第195話 晩餐会とクルトシェフの自信作のお店

 皇帝陛下から晩餐会へ出席するように要請されたが、固辞した。帝国の美味しいものを自由に食べたい。冷たくなった料理なんか食べたくない。だから、高くても良いから美味しいお店を紹介してくれとお願いした。ミラ姉がとっても怖い顔で固辞して、美味しい店を紹介して欲しいとお願いすると聞き入れてくれた。


 紹介された食べ物屋を探しながら帝都を歩き回っている時、冒険者ギルドを見つけた。帝国での冒険者登録を行って、今日倒したミノタウロスの解体を頼んだ。くれぐれも何も捨てないようにお願いしてだ。勿論血も。一滴残らずという訳ではないけど血があれば、血抜きができるようになる。


 明日の朝、素材を受け取りに来ると約束してギルドを出た。冒険者ランクはAになっていた。王国の冒険者カードを見せたからだ。Sランク認定は、国が行うので帝国での実績がほとんどない僕たちには与えられないと言われた。


 冒険者カードを受け取ってギルドを出た時には、お腹がペコペコになっていた。早く店を見つけて食事にありつきたい。道行く人に店の場所を聞いたんだけど知っている人がいなかった。本当に美味しい店なのかな…。


「クルトシェフの自信作の店ってご存じないですか?」


「おっ、兄ちゃんたち帝都は初めてかい?」


 僕たちが、ちょっと派手目のお金持ちそうな女性にお店の場所を聞こうとしていると後ろからガラの悪いお兄さんが声をかけてきた。


「初めてってわけじゃないんですけど、紹介されたお店が分からなくて、探しているところなんですよ。」


「そんな店よりもいい店、紹介してやるぜ。紹介料をほんの少し頂くけどな。ついて来な。連れの女の子もきっと喜ぶぜ。」


「見つからない店よりも、ご案内願える店に行きたいのはやまやまなんですけど、そういう訳にもいかないんですよ。何しろ、皇帝陛下のご紹介の所ですから。」


「皇帝陛下だと、何ふざけたこと言ってるんだ。お前らみたいな田舎の若造なんかが、皇帝陛下にお目通りできるはずないだろう。さっ、さっさと着いて来な。たった銀貨1枚で良い店を紹介してやろってんだよ。」


 その男は、そういいながらロジャーの腕を引こうとした。が、ピクリとも動かない。


「何だ?なんで俺の腕を引っ張ってるんだ?」


 ロジャーを引っ張るのを諦めた男は、シエンナを引っ張っていこうと手を伸ばした。華奢に見える女の子を引きずってでも引っ張っていけば、僕たちもついて行かざる得ないだろうと考えたのかもしれない。しかし、シエンナは、盾師だ。そこいらの男の力で引きずっていこうなんてしょせん無理な話だ。


「引っ張るの止めて下さいませんか。いい加減にしないと跳ね飛ばしますよ。」


「ねえ、そろそろ、止めませんか?僕たちが知りたいのは、クルトシェフの自信作のお店なんです。」


「しょうがねえなあ、負けだ、負け。皇帝陛下に伝えてくれ。晩餐会に招待するのに失敗しましたと。」


「一芝居打って、ビックリ招待ってシナリオだったんだがな。お前たち強いし、冷静だ。暴れたら衛兵が集まって来て身動き取れないようにしてからご招待っていうのも考えていたんだけど両方無理だった。無料で、シェフの店にご案内してやるよ。ついてきな。こんな成りさせられてるけど、これでもれっきとした男爵なんだぞ。俺の名前は、ユリウス・アドリアーン・モーゼス・デイクストラ。ユーリっと呼んでくれ。宜しくな。」


「それで、本当にクルトシェフの自信作のお店ってあるの?」


「あるある。本当にうまい店だ。帝都の美食家ならだれでも知ってるっていう店だ。案内するからついて来な。」


 僕たちは、ユーリに連れられてそのお店にたどり着いた。絡まれた通りからほんの数分の所にあった。静かなたたずまいの隠れ家的な雰囲気のお店だった。


 料理は、美味しかった。本当に満足した。魚料理なんかもあってお肉の料理もあった。ミノタウロスを丸々1体持ってるって言ったら早く分かっていれば今日の料理が変わったのにと残念がられた。肉を譲ってほしいと言われたので、明日、ギルドで素材を受け取ったら届けに来ると約束した。


 代金を払おうとしたら、ミノタウロスの肉の代金だと言って受け取ってもらえなかった。肉を届けるのを忘れないようにしないといけない。


 お腹いっぱいになって皇宮に戻ったら、クーパー様が難しい顔で僕たちの宿泊場所の前で待っていた。


「お主ら、また、何かやらかしたらしいな。晩餐会は、お主らの話でもちきりだったぞ。」


「それは、良い。それは良いのだが、写真機能付きのタブレットいつく作ることができる?」


「どうしてですか?帝国のタブレットは、写真機能は付けないということになっていたではないですか?」


「しかし、そうも言っておられぬようになってしまったのだ。海の写真を見つかってしまったのだ。第1王妃と第2王妃にな。そして、皇帝とルーナ様のタブレットだけが写真を撮ることができるということが知れてしまってな、それからの雰囲気と言ったら…、地獄のようだったぞ。」


「それからは、帝国のタブレットにも写真機能が付けられないのかと矢の催促じゃ。そこで、国王陛下が森の賢者しかその技術を持たぬと伝えて一旦は、話は終ったように見えたのじゃが、今度は、森の賢者を紹介せよとうるさくなってしまってな。」


「森の賢者を帝国に連れてくるって無理です。」


「そりゃあ、そうじゃろう。とにかく、タブレットを写真付きに改造できるかどうかを確認してから知らせるということで何とか収まっているところなのだ。」


「しかし、王国内も写真機能付きのタブレットを希望してる方がたくさんおられるのですよ。それに、森の賢者しか作れないことになっているでしょう。」


「しかし、皇帝は、お主らと森の賢者は何かしら関係があると思っておられるようなのでな。力を使われてしまう前に国王陛下が、現在、森の賢者と直接連絡が取れるのはお主らだけだということを話されたのだ。それで、お主たちを待っておったのだよ。タブレットを何台写真機能付きに変えることができる?」


「魔術契約で写真機能付きのタブレットにする方たちの分の素材を除いても20台分位の素材は揃っておりますが、王国内は魔術契約を条件に購入させているのに、帝国には何の縛りもなくて大丈夫なんでしょうか?」


「そうじゃのう。そもそも王国王室内の近況連絡用にと帝国に持ち込んだものだからな…。とんだ厄介ごとの種になってしまったのう。」


 国王陛下にきちんとお話ししないといけないことかもしれない。写真機能付きタブレットと魔術契約は、そもそも関係なかったのに、関連付けてしまったことが間違いだったのかもしれない。


 帝国の写真機能付きタブレットの持ち主を縛るのではなくて、王国の写真機能付きタブレットの希望者の縛りをなくせば、お互いに齟齬なく手に入れることができるようになるはずだ。


 ただ、魔術契約は、相互契約だ。守る守られるの相互契約の形をとっている。そのことを理解し、タブレットとは関係なく契約を実行していただく方は、同じように金貨100枚の割引は続けることにする。


 契約を望まない方には、魔石を返却してもらって金貨100枚を返却する。これで、魔術契約をしない方と同額で購入することになる。帝国への輸出価格は、王国よりも高額になるはずだから、大量に売れることは無いだろう。


 今、考えたことをパーティメンバーに相談してみた。全員その方が良いだろうという意見だった。


「クーパー卿。」


 部屋に戻ろうとしていたクーパー卿を呼び止め、部屋に戻って、メンバーと確認したことを伝えた。国王陛下には、クーパー卿からお伝えいただくことになり、帝国には、20台だけ写真機能付きのタブレットを輸出することが可能だということを伝えるそうだ。値段は、一台金貨350枚。暴利だ。国営商会に、一台に付き金貨200枚のバックマージンを取らせるつもりのようだ。


 差し当たって、第1王妃、第2王妃、ルーナ様の帝国用のタブレットを持ち帰って写真機能付きに変更することだけはお願いしたいとたのまれた。届けるのは、できるだけ早くだそうだ。商会のドローンに届けてもらおう。


 でも良かった。晩餐会に出席していたら、どんなことになっていたか。考えただけでもぞっとする。明日は、できるだけ早く皇宮をお暇しよう。

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