第194話 氷の聖女(笑)再び

 約束時間の1時間前、僕たちは、王宮へ向かった。控えの間でしばらく待たされた後、中庭からロイヤルドローン乗り込まされた。パーティーメンバー全員だ。シエンナが操縦席前方右の狙撃手席に僕、左がミラ姉、後方がアンディーだ。ロジャーは、緊急時の移動狙撃手席の人員として補助席に座っている。


 王室の皆さんより先に騎士とクーパー卿が乗り込んできた。その後から今回ついて行かないティモシー様も乗ってきた。


「中庭から国王陛下と王妃殿下が搭乗されたのち、一度王都の門の前の広場に着陸するのだ。そこで、外遊の式典が行われる。国民に向け、このロイヤルドローンの存在を知らしめ、これからの我が国の発展と外交の発展を印象付ける式典だ。その式典を終え、国民に見送られて出発する運びとなる。本日の進行は、クーパー卿が執り行う。尚、式典の進行は、私、ティモシーが行う。ドローン騎士団の諸君。護衛依頼を受けてくれたアンデフィーデッド・ビレジャーの諸君、これからの大役、つつがなく成し遂げられることを待望しておる。では、陛下、王妃殿下が搭乗されるまで、待機せよ。」


 ティモシー様の言葉に僕たちは姿勢を正し、一礼し、騎士様方は敬礼で応えた。


 ドローンの外では、王宮中庭での式典が行われていた。20分程の式典の後陛下と王妃殿下、エレノア様が、搭乗され、続いてティモシー様、クーパー卿が搭乗してきた。


「ロイヤルドローン、離陸せよ。」


「はい。」


 シエンナが返事をし、クーパー卿が、座席に着いたことを確認して離陸した。強烈な風で、中庭にいる方々が煽られている。しかし、その風も一瞬だ。すぐにドローン上空に移動し、50m程の高度を保って王都の門の前の広場へ向かう。


 広場には、ドローンが着陸できるだけの空間が確保されていた。そこにピッタリと着陸させる。向きも指示させたとおりだ。昇降口を開き、まず護衛騎士が2名下に降りて、ティモシー様、クーパー卿の順に降りていき式典の準備の為それぞれの配置に着く。最後に王妃様の手を引いた国王陛下とその後ろにエレノア様が会場に降り立ち式典が始まった。


 どれだけ多くの人が集まっているのだろう。式典会場の周りは、身動きできないほどの人が集まっていた。ティモシー様が式典の進行を行い、国王陛下から今回の外遊の目的などが国民に伝えられたようだ。


 帝国と友好的な外交関係は以前から結んでいたが、今まで以上に対等な外交関係に発展するだろうと力強い宣言がなされ、大きな拍手に送られ、国王陛下と王妃様がドローンに搭乗された。続いて、クーパー卿、護衛騎士のお二人がドローンに乗りり込んだところで昇降口が閉じられた。


「離陸後、王都を出てすぐに移譲用のドローンと合流する。合流するまでその場で待機だ。合流後は、一路帝国に向かえ。離陸せよ。」


「はい。」


 クーパー卿が座席についてベルトを締めたのを合図に離陸する。音は聞こえないが、式典に詰めかけた皆さんが笑顔で手を振っているのが分かった。強い風が式典会場を煽ったが、それは一瞬ですぐにドローンは上空に舞い上がった。


 王宮の門の上空2000mで待機していると、3機のドローンと護衛のもう3機のドローンが2列縦隊の編隊を組んで近づいてきた。ロイヤルドローンを中心に置いた、6角形の編隊で帝国まで飛行するとこになる。高度は、2000m。風はほとんどなく穏やかな飛行だ。


 最短の空路は、事前にシエンナには伝えている。ミラ姉と一緒に何度か飛んだそうだから心配はないだろう。帝国内には入っていないそうだけど…。


 1時間半ほどで、ミーナ山脈の西にある峡谷から帝国に入った。左右に、山の頂を望みながらの飛行になる為、少しスリルがあるが、頂からはかなり距離がある為、魔物の平井などの心配も少ない。空路だ。


「あと一時間ほどで帝都に到着する予定です。皇帝への連絡をお願いいたします。」


 シエンナが、誰に行ったわけでもなく、飛行の現状説明と帝都への着陸申請を依頼した。


「なっ、なんと後1時間で到着するのか。まだ、正午にもなっておらぬのだぞ。」


 国王陛下が少し慌てだし、タブレットを取り出して皇帝に連絡を入れているようだった。確か、行ったことないからはっきり分からないけどって前提だったけど、2時間半くらいで到着するって言ってたよね。


「本当に2時間半で到着するのか…。聞いてはいたが、信じられぬ。今、皇帝と連絡が付いた。到着歓迎の準備はほぼ済んでいるそうだ。1時間後、帝都の皇宮前広場の式典会場に全機着陸して欲しいということだ。昇降口を式典会場に向けて中央にロイヤルドローン、右と左に分かれて護衛機と移譲機を並べて欲しいそうだ。頼めるか?」


 国王陛下が窓を開けるように仰ったため、今は、直接声を聞くことができるようになっている。


「はい。お任せください。」


 シエンナが、はっきりとした声で返事をした。


「護衛と移譲用のドローンへの連絡は、クーパー様にお願いして宜しいのでしょうか?」


 今度は、ミラ姉からクーパー様への依頼だ。


「任せておきなさい。」


 クーパー様がすべてのドローン連絡してくれた。


 1時間後、帝都に到着した僕たちは、式典会場の席に座らされて、ガチガチに緊張していた。何故かパーティーメンバー全員だ。緊張しすぎて、式典でどんな話があったのかも覚えていない。一度、パーティー名を呼ばれて席から立ちあがった記憶はあるが、目の前に数えきれないほどの人がいてますます緊張した。


 クーパー様から帝国から注文の商品としてタブレットが渡された。その後、商品目録としてタブレット200台と中継基地3000本が紹介されて、タブレットの性能と働きが紹介された。


 その後、帝国と王国の友好の証として、献上品のロイヤルドローンが国王陛下より紹介され、護衛機を帝国が購入したことも発表された。


 先ほど見た、王国のロイヤルドローンとの大きさの差に会場は少しざわついたが、皇帝が、ロイヤルドローに乗り、キャノピーを開いた状態で離陸し、光魔術を放ち、会場を様々な色の光で染めたことでざわめきは消え、拍手が巻き起こった。ロイヤルドローンと護衛用ドローンを先に騎士の訓練所移動させておいてよかった。


 帝国ロイヤルドローンを着陸させると、皇帝は、国王陛下の方を向いて小さくウィンクしていた。3人乗りドローンの方が良いと言ったのは、皇帝だから、自分の尻ぬぐいをしたということだろうか…。


 式典は、1時間程で終わり、今、控えの間でくつろいでいる。王室の皆さんは、久しぶりの再会に話を弾ませていらっしゃるようだ。写真機能付きのタブレットは、ルーナ様と皇帝陛下に手渡され、先ほどシエンナが情報転送の処理をし終わったところだ。古いタブレットは、データを削除たことを確認して回収させてもらった。


 その後、やはりと言うか前回の例にもれず、ドローンの操作とタブレットに依る通信方法のレクチャーを依頼された。中継基地の設置の依頼もされてしまったが、中継基地の設置依頼は設置方法と設置場所として適当な場所の説明と実際に設置する様子を見せることで勘弁してもらった。ドローンのキャノピーを開けて飛行ができるようになったから以前よりは簡単に中継基地の設置ができる。


 中継基地は、できるだけ高く、破損や破壊がされにくい場所がよい。帝都内であれば、高い建物の屋根の上に固定することで十分だろうと説明し、ドロンのキャノピーから投擲技で建物の高く雨漏りの原因にならないような場所に打ち込んでいった。帝都内だけで20個くらいの中継器基地を設置した。これくらいあれば、大体つながると思う。


 各帝門の最上部にも設置したことで、帝都に近づけば、大抵の場所から帝都内への連絡はできるようになった。次は、街道に沿って設置していけばよい。大体50キロに付き1台くらいで良いのではないだろうか。それでつながりが悪ければ間に1本入れればよい。


 中継基地の設置については、僕たち全員で3方に分かれて行った。僕たちが持っているタブレットは、今設置している中継基地は使えないけど、上空に上がることで帝都ない位だったら連絡ができた。投擲が得意なロジャーは、二人の帝国騎士を乗せ、帝国騎士の操縦で中継基地を設置していった。他の2台は帝国騎士は一名ずつ乗せて操縦のレクチャーをしながらの設置を行った。


 それが終わると今度は、皇帝陛下への双樹のレクチャーだ。護衛騎士は2名ずつ2台のドローンに乗っている。皇帝と宰相のクラン様とアンディーが献上された白のロイヤルドローン。護衛機の一台がロジャー。もう一台の女性騎士が操縦するドローンにシエンナが乗って操縦方法をレクチャーすることになった。ボタンと操縦桿だけで操作するから少し面食らうが、ドローンに任せて、指示するだけでも大丈夫だから割と簡単だ。


 皇帝陛下が先頭を飛び、後を2機が追う形で飛行を行った。僕たちのドローンは、ミラ姉が操縦し、皇帝機の上後方から追っていく。


 僕たちと帝国のドローンの両方に全機連絡が取れる状態だ。僕たちのドローにも帝国のタブレットを貸してもらっている。


『ルキーノ:このまま北上して海が見えるところまで飛んでみる。ついて参れ』


 今回だけ、パーティー送信で連絡が付くようにしてある。帝国のドローンの騎士たちも帝国タブレットでパーティー送信の設定をしているから、皇帝の連絡は両方の送られている。


「了解しました。パーティーに送信。」


 30分程飛ぶと海が見えてきた。


『ルキーノ:海は良いな。広くてこんなに丸く広がっている海を見るのは初めてだ。ルーナにも見せてやりたいぞ。写真とやらに撮って、送る方法を教えてもらったから、送ってみるぞ』


 いやいや、そんなこと送信しなくて良いですから。なんて返信して良いか分かりません。


「ルーナ様はきっとお喜びになると存じます。ルキーノ陛下に送信。」


 すぐ後、帰還の命令が下りた。


『ルキーノ:全機、帝都へ帰還する』


 全機からの了解の返信の後、全員帝都へ方向を変えた。良かった、何事もなく帰還できそうで。


『マルコ:下方2000m直下で商隊が魔物に襲われている模様です。魔物多数。このままでは、全滅すると思われます』


『ルキーノ:全機、降下。商隊を救出せよ』


 全てのドローンが直下に降下した。グーンっと持ち上げられ、体の重みが無くなる感覚。気持ち悪い。


 地上にぶつかる寸前、落下速度は落ち、体重が何倍にも感じられた。そのまま、キャノピーが開かれた。目の前にいるのは、王国では見たことがない魔物だ。牛のような角を持ち、二足歩行している。


「ミノタウロスの群れだ。気を付けろ。武器を投擲することもあるぞ。」


「ソードショット、ソードショット、ソードショット。…」


 アンディーは立ち上がり、ミノタウロスの頭に向かってソードショットを連発している。ロジャーは、黙々と投げ槍で仕留めて、シエンナは、魔道銃をファイヤーボールの中威力にセットして、頭を吹き飛ばしていた。僕も、シエンナと同じにセットして頭を撃ちぬいていった。


「クラン、操縦席からは、攻撃が出来ぬ。お主も攻撃するのだ。冒険者連中にすべて持って行かれてしまうぞ」


 帝国騎士様たちがようやく立ち上がって攻撃し始めた頃には、ほとんどの魔物は倒されていた。


「ミノタウロスの肉は、高級肉だぞ。これだけあれば、一財産になる。」


 着陸して、商隊の皆さんの無事を確認しているとそんな声が聞こえてきた。


「のう、以前も言ったが、お主ら、帝国に仕官せぬか?」


「いえ、遠慮させていただきます。それで、このミノタウロスはどうしましょうか?ここに捨て置くのはもったいないのでしょう?」


 ミノタウロスの死体が31体分あった。初めての魔物だから、アイテムボックスの中で素材に分けることはできないけど、冒険者ギルドに運んで、解体依頼をすれば、そこそこの素材は手に入るはずだ。


 商隊の責任者の思われる男の人が近づいてきた。


「有難うございます。本当に助かりました。オマケに怪我人の治療までしていただいて、本当に…、こっ、皇帝陛下ではございませんか。こんなところで、皇帝陛下にお会いできるなんて…。ありがとうございました。」


「面を上げよ。感謝なら、この者たちにいたせ。ほとんどの魔物はこの者たちが倒している。」


「あの…、このミノタウロスの素材何体か頂いても良いですか?ここに置いたままだと、魔物を呼び寄せることになるでしょうし。」


「何体かだなんておしゃらずに、持てるだけお持ちください。我々の商隊では、持ち帰ることができてもせいぜい一体です。しかし、ここにいる馬たちの状態では、それさえも難しいかと。ですから、持てる者でしたら全てお持ちいただいた方がよろしいのですが…。」


 良く見ると怪我をした馬が多いようだ。ミラ姉は、人の怪我に気を取られて馬の怪我まで直していなかったんだ。


「ミラ姉、馬も怪我してるんだって、治してあげてよ。」


「了解よ。ごめんね。怪我人に気を取られて、気が付いてあげられなくて。」


 そういいながら次々に馬の治療をしていくミラ姉。馬はすぐに元気になって立ち上がっていた。


 唖然としてそれを見る商隊の皆さんと皇帝陛下。そんな視線は気にせず治療を終えたミラ姉は、ミノタウロスをマジックバッグに収納し始めた。僕も、収納しないとなくなってしまう。


「一体だけで宜しいのですか?では、一番大きいのを残しておきますね。」


 僕たちは、ミノタウロスを収納し終えると、ドローンに乗り込み皇帝陛下の出発の合図を待っていた。


「馬にまでヒールをかけるなんて、いったいどういう感覚をしてるんだ!」


 一吠えして、ドローンに乗り込む皇帝陛下。その後ろからアンディーが声をかけている。


「陛下、お気になさらず、何せ、王国では、氷の聖女と呼ばれている姉ですから。」


 憮然とした表情でドローンに乗り込む陛下と騎士たちだったが、アンディーの一言で笑いが爆発した。


「こっ、氷のせっ聖女か…。そりゃあ、そうだ。ヒャハハハハ。よっ良く分からんが、大したものだ。聖女様なのだな…。ハハハハッ。」


 皇帝のドローンが笑いに包まれているのを苦々しい表情で見ているミラ姉。アンディー、知らないよ。

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