第202話 アグリゲート契約

「え?聞いていました?欲しいと思いましたが、姉御たちの話を聞くと、まだまだだなって思ったんですよ。姉御たちだって、パーティーハウス持ったの最近なんでしょう?」


「ああ、でも、私たちは、例外だぞ。何しろ森の賢者と偶然知り合っただけだからな。その依頼を色々こなしているうちにこうなったと言うだけで、私たちに特別な力があったから、今の私たちがあるわけじゃないんだぞ。そもそも、冒険者同士だからこんな横柄な口の利き方をしてるけど、シェリーたちの方が先輩なんだからな。」


「姉御、なんてこと言ってるんですか。姉御たちのパーティーの実力は、この辺りの冒険者なら誰もが知っていますよ。冒険者にとって、年齢が上か下かなぞ全く意味がないでしょう。ランクと実力。冒険者が他の冒険者を見る時の判断基準はそこです。姉御たちは、その両方を持っている凄い冒険者なんですよ。」


「そんな風に手放しで誉められるとなんかくすぐったいな…、いや、そんなことはどうでもいいんだった。大樹の誓は、パーティーハウスを欲しいと思っていたのかを聞きたかったんだ。もしも、少しでも思っていたなら、森の賢者の研究所の披露パーティーが終わった後、砦の私たちのパーティーハウスまで来てくれないか。」


「その…、そのパーティーっていうのは、いつあるんですか?」


「3日後だ。だから、4日後に来て欲しい。」


「それで、私たちが、パーティーハウスを持ちたいのと、姉御たちのパーティーハウスに伺うのには、どんな関係があるのでしょう?」


「ああ、そうだな。それを言っておかないといけないな。それはだな。ええっと、アグリゲートパーティーって知ってるか?」


「パーティー同士の連携契約ってやつでしょう。知ってますよ。誘われたことは無いですが、ダンジョン深くを探索しているアグリゲートのことは聞いたことがあります。フォレストメロウの冒険者ギルドには、アグリゲートの登録はないみたいですね。ダンジョンが見つかってまだ日が浅いですからこれからできるんだと思いますが。」


「そう、そのアグリゲートだ。私たちと契約しないか?」


「「「「「ええ~っ!」」」」」


「ミラさん、そりゃあ、とってもありがたいお誘いですが、それは、俺たちにとってはです。アンデフィーデッド・ビレジャーの皆さんとは実力差がありすぎてお荷物にしかならないと思いますよ。」


「いや、絶対そんなことは無い。今日一緒にダンジョンに潜ってみてそう思ったぞ。私たちと同等以上の力はすぐに付けられるとな。」


「ありがたいお言葉です。しかし、その言葉を真に受けるほど、私たちは、若くもなければ、思い上がってもいません。いったいどうして私たちをお誘いになろうと思われたのですか?」


オカタルが、バカに丁寧な言葉づかいで聞いた来た。


「まず言っておくが、本当に一緒に組んで、森の賢者の魔道具で連携することに慣れれば、大樹の誓は、私たちと同等かそれ以上の実力を持つことになる。それは、おだてるために言っているわけでも、アグリゲートを組みたいから言っているわけでもない。それは信じて欲しい。何故誘うかは、簡単だ。お前たちなら、学校で冒険者見習たちに指導ができると思うからだ。それに、信頼に足ると感じているから。それだけだが、何か間違っているか?」


「間違っているかはともかく、そこまで、私たちを信頼してくださるなら、その信頼にこたえたいと思います。皆は、どう思う?」


オカタルがメンバーに尋ねた。他のメンバーも大きく頷いていた。


「お誘い、ありがとうございます。では、4日後、ミラさんのパーティーハウスに伺わせていただきます。」


「それでな。大樹の誓と同じくらい信頼出来て、子どもたちの指導ができるパーティーに心当たりはないか?」


「あっ。そう言えば、2日前、王都から来たって言う冒険者パーティーが、姉御のことを探していました。砦にいるかもって話したら、そっちに向かってみるって言って、拠点を出発したみたいですが…、ゴーレムバスのこと知らなかったのかな。歩いて行ったなら今頃砦にいるかもしれませんよ。姉御の知り合いならアグリゲートのこと話してみたらどうですか?」


シェリーの一言で、私は、砦に帰ってみることにした。ようやく一パーティー誘うことができた。後、一パーティー確保出来たら、アグリゲートも形になるはずだ。


マウンテンバイクで、砦に戻り、パーティーハウスに帰ると、お客さんが来ていた。


「ミラ様、ミラ様にお客様です。今、タブレットで連絡しようとしていた所です。」


ドアを開けると直ぐ、エリックさんにそう言われ、客間に連れていかれた。


「冒険者パーティーのファルコン・ウィングという方々のようです。御存じですか?」


「さあ…。覚えていない。誰だろう。」


私が、客間に入ると、5人が、深々と礼をして固まった。


「えっ?どうしたのですか?」


「先日は、私の夫の命を救って下さってありがとうございました。」


声の方を見ると深々と下げた頭の上に耳が見えた。初めて会う人だ。猫獣人の女性の知り合いはいない。すらりとしたスタイル。スレンダーだけど女性らしい丸みのあるスタイルだ。背も高い。きれいな人だ。


「私です。命を助けていただいた。ミラ様ですよね。助けていただいた時は、意識を失っており、お礼も言えずに失礼しました。あの時は、私とサムエルだけが参加した護衛任務だったので、他の三人とは、面識はないとは思いますが、これが、私のパーティーのメンバーで、先ほどお礼を言わせていただいたのが妻のアンジェリカです。」


「はあ、あの、それで、今日の御用というのは何でしょうか?」


「お礼です。お礼を言うために伺わせていただきました。」


「ええ?お礼って、もう頂きましたよ。あの場で。だから、わざわざ来て頂かなくても大丈夫でしたのに。」


「そのお礼とは、あの場で、依頼主が支払った銀貨1枚のことでしょうか?」


「そ、そうです。治療代金です。」


「私の夫の命は、そんなに安くはありません。」


「えっ?いや、そんなつもりで言ったわけではないのです。それに、お礼が欲しくて、治療したわけではありませんし。」


「しかし、俺たちは、お礼がしたくて伺ったのです。」


今度は、アンジェリカさんと少し似た感じの猫獣人の男性が言ってきた。


何か、目の圧力が怖いです。悪意があるわけではないのは分かります。怒っているのでもないのも分かります。でも、圧が強い。私は、どう答えたらいいのか分からず、エリックさんに目で助けを求めた。


「皆さんのお気持ちは、良く分かりました。まずは、お掛け下さい。そして、少しお話しなさってはいかがでしょうか?」


ソファーに腰かけ、エリックさんのお茶のを飲みながら話をした。ファルコン・ウィングの皆さんは仲間思いで誠実かな人たちなんだということは、良く分かった。そして、どうしても、私の役に立ちたいと恩を返したいと思っているということも良く分かった。


「あの…。実は、私たちのパーティーは、アグリゲートパーティーを探しているのです。皆さんは、帰らないといけない場所がありますか?」


「我々は、パーティーを組んだ経緯も複雑で、故郷を捨てた身なのです。ですから、帰る場所を探していると言った方が良い位なのですよ。それが、何か皆さんのアグリゲートパーティーと関係あるのですか?」


「暫くの間でも良いのです。皆さんの帰る場所をこの砦にしてくれませんか?そして、私たちとアグリゲート契約を結んでほしいんです。」


「そのアグリゲート契約で何をなさりたいのですか?もちろん、ミラ様の役に立つのでしたらアグリゲート契約を結ぶことは、全く問題ありません。」


「それはですね。…。」


私は、学校の講師のこと、ダンジョン探索のこと、私たちが森の賢者からたくさんの依頼や道具を受けっていることなど話して、アグリゲート契約を再度持ち掛けた。


「分かりました。そのアグリゲート契約お受けします。宜しくお願いします。」


こうして、初めてのアグリゲートパーティーを見つけることができた。


その後、エリックさんにアグリゲートパーティーハウスを案内して貰った。ファルコン・ウィングの皆さんは、町に借りていた宿を引き払って、今日からそこに住むことになった。エリックさんにゴーレムバスの利用の仕方を教えてもらって、町に戻っていったから、1時間もかからず砦に戻って来るだろう。バスの時間がちょうど良ければだけど。


その間に、アンディーとレイを呼んできて、ベッドなんかを出してもらっておこう。今日の晩御飯は、歓迎パーティーだ。






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