第193話 研究所の建築現場

 今日は一日フリーだ。アンディーたちも昨日遅く帰って来た。だから、今日は、研究所の基礎作りをしようと思う。アンディーはいる。ロジャーとミラ姉は、ベン神父の所に学校作りの手伝いに行った。ミラ姉達の仕事は、指導者のスカウトだ。僕たちのアグリゲートパーティー探しも兼ねている。


 力仕事の為にシエンナ。土魔法の為にアンディーがいる。今日は、建築ギルドの親方が来る。ついでに、王都からミーシャ様と王宮魔導士も来る。ドローンの操縦訓練を兼ねて操縦騎士が送ってくれるそうだ。ミーシャ様と魔導士だけなら良いのだけれど…。訓練中のドローンは、3台あるんだ。


「「「「「お早うございます。」」」」」


 やっぱり…。ステラ様とチャールズ様も一緒だ。

 護衛騎士のボールス様、ドリー様も一緒だ。


「初めましてですわよね。ステラ様の専属騎士、ローラ・アン・エアトンとモアと申します。王宮では何度もお見掛けしているのですが、ご挨拶する機会がありませんでした。宜しくお願い致します。」


「初めまして、俺は、アンドリュー。皆は、アンディーと呼んでくれている。俺もあなたを王宮や騎士団の練習場で何度も見かけていると思うが、挨拶するのは初めてだな。それから、ここのいるのが、レイとシエンナ。宜しく頼む。」


「アンディー様が、騎士とお話ししてた実験工房を見せてもらいたくて来ました。」


「今ならだれもいないので中に入ることができますが、工事の為に職人さんがたくさん来るんですよね。そうすると人目があって出入りがしにくくなりますね。」


「建物が、あれば良いのでしょうが…。」


「レイ、ここにコテージを建てて、トイレ兼休憩所にしたらどうだ?部屋をいくつかに分けていれば、人が出入りしても不自然じゃないと思うぞ。一番奥を会議室にしておいて、そこから工房の出入り口の前に出入りできるようにすればいい。」


「そうか。壁にピッタリつけているように見せて出入り口の前に隙間を作っておけば良いか。じゃあ、アンディー地下室の穴を作って。」


「了解だ。」


 すぐにアンディーがコテージょ設置するための穴を作った。ほん2分程で穴が出来上がった。口をあんぐり開けて見入っているミシャ―様とチャールズ様。二人は、アンディーのこんな土魔術を見るのは初めてだ。


「アンディー、凄い。こんな大きな穴をあっと言う間に作ってしまうなんて…。」


「チャールズ様、今からコテージを設置するので近づいては危ないですよ。」


 続けて、コテージの精錬と設置を行う。コテージくらいの大きさの建物なら30秒もかからない。


「アルケミー・コテージ、アイテムボックス・オープン」


 穴に近づいて確かめようとするチャールズ様を差し止めて、コテージを設置する。


「これから、中を改造して、トイレと休憩室、会議室を作ります。」


 排水は、地下に流し込み、浄水の魔道具で浄化した後、堀に流し込むようにしないといけない。今のところ浄水の魔道具に流し込んで、排水用のマジックボックスに溜めるようにしておく。マジックボックスは、溶岩製だ。溶岩魔道具、本当に便利だ。


 そうしている間に、アンディーが部屋を作っていった。一番奥に会議室。その奥に、目立たないドアを作っていた。押戸でノブではなく、腰板のつなぎのように見える場所を捻って押すとドアが開く仕組みだ。会議室にもめったに人は入らないと思うけど、中を覗いた人がいても気が付かないだろう。


 そのドアを通ってコテージの裏に出た。塀とコテージの間は、板で目隠しをしてもらった。屋根もぴったり塀にくっついてるからコテージと塀の間に隙間があるとはだれも思わないだろう。


 スイッチを押して、入り口の結界を消す。溶岩でできた入り口が現れた。ノブ回してドアを押し開ける。ゴロゴロと音がしてドアが開いた。ドアを開いたままにして結界のスイッチを押してみた。ドアがあった場所が消えて壁になった。


 さっきみたいに音がするなら普段は、ドアを開けておいた方が良いかもしれない。結界に物理結界も足せば結界を外さないと入ることができなくなるだろうか…。後で実験してよう。


「この奥が実験工房になります。お入りください。」


 今日は、天気が良かったから魔物の皮で張られたテントが白く輝いて見える。


「広いですわ。」


「ここで、色々な物を作るのたな。ミーシャは、ここで勉強したいのか?」


「チャールズ、勉強ではありません。研究です。そして、色々な物を作ることができるようになりたのです。」


 ミーシャ様の中では、この研究所の研究員になることは決定事項のようだ。エヴィもいるし、きっと仲良くやってくれるだろう。でも、ここでモノづくりをするより前に、エリックさんの学校でいろいろ学んでからだな。工学魔術の学校は砦の中に作る予定だ。砦の中の方が安全だからね。


 ミーシャ様やエヴィのように基礎を学ぶ必要があり、研究もしたい者は、研究所と学校を行ったり来たりすることになるだろう。


「ミーシャ様、もしも、この研究所の研究員になりたいのなら、砦の中に作る魔術工学の学校で基礎を学んでもらうことになりますよ。きっと、平民も一緒に学ぶことになると思いますが、それは、大丈夫ですか?」


「私と同じ、クリエートの魔術を使える人と一緒に勉強できるの?凄い!お友達になっても良いのでしょう?」


「そうですよ。それに、お友達になっていただけると、一緒に学ぶ者たちも喜ぶと思います。」


 僕は、ミーシャ様にそう伝えた。ミーシャ様は、庶民と一緒に学校で学ぶことに抵抗はないようだ。


「ええっ?私も、土魔術を持っているぞ。ミーシャだけ狡いと思う。」


「チャールズ、わがまま言うんじゃありません。あなたは、王宮での勉強で手一杯ではありませんか。王宮でのお勉強が済んだら、ここで学ぶことを考えたらどうですか?」


 何かミーシャ様がお姉ちゃんだ。ステラ様は、そんな二人を見てくすくす笑っていらっしゃった。


「ここの見学は、この位で宜しいですか?建築ギルドから親方たちがそろそろやってくると思いますので、ここを出ようと思っているのですが。」


「分かりました。この後、外からこの工房を見ても良いですか?本当に見えないのか確認したくて。」


 ステラ様がそういうと、あとの二人もコクコクと頷いていた。


「宜しいですよ。護衛騎士の方々、護衛宜しくお願い致します。少ないとはいえ、塀の外は、魔物が現れることがありますので。」


「心得ております。ですが、できれば、何か乗り物など貸していただけないでしょうか?この砦をぐるりと見て回りたいという希望もお聞きしている物ですから。」


 実験工房を出ながらボールス様がそんなお願いをしてきた。そのお願いを聞いてシエンナがエスを出してくれた。エスにボールス様の指示を聞くように伝え、ボールス様が操縦席、前から左側にミーシャ様、ステラ様、チャールズ様が座って、右側の席に護衛騎士の皆さんが座った。この配置で砦の周りと周辺の草原を見学してくるのだそうだ。


 見どころはと聞かれたから、エスなら森のダンジョンも2階層くらいまでなら安全に入ることができますよとこっそり教えてあげた。ボールス様がダンジョンにまで行くかは分からないけどね。


 ミシャ―様方が研究所予定地を出てすぐ、建築ギルドの親方たちがやって来た。ゴーレムバスでやってきたようだ。砦では、たくさんの建物が作られているから、作業員の皆さんはバスにも乗りなれていたようだけど、親方は、初めてだったらしい。凄いもんだと大騒ぎしていた。


「お早うございます。今回の現場責任者になった建築ギルドのゴールドスミスと言いやす。宜しく頼みます。」


「お早うございます。研究所建築についてお手伝いさせていただきます。精錬魔術師のレイです。」


「魔術工兵のスキルを持っているアンディーと呼んでくれ。」


「おやおや、若い手伝いの方ですね。で、エリックさんは、どこにいらっしゃるのかな?確認をしたいことがいくつかあってな。」


「ちょっとお待ちいただけますか?」


 そう言って振り向くとエリックさんが立っていた。


「親方、今日から宜しく頼む。それで、確認したいことというのは何だ?」


「基礎工事のことだ。今から、地面に基礎の為のくい打ちをしようと思うのだが、基礎工事の依頼は済んでいるのか?できていないならうちの方から依頼を出すが…。」


「親方。」


「ん?何だ。手伝いの若いの。打ち合わせが済んだら、仕事の説明はしてやるから待ってろ。」


「レイ様、何でしょうか?」


「レイ様?この若いのに…、様?」


 親方は、エリックさんの方を見ていぶかな顔をした。


「はい。私共の雇い主、レイ様とアンディー様です。」


「エリックさんに関しては、雇い主といってもあながち間違いはないでしょうが、皆さんに関しては、雇い主の代理人です。そんなことより、基礎工事のことですが、できるだけ正確に地面に線を引いてくれませんか。その通りに指示された深さに基礎の穴を作ります。その後、基礎になる石を引き詰めればいいのですよね。基礎の石壁の厚みを言って下されば、その厚みで石壁と床下の基礎を作ります。」


「お前ら、何を言ってんだ。基礎は、建物を頑丈にするために一番大事な物なんだぞ。少しでも傾いたり弱かったりすると建物が倒れちまうそんな大切な工程を素人のお前たちができると思っているのか?」


「うーん。親方。周りの壁を見てくれ。」


「おう、俺も入って来てすぐに気が付いた。凄い作りだ。こんな頑丈で精密なつくりの防壁は、見たことがない。きっと名のある石工ギルドが作ったのだろうと感心していたのだ。」


「その壁は、この二人が、たった2日もかけずに作ったものだ。地下に5m、幅3mにわたって石が埋め込まれて基礎になっている。高さは10mの防壁だ。それでも素人同然だとおしゃるか?」


「嘘だろう。この砦をたった2日間で作ったのか?普通なら数カ月いや、数年はかかる仕事だぞ。」


「だから、そうなのだ。言われたとおりに、地面にできるだけ正確に線を引いてくれないか。」


 それから、今日来た建築ギルドの人全員で計測し、ロープで直線を確認し、基礎となる場所に線を引いてくれた。基礎の地下室の石壁の厚さは1m。地下に埋める深さは2mと普通よりも厚くする。地下室の深さは、3mその下に2mの厚みの石床を作るから4mの深さの穴を作って土壁と床を圧縮を強化しないといけない。


 まず、ゴーレムに壁から2mくらい距離を残して穴を掘ってもらう。ゴーレムが掘った穴の土は、僕が収納する。3体のゴーレムで穴を掘ったので、20分で終わった。研究所の地価は横が70m幅が30mにもなっていた。アンディーの土魔術で残された2mの土壁を圧縮し、強化魔術を上掛けしていく。床は、1m分を圧縮し、強化だ。次にロックブロックを並べていく。前後左右半個ずつずらした形でくみ上げていった。床も同様にくみ上げる。


 あんぐりと口を開け僕たちの作業を見ている建築ギルドの面々。朝から測量をはじめ、3時間程度で基礎部分の計量とロープ針を終了したと思ったら、1時間後には石組みが始まっていた。普通なら数カ月の工程だ。どんなに突貫工事でやっても20から40日はかかる仕事だろう。それが、後、2時間あれば終わるだろうと言うところまで来ている。


「エリックさん、なんだありゃー。強化魔術までかけて、まだ、石組みをやってる。どんだけ魔力を持ってんだ?」


「そんなことより、柱や地価の石壁を作らないといけない場所にロープを張って印をつけておかないと今日中に終わりませんよ。」


 壁と床の石組は大体終わった。建築ギルドの皆さんが図面を見ながら柱を立てる場所や内部の石壁になる場所に次々ロープを張ったり印をつけたりしてくれている。シエンナはゴーレムたちに指示を出し、石を積み上げ、僕とアンディーもマジックボックスを使って石組みと壁作りを行った。


 夜、暗くなる前に石組みの作業、建物の基礎づくりは、終わった。


「凄いです。こんな風にして建物を建てていくのですね。知らなかったです。」


 いつの間にか基礎作りを見学していたミーシャ様が手をたたきながら感激した様子で僕たちが地下から上がって来るのを迎えてくれた。


「いやいや、建物は、こんな風に慌ただしく出来上がっていくもんじゃないから、普通、コツコツと丁寧に作っていくものだから。」


 親方は、受け入れきれないようだけど、これが僕たちの建築現場の様子だ。大抵こんな感じだもの。


 暗くなる前にとミーシャ様方は帰って行った。ダンジョンにも行ったそうだ。ボールス様も大変興奮して戻って来たようだが、建築現場のあわただしさにかき消されてしまったようだ。


 明日は、帝国に行くことになる。僕たちも王都で、前泊だ。研究所の建築現場は、少しだけペースダウンになるかもしれない。


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