第188話 アグリゲートパーティーハウス

エリックさんの勧誘が成功した後、冒険者学校の指導者集めについてミラ姉に尋ねた。


「指導者の勧誘うまくいった?だれか、学校の先生になってくる人いた?」


「なってくれそうなのは一人ね。ドナさんだけ。でも、パーティーハウスのメイドは続けたいって言ってた。みんなと離れるのは嫌なんだって。だから通いの先生ね。」


「通いっていってもパーティーハウスから拠点までだったら、ゴーレムバスで20分程だしね。通えない距離じゃないけど、毎日となると大変だよね。」


ロジャーは心配そうだけど、僕たちだって、森に行くのにさえ1時間位かけていたんだからそんなに大変じゃないと思う。今じゃなんか大変そうだけど。


「町の冒険者ギルドにも相談に行ったんだけど、信頼できる冒険者を時々指導に回すことはギルド依頼として可能だろうって、勿論依頼料はいくらかは支払ってもらわないといけないって言ってたわ。」


「子どもたちを学校に住まわせるんだったら、生活の世話や指導をしてくれる人も必要だよね。」


僕がミラ姉に言うと、


「それで、思ったんだけど、ベン神父にお願いしたらどうかしら。この村にいるのは、多分、私たちの為でしょう。私たちは、独り立ちできそうだから、私たちと一緒に学校を作ってくれないか頼んでみたらどう?。教会の活動はこの村の中でしかできないかもしれないけど、時々村に戻って来るって感じで、本職を先生に職替えしてもらえないかしら。何なら、拠点の方に教会の建物作っても良いと思うんだけど、お願いしても良いと思う?」


「どうかな、ベン神父は、この村でも大切な人だからな。村長さんが許してくれるかな。」


「それよりも、この後、神父に聞いてみたらどうだ。この村も色々な人が出入りするようになって、工事関係で怪我をする人も多いみたいだから忙しそうだぞ。」


「分かったわ。まだ、工事現場は仕事を続けている時間だし、怪我人でも出なければ、神父様は、教会にいるでしょうから胃って聞いてみる。」


「あの…、私たちでパーティーをいくつか集めて、活動するアグリゲート《集合体》を作ったらどうでしょう。初心者を指導したり、協力してダンジョンを攻略したりするパーティーの集まりをです。」


「それなら、このパーティーハウスを拡張してアグリゲート・ハウスすることで、できることが増えるかもしないね。」


「でも、信頼できるパーティーで信用できる人だけじゃないと不都合が起きるぞ。そして、そんなパーティーは、知らないぞ。」


「それなら、アグリゲートのつながり自体をそんなに強いものにしなければいいんじゃない?シエンナのアイディアは、とっても良いと思うの。ほどほど信頼できるパーティーと連携できるように繋がっておくことっていいことだと思わない?初めから、信頼関係なんてできないんだから、初めはそこそこのつながりで良いと思うの。」


「そうか。このパーティーハウスの中に最初っから入れさせるんじゃなくて、敷地内にそれぞれのパーティーハウスを作っておいて会議やたまには食事なんかを一緒にこの家でするようにすればいいか。勿論、一緒に学校での初心者の指導やダンジョン攻略を進めながらね。」


「それに、信頼できそうなパーティーというだけを条件にしてランクなんかは、気にしないで選んだら、指導の比重や一緒に冒険する内容なんかも自然と決まってくるかもしれないな。」


「素材集めなんかは、浅い階層でもやってるし、アグリゲートの仲間に見られたくない実験なんかはダンジョンの工房でやれば良いしな。」


「じゃあ、今のアイディアをエリックさんに相談して、意見を聞いてみよう。難しいと言われたら、他の方法を考えることにしよう。」


それから、僕とミラ姉は、ベン神父様の所へ行き、ロジャーとアンディーとシエンナは、アグリゲートのことをエリックさんに相談することにした。


ベン神父は、学校の指導者を引き受けてくれた。ただし、砦に教会を残しておくこと。砦に何かあった時は、それを優先していいことを条件にだ。


また、宿舎の世話人として、知り合いの元シスターを紹介してくれるそうだ。子ども好きで、腕が建つ元シスターの冒険者ということだった。Aランクだったが、パーティーメンバーをダンジョンでの事故で亡くして、最近は冒険者活動を休止している人らしい。


他にも、元冒険者仲間に連絡してくれるとも言ってくれた。僕たちが冒険者になった時、とっても心配したから、そんな心配をする人の心労を少しでも軽くできたらと言ってくれた。ニコ神父の所の子どもたちが冒険者になりたがっているのも引き受けてくれた理由の一つのようだった。


ベン神父に相談に行って、学校運営の目鼻が整って来た。流石、ミラ姉だ。そして、冒険者の学校は、9歳から受け入れることにしたらどうかと言われた。何故か聞いたら、魔力病の子どもの症状が出たり、ひどくなったりするのがちょうどその年だからだそうだ。分かるようで良く分からない。


なんでも、僕のような子どもを助けたいからだそうだ。魔力病の治療薬はとても高くて、普通の家庭では準備することが難しい。しかも、魔力回路が成熟するまで治療を続けないといけない。


しかし、僕たちが新しい治療方法を考え出した。同じ属性の魔力を持つ者が、魔力を循環させて魔力回路に溜まっている魔力を抜く方法だ。


学校に来ればその治療ができるかもしれないということだ。魔力病の子どもは、治療として、魔力を回し、魔力病でない子は、魔力操作と魔力を増やす訓練として魔力を回す。共に価値のある訓練だ。この治療を行えば、高価な治療薬を購入しなくても良い。


学校の構想については、ベン神父に任せることにしよう。となれば、ベン神父に校長をお願いした方が何かと都合が良いだろう。そんなことを、みんなで話した。


その後、エリックさんとベン神父と一緒に町に出かけた。町の教会に協力をお願いに行くためと、他のパーティーに貸すためのパーティーハウスに適当な大きさの家を探すためだ。僕たちのパーティーハウスと同じ大きさの物を作るのは、都合が悪い。敷地がすぐに足りなくなるし、家の維持が難しい。


商業ギルドにいって、何軒か家を紹介してもらった。会議室として使える部屋と食堂、台所があり、大き目の倉庫と地下室を持っていて部屋数がそれらを除いて4~7部屋という条件で探してもらい、何軒かまわった。


4件目に行った家が条件にピッタリだった。会議室として使えるリビングルームと食堂につながる台所。その横には倉庫が二つ並んでいて、一階にトイレもあった。トイレの横には、部屋があったからそこをお風呂に改造できそうだった。地下室もあって、倉庫になっていた。2階には部屋が6つあった。そして、2階にもトイレが付いていた。トイレの横の部屋は、使用人たちの部屋だったそうだ。


その家を一月借りた。全体も同様の借り方をしたが、家を補修してピカピカにして返したから、喜んで貸してくれた。大きさは、ダンジョンの工房の半分くらいだ。つまり、パーティーハウスの8分の1くらいの大きさ、この位の大きさなら、自分たちで維持できるだろう。


商業ギルドで鍵を受け取って、さっそく、家を完全収納して、家の精錬コピーを行った。材木もたくさん収納しているから借りた家の補修もばっちりだ。その時、地下室の形状をアンディーと確認した。細かく採寸しておかないと上に建てた家が傾いてしまったり、崩れ落ちてしまう。


「これで大丈夫かな?」


「すぐに、砦に戻って、パーティーハウスの横に建ててアグリゲートパーティーハウスにしてしまおうぜ。」


「アンディーには、部屋の改造をお願いして良いかな?1階のトイレの前あたりに、お風呂を作っておこうかなって思ってさ。風呂釜を溶岩で作ったら、魔石なしでお湯が出る風呂魔道具ができるんじゃないかなって思うんだけど、風呂釜と掛かり湯だめを作ってくれないかな。それが出来たら、魔法陣を刻んでみるからさ。」


「とにかく、早く帰って作ってみよう。1つ作れば、アグリゲートパーティーが増えるたびに作ることができるようになるだろう。」


「先に砦に戻っていていい?ミラ姉に送信」


僕がタブレットで送るとすぐにミラ姉から返事が返って来た。


『ミラ:私たちも買えるから待ってて』


ロジャーとシエンナもベン神父と一緒に教会に行ったんだけど、ベン神父以外全員戻って来た。


「神父様は、もう少し話をしてくるって。お酒も持って行ってたから飲み明かすつもりだと思うわ。」


「じゃあ、砦に帰りましょう。みなさん、乗って下さい。」


シエンナがエスを取り出して、全員乗ったことを確認したら、すぐに砦に向かって出発した。


みんな、僕とアンディーの後ろで見ている。アンディーが土魔法で起訴になる穴をあけた。地下室になる部分だ。場所は、僕たちのパーティーハウスのすぐ横。地下通路で繋ぐか迷ったけど地下道だけは掘っておくけど、まだ繋がないことにした。


基礎の穴が完成したらその穴にピッタリになるような縮尺今回は、等倍の家をコピーして建てた。魔力はかなり必要だけど、それでも半分以上残っている。


次にすることは、家の改造だ。一階にお風呂を作る。アンディーに溶岩を渡して、土魔法で加工してもらう。湯舟は、3人以上で入っても十分なくらい広くして洗い場にも十分なスペースを取っておく。掛け湯溜めも十分な大きさにして溢れてきたお湯は、台所の排水と同じ場所に流し込むようにした。


排水は全て、浄水の魔道具に溜めて浄水して、養分を溶かし込んだ後、ハウス内の小川に流し込むようにする予定だ。


出来上がった風呂釜には魔力は入れないで、かけ湯だめの方だけに魔力を貯めて見てもらった。沢山のお湯が出るなら、こちらから湯舟の方にお湯を流し込むことができる。


「この掛け湯だめに満タンに魔力を入れるだけで、私の魔力の3分の1近くを使ったわ。これで、1日ちも持たなかったら、かなり効率悪い魔道具ということになるわね。」


魔力を貯めてくれたミラ姉の感想だ。そんな話をしている間にどんどんと掛け湯だめにはお湯がたまっていった。


「湯加減はどう?」


溜まったお湯に手を入れたロジャーがすぐに手を引っ込めた。


「熱い。これじゃあ、掛け湯として使えない。火傷しちゃう。」


「じゃあ、一度収納して、水の魔法陣を書き足してみるね。」


「アイテムボックスオープン。収納。アルケミー・ウォーター・マジックサークル。」


すぐに取り出して書き加えた魔法陣に魔力が流れ込むように魔力を誘導した。さっきの2割り増しくらいの勢いでお湯が出だした。お湯を触ってみると少し熱めなくらいのお湯が出ていた。


「アンディー、掛け湯溜めから、湯舟の方にお湯が流れ込むように道を作って。後で湯加減がちょうど良くなるように調整しないといけないけど、初めはとにかく流れ込めばいいや。」


アンディーが湯舟のお湯が流れ込むように湯の道を作ってくれた。ザザーッとお湯が流れ込んでいく。この勢いで流れ込んでいればいつでもきれいなお湯に入れる。なんか羨ましいお風呂ができた。


もしかしたら、掛け湯だめは、今回作ったものの3分の1位で調度良いかもしれない。それで、十分お風呂のお湯まで賄うことができる気がした。掛け湯溜めというより、湯沸かし魔道具だ。台所なんかにおいても便利かもしれない。僕は、湯沸かし魔道具を一度収納して、大きさを半分にした。3分の1じゃ心配だったからね。半分の湯沸かし魔道具でも十分すぎるお湯が出てきた。


家具は、パーティーが決まってから準備しても良いし、自分たちの物を持ってくるかもしれない。だから、入居者が決まってから入れることにした。みんなにすべての部屋を確認してもらってアグリゲートパーティーハウスが完成した。





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