第210話 SSSランク

 海の階層だ。僕は実は始めてだ。ロジャーとミラ姉、シエンナは3回目になる。大まかな地図もある。前回リングバード3機とシエンナたちで探索して作ったものだ。


 僕は、サーチで階層入り口を探した。何か所かに反応がある。ダミーの可能性も捨てきれないけど、全てが階層入り口の可能性もある。一番近くの階層入り口から行ってみるしかないだろう。


 タブレットに映し出された地図を見て、サーチの結果から一番近い階層入り口を指示した。カニの島。そう書いてあった。その隣の大陸みたいなところにも階層入り口はあったけど、かなり奥でここからは離れていた。だから、近い所から行ってみることにした。


「どんなフォーメーションで行くのが良いのかしら。」


「フィートをシエンナが操縦して移動砲台にレイ、右にヒューブで左がサム。オーとソイが交代要員。リア機に私とロジャー、ルー。リカ機にアンジー、ボフ、アンディー。フェイ機にドローとシェリー、ヴェルで良いかしら?」


「前回は、フィート1機で10分くらいだったかしら。このフォーメーションでサクッと上陸しましょう。」


 階層入り口から1時の方向に全速で飛んで45分程で島に着いた。高度50mを保って海岸に近づく。


「フィートとリア機を中央に、右がフェイ機、左がリカ機で横一列で攻撃を開始。海岸を5つに割って中二つをフィートが担当。私が初撃を撃つわ。その後カニがどんどん出てくるはずだから、続いて攻撃をして頂戴。フォレス送信。」


『了解』全部の機から返事が来た。


「初撃。行きます。フォレス送信。」


 前方の魔石ライフルから高出力のファイヤボールを撃ち出した。


『ドビュ・ゴーッ』


 その一撃を合図にしたように砂の中からカニが出てくる。


 各ドローンから一斉に魔術やライフルからのファイヤボールが撃ち込まれた。海岸は、砂煙が跳ね上がり何も見えないくらいの激しい弾幕が海岸を襲った。5分も攻撃が続いていただろうか。魔物の気配はなくなり海岸が静かになった。


「フィート、索敵しながら海岸に近づいて。シエンナに送信。」


『フィート:魔物の気配はありません。着陸します』


 シエンナがフィートを着陸させて、僕は外に出てドロップ品と魔石を収納した。魔石は、213個あった。それから、カニ肉やハサミが100個以上落ちていた。ここの砂も少し収納しておこう。ガラスの素材になるかもしれない。


 海岸から獣道のような細い通路が島の中央に向かって続いていた。サーチで確認すると階層入り口は、海岸の右端に見える通路につながっているようだ。


 ガーディーを先頭にソーディーが2番手、殿をインディーが務めて、大樹を真ん中にして僕たちが前、後ろをファルコンが取り、2列で進んでいった。全員歩きだ。ソーディーとガーディーが木々を薙ぎ払って道を整えてくれるけれど見通しは悪く、歩きにくい。


『ガガガバギザザザカギガガガガガッ』


 獣道の奥から音が聞こえてくる、大きな何かがこちらに近づいてきているようだ。ガーディーが盾を構えて会敵に備えた。


『グワン。』


 金属同士がぶつかり合うよな音がして、ガーディーの盾が一瞬持ち上げられた。


「ウェーポーン・バレット!」


 アンディーの高出力ウェポン・バレットがガーディーの頭上から盾の前方に炸裂した。前方の木々がなぎ倒され、急に回りが明るくなる。


「今のは何だ。全く見えなかった。」


「この獣道一杯の黒い何かが近づいてきて、ガーディーの盾にぶつかったんだ。」


「海岸まで撤退よ。相手が分からないのに闇雲に突っ込めないわ。」


 ミラ姉の指示で撤退が決まる。


「先頭だった2体で殿をお願い。レイ、サーチで魔物の位置を探って頂戴。ロジャーも索敵に最大魔力を注いで。」


「ファルコンも索敵に力を注いで。大樹は、中央に固まって。できる限り速やかに撤退よ。」


「さっきの魔物の気配は離れていくみたいだ。その他の魔物の気配は感じきれない。いないかもしれないけど、自信がない。」


 僕の声に他のメンバーも頷いている。とにかく気配が探りにくい。すぐ側にいるようでもあるし、近くにいないようでもある。相手が何なのかさえ分かれば、場所が特定できるのだけれど、敵意だけでしかサーチできないから良く分からない。


「俺も同じようなものだ。ただ、ウェポンバレットは、ある程度ダメージを与えているようだ。恐れと逃走の気配が遠ざかるのは分かる。」


「私もロジャーに同意する。先ぼとの魔物がすぐに襲ってくることは無いだろう。」


 ヒューブさんもロジャーに同意してくれている。二人が言うのならほぼ間違いないだろう。ほんの少しだけ安心したが、サーチを緩めることなく撤退を続けた。


 もうすぐ海岸だ。前が明るくなっている。そう思った時、

『ガガガバギザザザカギガガガガガッギギギガガザッザザザ』


 さっきと同じ音が、ジャングルの方、道がない場所から聞こえてきた。浜辺に出ようとする僕たちの進路をふさぐように音は、海岸側に回り込んで言っている。


「シエンナ、インディーを回して、道をふさがれたくない。でも、真横からつっこくで来る可能性もあるわ。みんな盾師を前に、音の方に射線を確保して、全員最大火力を練り上げておいてよ。」


『ガガガバギザザザカギガガガガガッガキガキバキバキガガバキ』

 木々がなぎ倒される音が左前方から聞こえてくる。


 黒い大きな魔物。岩のように大きな魔物が大きな口を開けて僕たちの方に来た。森の奥につながっている黒く太い首。蛇、違う。


 魔力を練り上げて、火力を増していた攻撃魔術に送る魔力が滞った。恐怖。巨大で絶対的な力を持つ者が捕食の為に牙を向けている。


「撃って!全員、最大火力で攻撃よ。インディー!頑張って。止めるのよ!」


『ズガガガッ、ゴーッ、ガガッゴーン。バキバキゴー!』


 インディーの盾をかみ砕き、インディーさえ吹き飛ばして僕たちに牙を向けていた魔物に命中する。大きな岩のような頭が持ち上がり、牙が折れた。焼かれ、凍らされた頭がこちらに来る勢いをなくし、ポタリと下に落ちたかと思うとズルズルとジャングルの奥に引っ込み始めた。


 僕たの魔力も残り少なくなっている。でも、


「全員、追撃よ。今のがしたらまた来る。逃がさないで。前魔力で最大火力の攻撃をするのよ。」


 ソーディーが頭に大剣を突き刺し、動きを止めようとした。それでも後退を少し送られることができたくらいだ。ソーディーごとジャングルの奥に引き込む勢いで後退してく。


「全員、魔力は練れた。最大火力でサイド攻撃よ。ソーディー!射線を開けて、剣は突き立てたまま避けなさい。」


 ミラ姉の指示をシエンナが正確にソーディーに伝えている。


「撃って!」

 練り上げられた最大量の魔力で攻撃がなされた。ジャングルの木々とともに岩のように大きな頭が吹き飛ばされていった。頭の形はなくなりった。しかし、


『ズズズッズズズッ…。』


 後退の勢いはなくなったが、なお逃走しようとするように頭をなくした首は下がって行っていた。


「頭は完全に消し飛ばしたのに…。」


「ヒドラ…。多くの頭を持つ魔物。SSSランクの魔物のヒドラか?」


 オカタルさんがズルズルと交代していく魔物を見て呟いた。

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