第220話 ゴーレムバス改良

 体力増強ポーションは、最近使っていない。日頃から使っていないと体のコントロールができなくてかえって危ない。身体強化もできないから、身体を使う冒険は危険だ。そこで、今日から身体強化ポーションを日常的に飲むことにした。筋肉増強ポーションも並行摂取する。玲の精錬式があるから向こうのポーションとほぼ同じものができるはずだ。


 ポーション摂取後、身体を動かす。日常動作で慣れることが大切だから特別なことはしなくていい。王都から戻って今日は、研究所に行く予定だ。近道も作っているけど、普通に砦の正門から出て行こう。距離は、ぐるりと回っておよそ5kmだ。マウンテンバイクを取り出してせっせとペダルをこいだ。3分で到着した。門を出るまでは安全運転をしたから、最高時速はかなり出ていたはずだ。


 今日は、ゴーレムバスの揺れを軽減する方法について研究チームと一緒に考えてみることになっている。チームは、研究所の工房で試作品を作っていた。


「バスの揺れは、タイヤの振動が一番大きな原因なんです。大きな揺れはしょうがないのですが、凸凹の道を走っている為常に細かい振動が伝わって来て、乗っている人たちの気分を悪くする。椅子のクッションで吸収しようとしたのですが、無理でした。」


「それに、左右に曲がるときの遠心力もなかなか厳しいものがあります。これは、運転の仕方でもかなり変わるでしょうが、前方に障害物があるときに避けるためには致し方ないことなのです。」


「車高を高くしてカーブの時には内側に車体を傾ければ、遠心力は、重力遠心力の合力がほぼ床方向になります。重力が増加するのも気持ち悪いでしょうが、横に振られるのとどちらがダメージが大きいでしょうか?」


「それは、実際に乗って確かめるしかないかもしれませんね。とにかく、タイヤの振動をできるだけ伝えない方法ってのがないとバス酔いのひどさは軽減できないでしょう。バスが快適な乗り物になることは無いでしょうね。」


「例えば、この溶岩魔法陣ですが、空間魔法の魔法陣です。物質、無生物は入れることができるのですが、生きた生物は入れられません。この上に私が乗ると。ほら、靴底は中に入るのですが、私は今、溶岩プレートの上に裸足でいる感覚です。」


「溶岩プレートに魔法陣を書くことで様々な魔法が実現できることは分かっています。そして、魔力が動いている溶岩プレート、つまり、何らかの魔法が使われている溶岩プレートは、このマジックバッグの中に入れることができないのです。魔力を込めて使用しているマジックバッグをマジックバッグの中に入れることができないのと同じです。」


「でも、マジックバッグをマジックバッグの上においても乗っかるだけ。溶岩プレートを積み重ねているのと同じですよね。」


 研究班の皆さんが面白い実験をしていた。空間魔法を振動除去の道具にしようと言うのだ。でも、空間魔法同士だとうまくいってないらしい。空間魔法は、魔法陣の中側に異空間を作っている。魔法陣のと言うより、魔法陣が刻まれた物質のと行った方が良いのかもしれない。だから、空間魔法が作った空間の上にもう一つ空間魔法が作った空間を乗せようとしても物質同士が干渉してしまう。つまりぶつかる。


「あの、空間魔法同士だとダメなら、別の魔法陣ではどうでしょう。例えば外側の空間に作用する結界の魔法陣では?」


 研究班の皆さんの話を聞いて思ったことを言ってしまった。


「結界の魔法陣か…。それはやっていませんでした。レイ様。研究のヒント有難うございます。」


 普通の大きさに魔法陣を書くと結界の範囲が大きすぎて空間魔法のプレートに近づけることができなかった。確かに、結界魔法と空間魔法は反発しあう。結界の魔法陣をとにかく小さく刻むそれをいくつも刻むことで空間魔法の上に浮かぶ溶岩プレートを作ることができた。


 この構造を発展させてタイヤを固定して、車体を乗せる駆動部と乗客を乗せる車体の間にほんの小さな異空間を挟み込むことに成功した。タイヤの上には、マジックボックスを設置し、乗客が乗り降りする時にはタイヤを収納して、乗り降りしやすい高さになり、走っている時にはタイヤをすべて出してカーブする時の車体を傾けることができるようにした。それで、走行時の車高は、床面が2mの高さになった。


 サスペンションという大きな凸凹を吸収する仕組みもタイヤに着け簡易座席を20個ほど取り付けて試験走行だ。


 ドライバーには、シエンナを頼んだ。シエンナなら走りながら色々な情報をバスから受け取って後でデータとして渡してくれる。


 前方の扉を開いて物理結界を一時だけ切る。


「ゴーレムバス出発します。」


 初めは、時速100km程。タイヤからの振動は全くない。シエンナが前方の障害物をよけるためできるだけ前方から優しくカーブを描き車体を傾けないように注意していることが分かる。


「シエンナ、スピードを上げてくれないか。オットーの3分の2程度のスピードまで上げてくれ。」


 前回王都からやって来た時の2倍以上のスピードだ。つまり、王都までならこの2時間程度で到着するはずだ。障害物をよけるのに少しだけ左右の揺れを感じるようになった。しかし、タイヤからの振動はほとんど感じない。


「皆さん。気分が悪くなった方はいらっしゃいますか?」


「いや、大丈夫だ。それに、これくらいの揺れなら、食事をしたり水分補給をしたりすることもできそうだ。」


「では、皆さんに、ポーションジュースをお配りします。外の景色を楽しみながら召し上がって下さい。」


「「「おおーっ。ありがとうございます。」」」


 テスト走行をしている間に王都に着いてしまった。今回のゴーレムバスの改造はうまくいったようだ。そして、この成功は、また次の魔道具を作るヒントになりそうだ。違った性質の魔道具を組み合わせること…。


 王都で1時間ほど休憩を取り、研究所に戻った。ゴーレムバスの改造は、うまくいった。しかし、駆動部は、まだ研究所で作ることができていない。次は、ゴーレムコアの精錬窯の研究が待っている。


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