔石から届いた魔力を処理させたらどうだろう。セイレーンの魔石から届いた魔力をそのまま増幅して送り出し、届いた魔力をそのままセイレーンの魔石に送る。受け取る魔石と送る魔石を別々にして口の近くに送る魔石、耳の近くに受け取って音にする魔石を置いてみる。ほんの小さな魔石で良いはずだ。耳に当てる位の大きさと厚さ。口の近くにある魔石も同様だ。音を魔力に変換するための魔石。


 これって、タブレットに付けても良いんじゃないか?しかし、見ることと聞くことを両立するためには、かなり大きな音にしないといけない。そんなのを人がいっぱいいる所で聞いたり話したりしたらうるさくてしょうがなくなってしまう。しかし、ドローン飛行中やエスやオットーで作戦を実行している時は、会話ができた方が便利だ。


 まあ、タブレットについては、後で考えよう。まずは、ミスリル導線でつないだ遠隔会話魔道具を作ってみよう。


 今のアイディアを遠隔通信チームに知らせてみた。ゴーレムコアへの指示の仕方が難しいと言っていたが、どうにかこうにかできたようだ。次に苦労したのがセイレーンの魔石の加工だ。精錬術師が精錬窯を使って何とか一つの魔石を64等分まで分けることができた。2つで一組だから32台の遠隔通信魔道具ができることになる。


 ゴーレムコアも一つのコアを32等分した。もっと小さくても大丈夫だろうと思ったが一つのコアで32台分。セイレーンの魔石と同じ台数だ。それを音が響くようにとアルミの筐体で固定してみた。セイレーンの魔石に向かって話しかける。ゴーレムコアは、音に反応して出てきた魔力を増幅してミスリル導線に流し込む。ミスリル導線を通って来た魔力をコアが増幅しセイレーンの魔石に流し込んでいく。


「聞こえるか?」


「きっ、聞こえる。聞こえるぞ!」


 わずか、30mほどの距離だが、音を魔力に変えて魔力を音に変えることができた。遠隔通話の魔道具の完成だ。次は、魔道具の識別方法だ。全ての魔道具が全部の会話を拾ってしまったら1台と1台しか通話できない。タブレットのように度の魔道具への通信なのかを判断し特定してつながないといけない。


 タブレットと同じように名前を付けることでできるはずだけど遠隔通話の魔道具は特定の人同士の会話をつなぐものではない。場所と場所だ。国王執務室とか賢者の研究所とかだ。まずは、マザーのような名前を管理するコアを置けばいいのかもしれない。その辺は、研究チームに考えてもらおう。


 今日は、遠隔通信の魔道具が形になった。泥セイレーンの魔石を今度たくさん採集してこないといけない。さっきの仕組みをタブレットに組み込んでみようかな。


 試しに僕のタブレットに組み込んでみた。タブレットを耳に当てその部分に魔力を音にする泥セイレーンの魔石を埋め込み、口の近くに音を魔力にする魔石を埋め込んだ。魔石は、ミスリル導線でコアにつなぎ、受け取った魔力を増幅して共有データとして流すように指示する。データの流し方は、連絡と同じだが逐次だ。パーティーハウスに戻って、家にいたシャルのタブレットに同じ仕組みを組み込んだ。一つ完成したら、アイテムボックスの中に収納して精錬コピーで作り直せばいい。処理の仕方は、情報共有で転送することができる。


「シャルに音声通話。今、シャルのタブレットは振動して音声通話のリクエストをしているはずだ。」


「レイ様、聞こえますか。シャルです。」


 タブレットからシャルの声が聞こえてきた。


「聞こえている。レイだ。成功した。これで、何か用事があるときは話ができるようになった。」


 この日、帰って来たメンバー全員のタブレットに音声会話機能を取り付けてタブレットで話ができるようにした。当面僕たちのタブレットだけにしておこうと思う。


 今日の成果は、ダイアリーで玲に知らせておくことにした。そもそもタブレットの通信方法を考えたのは玲なのだから知らせておいた方が良いだろう。向こうは全く違う方法で遠隔通信を実現しいてる。お父さんやお母さんがいつも使ってるスマートフォンだ。仕組みは違うけど、連絡方法だけは、向こうの世界に追いついたと思う。


 僕は、ダイヤリーに遠隔通信魔道具のことと、ゴーレムバスの揺れを軽減して、王都まで高速移動しても気分が悪くなる人がいなかったことなんかを書き込んだ。それに、もう一つの通信魔道具に識別方法について悩んでいることも書いておいた。

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