第198話 火山噴火と魔石の販売

 朝、朝食後それぞれの役割分担に沿ってパーティーハウスを出て行った。ミラ姉は、ロックバレーの冒険者ギルド出張所へ、アンディーとシエンナは、砦の工学技術学校の建物作りに行った。そして、僕とロジャーは、王都だ。


 王都へは、ロジャーが操縦するドローンで向かった。1時間程度で到着する予定だ。


「ロジャー、今日は、何人くらい集まっていると思う?」


「そうだな。最低2人はいるぞ。元ギルマスの二人にな。で、アントニオさんは、冒険者ギルドでの人望は、なさそうだったから、冒険者ギルドから研究所に参加する人はいないだろうけど、鍛冶師ギルドや錬金術師ギルドには顔が効くみたいだからな。時計やマウンテンバイクなんかを企画して作った実績から、何人か連れてくるんじゃないかな。ジェイソンさんは、人望はあるみたいだけど、調剤ギルドからは連れてこないと思う。調剤ギルドも大切に思っているみたいだからな。だから、何人連れてくるか全くわからない。案外、精錬術師ギルドや工学魔術師ギルドから若手を引き抜いてくるかもしれないぞ。」


「ロジャー凄いな。アントニオさんやジェイソンさんのこといつの間にそんなに分かるようになった?」


「そりゃあ、お前らから何度も王都にお使いに出されたからな。アントニオさんともジェイソンさんとも何度も話したし、お食事に誘われたりもしたんだぞ。」


「へぇー、そうだったんだ。あっ、話は、変わるけど、研究所で一番最初に研究するとしたら何が良いと思う?」


「俺が研究してもらいたいことか?それなら、冷たいジュースを作る魔道具と氷菓子を作る魔道具だな。氷の魔石ってべらぼうに高いから氷菓子や冷たいジュースなんか高級宿かレイたちと一緒じゃないと飲めないからな。それに、向こうの世界にあるって言ってたアイスクリームなんてのも食べてみたい。」


「アイスクリームか…。ラーメンを食べた後、食べると格別なんだよね。」


「なんだ、そのラーメンってのは。向こうの食べ物か?」


「そう。美味しいんだ。でも、店の人が目の前にいるし、メニュー化できなくて…。いつかメニュー化したい食べ物なんだよね。」


「うまいのか?」


「美味しいよ。ロジャーはきっと好きだと思う。アンディーも好きだろうな。ミラ姉も好きだと思うけどシエンナはどうかな?」


「他にもメニュー化していない美味しいものがあるのか?」


「多分、たくさんあるよ。こっちの世界にも食べたことない物あるんだから。そう、昨日ダイアリー見てたら、向こうの世界には、たくさん火山があって、噴火をしてる火山もあるんだって。噴火ってものが良く分からないんだけど、ロジャー聞いたことある?」


「魔力がたまりすぎて火山が爆発することだろう?王国にも火山はあるけど、そんなになるまで放っておくことは無いと思うぞ。大抵、たまった魔力を魔石で吸い上げて何かに使うからな。その時は、たくさんの魔石が必要になるけど、王宮は、そんなときの為に倉庫にたくさんため込んでいるっていう話だ。魔石をだぞ。」


「へぇ、知らなかった。火山の管理も王宮の仕事なんだ?」


「王宮の仕事という訳じゃないけど、王宮くらいしか対処できないことだな。冒険者も狩りだされるぞ。魔石を運んだり、魔力を吸い取ったりするのは、俺たち冒険者の仕事だぞ。」


「ドローンがあれば、楽にできるようになるね。魔石だったら運搬用ドローンで何百個だって運べるからね。」


「火山から魔力を吸い上げる方法は知らないけど、分かったら俺たちだけでもやれるかもしれないな。」


「だめだめ、そんなこと言ってたらそんな依頼が来るよ。今にも爆発しそうな火山になんて行きたくないからね。」


 そんなこと言っていたら、タブレットが震えた。


『ティモシー:王宮からの緊急依頼だ。持っているだけの魔石を持って王都に来てくれ。火山噴火の予知が出された』


「ほらーっ、ロジャーが言うからだよ。」


「俺とレイで俺たちのパーティーが持っている魔石は、ほとんど持っているよな。」


「そうだね。僕たちのアイテムボックスとストレージに入ってる分でほぼ全部だと思う。」


「じゃあ、このまま行っても大丈夫だな。」


「そうだね。このまま行こう。ところで、ロジャーは、魔石は、何個収納しているの?」


「俺は、割と大きいのだけで、約850個かな。」


「僕が、3148個だから、4000個弱って報告していいよね。」


「良いと思うぞ。何なら基準を少し変えて、4000個丁度にしても良いけどな。」


「分かった。じゃあ、タブレットで返信するよ。こほん。」


 一度咳ばらいをして、喉の調子を整えた。


「後、10分程で王都に到着します。魔石は、約4000個持参しました。ティモシー様に送信。」


 大丈夫、変な言葉は送信されていない。


 5分程魔が空いて、ティモシー様からの連絡が入った。


『ティモシー:何で、10分で到着する!そんなはずないだろう。本当に10分で到着するなら、すぐに中庭を空けるから、そこに着楽せよ。時間的には余裕ができた。じっくり話を聞きたい故、必ず中庭に着陸するようにしろ』


 何故か、ティモシー様が怒っているように見えるのはどうしてだろうか…。


「ティモシー様、怒っているよね。どうして?」


「俺にもわからんな。怒られるんなら今すぐ行く必要ないんじゃないか?研究員を研究所まで連れて行ってから、行こうぜ。そうしたら怒られないんじゃないか?」


「そんなことしたら、「なんで10分なんて嘘ついた!」って怒られるに決まってるだろう。でも、早すぎるから怒られるんなら、時間を改めてお伺いしましょうかって連絡してみようか?」


「到着が早すぎてご都合が悪いようでしたら、時間を改めてお持ちしましょうか?ティモシー様に送信。」


 送信したらすぐに返信が返って来た。


『ティモシー:そんなことは言っておらん!早く来るのだ』


「ロジャー、ティモシー様、ますます怒っちゃったよ。どうするんだ。」


「しょうがない。兎に角着陸するか。レイ、おとなしく怒られて来い。どうして怒れないといけないのかは分からないけどな。」


「ひどい…。ロジャーも一緒に怒られてよ。」


「俺は、ドローンに待機しておく。レイが行って来い。」


「だめだよ。魔石はロジャーの分も合わせて4000個なんだから一緒に行かないとダメに決まっているだろう。」


「レイ、お前の座席の前にアイテムボックス開いてくれないか?」


「どうして?」


「ちょっと試してみたいことあるからさ。」


「うむ。そりゃっ!」


『ゴドッ』


「できた!直接触らないでストレージから移動させることができたぞ。俺が持ってた魔石は、全部レイのアイテムボックスの中に移動させた。これで、レイ一人で行っても大丈夫だな。ヒャヒャハハ。」


「ロジャー!ふざけないよ。」


「おっと。王宮上級だ。着陸するぞ。」


 僕たちが着陸すると、国王陛下とティモシー閣下が難しい大をして立っていた。


「本当に10分で到着したのだな。乱暴な連絡を送ってすまなかった。二人とも執務室に来てくれ。」


 ティモシー様が少し優しい口調で謝ってくれた。国王陛下は、目で着いてくるように言っていた。僕たちは二人で執務室に着いて行った。


「レッドトーレント火山の聖殿から使いが来たのだ。火山の魔力が徐々に膨れ上がっているというな。このままでは、一月以内に噴火することになるだろうと言う予見を伝えてきた。」


「それで、魔石が必要なんですね。でも、王宮の倉庫には、たくさんの魔石が保管してあると聞いたのですが…。」


「確かに、魔石はたくさんある。しかし、それでも足りないくらいなのだ。有人ドローンの運用に輸送用ドローンの運用。ゴーレムバイクに必要な魔力の手配。今、王国は、空前の魔力不足状態なのだ。その魔力不足の王国に天の恵みがもたらさりたのだ。このもたらされた魔力を有効に使わぬ手はないであろう。だから、大量の魔石が必要なのだ。分かってくれるか?」


「分かりました。火急の危機という訳ではなく、天の恵みなのですね。それは安心しました。」


「いやいや、危機といえば、危機なのだぞ。もしも、火山が噴火すれば、大変なことになる。しかし、それ以上に恵みなのだ。それでな。国庫は潤っているとはいえ、4000個の魔石を一つ金貨200枚で購入するのは非常に苦しいのだ。せめて、一つ金貨25枚に負けてはくれまいか?」


「魔力の収集には、行かなくても大丈夫なのでしょうか?」


「それは、大丈夫だ。今は、運搬用のドローンもあるからな。常雇いの職員だけでも魔力収納はできると思う。いくらかの増員は行わないといけないかもしれないがな。」


「分かりました。でも4000個と言っても全部Aクラスの魔物の物ではないですよ。大き目の魔石を全部数えていますからね。」


「それは、分かっておる。しかし、お主らの基準はかなり厳しいからな。Aクラスの魔物ばかりではないと言いながら、特Aだったり準Aクラスばかりだと思うのじゃよ。それでも一つ、金貨25でお願いだ。」


「それでも、金貨10万枚の取引ですよ。大丈夫なのですか?こんなに簡単に決めてしまって。」


「大丈夫だ。4000個の魔石をたった金貨100000枚で購入できたと知られても、誉められこそすれ、責められることは無い。」


「では、魔石をお渡しします、どこに出したらよいですか?」


「ここでは、まずい。ティモシー、魔石倉庫に連れて行ってくれ。それから、契約手続きと支払い手続きも頼む。購入金額の他にも、報酬は渡す。金貨ではないが、何らかの形でな。お主ら、王都に拠点を欲しくないか?王都に来るたびに宿暮らしでは、不自由であろう?」


「王都に拠点ですか?いらないと思います。拠点の維持も大変ですし、賢者の研究所ができたのでそちらの用事が多くなると思いますから…。」


「聞いておらんぞ。いつの間にできたのだ?」


「あっ、正確には、建物ができたのが昨日で、人は、今日連れて行きます。完成披露パーティーは、ジェイソン様とアントニオ様から招待状が届くことになると思いますので、都合がつく日程をお知らせください。宜しくお願い致します。」


「つい先日、着工し始めたと言っていたと思うのだが…、お主ら、時間の進み方が儂らと違いすぎるぞ。」


 後ろで、ぶつぶつ言っている国王陛下を置いて、ティモシー様と魔石置き場に向かった。良かった。研究員を迎えに来て新たな依頼を受ける羽目にならなくて。


 さあ、これから研究員の皆さんを迎えに行こう。


 ティモシー様と一緒に魔石倉庫に行って、魔石を納入した。魔石の査定に少しかかったが、倉庫のお役人に4000個の魔石納入を認めてもらった。


 その後は、契約書やら支払い請求書やらいろいろな書類を書かされた。納入した後に契約書を書くって変だけど、書類が揃っていないと、お金を支払ってもらえないからしょうがない。


 販売手続きだけで3時間近くかかった。約束の時間を過ぎている。研究員の皆さんは、王都の門の近くで待っているはずだ。本当は、そちらから迎えに行くはずだったけど、王宮に近い調剤ギルドにジェイソン様を迎えに行くことからにした。


 調剤ギルドに行くと、式典が開かれていた。何の式典か聞くと、ジェイソン様の勇退式なんだということだった。それが終わって、新調剤ギルドマスターの就任式が開かれるのだそうだ。


 こちらの方は、もう少し時間がかかりそうだったのでこっそり抜け出して冒険者ギルドに向かうことにした。その時、気が付いたのだけど、調剤ギルドマスターの勇退式の出席者の中にエリックさんが居た。そういえば、朝食の時いなかった気がする。いつの間に王都に向かっていたのだろう。言ってくれれば、一緒にドローンで来たのに。


 調剤ギルドを後にして、冒険者ギルドに向かうと、たくさんのギルド職員に送られてアントニオ様が入り口から出てくるところだった。職員の方の中には、泣いている方もいる。人望ないって思ってたけど、本当は、みんなに好かれていたのかな…。


 アントニオ様は、僕たちの姿を見つけると手を振って近づいてきた。後ろの職員の方は、皆さん深々と礼をして見送っている。


「よお、勇退式も新ギルドマスターの就任式も、昨日終っているからな。今日は、最後の出勤だったんだ。まあ、最後の引継ぎっていうやつさ。」


 そう言うと、後ろのギルド職員さんの方を向いて手を振った。


「お前ら、しっかり仕事しろよ。今度のギルマスは、少々頭は固いが良い奴だ。支えてやってくれ。頼んだぞ!」


『はい。』


 アントニオ様の声にギルド職員の皆さんは大きな返事で応えた。別れは、やっぱり寂しいものだな。

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