第177話 大型ドローンの試乗

 今回の飛行は、試乗という名目で行われる。王宮の中庭には、普段王宮の奥で事務仕事をしている方や護衛騎士の方など、たくさんの方々が見物に来ていた。


 大型ドローンの乗降扉が開かれ、階段が降りてきた。階段の下に、僕とミラ姉が跪き、国王陛下、王妃をご案内した。その後ろからシエンナが続き、ロイヤルファミリーの方々をご案内する。ロイヤルファミリールームに招き入れると、それぞれで席を決めていただいた。一番前の左窓側が国王陛下、その隣が王妃がお座りになった。右の席には、窓側にエレノア様、その隣がステラ様。2番目の左側にオースティン様とチャールズ様。右側の窓側にミーシャ様とティモシー様が座った。後の席は空けて、護衛席に、騎士長とオードリー様だ。


 皆さんが座席に座り、シートベルトをしたのを確認して、僕たちは、操縦席にシエンナが、右前の狙撃手席に僕。左前の狙撃手にミラ姉が座った。その他の護衛騎士の皆さんは、あらかじめ打ち合わせていたのだろう。速やかに開いている席に座った。操縦見習いの騎士の為に、僕がいつもない補助席を操縦席の横に設置した。かなり苦労した。アンディーを連れて来ていればよかった。


 補助席の設置でもたもたしてしまったけど、出発の準備は、15分程で終わった。メイドの誰かに乗ってもらってお茶なんかを出してもらえばよかった。ゲスト席の接待を考えるとメイドの搭乗は必須だろう。飛行機で言うキャビンアテンダントだ。そのことは、後で解決できるようにしよう。それに、トイレもないと困るかもしれない。


 いくつかの改善点を見つけて出発することになった。今日のフライト時間は20分位にしよう。ロイヤルルームの窓は開けている。普段の飛行では閉めていた方が良いと思うけど、今日は、特別だ。


「皆さん。只今より離陸いたします。このドローンは、魔の森を越え、海の上空まで行き、王宮へ戻るコースを取ろうと考えております。では、短い時間ですが、空の旅をお楽しみください。」


「森の賢者よ。魔の森を越えて海まで行くのに、短い時間だと申すのか?お主たちに譲ってもらったゴーレムバイクでも4~5時間はかくるくかかる距離だぞ。」


「まずは、空の旅の景色とスピードをご堪能ください。」


 暫くの間、ドローンに初めて乗った皆さんは、目を見開き、瞬きするのも忘れて窓の外を眺めていた。あっと言う間に見えなくなる街。湖。そしてすぐに表れた魔の森。その上空を何の魔物にも出会うことなく飛んでいく。暖かく、心地よい風が、畿内を満たしている。


 誰も一言もしゃべらない。文字通り、飛ぶように流れていく景色に圧倒されている。


「ティモシー様、下に雲があります。私たち、鳥よりも高い所にいるんですね。」


 最初に口を開いたのは、ミーシャ様だった。そう。下に小さく鳥が見えた時だった。


「レイモンドよ。このドローンで帝都までどのくらいの時間がかかるのじゃ?」


「帝都でございますか?私たちも、ここから直接行ったことはございませんから、何とも言えませんが…。2時間は、かからぬかと予測されます。」


「そうか。2時間か…。であれば、生きている間に、もう一度、ルーナに合うのは可能かもしれぬな。」


「タブレットでもうすぐ顔が見れるようになると言っただけで涙をこぼしそうになさっていましたものね。」


「そうだな。ルーナは、親孝行というか、親不孝というか。遠く帝国に嫁いでいきおって…。」


 国王陛下は、遠くを見て誰に向かってと言うことなく呟かれていた。ルーナ様にお会いしたいのだろうか…。王家の長女。帝国に嫁いだルーナ様に。


 それから、10分ほどで海が見えてきた。王宮を出発して20分弱。思ったよりも時間がかかってけど、最速で戻れば、15分以下で到着する。


「前方40キロの海上に大型の魔物を発見しました。大きな船が魔物に追われています。応戦しているようですが、徐々に追いつかれつつあります。」


「今から向かって、何分後に会敵できる?」


「5分以内に会敵可能です。」


「国王陛下。大型の船の救援、どういたしましょうか?」


「先ほど言っておったな。このドローンの圧倒的な力。それを、他国の者に知らしめる良い機会じゃ。救援を命じる。森の賢者レイモンド。冒険者、アンデフィーデッドビレッジャーよ。その大型船を救助せよ。」


「お待ち下さい。陛下。しかし、このドローンには、王室の方全員が乗機中です。もしものことがございましたら、わが王国は立ち行かなくなります。」


「では、責任と力がある王室の者全員が乗り込んでいるこのドローンで、他国の船の救助はできぬと言うのだな。危険があると言うのは、分かっておるが、我々王室は、その気概も勇気もないと思っているのか、ティモシーよ。」


「決して、そのようなことは、陛下の気概、感じ入ってございます。余計なことを言った。陛下の命を実行せよ。」


「了解いたしました。」


「シエンナ。射撃可能角度で接近お願い。一発目は、前方のライフルから、最低威力のファイヤーボール。船に当たらないように気を付けて発射して。」


 シエンナは、船と射線がかぶらないように斜め後方から接近した。大型の魔物は、クジラのような形をした魔物だった。全長は、50mはあっただろうか。


「ミラ…。最低威力のファイヤーボールでは、あのクジラのような魔物を仕留めることなんてできないと思うよ。」


「どうせ一発で仕留めることはできないわ。最初の一発は、撒き餌よ。このドローンに向かってくるように、そして、少しでもこのドローンに近づくために、水中から体を出させるためのね。」


「発射します。発射。」


『ドシューッ』


 白い水蒸気が上がったが、魔物にダメージはほとんど入らなかったようだ。クジラはドローンの方に向かって速度を上げたかと思うと、海中に姿を隠した。


「シエンナ。急上昇。下から来るわよ。後退しながら上昇して。あの魔物への射線を作って。空中に出たら、最高威力のファイヤーボールを連発でお見舞いするわよ。」


 そう言いながら、ミラ姉は、移動砲台へ飛び乗った。


「シエンナ、砲台の準備をお願い。照準合わせも任せたわ。私は、流せるだけの魔力を流し込んで引き金を引き続ける。」


 シエンナ任せの攻撃だけど、一番確実だろう。僕は、右前方の射撃台から後方下に照準を向けた。ギリギリ狙える角度だ。


 さっき僕たちがいた場所に海の中からクジラが大ジャンプをした。クジラの目と目の間。噴気孔の少し下の辺りに魔力が渦巻いている。何か魔法攻撃を放つつもりだ。そこに高威力ファイヤーボールが炸裂した。1発、2発、3発、4発…。高熱の高速のファイヤーボールにクジラの魔物の魔法は消し飛ばされる。


 僕が放ったのは、アイスジャベリン弾。ファイヤーボールの高熱と弾速で脆くなった魔物の頭の部分に氷の鋭い槍が突き刺さっていく。反撃の力を失った魔物は、そのまま海に落下していった。その後、白い腹を上にして、身動きすることなく浮かんでいた。大きな波がさっきまでクジラが追っていた船を揺らした。しかし、転覆することは無かった。海に落ちた人もいなかったようだ。


 すぐに、船の甲板に出て手を振っている沢山の人たち。助かったことを喜んでくれているようだ。僕たちも、ドローンの中から手を振ったけど見えてなかっただろうな…。


「よくやった。このドローンの力、しかと見させてもらった。お主らと同様にこのドローンを操作することができるようになるためには、多くの修練が必要であろうが、我が国の騎士であれば、きっとできるようになるであろうよ。のう、皆の者。」


「はっ。」


 乗り込んでいた護衛騎士のみなさん全員が返事をした。力強い返事だった。


「のう、アンデフィーデッドビレッジャーの諸君よ。私たち王室が、他国に向かったり、遠出をする時、しばらくの間は、お主たちに護衛依頼をお願いすると思うが、宜しく頼む。ドローンがあれば、多くの国との連携と交易がより安全にスムーズにできることになるであろうよ。そして、約束しよう。他国も我が国も不幸にするような使い方は決してしないとな。」


 こうして、試乗という名の大型ドローンのお披露目は、1時間もせずに終った。まだ、遠くに行きたいと両王子とミーシャ様は言っていたが、願いはかなえられなかった。


 王宮の中庭に到着したドローンから護衛騎士の皆さんが、先に降りて隊列を作った。


「レイモンド、アメリア、シエンナよ。儂ら、王室に続いて降りてくるのじゃ。その後を頼むぞ。ティモシー。」


「畏まりました。」


「では、執務室まで着いて参れ。エラ、子どもたちとしばらく休憩しておいてくれ。次の遠出の計画を立てていても良いぞ。全員では、無理だが帝国でも面白いだろうな。ルキーノにタブレットで連絡してみてくれ。奴の反応が楽しみじゃ。」



 ここは、国王陛下の執務室だ。僕たちのような下々の者は決して入ることがない場所。まあ、レイたちは一度入っているようだけどね。


「さて、森の賢者よ。お主の知識。確かにこの世の物とは、少し違うようだな。しかし、お主は、レイなのだろう。その仮面を取ってみよ。まあ、レイでなくても驚きはせぬがな。レイとは、違う魔力の質だからな。」


「はい。その通りでございます。私は、レイであり、レイではありません。魔力の質が違うのはそのためです。先ほど、お話ししたようにレイは今、私の世界、地球に行っております。その代わりに私がこの世界に来たと言っても間違いではありません。ですから、レイも向こうの世界の知識を少しずつ吸収しています。私が、この世界の知識やスキルを少しずつ吸収してるのと同じように。」


「そうか。レイは、地球とやらに行っておるのか。であれば、たくさんの土産をアイテムボックスの中に入れてくるのであろうな。楽しみじゃ。」


「それが…、何一つ持ってくることができないのでございます。塵一つ。どんな小さな物さえもです。ですが、見たり、聞いたりした知識は、持ってくることができます。きっと、その知識を使って、皆様にお役に立つと思います。私も、次にこの世界に来る時までに、たくさん勉強して、皆様のお役に立つ知識を身に着けてまいります。」


「そ…、そうなのか。何も持ち帰ることはかなわぬと言うのだな。知識以外は…。」


「して、今回は、その知識で作ったドローンを献上するためだけに来たのではあるまい。我らに何か頼みがあるのではないか?」


「はい。叶えて頂ける願いかどうかは、分かりませんが…。」


「何なのだ。言ってみろ。資金の援助なら、我が国が可能な限り致そうではないか。その資金は、何倍にもなって帰ってきそうだからな。心配せずも良いぞ。お主たちのおかげで、国庫は、ここ数年来で最も潤っておる。」


「ありがたきお言葉。そのお言葉に甘えて、言わせていただきます。砦の横に、森の賢者の研究所を作ることを村長に認めていただきました。そこで、一つ目のお願いです。砦の中に、製造魔術、つまり、錬金術、精錬術、鍛冶師、工学魔術を使うものたちの学校兼研究所を作り、ゆくゆくは、工場ギルドとしていきたいと考えております。今回のお願いは、そこに今申し上げましたスキルを持つ者たちを集める許可と学校を作る許可、そして、指導者の紹介をお願いしたく存じます。王命で作る学校と言う形にして頂きたいのです。」


「ほほう。面白いことを考えたのだな。守りの要の砦を産業の要としたいということか…。文字通り、この国の要としたいということなのだな。」


「いえ、この国の要は、ここ王都でございます。私たちが作りたいのは、この国の支えでございます。幸せの支えとなる砦にしたく存じます。」


「良く申した。その願い、しかと聞き受けた。」


「いえ、願いはもう一つございます。同じく、この国の支えとなる者の願いでございます。」


「なんと、もう一つの願いか。しかも、同様にこの国の支えとなるための願いと何なのだ。申してみよ。」


「ロックバレーの拠点に冒険者の学校を作ることをお許しください。砦の生産者の学校と同様、王命で作る学校としての許可をお願いいたします。」


「二つの学校か。共に、この国の支えとなる者たちを育成するという意味で、この国の支えとなる学校なのだな。それも、お主の世界の知識なのか?この世界には、兵士を作る訓練所はあったが、国民を育て、知識を与える場などなかった。それは、親の仕事であり、教会をはじめとした慈善事業者としての孤児院の仕事だった。勿論、貴族や国にはその慈善事業に補助はしておったぞ。それなりにな。」


「そのことは、存じております。そして、学校における教育は、私の世界の知識であり、制度です。この世界でうまくいくかどうかは、分かりませんが、お役に立てるように全力を尽くしますので何卒、ご許可願います。」


「許可はする。勿論な。お主のたちの働きは、一つ二つの学校を許可するだけでは報いにならぬほど大きいからな。存分にやってみよ。そして、この国を幸せに、豊かにしてくれ。頼んだぞ。」


 僕たちの特別なお願いは、叶えられることになった。そして、多くの人の力を借りて、学校を作ることになるのだと思う。また、エリックさんやドナさんの仕事が長引くことになる気がする。怒らないかな…。


 それから、ロイヤルドローンの護衛用に3人乗りドローンを4台購入してもらうことになった。これは、一台、金貨3万枚。合計金貨12万枚だ。学校づくりの予算に、まずは、金貨2000枚が渡された。これは、報酬とは全く違うものだそうだ。学校づくりに使わないといけない予算だということだった。誰に預けて管理してもらうのが良いんだろう。


 それから、ドラゴンの魔石は、金貨1万枚。国宝級ロックリザードの魔石は、一個、金貨200枚で買ってくれるそうだ。ロックリザードの魔石は、20個買っていただいた。それだけで、金貨4000枚。はっきり言ってお金だけ増えていっているけど、ロックリザードの魔石は、国宝級だけでも3000個近くあるらしい。どうするんだこんなに。

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