第189話 帝国のタブレット

 学校、研究所の敷地の整備、研究工房、必要な物の中で、今、僕たちで作ることができる物は作り上げた。後は、人だ。学校の人集めは、ベン神父に任せることにした。ベン神父もずっとという訳にはいかないが、と言いつつ当面は引き受けることを約束してくれた。


 後は、研究所の方だ。まずは、一緒に研究したり、物を作ったりしてくれる人を探さないといけない。しかし、その前にしておかないといけないことがあった。


 帝国へタブレットを納入しに行く準備だ。タブレットを200個と中継基地を帝国の半分以上の都市と町をつなぐことができる量準備しないといけない。


 材料となるゴーレムコアや魔石の量は十分だ。しかし、仕様については、詰め切れていない。まあ、今まで使っていたタブレットと同じ大きさで同じ性能ならある意味問題ないのだけど、それが問題なんだ。高性能すぎるけど、使い切れていないのが今のタブレットだ。


 使い切れているのはただ一人シエンナだけかもしれない。理想は、シエンナの使い方をみんなができるような仕様になることだろうけど、今はできないし、帝国にそのような仕様のタブレットを送るわけにはいかない。


 でも、帝国は作ってしまうかもしれない。帝国の魔術の力は、ウッドグレン王国よりも上らしい。だから、完全に性能を引き出しきれていないゴーレムタブレットを渡して良いのか不安なんだ。


 今回渡したタブレットの性能に満足してくれたらそれでもいい。でも、多分満足しないで色々改造を加えると思う。そして、帝国の軍隊の誰もが、シエンナと同じ位タブレットの性能を引き出すことができるようになったら、情報のやり取りにおいて他国を大きく引き離すことになる。だから迷っている。


 皇帝自身は、覇権主義の方ではないかもしれない。しかし、我が国の何十倍もの戦力を持つ帝国にそのような魔道具を何の対策もせずに渡して良いものか。


 勿論、皇帝とルーナ様には写真機能付きのタブレットを渡そうと思っている。国王陛下と王妃殿下のたっての希望だからだ。それだけでもかなりリスクが高い。


 僕たちだって、写真機能付きのタブレットを作ったらすぐにドローンにそれを取り付けることは思いついた。


「さっきから急に黙り込んで、どうしたんですか?」


 シエンナが、僕の顔を覗き込んで尋ねてきた。


「あっ…、ごめんごめん。帝国に渡すタブレットのことを考えていたんだ。」


「タブレットのこと?」


 そうだ。一人で考えてもどうしようもないことは、みんなにきけばいいんだ。


「あのさ、僕たちってシエンナみたいにタブレットを使いこなせていないでしょう。シエンナは、タブレットから、周りの状況把握をしたり、声を聞いたりしてるじゃない。声を出さないで指示を伝えたりもできる。」


「それは、シエンナのスキルだからな。誰でもできることじゃないぞ。人それぞれってもんじゃないのか?」


「それは、そうなんだけど、タブレットには、それだけの能力があるってことだと思わない?」


「確かに、そう思えないこともないわ。でも、それと帝国へ渡すタブレットと何か関係があるの?」


「帝国って、ウッドグレン王国より、魔術に関する研究が進んでいるんでしょう。」


 僕もはっきりとは知らないんだけど、何となくそんな気がしたんだ。


「さあ、それは知らないが、帝国は、周辺国家では一番の兵力を持つ国だということは聞いているぞ。実際に、行った時も大きな国だと感じたからな。」


 アンディーは、僕と一緒に帝国の帝都を見ている。ウッドグレン王国の王都の何十倍も大きな都市だった。


「レイ様、私が存じていることをお伝えしてよろしいでしょうか?」


「エリックさん、是非、お願いします。」


「帝国は、決して古くからある国ではございません。前皇帝、ルキーノ様のお父様が1代で作り上げた国だと申しても過言ではありません。その礎となった国は、確かドワナ魔道国と呼ばれる国だったと聞き及んでおります。」


「じゃあ、やっぱり魔道の研究は進んでいるんでしょうね。」


「そこは、存じ上げません。そもそも、魔道国を打倒した形で成立した国にですから魔術の扱いがどうなっているのは分かりかねます。」


「レイは、タブレットがどんなになることが心配なの?」


「えっ?高性能になって戦争に利用されること…かな?」


「高性能にならなくても、戦争には利用されると思うわよ。だって、作戦連絡が今までとは段違いに速くなるんだから。戦争の為に購入したんじゃないか知れないけど、幾らだって利用できるわ。それは、王国だって同じよね。経済戦略にはなくてはならないものになっているみたいだし、高性能になることだけが心配なら、私たちの方が早く高性能にするか、技術提携をするかよ。」


「私は、技術提携はお勧めいたしません。今までになかった魔道具ですから、技術提携した場合、レイ様がお持ちの知識を開示させられる危険性があります。」


「分かった。悩んでいてもしょうがないよね。小細工しないで、今までと同じタブレットにするよ。そして、できるだけ早く誰でもシエンナ並みに使いこなすことができるタブレットを開発する。」


 タブレットづくりを遅らせていた理由はなくなった。ササッと精錬コピーして王宮に出来上がったことを報告しておこう。


 僕は、2時間ほどかけて、タブレット200台と中継基地3000本を精錬して、完成したことをティモシー様に連絡した。精錬の熟練度が上がって、複雑な魔道具でもかなり早くできるようになった。今までだったら、4時間以上かかっていたかもしれない。中継基地3000本が大変だった。


『ティモシー:陛下に完成を報告した。できれば、すぐにタブレットを持って登城して欲しい。この後、2時間後に謁見の時間を設定した。冒険者の服装で構わぬゆえ取り急ぎ来てくれ。陛下は、全員での登城を希望されておる』


「ええっ、どうして、全員なの?」


「それに、2時間後って、俺たちは、今、砦にいるんだぞ。」


「あの…、私、賢者様のマスクお借りしても良いですか?」


「だめに決まってるでしょう。」


 シエンナがミラ姉に怒られた。本当に泣きそうな顔になっている。


「全員というのは、パーティーメンバーだけで宜しいのでしょうか。賢者様は、もう森へお帰りになっています。ティモシー様に送信。」


「そんな連絡送って意味あるの?ティモシー様も陛下も森の賢者の正体は知っているのよ。」


 ミラ姉がそんなこと言ってきたけど、ロジャーがしっかりフォローしていくれた。


「ティモシー様のタブレットに履歴があることが大切だと思うぞ。だから、レイがやっていることは大切だ。」


 その通り。


 それから、右往左往して、登城の準備を済ませて3人乗りドローン2台で王都に向かった。エリックさんも一緒に行きたいと言ったから乗せて行った。王都の門の前でドローンを着陸させて、エスに乗って王宮に向かうことにしたが、エリックさんは、そのまま王都の門の中に消えて行った。


 もしも、別々に帰ることになってもエリックさんには、マウンテンバイクと回復ポーションを渡してあるから、自力で戻ることもできる。まあ、タブレットもあるから落ち合うことは簡単だ。


王宮に着いたらいつも通り、控えの間で待たされた。約束の時間よりも30分程早いから仕方ない。時間通りに謁見の間に通され、国王陛下にお目通りした。


「いつものことだが、予定よりも早くなるな…、主らは。完成予定日は、3日後と言っていなかったか?」


「はい。ロックバレーのゴーレム階層が、広くて思った以上に素材集めがはかどってしまいました。」


「それは、良くやった。広いゴーレム階層でコアを集めるなど大変であったであろう。


国王陛下は、僕たちの頑張りを褒めてくれた。


「ありがたきお言葉、謹んでお受けいたします。」


ミラ姉が、恭しく頭を下げお礼を言った。


「そのような言葉遣いはもう良い。話がスムーズに進まんゆえ、いつも通りの言葉遣いで話すと良いぞ」


「有難うございます。では、お伺いしたいことがございます。宜しいでしょうか?」


「何だ?まあ、言ってみろ」


「はい。では、一番お聞きしたかったことからお伺いします。何故、今回は、パーティーメンバー全員での登城をお申し付けなさったのでょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る