第187話 仲間の勧誘
今、僕は一人で実験工房の防壁づくりをしている。ミラ姉は、町の冒険者ギルドに冒険者の学校の指導者を探しに行った。さっきまでアンディーも一緒に作ってくれていたんだけど、地下に埋める部分を作り終えたら、ロジャーとシエンナと一緒に森のダンジョンにゴーレムコアの採集に行ってしまった。
帝国に販売するためのゴーレムタブレットと中継基地を作る為のコアはすでに持っているんだけど、皇帝陛下から3人乗りドローンやロイヤルカーの注文があった時に数日以内に作って届けることができるようにしておきたかったからだ。
ドローンに関しては、外国に輸出する場合は、武器は付けないと言う契約を王宮としている。(ことになっている。)だから、外国からドローンの注文が入ることは無いと思うが、皇帝は、分からない。目先が効く方だから、武器がついていなくても使用方法を思いつくかもしれない。
そんなことを考えながら防壁を積んでいく。1時間位作業をした頃アンディーが戻って来た。
「ただいま。ガーディアンのコアだけじゃなく、ゴーレムのコアも採集してきたぞ。これで、何を注文されても大丈夫だ。」
ロジャーは、自信満々だけど、本当にそうかな?皇帝って本当に
ロックブロックを積み終わったら、アンディーに石壁の強化をしてもらう。次は、正面で入り口だ。まず、大きな門扉を移動させるためにレールを引いた。基礎のロックブロックに埋め込んで、段差はないようにした。次に、溶岩で作った車輪付きの2枚の門扉を精錬した。左右の門扉には、結界の魔法陣を埋め込むための枠を付けている。門扉の足の部分には車輪を付けておいてレールの上を転がるようにしておいた。
車輪の前後には、ゴーレムコアで足を作って付け、指示すれば自動で開くようにした。そんなに難しいことをするわけでも力がすごく必要なわけでもないので各扉に付けたゴーレムの足はそれぞれコア1個分で済ませた。
次に、研究所からの出入り口を作成する。正面門扉と同じく溶岩で作った。少し重くなったけど蝶番の所を頑丈してドアの下に車輪を付けたから、大丈夫だろう。入り口横の壁の所に目立たないように結界のスイッチを付けてドアを消したり出現させたりできるようにした。
結界が有効な時は、ドアの場所はただの壁に見える。鍵をかけることもできるが、結界のスイッチと連動させている。
ここまで、完成させるのに1日かかった。ミラ姉は、夕方まで帰ってこなかった。指導者探しは、なかなか難しいようだ。
朝のうちに、ミスリルポールを5本建てた。四隅と後方中央だ。直径15cmほどのポールだが軽くて丈夫だ。そのポールに魔獣の皮を加工したテント屋根を張る。更にミスリルワイヤーで柱を壁に固定して倒れないように固めた。これで雨天時でも作業を進めることができる。
一番高いミスりポールの上に魔石をセットした。このセットは、ロジャーにお願いした。凄い勢いで、ポールの一番上まで駆け上がって行って魔石をセットしてくたれ。その魔石へ魔力を充填するには、魔石から垂らしたミスリル導線を使って、魔石まで魔力を送り込まないといけない。かなり大変だけど、付けたり消したりしないから一回の充填で1年近く持つんじゃないかと思う。Aランクの魔物の魔石を使っているから、もってもらわないと困る。
テント屋根に使った魔獣皮は、白一色なので、中はかなり明るい。Aランクの魔物の魔石に魔力を一杯に溜めて結界を張った。多分、この工房は外からは見えなくなったはずだ。
門扉の結界もすでに発動している。出入り口の結界はまだだけど、魔力は充填している。エリックさんを呼んで確認してもらおう。工房ができれば、研究所が出来なくても研究を始められる。早速、町や王都に行って人材探しをしないといけない。
「本当に外からは、見えませんね。本当にここに工房が建っているのですか?」
賢者の研究所の草原側、パーティーハウスの反対側から研究所が見える場所から、工房がある場所を見てもらった。
「中の確認もお願いして良いですか?」
「勿論ですとも。外から見てもどのくらいの規模の工房なのか全く分かりませんからね。是非、確認させてください。」
僕たちは、研究所の中に作った出入り口から、エリックさんを案内して工房の中に入って行った。
「この広さの工房が、研究所の横にあったのですか?たしかに、外から見た時、少し遠近感に違和感があったのです。目の前に見えている研究所の壁が昨日に比べると長いなと感じましたし、でも気が付きませんでした。この広さが研究所の横に建っていたなんて。凄い結界です。」
「雨天時も作業ができるように、屋根も付けています。ですから、ドローンで直接ここに入ってくることはできません。小型のドローンも結界の中に入ることはできないので、研究所の方に来ることになると思います。」
「それは、そうでしょう。しかし、この規模の工房を隠してしまうなんて、非常識な結界をおつくりになるのですね。皆さんは。これを作ったのは、レイ様ですか?森の賢者様ですか?」
「これは、僕とアンディーの合作です。森の賢者に教えてもらった物も、二人なら何とか作ることができるんですよ。」
「あの、黒い門扉は何なのでしょうか?」
「あれは、凄いですよ。ダンジョンの溶岩を使って作ってあるのですが、魔石を使わなくても、魔力を貯めて結界を張ることができるのです。」
「そんな、また、非常識な物をおつくりになる…。魔道具の在り方が変わってしまうではありませんか。」
「重たいのが欠点ですが、良い所でもありますね。重量が大きいことを利用する魔道具が作れますし、盗難にあいにくい。」
「まあ、それはそうでしょうが…。ここまで、完成させたということは、さっそく人を集めて研究をお始めになるということですか?」
「そうしたいと思っているのですが、何か問題でもありますか?」
「その方々のお住まいや、身の回りの世話をする者たちはどうするのですか?研究者や職人たちはとかく己の仕事に没頭して、身の回りのことがおろそかになりがちですよ。それに、ここには、その者たちが生活する施設がまだできておりません。」
「じゃあ、賢者の研究所ができるまでは、僕たちのパーティーハウスで生活してもらったらどうかな。」
僕がそんな提案をするとエリックさんがすかさず突っ込んでくる。
「では、研究所ができた後はどうなそるおつもりですか?その方々は、研究所内でどのような生活をなさるのですか?」
「ぅっ。何も考えていませんでした。」
「じゃあさ、せっかくだから、エリックさんにこの研究所の責任者になってもらって研究者たちの管理をしてもらったらどうだ?」
「えっ?研究所長ってこと?」
突然のロジャーの提案にミラ姉は、ビックリして聞き返した。
「何をおっしゃっているのですか。私に研究など無理に決まっているでしょう。」
当然、エリックさんは、そう答える。執事なんだから研究なんて無理に決まっている。
「違うと思う。研究所の管理を任せたいんだよ。研究者の健康管理やこの研究所の金銭管理。人員の管理も任せないといけないな。この研究所にどのような人が必要で、どんな部署にどんな人を回せばいいのかなんて俺たちじゃできない。」
アンディーの説明でみんなはようやくロジャーの提案の意味が分かった。僕もロジャーの提案に賛成だ。ミラ姉とシエンナも納得顔で頷いていた。
「エリックさんが、いずれこの村を出て行って、自分がしたいことをするという予定があるのなら無理は言いません。エリックさんは、私たちのメイドの指導者として、王都から来て頂い方ということも分かっています。でも、もし、これからも私たちと一緒にいて頂けるのでしたら是非、研究所の管理をお願い出来ないでしょうか。」
ミラ姉のお願いに、エリックさんは、遠くの方を見るような、自分の手を見るような、目をつぶって考え込むようなことを繰り返していたが、突然、厳しい雰囲気を漂わせ。僕たちを見た。
「それというのは、私を皆様の仲間に迎えたいということでしょうか?それとも、執事としてこれからも雇い入れたいということですか。皆様の仲間のメイドや執事の指導者としててではなく。」
「僕たちは、本当に駆け出しの冒険者で、エリックさんの仲間としては、力不足だとは思っています。でも、もしも、お力になっていただけるのなら仲間として共に過ごして頂けないでしょうか。」
「有難うございます。雇い主の皆様にそう言っていただけることは本当に、有難いことです。しかし、お返事は、ほんのしばらくの間お待ちいただけませんでしょうか。王都よりともに参ったドナのこともありますし、何より、皆様に私を推薦していただいたジェイソン様への恩義もございます。」
「待つのは、大丈夫です。でも、ドナさんにはすでにお話ししているのでが、エリックさんの許可が頂ければ、冒険者の学校の指導者になっていただけないかとお願いしているのです。いずれ、ドナさんからお話があるとは思いますが。」
「ドナに冒険者の指導をですか…。そうですね。適任かもしれません。ドナなら命を大切にする術を徹底的に教え込むでしょう。ドナのことは分かりました。奴には、指導者の道があっているかもしれない。」
「後は、ジェイソン様への恩義ということですが、実は、これから王都に行ってこの研究所で働いていただける方をジェイソンさんに紹介して頂こうと思っているのです。ジェイソン様なら、やる気がある精錬術師や錬金術師をご存じじゃないかと思いまして。エリックさんの恩義に報いるようなことが何かできるようでしたら、僕たちがお手伝いいたします。どうでしょうか?」
「実を申しますと、ジェイソン様が、
「それが何か問題あるのですか?」
シエンナが、不思議そうな顔で聞いてきた。
「えっ?皆様を顧みることなくジェイソン様の元へ駆けつけようと言うのですよ。」
「それが何か問題あるのですか?エリックさんがジェイソン様の一大事に一目散に駆けつけるなら、私たちが後から応援に伺いますよ。仲間の主の一大事なのでしょう。」
「そうですよ。今だって、同じですけどね。まだ、仲間になっていないってエリックさんが言っても、僕たちにとっては大切な方ですから、勿論、ジェイソンさんもです。」
「わが主も、きっと喜ぶと思います。その言葉を聞かせてあげたい。私をここによこしたのも、わが主が、皆様のことを大切に思っているからでございます。」
「存じておりますとも。私たちもジェイソン様には、大きな恩を感じているのですよ。それだけでなく、大切にされているということも感じています。王都の大切な方の一人です。」
「分かりました。主ともども皆様と仲良くなることができたことを喜ぶことといたします。」
「では、所長を引き受けていただけるのですね。」
「所長の件につきましては、もうしばらくお待ちください。適任者が他にいると存じます。実は、主のことを許していただけるなら、やりたいことがあるのです。」
「主のことというのは、ジェイソンさんに何かあった時に駆け付けるということでしょう。勿論ですよ。許すも何も先ほど言った通り間違いありません。」
僕は、もう一度はっきりと伝えた。
「それで、やりたいこととは何でしょうか。」
ミラ姉が聞いた。もしかしたら冒険者の学校の指導者をしてもらいたいと思っているのかもしれない。
「それは、若い技術者の学校の指導者です。エヴィの指導を行ってことの他楽しくなってしまいましてね。若く有望な技術者・工学魔術者を育てて見たくなったのです。」
「では、研究所の管理はしていただけないのですか?」
「私にできるお手伝いはしても良いと思っています。ただ、本当にしたいことをさせて頂けるのなら技術者の指導をさせて頂きたいのですが…、皆様の仲間になるのは、喜んで受けさせて頂きます。」
「「「「「有難うございます。これからもよろしくお願いします。」」」」」
僕ら全員声を合わせてエリックさんが仲間になってくれたことを喜んだ。
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