第178話 普段使いと高級化粧品

 陛下との話と今回の献上の報酬の話を終え、3人乗りドローンでダンジョンの工房へ向かっている。王都からダンジョンのそばの草原まで、1時間程度で着く。王都を出る時にロジャー達に今から戻ると連絡した。二人ともダンジョン探索を切り上げて、森のダンジョンに戻ってきていることだろう。


 二人は、マウンテンバイクに乗っていったから、僕たちは、草原で小型戦車のエスに乗って工房に戻った。入り口から工房まで5分で着いた。ガーディアンはまだ復活していなかったらあっという間だった。


 今、まだ午後3時20分だ。王室の皆さんは、泊っていけとうるさかったけど、森の研究所にどうしても帰らないといけないからと断って戻って来た。現在の時差だとこちらを夕方6時に転生すると向こうの朝8時くらいになる。夕食を食べて、夜の8時に転生しても、朝の10時くらいだ。向こうの玲も朝食を食べてくるだろうから、僕も夕食を食べてから転生することにした。


 ミラ姉達と夕食を作りながら、話をしている。


「大型ドローンも完成したから、次は何時いつ来たらいいのかな?」


「もう用済みなんて言わないから安心なさい。あなたは、森の賢者様なのよ。」


「レイさんにも地球で、居場所が出来たらいいのにですね。でも、レイさんって少し恥ずかしがり屋さんですからねぇ。」


「僕も、向こうでは、決して陽気な人気者ってわけじゃないから、レイがもこうで友だち作の苦労するかもしれないな…。それより、もう一つ作って試してもらいたい物あるんだけど、作っちゃって良いかな…。」


「ちょっと待って。それって今作って良いようなものなの?危険な物じゃないのよね。」


「大丈夫だよ。ミラ姉やシエンナには、あんまり関係ないと思うけど、化粧水っていうものなんだ。」


「どうせ、私やシエンナは、化粧なんて関係ないですよ。」


「この会話は、前したよね。ミラ姉やシエンナみたいなお肌になるために付けるのが化粧水なんだよ。」


「そんなこと言っても、ごまかされないわよ。ねえ、シエンナ。私たちは化粧なんてしないって思っているでしょう。女の子はね。きれいになるために何時だって努力しているものなのよ。努力しないとあっと言う間に、おばあちゃんになっちゃうわ。」


「分かったよ。ミラ姉やシエンナにも使ってもらう。使って下さい。で、今から精錬すのが、化粧水と乳液って言うもの。お風呂上りと朝起きてから使うんだよ。朝は、化粧前ね。」


「分かったわ。今日から使ってみる。で、どんな効果があるの?」


「ええっとねぇ。ほうれい線が消えて、肌の艶や張りが良くなる。そして、健康的で若々しい肌になるそうだよ。」


「本当!って、ほうれい線って何?」


 ミラ姉の乗り突っ込み?


「ほうれい線ってね、年齢を重ねると出てくる皺というかたるみで、鼻と口の境界線にできるんだ。」


「そんなのないわよ。でも、確かに年を取るとそのあたりに弛みが出てくるわよね。バリーおばさんも少し目立つようになった来たって言ってたわ。」


「バリーおばさん?あっ、雑貨屋のおばさんだね。お風呂セットも販売してもらっているから、今から作る化粧水と乳液は、まず、おばさんに試してもらって、販売してもらったらいいかもね。」


「まず、私たちが試してから、バリーおばさんね。じゃあ、私とシエンナは、お風呂に入って来るから、その化粧水と乳液を作っておいてよ。王宮の皆さんへの対応でくたくただから、ゆっくり入ってくるわ。お願いね。」


「えっ?こんな時間からお風呂に入るの?」


「良いじゃない。今から、ダンジョン探索に行っても中途半端になるし、今からしないといけないこともないでしょう?行きましょう、シエンナ。」


「あっ、はい。いってらっしゃい。」


 僕は、一人で、化粧水と乳液の精錬だ。レイが作った初級ポーションが大量にある。まずは、化粧水と乳液の材料作り。コカトリスの鶏冠とさかから、ヒアルロン酸を精錬する。


「アルケミー・ヒアルロン酸。」


 次に、地球の化粧水の成分を精錬式にコピーして、足りないものはこちらにある果物や食べ物から抽出して補うようにイメージしながら化粧水を精錬する。


「アルケミー・化粧水・20ℓ。」


 次は、乳液。こちらの世界のオリーブオイルに似た食用油から不純物を取り除く。これで向こうの世界のオリーブオイルの代用品になれば良いのだけれど…。オイル、初級ポーション、ヒアルロン酸、いくつかのビタミン類なんかを混ぜて、精錬で乳化する。


「アルケミー・ミルキーローション・20ℓ。」


 化粧水と乳液、両方とも20ℓほど作っておいた。


「「ただいま。」」


「あっ、お帰り。」


 工房に行かないで、リビングで化粧水と乳液を作っているとロジャーとアンディーが帰って来た。


「良い所に帰って来て切れたね、アンディー。」


 僕は、初級ポーション瓶を作ってアンディーに渡して、


「その瓶に、こんな形のネジ式の蓋を付けたいんだ。蓋の内側とポーション瓶の外側に溝を作って、開け閉めできるようにしてくれないかい。」


 と紙に図を描きながら頼んだ。


「これに何を入れるんだ?」


「化粧水と乳液って言うお化粧の前や風呂上がりに使う薬みたいなものだよ。」


「そんなの、誰が使うんだ?お貴族様くらいしか風呂なんて入らないんだぞ。」


「確かにそうかもしれないけど、開拓村じゃあ銭湯もあるし、王都の宿にもお風呂があるんだろう。きっと伝いたい人が沢山出てくるよ。まず、雑貨屋のバリーおばさんに普段使いの化粧水と乳液を試供してみたらいいと思うぞ。」


「普段使いと特別品みたいなものがあるのか?」


「多分だけど、レイが作った初級ポーションを材料にして、僕が作った化粧水と乳液は、効果が高い品物になると思う。そして、僕が、この世界の材料で作った初級ポーションで化粧水と乳液を作ると普通の効果の品物になると思うよ。まあ、試してみないと分からないけどね。そして、それは、初級ポーションの数10倍から下手したら数万倍の価値が付くと思うよ。」


「数万倍って初級ポーションは、安い物でも銅貨3枚以上はするぞ。それが、数10倍って金貨、数枚ってことなんだぞ。そんなの誰が買うんだ?普段使いなら銀貨1枚でも高級品だ。」


「まず、この化粧水と乳液は、毎日使ってもほんの少しずつだから、さっきの瓶一つで約30日は使える。一回あたりは鉄貨3枚くらいだよ。それに、毎日使わなくても大丈夫なくらい効果が長持ちするんだよ。きっと、たくさん売れるって。じゃあ、普段使いの化粧水と乳液を作ってみるね。」


 まず、初級ポーションを作る。

「アルケミー・初級ポーション 50ℓ」


 次に、さっき作ったヒアルロン酸とベリーのビタミンC、コケモモのビタミンDや微妙な成分を取り入れるための魔物の血液、ボアの魔石を使って化粧水を精錬した。


 更に、オリーブオイルとヒアルロン酸、ボアの油を少量使って乳液を作った。一度作ると、必要な材料が分析できた。


「アルケミー・化粧水 25ℓ」

「アルケミーミルキーローション 25ℓ」


「この普段使いの化粧水と乳液をさっきアンディーに作ってもらったポーション瓶をガラス素材で作って詰めると透明と白の瓶ができるでしょう。透明が化粧水。白が乳液だ。」


 一本の瓶の中に125㎖程の化粧水と乳液を詰めた。この量だったら普段使いの化粧水と乳液が200本ずつできることになる。


「アンディー、化粧水と乳液になんかかっこよく文字を入れてみて。ガラス表面に細かい凹凸を付けて白く文字を浮き上がらせてみてくれない。」


『森の賢者の化粧水』


『森の賢者の乳液』


「これでどうだ?」


 次は、高級化粧水と高級乳液だ。ボトルも宝石を少し混ぜて薄緑と薄黄色にした。この世界の宝石は、魔石だ。その宝石を粉にしてガラスに色を付け、中級ポーション瓶と同様の性能にしたものだものの中に入れた。これもアンディーに飾り文字で文字を入れてもらう。


『森の賢者の高級化粧水』

『森の賢者の高級乳液』


 ミラ姉とシエンナにはまず普段使いの化粧水と乳液を使ってもらって感想を聞いてからこの効果が無くなった頃に高級化粧水を試してもらうように言っておこう。その違いを、レイにダイアリーに書いてもらうように頼んでもらおう。


 もしかしたら今回の転生での最高傑作になるかもしれない化粧品と乳液。これを砦の産業にしたらしばらくは安泰なんじゃないかな。学校の運営費なんて簡単に稼ぐことができると思うけどどうだろう。


 そんなこと考えているとミラ姉たちがお風呂から出てきた。


「風呂上がりに、この化粧水をつけてみて。それである程度ほてりが収まったら、乳液ね。効果は明日の朝にでも現れると思うから、感想をレイに伝えてダイヤリーで僕に知らせてくれたら嬉しいな。家の母さんが、聞きたがると思うんだよね。だから、宜しくね。そして、その効果が、切れた頃に、こっちの高級化粧水と高級乳液を使ってその感想も教えてくれないかな。本当に頼んだよ。」


「うあっ…。何かさわやかな香り?火照った素肌が何となく落ち着く感じね。そして、しっとり感がすごいわ。プルンプルンになる。」


「本当ですね。プルンプルン感凄いです。赤ちゃんのほっぺを触っているみたい。」


「次は、乳液。化粧水が肌になじんでから乳液を付けて。多すぎるとてかてかになるし、おでこなんかはてかてかになりやすいから薄めに塗った方が良いそうだよ。量は、手の平に押し付けた親指の先くらいの量かな。それを体温で温めながら塗るイメージだよ。唇の周りなんかは少し多めでもいいみたい。」


 母さんからの受け売りだ。こっちの世界に来る時にしっかり聞いてきた。今回は、ドローン以外にもこっちの世界で作って生活費の足しにできる技術を渡したかったからね。その一つが化粧品だ。


「何か、今度は、しっとり感が良いわ。さっきのお風呂のしっとり感を閉じ込めている感じ。これなら、砂漠に行っても大丈夫かもしれないわ。」


「まあ、それは、違うと思うけど、保水することが目的だからいいと思うよ。明日は、どんな風になっているか楽しみだね。それから、本当なら朝起きて、顔を洗った後にもう一度、化粧水と乳液を塗るんだけど、今回は、どのくらい今日ぬった化粧水と乳液の効果が続くかを確認して欲しいから、明日から効果が切れるまで塗らないでね。もし、効果が切れたら、次は、高級化粧水と高級塗乳液を試してみて。」


「分かったわ。ありがとう。明日の朝が何か楽しみだわ。」


 それから、夕食をみんなで食べて、夜8時に地球へ戻っていった。






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