第221話 昇格試験と湖の錬金術師

 今日は、大樹の誓、ファルコン・ウイングのみんなとミラ姉と一緒に冒険者ギルドに来ている。ロジャーとシエンナは学校建築の手伝いに行っていて、アンディーは研究所だ。


 なんで僕が冒険者ギルドにいるかと言うと、大樹の誓とファルコン・ウィングのランク昇格検査の為だ。この前ギルドポイントがたまってAランクとBランクに昇格したばかりなんだけど、トリプルSランクの魔物を倒したことで二つともギルドポイントは十分溜まってAランクとSランクの昇格試験を受けるってことになった。


 一つは、後6日後にある叙勲式の為だ。BランクとAランクよりAランクとSランクの方が良いだろうと言うギルド判断だ。もう一つは、この前のギルド依頼。Aランクパーティーは、アンディーとロジャーの力が必要だったけど、この二つは自分たちだけでエリアボスを討伐した。つまり、フォレストメロウのAランク冒険者よりも実力が上だと言うことが分かってしまったからだ。


 エリアボスの他にもどんな魔物を倒したかということの証明に僕が呼ばれたわけだ。ドロップ品と魔石は僕が全部預かっているから、二つのパーティーが討伐した物を上げたら、その魔石やその時のドロップ品やらを取り出すという役目だ。


 別のパーティーだけど同じアグリゲートメンバーだということでその役目が回ってきた。この前のアグリゲート討伐だけじゃなく、ミラ姉と一緒に行ったロックバレーのダンジョンの時のドロップ品なんかもあるんだけど、それは僕は持っていない。それを持っているのはシェリーさんだ。


 なんだかんだの審査と試験で二つのパーティーは無事、AランクとSランクに昇格した。


「私たち、つい先週までCランクだったんですよ。なのに、今日Aランクなんて。信じられません。」


「俺たちもだ。つい先週までBランクのベテラン冒険者だったのにSランクだなんてな。」


「だから言ったじゃないか。二つとも私たちと同等かそれ以上の力があるって。大樹の誓も近々Sランクになると思うぞ。」


「いやいや、私たちなんて、姉御たちに比べたら月とすっぽん。虎と猫ですよ。比べ物になりません。」


「私たちとて同じ。ミラさんたちに比べるべくなしです。しかし、これからも後を追わせていただきます。」


「我々もだ。横に並ぶことができるように精進する。」


 ボフさんもヒューブさんも真面目なんだから…。でも、僕たちも負けないように頑張る。なんて思っていたらミラ姉が…。


「せっかく、冒険者ギルドに来たんだから何か依頼を受けない?」


「しかし、この町にAランクならともかくSランクパーティー向けの依頼なんてありますかね。」


 シェリーさんがそんなこと言っていたら、あった。


『求、高ランク冒険者。Aランク以上。委細面談・湖の錬金術師』


「ティアさん、この湖の錬金術師って人知っていますか?」


「知っています。変わり者ですが凄腕の錬金術師という噂です。その依頼書はかなり前から貼ってあるのですが、なかなか受け手がいなくて氷漬け依頼なんです。」


「面談ってどうやってするんですか?この近くにいるの?依頼者。」


「通信の魔道具っていうのをギルドに預けてあってこの依頼を受けてくれそうなパーティーが居たら連絡することになってるんです。依頼、受けて下さいますか?最近少し焦っていらっしゃるようで、何度か通信の魔道具で催促の連絡が入ったんです。あまり長く受け手がいないから王都に依頼を移したいと。多分王都の方が受け手がいないと思うんですけどね。」


「何か困りごとなら受けても良いぞ。面談してから決めていいなら連絡してくれ。」


 ミラ姉、何かカッコいい。他のメンバーもうんうんと頷いている。やっぱりカッコいいと思ったみたいだ。


 すぐに連絡が来た。ロックバレーの先にある湖のほとりに住んでいるそうだ。そこならドローンで飛んだ時に見えた気がする。早速、3人乗りドローン5台で行くことにした。


「ティア、今から行くと連絡できるか?」


「はい。できます。どのくらい後に到着すると連絡していたら良いでしょうか?」


「ドローンで行くから10分後だな。」


「はい。そのように連絡しておきます。では、宜しく頼みます。」


 フォレストメロウの門を出てドローンを出し、ロックバレーの先の湖に向かって出発した。飛行時間5分程で到着。冒険者ギルドを出て、丁度10分位だ。


 湖のほとりに1軒の屋敷が建っていた。かなり年月を経た古い屋敷だった。


今日こんにちは。どなたかいらっしゃいますか?フォレストメロウの冒険者ギルドから来ました。こんにちはー。」


 僕が大きな声で挨拶をしていると中から僕と同じくらいの年齢の男の子が出てきた。


今日こんにちは。冒険者の方ですか?」


「はい。AランクとSランクの冒険者です。」


「そ、そうですか。ようこそ、いらしてくださいました。ど、どうぞこちらへ。少々お待ちください。師匠を呼んできます。」


「師匠!AランクとSランクの冒険者の方がいらっしゃいました。師匠ー!」


「ほっほう。お主らがSランクとAランクの冒険者パーティーか?して、ちと聞くが、お主ら、ロックバレーで暴れておるロックリザードと言うのは知っておるか?」


「はい。つい先日までそいつらの討伐依頼を受けていましたから。」


「そっそうか。それは好都合。儂が欲しいのはそのロックリザードの幼体なんじゃ。しかも、生け捕りして欲しい。勿論わかっておる。あんなにロックリザードがうじゃうじゃおる石切り場からその幼体を取ってくるなんぞ正気の沙汰ではないことはな。しかし、錬金術の素材にどうしても必要なんじゃ。」


「しかし、ロックリザードの幼体を生け捕りにするとなると道具名が必要になるぞ。それはあるのか?」


「ある。これだ。これは、ロックリザードの皮で作った手袋。この手袋でつかめば幼体に噛まれても怪我をすることは無い。そして、これが幼体を採集する籠じゃ。この中に幼体を入れておけば、幼体は、眠ってしまい暴れることは無い。」


「で、何匹必要なのだ?それともう一つ言うとな。あの谷のロックリザードは、全て私たちが討伐した。今なら、翁の弟子でもロックリザードの幼体採集に行くことができるぞ。」


「師匠、無理です。私は、ロックリザードの巣に潜り込んで幼体の採集なんてできません。」


「まあ、無理なことは無いと思うが…、もう少ししたらロックバレーの側に冒険者の学校ができるはずだ。そこに依頼しても、道具さえ与えれば幼体の採集依頼を受けてくれると思うぞ。今回の依頼だが、何体採集し来ればよい?」


「差し当たりだが、5体ほど欲しい。できれば何十体か欲しいのだが、5体あれば、当面の素材にはなる。報酬は、金貨5枚で良いか?」


「そんなにもらえるのか?5体で金貨5枚なら親のロックリザードと同額だな。」


「えっ?一体金貨5枚のつもりだったのだが…。そんなに安く請け負ってくれるのか?助かる。宜しく頼む。」


 僕たちは、籠と手袋を借りて、ロックリザードの幼体採集に出かけた。チョロチョロと走り回る幼体を捕まえるのはかなり大変だったけど、今朝飲んできた体力増強ポーションと筋力増強ポーションの効果で僕も1体の幼体を捕まえることができた。


 みんなで合わせて20体の幼体を捕まえて錬金術師の元に戻った。1時間もかからず戻って来た僕たちにびっくりしていたけど、幼体を確認して金貨20枚を即金で払ってくれた。


 その幼体を素材にして何を作るのかは知らないけどきっと何かしら役に立つ者なのだろう。いつか、賢者の研究所に来てくれないかなと思いながら、依頼完了の書類にサインをもらってギルドに帰った。

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