第179話 溶岩の魔法陣

「お早う。」


「お早う。今日帰るんだよね。」

お母さんが、聞いてきた。


「うん。今日の10時くらいかな…。まだ、3時間位あるから、何か実験してみたいな。何かない?」


「そうね。地球で魔法陣ができないか…。そのヒントは、一昨日のスーパー効果の温泉化粧水にある気がするのよね。」


「どういうこと?」


「私たち、地球の住人は利用できていないけど、地下からくみ上げた温泉の湯には、魔力が含まれているんじゃないのかな…。」


「だから、僕と玲の魔力が混ざった化粧水位の効果があったということ?」


「そうかもしれないってくらいなんだけど。それなら、地下の溶岩にも魔力が含まれているかもしれないでしょう。そして、ものすごく低い可能性だけど、その溶岩に魔法陣を玲の魔術で刻んだら、魔法的な何かが起きるんじゃないかしら。」


「それで、その溶岩ってそんなに簡単に手に入るの?」


「後、3時間じゃ、出来立てほやほやを手に入れることは難しいけど、岩石標本なら手に入るわ。この前、キャンプに行った時に拾って来たものがあるからそれに魔法陣を刻んでみてくれない?できるだけ強力じゃない物。そうねえ。チョロチョロ水かお湯が出てくる魔法陣なんてない?」


「お湯が出てくる魔法陣があり…、あるよ。でもかなり大きな魔石じゃないと、お風呂の水もためることができない。」


「小さいのでも十分だと思うぞ。もしも、溶岩への魔法陣で魔法が発生するのなら、後で、溶岩を手に入れてくればいいし、色々な場所の溶岩や火成岩で試してみるのも良いかもしれない。」


お父さんも魔法陣の実験がお望みのようだ。


お母さんが持ってきた溶岩を手に取ってみる。小さい割にずっしりと重く色は黒い。


「アルケミー・ホットウォーター・マジックサークル。」


向こうの世界では見慣れた、「お湯の魔法陣」が刻まれた溶岩が出てきた。


「じゃあ、魔力を込めてみるね。」


「ちょっと待って。洗面器を持ってくる。」


お母さんが、バタバタと浴室に走って洗面器を持ってきた。


「魔力を込めてみるよ。」


魔石に魔力を貯めるように、溶岩に魔力を貯めようとして魔力を流し込んでみた。魔力を流している間は、少しずつお湯が出てくるのに魔力は、ざるに水をためようとしてるみたいに抜けて言ってしまう。


「すごーい。お湯が出てくる。」

お母さんは、喜んでいるけど、これじゃあ使い物にならない。


「お母さん、これダメだ。」


「どうして?魔法陣は、しっかりと働いているわよ。」


「そうだぞ。今まで、物質からお湯が出るなんてこと考えられなかったんだからな。」


「でも、魔術を使えば、お湯を出すことができたでしょう。この魔法陣は、魔力を流し込んだ時には、働いているけど、魔石みたいに魔力をため込むことができていないんだ。ざるに水を流し込んでいるみたいにドンドンと抜けて行ってしまうんだよ。」


「その流し込んでいる感じって何か似てるものってないか?異世界で使ってるものの中でさ。」


この魔力の通り方…?。流れ込み方って…。そうだ、ミスリルだ。この魔力の通り方に似ているのはミスリルの短剣に魔力を通した時の感じに似ているかもしれない。


「ミスリルかな。」


「じゃあ、この溶岩の中からミスリルを抽出できないかやってみてくれないか。魔法陣は、消えてしまうかもしれないけし、ダメで元々でな。未知の物質の分析なんて、仮説を立ててトライアンドエラーしかできないんだからさ。」


「やってみる。アルケミー・ミスリルインゴット。」


小さい小さいミスリルの塊を抽出することができた。0.1gあるだろうか。


「できた。出て来たよ。ミスリル。ほんの少しだけど…。」


「じゃあ、残った溶岩にもう一度、魔法陣を刻んでみて。お湯が出る魔法陣をさ。」


僕は、お父さんが言うように、残った溶岩にお湯が出る魔法陣を刻んでみた。まだ、少し魔力が抜けていく感じは残っていたけど、魔力を貯めることができるようになって、僕が魔力を流し込むのをやめても、しばらくの間、溶岩からお湯がにじみ出ていた。


「凄いわ。魔法陣って。レイが魔力を流し込むのをめたのにまだお湯が出てる。それに、ミスリルが抽出されたのも凄い。世紀の大発見かもしれないわよ。ミスリルってファンタジー物質の代表格みたいなもんじゃない。それが、地球上の溶岩から抽出できたのよ。それって凄いことよ。まあ、レイがミスリルって言ってる物質は、どこかに頼んで金属分析してもらわないといけないけどね。」


「そうだね。それにまだ小さすぎて本当にミスリルかどうか分からないけどね。もっと大きな溶岩から抽出できれば、抽出量も増えてミスリル武器なんかを作れるようになると思う。そうすれば、ミスリルかどうかすぐに分かると思うよ。」


「ミスリル武器ね。何かファンタジー感半端ないわね。」


お母さんは、ファンタジーなんて言ってるけど、僕の世界じゃ現実の物質だし、道具だ。希少金属で、貴重な武器だけど僕も持ってるし使っている。


そんな話をしていると、洗面器からお湯がこぼれだした。まだ、魔力は切れていないようだ。


「凄いな。これっていつまで流れるんだろうな。」


「普通の魔石なら、さっきくらい魔力を流し込めば、一月ひとつきくらい流れ続けるんだけど、まだ抜けていく感があったから、どのくらい出続けるから分からない。」


「じゃあ、出し続けておきましょう。止まるまでの時間も知るたいし、必要だったら玲が戻って来て魔力を貯めてもらえばいいしね。」


「面白い実験だったね。僕も、向こうに戻ったら、溶岩を探して、魔石代わりにできないか実験してみるよ。」


「そうね。やってみて。何か分ったら玲を通じて教えてよ。それに、また来なさいね。いつか、もう少し長い時間こっちに来ることができればいいわね。そうしたら、また、キャンプに行きましょう。実験キャンプにね。」


「実験キャンプ…。行ったことないけどなんか面白そうだね。楽しみにしておくよ。」


時計を見ると9時40分を過ぎていた。ベッドに横になってダイアリーを開いておかないといけない時間が近くなっている。


「じゃあ、そろそろ帰る準備するね。」


僕が、部屋に向かうと、お父さんとお母さんもついてきた。


「見送るよ。良いだろう?」


「う…うん。」


僕は、何て返事したものかと迷ったけど、そう答えていた。


ベッドに横になり、アイテムボックスを開く。今回の転生時にやったことは、今朝の内に日記にリペアできるように書き込んでおいた。さっきの溶岩魔石の実験は、お母さんたちから伝えてもらえるだろう。どうせ、どのくらいの時間お湯が出続けたかを報告してくれるはずだから、改めてダイアリーに追記する必要もないかな…。


「もうすぐ、10時だね。くれぐれも火薬の使い方や広め方は慎重にお願いするよ。それと、楽しかった。きっと、またおいで。一緒に実験旅行に行こう。」


「約束よ。向こうの世界のお仲間にもよろしくね。それに、こんど学校にも行けるように玲にさせておくわ。きっと楽しいと思うわよ。」


「実験旅行も学校も楽しそうだね。またきっと来るよ。楽しかった。ミラ姉達もつれてくることが出来たらいいんだけど、それは無理みたいだから…。今夏の転生のこときっと伝える。じゃあ、またね。」


「また、いらっしゃい。」

「またな。」


僕は、アイテムボックス、ホームポジションの中のダイアリーに追加のページをリペアしようと開いた。ダイアリーに意識が吸い込まれていくような感覚。先に、レイにダイヤリーを操作されていたようだ。


「また来ます。」


一言言ったつもりだったけど聞こえたかな…。



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「やあ、お早う。」


「お帰り。レイ」


「今、夜の8時だけどね。」


「今晩は、ここに泊って明日帰りましょう。賢者の研究所を砦の横に作らないといけなくなったから、また、ロックバレーに石集めに行かないといけないけどね。」


「それに、ロックバレーの拠点を広げて、冒険者の学校を作らないといけないぞ。それに指導者も見つけないといけないな。」


「えっ?何のこと?」


「森の賢者への報酬さ。賢者様も色々やらかして帰っていったからな。」


ロジャーが楽しそうに教えてくれた。


「それに、明日は、化粧水と乳液をバリーおばさんの店に置いてもらうようにお願いしにいかないといけないわ。」


ミラ姉が、突然化粧数と乳液の話をしてきた。向こうの世界でも作って来たからその二つがどんなものかは分かる。でも、こっちの世界の材料で作ることができたんだ。


アイテムボックスの中を見るとたくさんの化粧品が入っていた。明日からしないといけないことを教えてもらいながら、夜は更けていった。体は疲れているのに、なんか眠くない。時差ボケだ。

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