第192話 帝国への移譲品の報酬と所長候補

「急な依頼に応えてもらい有難く思う。」


「陛下。また、そのようなことを。」


「ティモシー、そういうな。偽らざる気持ちだ。述べさせてくれ。」


「ありがたきお言葉、もったいなく存じます。」


 ミラ姉も正式口調だ。僕は、なかなか慣れない。


「それでな、今回の依頼に対する報酬なのだが、森の賢者への報酬は、献上用ドローン関しては、金貨9万枚。護衛用に関しては、一台に付き、金貨3万枚で良いか?言っておくが、護衛用のドローンを金貨8万枚で売ろうと思っているからな。王国としては、黒字になるので心配はいらぬぞ。それから、タブレットの報酬も渡しておかねばならぬな。帝国に移譲するタブレットと中継基地の製造報酬として、金貨1万枚がタブレットの報酬、金貨2万枚を中継基地の報酬として下賜する。森の賢者のギルドカードがあるのならそれに入金するがどうする?」


 ティモシー様が最初にとんでもない金額を言ってきた。森の賢者のお金と言っても僕たちに支払われるも同然のお金だ。合計、金貨18万枚。一生贅沢できる金額だけど、研究所作りにはこれからもお金がかかると思うから有難い。


「そのような金額、誠に宜しいのでしょうか?」


「不服ではないのであろう。」


 陛下がニヤリと笑いながら聞いてきた。


「不服などあろうはずがございません。では、商業ギルドに森の賢者のギルドカードを作ってまいります。入金は、その後で宜しいでしょうか?」


「王宮としてはかまわぬが、面倒なことにはならないか?」


「森の賢者は、これから賢者の研究所を通して色々な活動をする予定でございますから、資金の流れを分かりやすくするためにもその方が良いのではないかと考えております。」


 うんうんと頷く国王陛下だったが、どういう意味だろう。


「次に、アンデフィーデッド・ビレジャーに対する報酬だが、タブレットとドローンの移送及び、ドローン操縦の指導に対して金貨50枚の報酬とする。この依頼は、極秘依頼故に冒険者ギルドは通さぬが、助かったぞ。これからもよろしく頼む。」


「有難うございます。これからも精進いたします。」


「ところで、森の賢者が言っておった賢者の研究所と冒険者の学校とやらの計画は進んでおるのか?」


「はい。学校も研究所も施設を建てるための敷地は確保いたしました。後は、建築ギルドに依頼して、建物を設計建築する運びとなっております。学校の方は、知り合いのベンジャミン神父に開校までのもろもろをお任せいたしております。研究所につきましては、その発足までをお任せして引き受けて下さる方がまだ見つかっておりませんが、実働できる施設は、既に出来上がっております。」


「実働できる施設とはどういうことだ?」


「実験工房を研究所の予定地の横に作り終えております。精錬術師や錬金術師、鍛冶師や工学魔術師などを集めて、共同で魔道具を作成できる工房でございます。」


「ほほう。実験工房か。面白そうなものを作ったのだな。実はな、娘のミーシャが、賢者の研究所で勉強したいと申しておってな、一月のうち何日でもよい。その研究所に通わせてもらえぬか?送り迎えは、王宮で行う故引き受けてくれ。」


「それは、研究所が完成してからで宜しいのですよね。」


「無理じゃろうな。研究所の立ち上げから参加したいなどと申しておったのじゃ。実験工房があるなどと聞いたら行くと言ってきかぬだろう。勿論、ミーシャだけではやらん。力になる王宮の魔術師もきちんと同行させる故、頼む。ミーシャには、この国にとどまって欲しいのじゃ。他国に夜目に行くなどと言い出さぬように、この国に娘に必要な物を見つけてやらぬといかんのじゃ。研究は、ミシャ―を釘付けにするはずじゃ。この国に居続けたいと思う魅力になるはずなのじゃ。だから、頼む。」


「左様ですか。まだ、一緒に活動してくださる方が決まっていませんから、決まり次第お知らせいたします。ただ、早急に活動が始まるわけではございませんので、実験工房のこともミーシャ様には、まだおっしゃらないで下さいよ。」


「分かっておる。では、いつ頃その研究所というのは完成しそうなのだ?とにかく、見に行きたいと言ってきかぬのだ。既に着工しておるのか?」


「今回の帝国へのタブレットとドローンの移送任務が終われば、研究所の着工は始まると思います。もしかしたら、同じくらいに始まるかもしれません。エリックさんが建築ギルドと基本設計を打ち合わせていましたから。」


「そのエリックというのが、研究所の責任者か?」


 国王陛下はなぜか必死感を漂わせていた。いったい何があったのだろう。


「そうなっていただきたかったのですが、断られました。エリックさんは、若い技術者の指導がしたいのだそうです。ですら、研究所の研究員の指導をしていただくことになると思います。研究所の立ち上げまでは、責任者として動いていただくかもしれませんが…。あの、研究所の責任者として適当な方、どなたかいらっしゃいませんか?」


「うっ。うーん。おい、ティモシー、誰か知らんか。研究肌で森の賢者の研究所の所長として適当な人材は。」


「いえ、あの私の知り合いは皆、貴族ばかりでして…、政略、知略、経済に明るいものはおりますが、工学をはじめ、錬金、精錬などの製造魔術に関しましては…。申し訳ありません。」


「そ、そうか。済まんが、儂もすぐに思い当たる人材は、おらんな。」


「そうですか。では、もう少し探してみます。」


「おお、そうじゃ。伝えたかったのは、そのことではなかったのだ。森の賢者の研究所の製品を国営商会で、独占して扱わせてはもらえぬか?もちろん、独占と言っても阿漕なことをしようというのではない。タブレットにしてもドローンにしてもとにかく国への影響が大きすぎる魔道具が次から次へと出てくるのでな。」


「それは、確かにそうですが、マウンテンバイクやゴーレムバイクや輸送用ドローンは、冒険者ギルドが扱っていますし、ポーションに関しては、調剤ギルドで扱ってもらっています。」


「今まで、冒険者ギルドや調剤ギルドで扱っていたものまで国営商会へ持ってこようとは思わぬ。しかし、輸出となれば、国内のギルドで扱うことが難しくなるのだ。そういう意味で、国営商会を通して取引してもらいたいのだが、どうだろうか?」


「それは、僕たちよりも、これからできる研究所の所長と話し合ってもらった方がよろしいのではないでしょうか。勿論、有人ドローンなどは、国が管理した方が良いと思いますが、何もかにも国が管理すると、大変なことになりはしないでしょうか?僕たちには、判断しかねますので、やっぱり、早く所長を決定して研究所の在り方や国との関係をしっかり決めて頂かないといけないでしょうね。」


「国との関係まで考慮して研究所を運営できる人材などおるのであろうか…。」


 ティモシー様の一言で、場が重たい空気になった。その空気を吹き飛ばして下さったのは、ミーシャ様だった。それはそれで、困ったことになってしまったのだけど…。


「お父様~!」


「ど、どうしたのだ。」


「先ほど、アンディー様と騎士の方がお話しされているを小耳にはさんだのですが、研究所の横に見えない実験工房ができたのですって、見えない実験工房…。見てみたいです。見えないんですけど、中に入れたら凄いですわね。」


「今日は。ミーシャ様。」


「あっ、レイ様。ミラ様…。こ、今日は。」


「あ、おっ、おお。ミーシャ、今、丁度研究所の話をしていたのだ。ミーシャは、研究所が研究所でお勉強をさせてもらいたいのだよな。」


「違います。私がなりたいのは研究員です。研究所で色々な物を作ってみたいのです。そして、出来上がったらではなく、研究所を作るときから参加したいと言っているではないですか。私の研究室も作ってもらうのです。泊まり込んで研究しても良いように研究所の中に居室も作ってもらわないといけません。その為には、研究所の立ち上げから参加しないとならないのです。レイ様、陛下は、そこの所伝えて下さいましたか?」


「殿下が研究所の立ち上げから参加したいと仰って下さってることはお聞きしました。ただ、研究所の所長が不在というか決まっておらず、その許可を出すものがいないのです。」


「でも、見えない実験工房は完成したのでしょう。私は、この耳でアンディー様とドローンの操縦騎士の話を聞いたのです。お二人は、そのままドローンに乗って訓練に行ってしまわれたので、その後の話は聞けなかったのですが、外から見えないし、上空からも見えないと仰っていました。」


「レイ、諦めて本当のことをお話しして差し上げなさい。」


「本当も何も…。あっ、はい。実験工房は、今朝完成しました。いつか機会があったら砦にいらっしゃって下さい。まだ、工房だけで、特に中では、何もしておりませんが、見学することはできますよ。」


「本当ですか?有難うございます。いつ?いつなら行くことができる。陛下、砦に行くことを何時なら許可してもらえますか?お父様、いつなら良いか夕食の時に教えて頂戴ね。ごめんなさい。お仕事の邪魔をして。失礼いたします。」


 殿下は、可愛くカーテシーをして退出していった。なんか可愛い嵐がやって来たようだった。


「では、これで失礼します。」


「うむ、ドローンの飛行訓練はもう少しかかるようだが、何か用事でもあるのか?」


「特に、用事はないのですが、エリックさんから、調剤ギルドに来て欲しいと連絡が入っていましたので、今から行ってみます。」


「そうか。では、明後日、朝10時に王宮の中庭から出発する。護衛依頼は既にギルドに出しておる。一度、王都のギルドに寄ってみてくれぬか。」


「はい。畏まりました。では、明後日10時に王宮を出発できるように参ります。」


 明後日は、朝9時には、王宮の中庭で待機することになるだろう。様々な出発のセレモニーが開かれて10時には離陸するはずだ。


 帝国に行くのは、国王陛下、王妃様、そして、次女のエレノア様だ。久しぶりにルーナ様に会えるのを楽しみにしているということだった。それから、クーパー卿とアンドリュー騎士長も一緒だ。


 明日の確認を終えて、僕とミラ姉は、冒険者ギルドに向かった。明日の護衛依頼の確認のためだ。


「今日は。アンデフィーデッド・ビレジャーですが、指名依頼の確認に参りました。」


「ああ、ギルマスが、お待ちです。執務室の方においでいただけますか?」


 そのまま、ギルマス執務室に連れていかれた。いったい何の用なんだろう。ただ、指名依頼の確認に来ただけなのに…。


「よお、久しぶりだな。レイ。中々会うことが出来ずに、お礼を言い遅れた。感謝する。おかげで、たくさんの報酬を下賜されたぞ。勿論、半額は、お前たちのギルドカードに振り込んでいるからな。今回頂いた下賜された報酬はなんと金貨100枚だ。お前たちの細工は素晴らしかったぞ。特に、正午の目盛りの宝石は何という輝き。それでいて、セイレーンの魔石と干渉しないなど常識を超えていた。本当に感謝する。」


「有難うございます。あの、王宮から指名依頼が来ていると思いますが、確認させていただけますか?」


「おう。この依頼書だ。サインを頼む。…、では、この指名依頼、確かにアンデフィーデッド・ビレジャーが受けたことを確認した。」


「それでな、用事というのは、お前たちが砦の中に作った研究所のことなんだ。おれも、その研究所で働かせてくれないか?」


「ええっ?ギルマスの仕事はどうするんですか?」


「だから、前にも言っただろう。後進に譲るって。俺がやりたいのは、お前らが作ったものを広く普及させることだ。どうやったら多くの人に使ってもらえる値段で作ることができるかを考えてな。」


「研究所長なら補充しているのですが…。」


「研究所長が、安かろう悪かろうを作ってどうするんだ。しかしな。高性能、高金額だけが求められている物じゃないと思うぞ。」


「質が悪くても安いものを必要な人もいるということか?」


 ミラ姉がずばりと聞いてきた。


「そうだが、少し違う。少々性能を犠牲にしても安くて、多くの人が使用することができる製品も必要だということだ。」


「たくさん売れれば、技術が少々劣る鍛冶屋や精錬術師が作ったものでも利益を出せる。多くの利用者は、お前たちのように身体強化を使って遠くまで凄い速度で移動したいわけじゃない。多くは、隣やそのまた隣の町までいければ良いんだ。それ時間が半日から1時間になれば、多くの商機を手に入れられるんだよ。だから、俺は、そんな商品を新しい物を作ってみたい。みんなの幸せのためにな。どうだ。俺を、その研究所とやらに雇ってくれないか?」


 ギルマスって、ただ金もうけがしたかっただけじゃないかったんだ。でも、所長とは、確かに少し違う。しかし、研究所が多くの人の幸せを目指す場所なら必要な人材ではある気がする。


「お話頂て有難うございます。まだ、研究所の所長が決まっておりませんので即答はしかねますが、所長が決まった時には、必ず、ギルドマスターのことをお伝えします。」


 そう答えて、僕たちは、冒険者ギルドをでた。本当に大丈夫か?冒険者ギルド。


 調剤ギルドにいくと、挨拶を終える間もなくギルドマスター、ジェイソンさんの所に連れていかれた。ジェイソンさんの隣には、エリックさんが立っていた。


「よく来てくれました。アンデフィーデッド・ビレジャーのお二人。」


「エリックさん、それにジェイソンさんいったいどうしたのですか?ポーションや薬ならタブレットで連絡頂ければ、すぐにお届け致しますのに。」


「今のところ、ポーションも薬も切れておりません。レイ様方のおかげで、王都の調剤ギルドも信頼を得、運営はすこぶる快調でございます。」


「えっ?では、どうして、呼び出しがあったのでしょうか?」


「以前言ったではないですか。困った時はお頼りくださいと。」


「もしかして…、研究所長ですか?」


「いやいやいやいやいや…、調剤ギルドが立ち行かなくなるでしょう。ジェイソン様が抜けてしまうと困る人が大勢います。」


「レイ様、わたくしを甘く見ないでくださいませ。私の代わりを務めることができる者くらい、準備できなくてどうします。ギルドマスターなんて2週間も引き継ぎ期間を頂ければ完璧に引き継いで、研究所へと参りましょう。」


「ほ、本当ですか?では、研究員の手配などもお願いできますか?信用できる鍛冶師と精錬術師、錬金術師と高額魔術師が居れば、ジェイソン様が、研究所の予定地においで下さる日には、製品を一つ準備してお待ちいたしましょう。」


「それぞれ、1名ずつで宜しいのですね。準備いたしましょう。いつまでに出立の準備を終わらせておけばよろしいですか?」


「余裕をもって7日後。7日後の朝、10時に王都の門の前にお迎えに参りましょう。」

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