第197話 内輪の完成パーティー

 この3日間ミーシャ様は来ていない。その間に、研究所の建築はかなり進んだ。外壁と屋根は完成し、内壁は、張り終えた。居住エリアの個室区切りまではまだ終わっていないけれど、後でも移動できるように簡易的なつくりになっている。基本的には、休憩エリアだ。ベッドと簡単な飲食ができるスペースがあればいい。


 水回りも取り付けてある。水の魔道具をセットすることができるスペース作っておくだけで良いだろう。排水は、壁際の床に配水管を這わせてそこに繋ぐことができるようにした。お茶を飲んだりちょっとした茶会をしたりすることができるようなっている。


 成人男性なら飲み会を開くかもしれない。3階と4階、それぞれにお風呂とトイレは作った。各部屋に作っていない分、広く豪華な作りにしたつもりだ。


 4階には、女性だけが利用できるリラックススペースを作り、3階は男女共用の食堂を設置した。今のところ食堂は、朝と夕食のみを提供しようと思っている。そこで働いてくれる人も探さないといけない。


 研究スペースは、パーテーションはまだ設置してなく、建物の強度を保つための壁で区切られているだけだ。研究所に入ってくれる研究員の要望を聞いてパーテーションで区切っていく予定だ。基本的な広さは決めているが、必要に応じて切り離したり繋いだりして広さは変えるようにする。


 大人数での作業は、実験工房もあるから心配いらないと思う。


 そして、今日は、研究所の完成パーティーの日だ。本当の完成は、研究員が揃わないとできないんだけど、大規模な建築作業がすべて終わったということで、建物の完成パーティーを開く。


 最初に決めていたように、完成パーティーには、ここで働いてくれた作業員の家族にも出席してもらっている。ささやかだけど感謝の気持ちを伝えたがったからだ。


 工期は、普通の建築工事の50分の1位になったかもしれないけど、報酬は、普通の工事の2倍近くを支払っている。色々と無理をしてもらったお礼だ。


 まず、エリックさんに挨拶をしてもらった。この工事の契約代表者だからだ。それから我がパーティー代表としてミラ姉の挨拶。後は、親方に乾杯の音頭を取ってもらって飲み食い放題のパーティーの始まりだ。


 料理を作ってもらうために町の料理人を何人か雇っている。家のメイドさんたちだけじゃさばききれない人数だからだ。先日帝国で狩ったミノタウロスの肉も振舞っている。3体分くらいだけど、この人数でも食べきれないくらいの量だ。


ミノタウロスの肉ということは実は伝えていないんだけど、美味しいということで大人気だ。特にステーキに人気が集中している。僕としては、シチューがおすすめだ。


 正式な完成披露は、王宮の方々も招いて、ジェイソン様が着任した後に行う予定だ。その時には、研究員も到着していて、一番初めの研究テーマも大々的に打ち上げられるだろう。


 明日、王都に研究員を迎えに行く。王都では、調剤ギルドと冒険者ギルドのギルドマスターの交代という大事おおごとが起こっている。どちらのギルドも大騒ぎになっているだろう。でも、二人とも7日間もあれば、引継ぎができると言っていた。二人の希望で、ジェイソン様が研究所長、冒険者ギルドのギルマス、アントニオ様が研究企画部長だ。


 また、アントニオ様は、この研究所のそとに、いずれ自分の工房を作りたいと言っていた。この研究所で作られた高級・高性能の魔道具や道具を大衆向けに安価に普及させることを目指した工房を作りたいのだそうだ。その仕事はとても大切で有意義なことだと思う。


 森の賢者の研究所が始動するのは、研究者がやってくる明日からだ。砦に作る学校も、明日から着工される。まずは、測量とロープ張りだ。同時に基礎を作る工事も入るから、アンディーとシエンナは、砦の学校づくりを手伝う。


 ミラ姉は、ロックバレーの学校の指導者兼僕たちのアグリゲートパーティーを探している。みんなバラバラに動いているけど、やりたいことは繋がっている。


 研究者を迎えに行くのは、僕とロジャーだ。人数次第では、パーティードローンのフィートで連れてくる。人数が多ければ、オットーの出番だ。両方とも収納して持って行く。オットーでもフィートでも僕ができるのは、お願いするだけだ。操縦桿で操縦なんてことはしない。


 今回の研究所作りで本当にたくさんの人たちと繋がることになった。それが、良かったのか間違いなのかは、まだ分からない。でも、向こうの世界の玲の希望とこの世界のみんなの幸せが繋がっていればいいなと思う。


 今日の完成パーティーで、またたくさん人の笑顔を見ることができた。美味しそうにお肉を頬張る顔、自慢気に出来上がっている研究所を子どもたちに説明しているお父さんの顔、たくさんの幸せそうな顔が見られたことが嬉しい。


 今日は、昼過ぎまでみんな働いて、最後の仕上げをしてくれていた。それが終わって、風呂に入って、着替えて、家族とともにパーティーに出席してくれている。


 10月とはいえ、昼間はまだ暑い。良い天気が続いたからなおさらだった。そんな空気が少しひんやりしてきた頃、パーティーは、終わりに近づいていた。


「建築ギルドの皆さん。素晴らしい研究所を建てて下さってありがとうございます。本日完成したこの研究所は、これから、皆様の幸せにつながる数多くの物を生み出していくことをお約束します。今日、このように楽しいパーティーになったのは、ご参加してくださった皆様のおかげです。本当に、楽しい時間をありがとうごさいました。」


 パーティーの終わりに思わずお礼の挨拶をしてしまった。その言葉を合図にしたように参加者の皆さんは、会場を後にした。笑顔で語らいながら。


「「「「「お疲れさまでした。ありがとうございました。」」」」」


 会場を後にする皆さんに向かって僕たちは、お別れの挨拶をした。森の賢者の研究所の完成までもう少し。後は、人だ。


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