第218話 ミラ姉の説教と国王陛下の暴走

「トリプルSランクの魔石が手に入りました。献上したいのですけど受け取っていただけますか?ティモシー様に送信。」


『ティモシー:嬉しい報告だが、冗談だろう。トリプルSランクの魔石なぞ、ここ数百年手に入っておらんし、手に入れようもない。勿論、わが国にはない。もしも本当なら、すぐに王都に来なさい。その魔石を持って国王の執務室まで直行してきなさい』


「あっ、本当に宰相閣下に連絡した。」


 ギルマスが頭を抱えている。


「あ~あっ。あんた、考えなしに連絡しないの!今から王都のしかも国王陛下の執務室に行くなんて…。私たちダンジョンから帰ってお風呂も入ってないのよ。」


「じゃあ、ティモシー様に明日にしてくれるようにお願いしてみる。」


「ダンジョンから戻って来て、お風呂も入っていませんので、明日伺っても良いでしょうか。Sランクの魔石は、冗談ではなく本当です。」


「エルザード(王):風呂なんか良いから、つべこべ言わずにさっさと登城するように。すぐに来なさい』


「ミラ姉、王様に怒られちゃったよ。やっぱりすぐにいかないといけないみたいだ。」


「ああああ。あんた、何でさっきから考えなしに連絡してるのよ。分かった。シエンナ、リア機と一緒に行くわよ。ボフさん、ヒューブさんあなたたちも一緒よ。シエンナが操縦してボフさんとヒューブさんはそっちに乗って。私、レイと一緒に乗っていくわ。ゆっくり話をしないといけないみたいだから。」


 フォレストメロウから王都に着くまでの1時間、ずっとミラ姉にお説教された。王宮に連絡する時は、事前に文章をみんなで確認してみんなの了解を得て連絡するようにとか、いくら親しくなったからと言っても王室や王宮は庶民と違うルールで動いているのだとか、今回のトリプルSランクの魔石の献上も本来なら王都の冒険者ギルドを通して行った方が良かったとか、とにかく一杯説教されてがっくり意気消沈で王都に着いた。


 王宮の庭に着陸するように言われ、着陸するとティモシー様と財務大臣のクーパー卿が待っていた。そのまま、国王の執務室まで連れていかれて5人でここにいる。シエンナは、泣きそうな顔でドローンで待っていると言ったが、一緒に連れてこられている。


「面を上げよ。レイ、先ほどの話は誠か?トリプルSランクの魔石を手に入れたということだが…。」


「はい。ここにございます。」


 僕は、アイテムボックスから魔石を取り出し、国王陛下に差し出した。


「誠だったのか…。して、その魔石を献上したいということだが…、何を望む?いや、その前にその魔石を手に入れたいきさつを聞かせて欲しい。まさかとは思うが、トリプルSランクの魔物が現れたのか?」


「現れたと申しますか…、居たのです。ダンジョンの中に。それで、わたくしたちのアグリケートで討伐いたしました。」


「そうか。ダンジョンにいたのか。して、何かの為に弱っておったのかダンジョンの変動であるとか他の魔物との抗争だとかで…。」


 ティモシー様が聞いてきたが、全然元気だった。


「いえ、全くです。本当に私たちも危ない所でした。何か一つ手違いがあれば、ヒドラの毒で全滅していてもおかしくなかったのです。運が良かったと思います。」


「ヒッ、ヒドラ。ヒドラだと…。国難の魔物ヒドラだと。1体でもヒドラが地上に現れれば、一つの国が亡ぶと言われている魔物だぞ。そ、それをダンジョンの何階層で討伐したと言うのだ?」


 今度は、クーパー卿が目を剥いて尋ねてきた。そうなんだ。ヒドラってそんな風に言われている魔物なんだ…。


「7階層?だったよね。」


 コクコクと残りのメンバーが頷いてくれた。


「7階層だと、そんな浅い階層で…。良かった。お主ら良くやった。そのような浅い階層にヒドラがいるとなれば、いつ何時スタンビートが起こりヒドラが地上へ出てきたか分からない。お主たちが倒さなくとも、国をあげて討伐に行かねばならないところだった。」


「ありがたきお言葉。私たちのアグリケートメンバーにもお伝えしたく存じます。」


 ミラ姉が言うと、国王陛下もうんうんと頷いてくれた。


「して、そのアグリゲートとは、何パーティー何人なのだ。多くの者たちが命を懸けて討伐に当たったのであろう。今回の働き十分にとは言えぬかもしれぬが、相応の褒美を取らせねばなるまい。」


「はい。3パーティー15名でございます。」


 ミラ姉が代表して答えてくれた。


「えっ?」


「それ以下では、倒しきれるものではありませんでした。」


「お主らが倒したのは、トリプルSランクのヒドラなのであろう?」


「そうでございます。本当に危険な魔物でございました。」


「国難の魔物と言われる一度ひとたび地表に現れれば一国を滅ぼすと言われているヒドラなのであろう。」


「そうでございます。ヒドラの毒袋もアイテムボックスの中に入っております。」


「いや、それを出せと言っておるのではない。それに、この魔石を見せられておるのじゃ討伐を疑っておるわけでもない。たった15人で討伐したと聞こえたのでな。耳を疑っただけじゃ。」


「聞き間違いではございません。15人でございます。」


 唖然とする王宮の皆さん。平然と言い放つミラ姉がガッコいい。


「そ、その全員に我から褒賞を手渡す。三日後だ、献上の儀とともに叙勲式を執り行う。全員王都に登らせよ。服装は、冒険者の服で構わん。英雄の叙勲式じゃ。盛大に執り行う故、楽しみにしておるのじゃぞ。」


「へっ陛下。そんな急に叙勲の儀など準備が間に合いません。それに、ヒドラ討伐に応じた褒賞などそんな急には準備できるはずがございません。」


「うっ、で、ではいつなら準備を終えられる。フォレス・アグリゲートよ。ヒドラ討伐は、いつ行われたのだ。そしてそれにどれだけの準備期間を要した。それを聞いて、準備期間を答えるのだ。よいなティモシー。」


「御意。」


「お答えせよ。いつ討伐し、準備期間はいかほどだったのだ。」


「ヒドラの討伐は昨日でございます。準備期間は、いや準備時間ですね。2時間…、3時間程でございます。」


「な~に~、お主らと言うものらは…。国難の魔物をたった。3時間の準備で倒しただと…。よ、良い。では、叙勲の儀7日間で終わらせて見せましょう。盛大でりっばな式典を執り行ってお見せしましょう。」


「よし。7日後、王都にて叙勲の儀を執り行う。お主らの服装は、冒険者服と装備じゃ。ティモシーの執り行う式典に負けぬほど立派な装備を付けてまいれとは言わぬ。できれば、ヒドラを倒した時の装備を付けてまいれ。汚れを落としてな。フフフワハハハハ。申し渡したぞ。」


 また、陛下の暴走のような気がするけど大丈夫かな…。兎に角七日後にその式典と言うのが行われるなら、その前の日に王都に来ていればいいということだから後は、自由に過ごすことができるということだな。今日は、もう遅いから王都のいつもの宿に泊まることにしよう。


 宿を取り、風呂に入った。時刻はまだ6時を過ぎたばかり。今晩は、前ジェイソンさんに連れて行ってもらったレストランに行くことにした。ボフさんとヒューブさんにも気に入ってもらえると良いのだけれど。予約の時間まで少し時間があった。久しぶりにダイアリーをチェックしてみよう。


 僕は、ダイアリーの紙を精錬して、賢者の研究所が完成したこと。こちらの世界でも溶岩は魔石代わりになること。今、溶岩魔道具を開発していること。冷蔵魔道具。給湯魔道具。後、バスの揺れが激しくて何とかならないか研究中なことなどを記入した。また、地球に言ってみたいということも書いておいた。


 ダイアリーをちぇくしたけど、ずっと前の溶岩給湯器が3日たっても動作していることや溶岩を使ってコテージを作ろうと思っていることなんかが書いてあった。


 そう言えば、小型のコテージを作ったから精錬式をホームスペースに写しておかないといけないな。後、冷蔵冷凍魔道具の魔法陣もホームスペースに写しておこう。


 あれやこれやとダイヤリーに書き込んだり魔法陣を写したりしていたら時間になった。これからレストランで食事だ。楽しみだ。部屋を出て宿のラウンジに降りていくとシエンナとミラ姉がドレス姿で待っていた。そう言えば、王都でドレスを作ったって言っていたんだ。二人ともきれいだったけど、僕は、冒険者の服のまま言ってくれたら着替えたのに。そんなこと思っているとボフさんとヒューブさんもスーツ姿で降りてきた。ええっ、僕だけ…。部屋に戻って着替える時間もないし諦めて冒険者の服のままレストランに出かけた。


 食事は美味しかったけど、何か仲間外れになったみたいで寂しかった。次は、ちゃんとした服でレストランに行こう。




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