第190話 夜の謁見
「お主たち全員を登城させた理由か?まあ、待て。その前に確認したいことがあるのだ。」
「失礼いたしました。」
「うむ。まず、タブレットのことから確認させてくれ。帝国に譲り渡すタブレットは、200台だな。それは、一番最初に私たちが献上されたものと同等の物か?」
「はい。そうです。全く同じものです。」
「では、その200台に、我が国のタブレットから連絡できるのか。違うな…。そのタブレットから我が国のタブレットに連絡できるのか?」
「今の設定では、連絡することはできません。全く別のコアの連絡網です。後付けの道具で接続することは可能でしょうが、両方の中継基地と接合用のコアが必要だと思います。実際には、作っていませんが、これから我が国にも必要になる技術だと思います。」
「では、その連絡網が繋がったかどうかは、我々でもすぐに確認できるものなのか?」
「マザーに問い合わせれば、つながったかどうかは可能かと思います。」
「ん?どういうことだ?マザーとは、何なのだ。」
「このタブレットの連絡網を管理しているタブレットです。国王陛下のタブレットの登録名を覚えておいて、新たな登録者が同じ名前を登録しようとしたときには、すでに同じ登録名が使われているから別の登録名にしてくれと指示を出しているのです。そのような働きをしているのがマザーです。」
「なるほど、だから、登録してあるタブレットの名前と数をすべて把握しておるのか。そして、そのマザーに問い合わせれば、現在、連絡網にどのような名前のタブレットが登録してあるのか分かるのじゃな。」
「誰でも、問い合わせることができるのか?」
今度は、ティモシー様からの質問だ。
「登録時は、必ずマザーとやり取りをしますが、それ以外の時は、マザーと連絡できるタブレットは、管理登録されたタブレットだけです。そして、管理登録は、管理登録されたタブレットか、マザー本体でしかできません。」
「マザーは、どこで管理されているのだ?」
僕は、パーティーメンバーを見渡した。メンバーが伝えても良いと目配せしてきた。
「今までは、私たちのパーティーハウスで管理していましたが、今は、賢者の工房で管理しております。」
「賢者の工房?それは、前森の賢者が言っていた砦の横に作る研究所の中にあるのか?」
「いいえ。賢者の工房は、賢者が森から出て来た時に使用する工房でございます。」
「森の賢者のことは知っておる。異世界の知識と意識を持ったお主であろう。その森の賢者になった時のお主が使う工房ということか?」
「そんなところです。そこは、簡単に至ることができる場所ではないので、そこで保管しております。」
「では、管理は厳重に頼む。して、王宮で現在その情報を確認できるのは誰かおるのか?」
「国王陛下のタブレットは、管理者登録させていただいております。ただ、タブレットで確認できるのは、現在の登録者の数だけでございます。登録名は、マザー以外のタブレットでは確認できないようにしてあります。」
「では、その確認方法を教えてくれ。」
「では、現在の登録者数を教えてくれ。マザーに送信。」
『マザー:42台です。』
「わしも、確認してみるぞ。現在の登録台数を教えてくれ。マザーに送信。」
『マザー:私も含め251台です。』
「何故違う?251台とは、何なのだ。」
「登録台数というのは、同じコアで作った連絡網に登録されているタブレットの台数です。全部の台数ということになります。登録者数は、全台数の中で、使用するために登録名を決めた台数ということです。」
「つまり、この連絡網には、タブレットが251台あって、その内42台が使われているということなのだな。その42台の使用者の名簿を持っておけば、全員と連絡が取れるということか。」
「そうですが、私たちパーティーの個人的な連絡相手も多いですから、全員の名簿は必要ないかと思いますが…。」
「それは、そうだろうが、可能だということだ。次の質問だが、タブレットは、3日後に、届けようと思う。ルーナとルキーノ陛下の写真機能付きタブレットの素材は揃っているか?」
「そのことですが、お二人には、新しいタブレットを渡すという訳にはいきませんか?履歴の転送は、シエンナができますので。そして、履歴を完全に消して回収するということにさせて頂けませんか?」
「どうしてだ?」
「皇帝の前で、タブレットを再精錬するところをお見せしたくないのです。このタブレットは、森の賢者が作ったものとしてお渡ししたいと思うのですが、ダメでしょうか?」
「しかし、そうしたら、シエンナがタブレットに対して特別なスキルを持つことが知れてしまうぞ。」
「いや、それは、特別な能力ではなくて、誰でもできることなのです。ただ、シエンナがとっても早くそれができるだけで。まあ、そういう意味では、特殊能力でしょうか。もたもたして良いのでしたら、うちのメンバーなら、誰でもできます。やり方さえ、お伝えすれば、王宮の方もすぐにできるようになると思いますよ。」
僕は、タブレットの情報伝達方法について簡単に説明した。
「うむ。そういうものなのか。では、そのようにしてくれ。いや、そのように頼む。」
「はい。畏まりました。シエンナ、お願いね。」
頼みごとをするときは、陛下は、ミラ姉の方に伝える。パーティーリーダーがミラ姉と知っているからだ。だから、ミラ姉が答えることになる。
「では、次の頼み事だ。武器を付けないロイヤルドローンは、作ることが可能か?」
「可能か不可能かと言えば、可能でございます。」
「そうか。困ったな…。」
「ど、どうしてでございましょう?」
「ルキーノ陛下は、嘘を見抜くのだ。そのような力があるようでな。めったにその力は使わぬが、その力を持っていると言うだけで、嘘でごまかすことが出来ぬ。」
「一体何をお困りなのですか?」
「国営商会のドローンだ。あちこち飛び回っておるので、帝国に見られてしまったのだ。そしてな、近々、我たちが帝国に伺いたいとタブレットで連絡したところ、王室の使用に耐えるドローンがあるのだろうと見抜いてきおった。あるなら、買わせろとな。」
「帝国にドローンを持たせるのは、陛下がお困りなるほど、危険なことなのですか?」
「ルキーノ陛下は、大丈夫だ。好戦的でもなければ、覇権主義をかざしてもおらん。しかし、前皇帝の直近の者たちは違う。覇権主義を唱え、帝国の力を拡大しようともくろむ者たちも多い。ルキーノ陛下は、お力がある故、そのような声を抑え込んではいるが、いつ状況が変わるかもしれん。」
「それで、武器無しのロイヤルドローンが作れるかお聞きになったのですね。」
「そうじゃ。武器が付いていなければ、覇権主義の連中が騒ぎだすこともないと思ったのでな。しかし、武器もなく王室が動き回るのも心配なのだ。皇帝とともにルーナも外遊に回ると思うとな。」
「それでは、護衛用の3人乗りドローンを大目に付ければどうでしょう。キャノピーを自動開閉できるようにして、必要ならキャノピーを開け、警戒しながら着陸した上で、ロイヤルドローンの着陸態勢を整えると言うのはいかがでしょうか?」
「3人乗りドローンにそのような仕様変更がかのうなのか?」
「アンディーと力を合わせれば、多分可能だと思います。」
「では、ルキーノ陛下に確認して、後ほどタブレットで知らせよう。そのドローンを作るのにどのくらいの時間が必要なのだ?」
「時間は、そう必要ありません。3人乗りドローン1台は、1時間以上かかるかもしれませんが、1台で来てしまえば、1台に付き20分もかかりません。ロイヤルドローンは、1時間もかからずできると思います。」
「では、タブレットを届けに行く日を変更する必要はないな。この後すぐにルキーノ陛下に連絡を取り、ドローンの注文は確定させよう。では、3日後、帝国までの護衛を依頼する。指名依頼をギルドに出しておくので受理をよろしく頼む。その際は、ドローンの操縦をシエンナ殿にお願いしたいのだが大丈夫か?」
「えっ?あの、ロイヤルドローンに乗り込むのは、パーティーからは、私一人なのでしょうか?」
「いや、全員乗り込んでほしい。今回は、ロイヤルドローンでの外遊であるとともに、第1回目のタブレットの輸出になるのだからな。製造者から輸送依頼を受けたパーティーが同行するのは不自然ではない。」
「有難うございます。」
「しかし、帝国にドローンを運ぶのは、ロジャーとアンディーは必須だと思いますが…。キャノピーを開けてからの護衛隊形の組み方などは、連携が必要なので、先に練習ができる二人に任せた方がよろしいのではないでしょうか?」
「それと、帝国に運ぶロイヤルドローンの操縦は、王宮で準備して頂けるのでしょうか?」
「それは、任せてくれ。ロイヤルドローンの操縦訓練は、わが騎士隊も欠かさずやっておる故、かなり上達しておる。」
その日の謁見が終わったのは、夜の8時を過ぎていた。国王陛下は、この後ルキーノ陛下にタブレットで連絡を送ると言っていた。こんなに遅く大丈夫なんだろうか。
王宮の食堂に案内され、食事をとった後、いつもの宿に向かった。宿に着いたのは、夜の10時近く。酒場で飲んだくれている連中は、まだ、宿に戻る時間じゃない。閑散としているフロントで受付を済ませて部屋に入った。
ロジャー達とお風呂に入って部屋に戻ってタブレットを確認したらティモシー様から連絡が入っていた。
『ティモシー:帝国へのドローンの納入は3人乗りを3台のみで良い。1台は、白で皇帝への献上仕様にしてくれ。全て、飛行中にキャノピーを開くことができる仕様で頼む。尚、この連絡への返信は、しなくて良い。出来上がったら、確認と移送操縦訓練の為に王宮へ持ってきてくれ。出来上がった時は、まず、連絡を頼む』
明日は、朝から賢者の工房に行かないといけないようだ。今日は、早く寝よう。
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