第219話 玲のボルダリング

 久しぶりにレイからダイヤリーの書き込みがあった。昨日の夜までは書き込みがなかったから、ついさっき書いた物だろう。先々週は中間テスト直前だったし、先週は試験が終わったって言って遊びに行ったからな。


 それにしてもレイのこと誰かに話さないとっていうか本田さんと上村さんくらいかな話せるとしたら。この前実験にも付き合ってくれたし。僕ができる魔術やポーションのことも知らせても良いかもしれないな。


 今日は、日曜日。中間の結果は、平均95点。読み取り間違いや計算違いがあったからな。まあ、上々の結果だった。僕としては中学校に入って初めてと言って良いテストだったんだけど、その割には良かったと言えるだろう。


 別室や病院の中で中間試験や期末試験を受けたことはあったけど得点は、平均くらいだった。試験勉強なんてほぼできなかったし、授業は全く受けてなかったからね。


 ただ、ただ暇だったからベッドで教科書を読んだり分からないところは母さんに聞いたりしてたけど、今とは全く違う。今は、授業も受けられるし、教科書の内容や関係ある本の知識はほぼ記憶と言うかコピーしている。計算問題も練習を繰り返したからだいぶ早くなった。


 勉強に関しては、苦労して試験勉強なんてする必要もないんだけど初めての試験だったから少し頑張ってみた。ノートの内容も全て情報コピーしていた。だから本当は平均100点のつもりだったんだけど。


 今日は、本田さんたちとボルダリングに行く約束をしている。体力増強ポーションを二人に飲ませてみようと思うんだけどって母さんに言ったら、ちゃんと効果を説明して、どのくらいの時間その効果が続くかを検証してもらいなさいって言われた。


 ポーションはペットボトルに入れてアイテムボックスの中に収納している。外に出していると時間とともに効果が少なくなっていく。溶岩でポーション瓶を作ってみたけど重すぎてあんまり使い勝手が良くない。重くても車にだったら入れておけるんだけど、持ち歩きようには溶岩で作って薄くても液漏れしないようにしないといけない。


 本田さんと上村さんが来た。今日は、自転車で移動だ。二人は、ハーフパンツにTシャツっていう格好だ。早速、筋力アップポーションを二人に勧める。


「これ、僕が作った筋力アップポーションって言うんだ。これを飲むとしばらくの間筋力が信じられないくらい上がる。バスケットのダンクシュートが簡単にできる位ね。で、飲んでみて効果の検証をしてもらいたいんだけど協力してくれるかな?」


「本当にレイ君が作ったの?お腹痛くなったりしないよね。」


「ならないよ。薬草やプロテイン飲料なんかかを使って作ったものだから大丈夫だよ。」


「本当よね。信じて飲むわよ。お腹痛くなったら恨むからね。」


「アハハハ。大丈夫だって。」


 上村さんは、疑り深い。なかなか信じてくれない。そんな話をしている間に本田さんは、飲み終わっていた。


「あっ、ベルもう飲んじゃったの?」


「うん。中々美味しかったよ。カラも飲んでみな。」


 本田さんに言われておっかなびっくりだけど上村さんも飲み干した。


「じゃあ、ボルタリングジムまでひとっ走りしましょうか。あっ、そうだ。かなりスピードが出るからヘルメットかぶってた方が良いと思う。あっ、持ってるね。ヘルメット。」


「持ってるけどかぶってなかったよ。ヘアスタイル崩れるし。そんなに危なくないかなってね。」


「かぶってた方が良いと思うよ。多分時速100kmは軽く出せるから。」


「何バカなこと言ってるの。自転車何てどんなにがん張っても時速30kmが良いとこよ。スポーツタイプの自転車で50kmね。」


「とにかく、ヘルメットかぶって出発するよ。着いて来てね。」


 僕がペダルをこぎ始めるとみるみるスピードが上がっていった。二人も余裕で着いてくる。普段と同じ感覚なんだけど車をどんどん追い抜いている。風がひどくて会話ができない。でも、気持ちいい。


 10分くらいでボルダリング場に着いた。


「えっ?もう着いたの。ボルダリングジムって10km以上離れてなかったっけ。玲君の家から。」


「そうだよ。ゆっくり走ったからね。時速60km位で。車を追い抜いていたでしょう。」


「そう言えば、車がやけにゆっくり走っているなって思ってたけど私たちが早かったの?風が強くておしゃべりができなかったのって私たちが速すぎたからなの?」


「まあ、早く着いたのは、良いことよね。ボルダリングに挑戦しましょう。でも、私、初めてだからね。ちゃんと教えてよ。」


「もう、カラっていっつもエラそうなんだから…。私も初めてよ。でも何とかなるでしょう。簡単なものもあるってことだからさ。」


「僕も初めてだよ。でも、コーチしてくれる人がいるって話だから大丈夫じゃないかな。」


 それから入場料を払って中に入った。低い場所で練習している人や競技スタイルで本格的にやっている人、色々な人が楽しんでいた。


 受付の時に経験や今日の目的なんかをアンケート用紙に記入した。それをトレーナーの人が受け取ってアドバイスしてくれるようだ。


「やあ、いらっしゃい。君たち中学生かい?」


「「「はい。」」」


「今日が初めて?」


「はい。初めてです。どこから登り始めたらいいですか?」


「最初は、1mくらい登ってみるつもりで良いんじゃないか。基本姿勢は、腕は伸ばして足を曲げるだよ。手や足が届くところからでいいから高いところ高い所を目指してごらん。」


「僕からやってみるね。」


 低い場所で、手は伸ばして足をまげて上へ上へ。あれ、もう一番上に着いちゃった。もう少し移動してみよう。横に上に横に上に。


「おおい。君、ちょっと降りて来て。かなり登れるようだからルールを教えるよ。」


「はい。直ぐ降ります。」


 僕は、ひょいと壁を蹴ると床に飛び降りた。3mくらいだったからなんてことはない。


「うっ。大丈夫か?あんな高さから飛び降りちゃだめだよ。下に人がいたら両方とも怪我するぞ。」


「あっ。すみません。確認して降りたんですけど…。そうですよね。ごめんなさい。」


「分かってくれたら大丈夫だよ。じゃあ、ルールを説明するね。うちのジムは、石の色で難易度をしていいてるんだ。赤が最上級の1級だ。1級の難易度を攻略するっていうのは、足も手も赤いホールド石のことだね。赤だけを使って一番上のゴールにタッチすることまたは、3秒以上体を保持することだよ。初心者は6級を目指してごらん。足はどのホールドでも大丈夫だからね。」


 6級は、黄色だ。手は黄色だけ足はどれでも良くて、目指すのはあの一番上の黄色。誰も黄色には挑戦していない。


「じゃあ、黄色でやってみる。どうせなら足も黄色だけで。黄色、黄色、黄色、黄色、黄色、黄色、黄色、黄色、黄色、黄色。よし、クリアーだ。」


「本田さんと上村さんもやってみなよ。案外簡単だよ。」


 二人とも手足黄色だけでクリアーした。


「すみません。黄色クリアーできました。次は何色に挑戦したら良いですか?」


 さっきのトレーナーさんに、次のグレードを聞いた。


「じゃあ、足も色指定で青からできるかな。」


「あの、足も黄色指定で終了したんですけど次は。」


「エッ?さっき始めたばかりなのに?4級が終わったって?」


「じゃあ、足は自由で赤指定でやってごらん。それで3級だ。」


 僕たちは、赤指定に挑戦。これもどうせならと足も赤のみで挑戦してみた。


「じゃあ、僕からね。スタートのホールドはこれ。後、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、赤色、最後の赤は、あれだ。よし!」


「レイ君凄い。途中なんか変な姿勢になってたけど大丈夫だった?」


 そう、途中で手の出し方がおかしかったみたいで逆さまになってしまったんだよね。


「次、私が行く。」


 上村さんが赤縛りに挑戦。


「赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤で最後の赤。できた!」


「次、私ね。赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、最後っと赤。」


「ベル早っ。」


「みんなの行き方見てたからね。最後がやっぱり得だよね。」


「き、君たち、本格的にボルダリングやってみないか。競技ボルダリング。君たちならオリンピックも夢じゃないと思う。」


「まっまずい。僕たちはだめだよ。ドーピングで引っかかっちまう。多分だけど。」


「いえ、あの、僕たち受験生で、今日はちょっとした気晴らしで北だけですから。すみません。失礼します。」


 トレーナーのお兄さんはずっと僕たちを見てたけど、昼ご飯前にボルダリングジムを出た。


「まだ、お昼前だよ。もう少しボルダリングしていても良かったのに。」


「どうせだからさ。コンビニでお弁当買ってサイクリングに行こうよ。玲君のリュックにお弁当はいるでしょう。」


 本田さんの提案に全員が賛成してコンビニに行ってお弁当を買った。どうせだから、チンしてもらおう。僕は、お弁当を温めてもらって上村さんは冷麺だったからそのまま、本田さんはサンドウィッチだったからそのままだ。みんなジュースも買った。


「じゃあ、預かるね。」


 みんなのお弁当をリュックに入れるふりをしてアイテムボックスの中に収納。こうしておくと、冷たいものは冷たいまま暖かいものは暖かいままだ。


 それから、ボルダリングジムから30km程離れた湖までサイクリングだ。ゆっくり走ったから30分くらいかかった。


「ねえ、こんな近くに湖なんてあったっけ?」


「車で1時間位の所にある湖の公園なら行ったことがあるけど、ここってそこに似てるのよね。」


「そこそこ。本田さんの家からだったら車で1時間位だと思うよ。信号もあるしさ。」


「ええっ?だって私たち自転車でのんびり走って来たのよ。風は強かったけど。」


「だから言ったでしょう。筋力アップポーションを飲んだら自転車で時速100km位出せるって。でさ、お腹空いたからお弁当食べよう。」


「はい。どうぞ。」


 僕は、みんなにお弁当とジュースを配った。ジュースはまだ冷たくて上村さんの冷やし中華も十分冷たかった。


「ええっ。何でこんなに冷たいの?ジュースも冷やし中華も…。」


「玲君保冷剤か何か入れてるの?リュックの中に…。でも、サンドウィッチは、冷たくないよ。ジュースは冷たいのに。」


「不思議でしょう。僕も不思議なんだけど、それって僕が持ってるアイテムボックスっていうスキルのせいなんだよね。このリュック見てて。何は何も入ってないでしょう。」


「ほら、筋力アップポーションが出てきました。」


「手品…なの?」


「後で、もう少し詳しく説明するよ。昼ごはん食べよう。お腹空いたしね。」


 御飯の後、アイテムボックスのことや異世界のことなんかを話した。半分くらい信じられないって感想だったけど、目の前にある物はあるんだって話だ。とにかく今日はとっても面白かったって言ってくれた。次にレイがこっちに来る時は、紹介してもらおう。残念ながら僕は紹介できないんだけど、母さんたちにお願いしておこう。

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