第212話 鍾乳洞ダンジョン

 チョロチョロと水が流れている。壁は白く仄かに光を出しているようだけど、薄暗い。天井から尖った柱のような、つららのようなものが何本も下向きにつり下がっている。下から受けに尖った柱が伸びているところもある。このダンジョンは洞窟ダンジョンで凸凹が激しい。


 洞窟ダンジョンでこんなのを見たことがあるアグリゲートメンバーはいなかった。玲の本で検索してみた。鍾乳洞。しかし、地球の鍾乳洞は、ダンジョンでは、ありえないでき方をしていた。地球の鍾乳洞で鍾乳石が10cmの長さになるのに1000年もかかると書いてあった。早く成長する鍾乳石でも、3年ほどで0.1cmくらいなのだそうだ。


 普通ダンジョンには、寿命がある。だから今回のようについ最近見つかったダンジョンと言うのは、できてから長い時間たっているとは思えない。長くて数百年前、もしかしたら数年前にできたかもしれない。地球と同じ鍾乳洞だと鍾乳石が成長する時間が足りない。だから、鍾乳洞に似ていても違うものなのだろう。


 鍾乳石もどきをロジャーに折ってもらい数本、収納しておく。溶岩のように何かの素材になるかもしれない。洞窟は、横幅も高さも十分あり、オットーでも中を進むことができるんじゃないかと思える位だ。凸凹を乗り越えて進むらなオットーの方が都合がいいと思える位の広さだけど、この先も同じ広さが続いているとは考えられない。


「多少、迂回したりしないといけなくても、エスで2台に分かれて攻略した方が無難でしょうね。エスでも、途中で歩かないといけないところがあるかもしれませんが、オットーよりもその可能性は、は少ないと思います。」


「そうね。じゃあ、エスとエス2号で分乗して攻略しましょう。エスが先に進むわ。戦闘がガーディー、2番目がそうディー、エス、エス2号、インディーの順ね。デッキでの待機は、止めておきましょう。攻撃は、エスの中からね。」


「了解した。運転は、俺で良いのか?」


 ドローが自信なさげに聞いてきた。


「自信がないなら、ロジャーが行くわよ。ロジャー、2号の魔石ライフルの操作は大丈夫でしょう?」


「おれは、大丈夫だけど、ドローでも大丈夫なんじゃないか?」


「ロジャーは、洞窟ダンジョンでのエスの操作は経験あるのか?」


「そりゃあ、ゴーレムコア採集に何度も行ってるからな。経験はあるさ。」


「それなら頼む。俺が練習したのは、草原階層だけだ。迂回の仕方や狭い場所での車体の切り回しなんかは自信がない。」


「分かった。誰でも初めては不安だからな。ドローも1階層や2階層で練習したらすぐに自信を持って操縦できるようになるさ。今日は、俺が操縦する。」


「じゃあ、ロジャーとファルコンが2号ね。出発しましょう。」


 全員がエスに乗り込んで、ゴーレムたちとの編成で出発した直後に、サーチで次の階層入り口を探した。かなり離れている。現在位置から35km程だ。洞窟ダンジョン内を35kmは、気が遠くなる距離だ。


 次階層入り口に向かって進む始めると直ぐに表れた魔物は、アシッドバッド。酸攻撃をしてくる蝙蝠だ。カーディーのシールドバッシュで魔石に変わったが、酸を受けてガーディーの体表が何ヶ所か変色してしまった。すぐにミラ姉が水で洗い流したから大したことにはならなかったが、かなり強力な酸のようだった。


 そして、もう一種類の魔物が、ゴツゴツとした体の表面から霧を吹き出すゴーレム。その霧に触れると石化する。アシッドバッドが、霧によって石化してしまうのを見た。そして、アットバッドは、そのゴーレムに酸による攻撃をした。酸の攻撃を受けたゴーレムは、もうもうと煙を上げて溶けて行く。


 アシッドバッドとゴツゴツゴーレムの戦いはあちらこちらで見られた。ゴツゴツゴーレムのコアに射線が通った時、一度だけコアを収納できた。


 コーラルゴーレム。今までのゴーレムと同様、エスに乗っている僕たちを攻撃しに来ることはなかった。ただ、石化の霧からは、十分に距離を取っておかないと心配だ。


 アシッドバッドはかなり頻繁に表れた。索敵で見つけ、すぐにウォーターボールやアイスジャベリンで撃ち落としてガーディーたちに酸攻撃をされないようにした。僕は、次階層入り口を見失わないようにサーチを使っているから、索敵は、ヒューブさんとシエンナが行っていくれている。ヒューブさんの索敵も強力だが、シエンナの方が一枚上手のようだ。まあ、一番先頭にいるガーディーからの情報を直接受け取っているわけだから、強力なのは分かっているのだけれど。


 しばらく進むと、地底湖が目の前に現れた。次回層への通路になっているからその先につながっていることは間違いない。


「どうする?この先に進んでみる?」


「進むとしたら船だね。この前作ったでしょう。」


 向こうの世界で作れるようになった物だ。


「ここまで来たんだ。行けるところまで言ってみようぜ。出てくる魔物は、前の階層よりもかなり弱い気がするしな。」


 ロジャーは、進む気満々だ。


「私も先に進んでみたい。こんな奇妙な洞窟ダンジョンは、初めてだからな。」


 アンジーも進みたいみたい。


「じゃあ、先に進むのに反対の人はいない?」


 誰もいないようだ。ここまで来たんだから先に進んでみたい。


「じゃあ、レイ、船を出して。乗船しましょう。」


 操船はシエンナ。船長も兼ねるようだ。船首にはロジャーと魔石ライフルを構えたヒューブさんが索敵をしながら警戒に当たっている。その他のメンバーも左舷と右舷に偏らないように適当に散らばりながら船の周りを警戒していた。


「右舷10時の方向、水面に魔物が顔を出しています。約250m前方です。」


 目を凝らしてみると水面に6階層のボスだったヴォジャノーイがいた。こちらに地下好きながら魔法を放つ準備をしているようだ。数は、今のところ1体。


「アイスジャベリン!」


 ミラ姉が水面を凍らせ、ヴォジャノーイの頭を吹き飛ばした。


「かなり魔力を練り込んだから、ちょっと疲れた。距離があったから…。次は、魔石ライフルを使うことにするわ。」


「ミラ姉、ポーション入りジュース飲む?」


「もらおうかな。そんなに危険な感じもしないし。交互に警備をしながらのんびり行きましょう。」


 まあ、のんびりと言うほどゆっくりは進んでいない。時速70km位は出ていると思う。その後も10体ほどのヴォジャノーイに会ったが、魔石ライフルや魔術を放ち、攻撃されることなく撃退することができた。湖がほどなく終わると言う場所に、小さな島が浮かんでいた。次階層入り口は、その島にあるようだ。


 島には、木々は生えておらず、島中央に大きな扉があった。そして、その上わきに扉を守るように魔物が座っていた。僕たちとの距離があるからか、魔物は、座ったまま身動きしない。いや、石なのか?ただの石像?


「シエンナ、ソーディーとガーディーを偵察に出してくれない。」


 ミラ姉がシエンナに支持を出した。


「了解です。」


 シエンナがガーディーとソーディーを偵察に出した。2体が入り口側の魔物?に近づいても反応はなかった。


「シエンナ、あの2体の魔物は何かわかる?」


「ガーゴイル。今は、動いていませんが、Aランクの魔物だったと思います。」


「みんな、今からガーゴイルに攻撃を仕掛けさせるわ。防御の体制だけ取っていて、殺気は漏らさないようにね。ガーゴイルが動き出すきっかけになるかもしれないから、良い。」


 全員が頷いて返事をした。


「シエンナ、ソーディーとガーディーに攻撃させて、同時によ。ぎりぎりまで、攻撃命令は出さないでね。」


 左右のガーゴイルの前にそれぞれ移動した。


「攻撃!」


 ソーディーは、剣でガーゴイルの首を落とし、ガーディーは、盾で殴りつけ、首から上を破壊した。2体の魔物は、ダンジョンに吸収され、魔石だけが残った。


「お見事です。」


 ボフさんがミラ姉を褒めている。なんで?


「戦わずに、魔物を討伐するとは、ガーゴイルがゴーレムに搬送しないことを知っていたのですか?」


「知ってるはずないでしょう。偶然よ。それに、凄いのはシエンナの指示の仕方だと思うわよ。攻撃の気配を全く出さずに一瞬で討伐させたんだから。」


「そうですね。シエンナさんも凄いですな。流石Sランクパーティーです。」


 今度はオカタルさんが誉めてきた。同じアグリゲートメンバーなんだから、そんなに褒めてくれなくてもいいのに…って、僕が誉められているわけじゃないか…。


「全員、オットーに乗り込みましょう。この大扉を開くわよ。」


 全員オットーに乗り込み、ガーディーとソーディーに扉を開けてもらった。


 ガーディアンクラスの大きなゴーレムがずらりと並んでいた。


「ガーディアンの間ね。」


「3層と同じなら、僕たちにとっては、コアサービスの間だね。」


「同じだと信じて…。アンディー、レイ、デッキに上がって…、あっ。その前に、シエンナ、バッキーを先に上げて護衛させてくれない?」


「了解しました。バッキー、デッキに上がって後から上がってくるアンディーさんとレイさんの護衛をお願い。」


 バッキーを取り出したシエンナは、指示を出し、バッキーをデッキに上がらせた。


『カンッ!』


 直後、金属音。バッキーが盾で矢か何かをはじいたようだ。


「このガーディアンの間では、歓迎の攻撃があるみたいです。」


「両側のガーディアンのコアを同時に収納するには二人必要ですから、盾師ももう一人必要ですね。私がお供しましょう。」


 ヒューブさんが手を挙げてくれた。


「安全の為ってことで、俺も付き合うぜ。前方からの攻撃は、俺がなんとする。」


 ドローさんも一緒に行ってくれるそうだ。


「じゃあ、お願いするわ。先に盾師がデッキに出て、ドローから次にヒューブささん。シエンナは、オットーの操縦とバッキーへの指示をたのむわ。」


「「「「「了解。」」」」」


 ドローさん、ヒューブさん、アンディー、僕の順番でデッキへ出た。


『カンッ、カンッ、カンッ、カンッ』


 一人出るごとに矢が飛んできた。後方斜め上からだ。ここで、罠を破壊するために攻撃したら全てのガーディアンが動き始めるかもしれない。ガーディアンの間では、攻撃は、厳禁だ。


「アンディー、1、ハイのタイミングでテンポよくいくよ。シエンナ、聞こえているよね。3階層より数が多いから、少しテンポを上げていくよ。」


 シエンナが、オットーを移動させて一番目のガーディアンの前に来た。


「いくよ。よーい。1、ハイ。1、ハイ。1、ハイ。1、ハイ。1、ハイ。1、ハイ。1、ハイ。…。」


 左右20体ずつのガーディアンのコアを収納、最後の4体は、ミスリルガーディアンだった。かなりの量のミスリルを回収することができそうだ。


 3層と同じように、最後の4体の先に祭壇があった。今回は、そこに魔石を入れる穴が4つ開いていた。


 最後の4体のコアを破壊すると、ミスリルの瓦礫の中から魔石が現れた。それを回収して、その後、ミスリルとコーラルゴーレムの瓦礫も回収した。


 魔石を4つ穴にセットすると扉が現れた。次回層への扉だ。


 扉を開くと、青々とした草原が広がり、右手側に森があった。草原と森の階層だ。





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