第184話 砂の階層のボス退治

眩しい。上の暗闇階層の下は、まぶしすぎる階層だ。目の前に広がる砂、砂、砂…。この砂を収納して、ガラスの器を作ってみた。少し青みがあるきれいな器ができた。この砂、素材として有用だ。


「ロジャー、ストレージに余裕があるなら、ここの砂、多目に収納しておいてよ。素材として使うことが出来そうなんだ。」


「分かった。かなりたくさん収納しておいた方が良いんだな。」


ロジャーは、砂に右手をつき収納し始めた。かなり離れた場所うからロジャーに向かって砂が押し寄せてくる。その砂の流れに押し流されるように何かがやって来る。


「ロジャー、ストップ!」


「会敵!何あれ!気持ち悪い。」


見たこともない、くねくねとのたうつ魔物だ。そんな魔物が3匹、ロジャーが収納しようとした砂で流されてきた。魔物は、僕たちを発見したようで正対すると細い職種のようなものを伸ばしてきた。


「ウェポンバレット!」


アンディーが高火力魔術で応戦した。魔物の防御力は高くなかった。アンディーのウェポンバレットに引き裂かれて、魔石になった。薄い黄土色の土属性の魔石が残った。


「回収しようとした大剣と槍が消えた。」


「ダンジョンに吸収されたの?」


「そうみたいだ。今までは、武器を吸収されたことってなかったと思うんだけど。」


「アンディーは、このダンジョンでウェポンバレット使ったっけ?」


「ボス部屋では使ったぞ。それ以外は…、使ってないかも。ボス部屋で使ったウェポンバレットの時は、武器は全部回収できた?」


「ドロップ品をみんなで回収したし、その後に武器を作ったりしたからな…。全部回収できたか分からないな。その時にも吸収されていたのかもしれない。」


「もしかしたら、冒険者が落としたものをダンジョンが複製してドロップしているのかもしれないね。それだから、このダンジョンのドロップ品は、魔物の素材ばかりなのかもしれないよ。冒険者があまり入り込んでいないから。」


「まだ、浅い階層しか探索されてないからな。死亡事故も起こってないようだし。」


ロジャーも僕とおんなじ考えのようだ。


「それなら、実験してみよう。まず、この階層の砂から作ったゴブレットを砂の上に置いてみるでしょう。」


砂の上に置かれたゴブレットはあっと言う間にダンジョンに吸収された。


「これで、この階層は、手持ちの素材で作ることができる品物を手に入れたことになるよね。これが、ドロップ品で出てくるようになったら、さっきの仮説は、ほぼ正解ということになるんじゃない。」


「じゃあ、俺もこの階層の砂で作ることができる物を作ってみよう。レイ、この階層の砂から金属かガラスを精錬してくれないか?」


「まず、砂を収納して…。アルケミー・ミスリル…。含まれていないみたい。アルケミー・アイアン…。少なすぎる。アルケミー・ブロンズ…。これも少ない。アルケミー・ガラスブロック」


この砂に含まれている金属はほとんどないようだ。しかし、かなりの量のガラスブロックは作ることができた。


「アンディー、ガラスブロックしかできなかった。」


「そうか。ガラスが材料の物でドロップしたら嬉しい物なんかあるかな…。魔石を混ぜ込んだガラスにして魔法陣を刻んで、飲み物を入れたら冷たく冷えるジョッキなんてどう?魔石を混ぜ込んだガラスを作るから、カッコいいジョッキにしてみてよ。」


「ジョッキじゃあ、酒場の安物の器みたいだから、ガラスのティーカップにしてみようか。冷たい飲み物用と熱い飲み物用を作ったら面白いんじゃないか。」


「ダンジョンでドロップするなら、市場に出しても怪しまれないからな。それは、良いかもしれないね。」


僕たちが盛り上がっていると、


「実験も良いけど、いい加減先に進むわよ。暑いし、日に焼けてしまいそう。日焼けは、美容の敵なのよ。」


「急いで、冷たい飲み物用と温かい飲み物用のティーカップ作って。それをコピーして魔法陣を刻むからさ。」


アンディーが作ってくれたティーカップの底に魔法陣を刻んで冷たい飲み物用と温かい飲み物用の二種類のティーカップにした。暖かい飲み物用のティーカップは、薄いピンクに色付けし、冷たい飲み物用のティーカップは薄い青で、ここのガラスそのままの色にしてみた。


出来上がったティーカップを砂漠の砂の上に置いた。青いティーカップはあっと言う間に吸収されたが、黄色いティーカップが吸収されるのには少し時間がかかった。理由は、分からない。さっぱりだ。


暫く、エスで砂漠を進んだ。勿論、次階層入り口に向かってだ。


「前方、2時の方向に魔物を発見しました。」


『アンディー:了解。討伐したい。向かって』


「了解。」


シエンナは、わざわざ、アンディーに送信なんて言わなくても送信できる。それに、多分、タブレットを通して、アンディーの声を聞いている。多分だけど。


目の前に現れたのは、蛇だ。から他の半分は砂の中に隠している。あっ、ロジャーがリキロゲンボムを投げつけた。頭と首…。蛇は、そのまま倒れていく。動けなくなったようだ。その倒れていく首にロジャーの投げ斧が命中した。頭を落として、蛇は魔石とドロップ品に変わった。


「ロジャー!ズルいぞ。俺がシエンナにお願いしたのに!」


「悪い悪い!あのまま砂漠に倒れたら嫌だなーって思ったもんだから、思わず首を落としちまったよ。」


「このまま素材回収に行きます。魔石と何かドロップ品があります。」


『アンディー:もう少し近づいて、収納する。』


『アンディー:仮説は正しかったようだぞ。青のティーカップがドロップ品だ』


「やっぱり、ドロップ品は、過去の冒険者たちが落とした物なんだ。それじゃあ。不思議アイテムも昔の冒険者たちが使っていたものなんだよ。それって凄いよね。パーティー送信。」


思わず、興奮してしまったけど、ダンジョンが過去の冒険者たちが落とした魔道具なんかを複製コピーしてドロップしているのなら精錬コピーと同じだ。元になる道具があるってことなんだ。そしてその精錬式も。つまり、ドロップ品は、材料さえあれば作れる。


素材以外のドロップ品ってあんまり拾ったことなかったな。若いダンジョンしか潜ったことなかったからかな…。


その後も、サンドスネークやサンドワームに何回か会敵し、討伐したけど、魔石と冷たい飲み物用のティーカップ以外ドロップしなかった。吸収された他の道具はどうしたのだろう…。


今、ボス部屋の前にいる。中に入るか止めるか。アンディーたちが言っていた初回限定サービスがロックバレーのダンジョンでもありうるのか。でも、たくさんのAランクロックリザードをダンジョンから外に出している。それだけ魔力を消費したということだ。だから、何十階層も下の魔物がバス部屋にいるはずはない。現に、今までのボス部屋も大したことなかった。


「どうする?」


「せっかくここまで来たんだから入ろうよ。そして溶岩を採集して帰ろう。下の階層は、今日は見るだけにしよう。」


「じゃあ、入るわよ。いい。この大きさの扉なら、ガーディーとソーディーが前。その後ろからオットーに乗って入りましょう。バッキーは、デッキで私たちが出る時の護衛を頼むわ。じゃあ、乗り換えよ。インディーは殿を頼むわ。もしもの時の為に扉を開いていて。」


全員、オットーに乗り換えてフォーメーションを組んだ。


「もしもデッキに上がるなら、一番身軽なロジャー、アンディー、盾役のシエンナ、私からレイの順番よ。」


入る前に動きの確認をする。


「ドラゴン系だったらロジャーが高火力投擲をしている間にアンディーがウェポンバレットに最大魔力を注ぎ込んでぶちかまして、結界を壊した後に私たちがライフル攻撃。ロックリザード系の魔物ならライフルをアイスジャベリンにセットして、レイは、リキロゲンボールよ。相手を確認しないとどんな攻撃が良いのか話っきり分からない。慌てず、臨機応変で行きましょう。」


「行くわよ。ゴー。」


ガーディーとソーディーが扉を開け中に入った。


でかいドラゴンが口を開けて待っていた。


「まずい。バック。ガーディーとソーディー、下がって扉を閉めなさい。」


『ガガガガガガガーン。』


扉は、大丈夫。流石ダンジョン性だ。でも、開こうとする扉をソーディーとガーディー、ゴーレムハンドで必死に押さえている。


扉から出てこられるとまずい。どうする。あのドラゴンも僕たちを警戒して簡単には出てこない。並みのパーティーなら扉越しにでもドラゴンの吐息に耐えることなんてできなかっただろう。抑えきれず、扉を開き、吐息に焼かれてしまったはずだ。


「後ろからあの吐息を撃ち込まれるとまずいわ。それに、活性化した階層ボスをそのままにして撤退したんなて知れたら、懲罰もんだわ。」


「下手したら、スタンビートをおこしちまう。この階層のドラゴンが上の階層の魔物を押し上げて自らと共に、一緒に町や村を襲いながら侵攻する事案になる可能性もある。」


「とにかく、ここであのドラゴンを仕留めるってことですね。」


「まず、吐息の間隔を確認しよう。 一回吐息を吐いて、次にと息を吐くことができるようになるまでどのくらいの時間がかかるのかを確認だ。」


「ガーディーとソーディー、今と同じように、扉を開けて吐息を誘ってちょうだい。ドラゴンが口を開けたらすぐに退避よ。」


「じゃあ、行くわよ。3、2、1、ゴー。」


ガーディーとソーディーが中に入った。ドラゴンが口を開けた。


「退避。急いで扉を閉めて。」


『ガガガガガガガガガガガガガガガガーン。』


さっきより長い吐息だ。それでも耐えた。


「終わった。ソーディー、中に入って投擲攻撃よ。口を開けるまでその場にいて頂戴。」


「ガーディー、出来たらで良いわ。あなたも投擲攻撃お願い。」


ロジャーがガーディーとソーディーの足元に大きな投げ槍を6本出した。2体はそれを握り中に入る。


『チャキーン。ガッガ。ギーン。ジャーギン。ヂャーギン、ガッギ。』


どうやら6本の矢を投げ終わるまでは攻撃がなかったようだ。ドラゴンも続く攻撃がないか警戒しているのだろう。なかなか、口を開いて竜の吐息を出そうとしない。


「退避よ。急いで。」


2体が退避行動をとろうとした時、口を開いた。


『ガガガガガガガガガガガガーン。ガガガガガガーン。ガガーン。』


絞りだすように何度か吐息を扉にぶつけてきた。「


「ロジャー、アンディー、デッキに出て!全員デッキで攻撃態勢よ。」


ミラ姉の指示で全員デッキに上がる。


「突入よ。カウント無し。ロジャーできるだけ高火力の投擲攻撃よ。連続でお願い。」


「了解。」


「ドラゴンは、結界維持のために魔力をそっちに回すはずよ。その間に持っているだけの武器で、ウェポンバレットの準備をして頂戴。結界を全部剥がして。仕上げは、私たち。高火力のファイヤーボールとアイスジャベリンで首を落とすわよ。」


「了解。」


デッキに上がりながらボス部屋に突入した。目の前にドラゴンがいる。まだ余裕の持って僕たちを見下ろしている。


「オリャー。」


『チャリーン。』


「オリャ、トリャ、オリャッ」


ロジャーの連続投擲だ。


『グリャーン、チャギーン、ギギーン。』


「次、俺が行くぞ。」


アンディーがウェポンバレットに十分魔力を流し込んで言った。


「バレット!」


『グギガギゲジャキーン』


ドラゴンの首が半分になっていた。


「仕上げ行くわよ。シエンナ、レイ」


『ビュゴー!』『シャギーン』『ドビュゴーッ!』


ほぼ同時に白いファイヤーボール2発とアイスジャベリンがドラゴンの首を破壊した。首が落ちた。


『ゴトリッ』


ドラゴンは、魔石とうろこになっていった。2匹目のドラゴン退治だ。


「ドラゴン退治の方法分かったかもしれないね。」


「そうね。でもそれは、黙っておきましょう。ドラゴン退治の依頼なんて来たら大変だから。」


僕たちは、ドロップ品を拾うと下の階へ降りて行った。蒸し暑いジャングル。深い森の中だった。

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