第206話 氷の階層の魔石集め

 次の階層は、死ぬほど寒い階層だ。でも、エスにはスキーとエアコンがある。この階層で少し魔石稼ぎをして下に向かうのも良い。この階層の魔石は、氷属性の魔石で、道具屋にも冒険者ギルドにも高く売れる。大きな魔石だと1個で金貨数枚になる。


 これから事情が変わるかもしれないけど、冷蔵や冷凍の魔道具には欠かすことができない魔石だ。高級宿屋なんかは、この魔道具を持っているから、様々な料理を出すことができると言っても良い。


「こんな浅い階層に氷の魔石を取ることができる階層があるなんて信じられません。」


「そうだろう。でも、前来た時よりも暖かくなっていないか?」


「もしかしたら、初回限定サービスで来ていたスノードラゴンがいなくなったからかしら?」


「それなら、前回みたいに大きな氷の魔石は取れなくなっているのか?」


「とにかく、魔物を狩ってみましょう。シエンナ索敵お願い。ドローンも飛ばしてみて。」


「了解です。索敵開始します。」


 エスの窓からドローンを飛ばして索敵範囲を広げている。数十秒で魔物の気配を見つけた。


「ここから8時の方向に、ブリザードディアを見つけました。接近します。」


 前回よりも雪が少なく、エスもかなりのスピードで進むことができる。すぐにブリザードディアと会敵することができた。


「俺に仕留めさせてもらえないか。」

 ボフが頼んできた。


「分かりました。回り込みながら11時の方向に獲物を見る方向から近づきます。射線ができたら撃ち込んで下さい。」


「了解。」


 魔力をかなり込めた白いファイヤーボールが、ブリザードディアに向かって飛んで行った。頭を吹き飛ばされたブリザードディアは、魔石と皮を残して消えて行った。魔石の大きさは、並みだ。金貨3枚くらいにはなるかもしれない。


「次の獲物までは、かなり離れています。あら…、小さい魔物の気配です。小さい魔物は、あちらこちらに隠れているようです。気配の方に近づいてみます。」


 シエンナの情報共有で見つかった小さい穴は、数えきれないほどあった。しかし、魔物は一匹も出てこない。


「穴に向かってファイヤーボールを撃ちこんでみましょうか?魔物が飛び出してきたところを一網打尽にするというのはどうでしょうか?」


 サムさんが提案してきた。


「スノーラビットの巣穴が、ほぼ同じ方向を向いているのって何か意味があるんじゃないですか?」


 シエンナが穴の向きに気が付いて言ってきた。


「ダンジョンの中だから、太陽は関係ないな。」


「風はどうでしょうか?前この階層に来た時は、冷たい風が吹いていました。」


「冷たい風を嫌がってるってことか?」


 しかし、こんな寒い階層の魔物が冷たい風を嫌がっているとは考えにくい。


「試しに、巣穴から見える所にファイヤーボールを撃ちこんでみましょうか。あるいは、火属性の魔石に魔力を注いで置いてみるとかはどうでしょうか?」


「ロジャー、火属性の魔石持ってる?」


「持ってる。寒がりのスノーラビットなら喜んで近づいてくるかもしれないな。魔力を注いで転がしてみるぞ。」


 火属性の魔石を取り出して魔力を注いだ。魔法陣を刻んでいるわけじゃないから炎を出したり高温になったりするわけじゃないけど、ほんのりと温かくなっている。その魔石を穴から見える場所に転がしてみた。


「…、何も起こらないな。」


「じゃあ、やっぱりファィヤーボールか…。あっ!スノーラビットが出てきた!」


 巣穴からたくさんのスノーラビットが顔を出し、額の上を光らせている。魔法を撃つ仕草だ。


「一斉攻撃。バレット系を持ってる人は、バレットでアイス系には耐性があるはずだから、できるだけ別の魔術を使って!」


 ボフはロックバレット、その他は、魔石ライフルで攻撃を始めた。スノーラビットたちは、初めは俺たちではなく魔石に向かって攻撃をしていたが、ライフルから発出されるファィヤーボールの熱に反応したのかエスに向かってアイスバレットを撃ち込んでくるようになった。


 魔術発出口から手を出していたボフが負傷したが、その他の負傷はなく、スノーラビットの攻撃が終わらせるまでそう時間はかからなかった。スノーラビットからの攻撃が止んだ後エスを巣穴に近づかせて確認した。小さな氷属性の魔石が各巣穴に1個ずつあった。所々にスノーラビットの毛皮も落ちていた。


「ボフ、大丈夫か?」


 アンジーが心配そうにボフの様子を見ていた。


「大丈夫だ。こんな傷、ヒールさえいらないくらいだ。」


「ボフ、丁度いい。これを手に持ってあなたの魔力回路とつないでヒールをかけてみて。面白いことが起きるわ。」


 ミラ姉が自分が持っていた初級回復ポーションのボトルをボフに渡した。ボフは言われたようにヒールをかけたようだが、ビックリして目を丸くしている。


「なんなんだ。このヒールの効き目は…。そして、魔力はほとんど必要ないぞ。」


「でしょう。これも非常識な回復ポーションとヒールの使い方よ。覚えておくと良いわ。あっ、その回復ポーション持っていて良いわよ。私は、まだたくさん持ってるから」


「それにしても、前回とは出てくる魔物がかなり違いますね。」


 シエンナがそういうとミラ姉も頷いていた。


「大した魔石も手に入りそうにないから次の階層に向かいましょうか?」


「ボスは、ドラゴンじゃないはずだし、サクッと倒して下に降りましょう。」


「でも、レイがいないから、その下の階層への入り口多分見つけられないぞ。」


「良いじゃない。それに、初回限定サービスが続いていたら、全員揃ってないと心配だわ。今日は、下の階層の探索をしてボス部屋を見つけても入らないで帰りましょう。ファルコンのみんなもそれでいい?」


「俺たちは、このダンジョンの特性が良く分かっていないからな。ミラの指示に従うぞ。」


「それじゃあ、ボス退治に行きましょう。シエンナ、お願いね。」


「了解です。ドローンに乗り換えますか?」


「寒いから、乗り換えは一回だけにしたいわ。このまま行ってもらって良い?」


「大丈夫です。雪もだいぶ減ってますから1時間位で到着すると思います。ゆっくりしていてください。」


「索敵によさげな魔物が引っかかったら魔性を採集しましょう。宜しくね。」


「はーい。では、出発します。」


 途中、一匹だけブリザードウルフを狩ることができたが、それ以外にはめぼしい魔物とは出会わずにボス部屋に着いた。


「ここでオットーに乗り換えます。インディとガーディー、ソーディーも出てもらうんで、皆さんササッと乗り換えて下さい。」


 シエンナも寒いからか、みんなを急かして乗り換えを済ませた。ソーディーに扉を開けてもらって、殿しんがりをインディに任せて中に入った。


 白い部屋。20体のガーディアン級のアイスゴーレムが中に居た。ゴーレムは、私たちを攻撃してこようとはしない。ゴーレムの中に居る限り敵認定はされない。コアを収納することは攻撃認定されるのかどうか。その辺は良く分からない。兎に角試してみるしかない。


 オットーから出ると確実に敵認定される。だから、オットーの中からコアを収納することにする。それができるのは、この中では、ミラ姉と俺だけ。俺は、ほんの少しだけ距離があっても物を収納できるようになっただけで、コアも離れた場所から収納できるかどうかは分からない。


「シエンナ、できるだけ近づいてくれ。ミラ姉は、どのくらいの距離なら収納できるの?」


「そうねえ。5mってところかしら。やっみれば分かるわ。」


 俺は、1mがどうにかってところで収納できた。ミラ姉は、5mは収納出来ていた。慎重に動き20分くらいかけてすべてのアイスゴーレムの核を収納した。


 核の収納でゴーレムを倒したからドロップ品はない。氷属性のゴーレムコアという珍しいコアを手に入れた。

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