第176話 戦争放棄と森の賢者の正体

 僕、ミラ姉、シエンナの3人は、謁見の間に通されている。今回の献上品についての話をするためだ。護衛機能付きの最高27人乗り大型ドローン。今回の献上の目玉だ。それに、3人乗りドローンを4機販売することができる。護衛用として、ライフル付きだ。ただし、どうしても、王家の皆さんと王宮には、契約をしていただかないといけないことがある。


 それは、戦争放棄。外交の手段として戦争を用いないことだ。ドローンと武器を手に入れると武力的には圧倒的なアドバンテージを得ることになる。よその国が何日もかかる移動を数分でできるようになるのだから。


 そんな魔道具に火力も組み込んだんだ。それを手に入れた時、ドローンを戦争に用いれば、確かに勝利は、ほぼ確定するかもしれない。沢山の人の命を奪って、たくさんの人を不幸にしてだ。


 でも、そんなことになってしまえば、そんな献上品を渡した者の責任だ。つまり、僕。僕が沢山の人の命を奪ってしまったのと同義だ。それは、できない。僕の知識。異世界の知識が、多くの人を不幸にするなんて絶対あってはいけないことだ。だから、契約が必要だ。戦争放棄の魔力契約。僕が望むのは、それ一つだけだ。


「国王陛下。今回の献上の品をお渡しする前に、確認したいことがございます。そして、出来ましたら魔力契約をお願いしたく存じます。」


「魔力契約は、アンデフィーデッドビレッジャーと共に、森の賢者とはせねばならぬと思っていたぞ。その為の準備もこつこつと行っておる。まあ、前段階のほとんどは、アンデフィーデッドビレッジャーへの依頼で終わってしまうがな。」


「その森の賢者のことでございますが、ほんの少しの時間で宜しいので、この者たち、アンデフィーデッド・ビレジャーのメンバーと話す時間を頂けますでしょうか?」


「どうしたのだ?別に、お主たちとここにいるメンバー、それに我との間に漏らしてはならない秘密などないであろう。」


「その確認をさせて頂きたく。」


「あい分かった。では、20分で良いか…。うむ。20分を謁見の休憩時間としよう。まあ、お主たちに対しては、甘々すぎるのは分かっておるがな。何か、大切なことがあるのであろう。では、球形じゃ。我も、奥の間でしばらく休む故、退席しても構わぬぞ。」


「ありがたきお言葉、では、お言葉に甘えさせていただきます。」


 謁見が始まって、ほんの数分しか経っていない。それなのに休憩の時間を取って下さるなんて、なんて大きな方なのだろう。僕は、自分の非常識さを後悔しながらも、国王陛下の偉大さを身に染みて感じていた。


「どうしたの?」


「何か、困ったことがあったのですか?」


 ミラ姉とシエンナが心配そうに尋ねてきた。


「ごめんね。いざ、献上しようと思った時、急に不安になってね。」


「何がですか。安全対策や護衛に関しては、完璧だと思います。あのドローン以上に高速に、且つ安全に移動できる魔道具なんて存在しません。」


「そう。それだから不安になったんだ。大型ドローンを戦争に使われたら、どれだけ多くの人の命が奪われるんだろうってね。この世界では、最強の魔道具と言えると思うんだ。武器としてもね。」


「そうでしょうね。確かに。でも、この国は、過去、侵略したこともされたこともないわ。この国の地理的な条件によってね。それは、この国の国民誰もが知っていることよ。」


「国王様には、他の国を侵略しようなんて、ほんの少しのお考えもないと思います。そのような国なのです。ヴッドグレン王国は。」


「でも、この国が手にするのは、この国の文化とは全く違う僕の世界の知識をもとにして作られた最強、最凶の武器なんだよ。僕の国は今は平和だけど、僕の世界は平和ではないんだ。そんな世界の武器の発想で作ってしまった武器なんだよ。」


「それで、どうしたいの?」


「国王陛下に戦争放棄の魔術契約をしていただきたい。その必要性を分かってもらうために、僕が子の世界とは違う世界の知識を持っていることを話しても良いかなって思ったんだ。」


「それって、信じてもらえると思う?」


「ミラ姉は信じてくれたでしょう。」


「そ…、それは、小さい頃からレイを知ってたから。レイとは違うって分かっただけでしょう。」


「それなら、シエンナはどう?僕と初めて会ったのは、ある意味シエンナが一番最初だよね。」


「私は、レイさんが変になったとしか思えませんでした。でも、後から、レイさんに地球?の話を聞いて信じましたよ。変なレイさんは、レイさんじゃなかったって。」


「変なレイで悪かったな。でも、地球発想のいくつかの魔道具を見せて話をすれば、信じてくれないかな…。森の賢者の知識は、他の世界の知識なんだって。時計やライフル、マウンテンバイクやバスなんかは、地球発想の魔道具だよ。」


「玲の願いは、分かった。つまり、玲のもたらした魔道具を戦争に利用して、たくさんの不幸な人を作ってほしくないってことよね。人の幸せのためにあなたの魔道具は利用するって国王陛下に約束してもらえば、安心して、大型ドローンを献上できるって言いたいのよね。」


「そんなところかな…。国のことなんて良く分からないけど、とにかくドローンとライフルを戦争に使って欲しくないってことかな…。」


「国王陛下だけに知られましょう。森の賢者はレイではないって。そして、賢者の知識をこの国ために使用するなら、戦争は接待しないと約束してもらいましょう。でもね。この国が他の国に攻め入られたらどうするの?黙って侵略されろっていうの?」


「そうだな。まず、侵略されないようにすることって、大切だと思わない?他の国に、何か大変なことが起こった時に助けに行く。そして、圧倒的な力を見せつけたらいいよ。大きな力の差があれば、誰も侵略しようなんて思わない。後は、外交努力。他の国と違ってあっと言う間に他の国に行くことができるんだよ。問題の解決なんて簡単にできるはずでしょう。でも、もし、その全てを行った上で、僕たちの国を侵略しようなんて言う国が攻めてきたら、防衛して良いと思うよ。圧倒的な力を見せつけて良いんじゃない。その時は、きっと、僕も戦う。僕の大切な人を殺されたり、大切な場所を壊されたりすることを許しはしないよ。」


「それでも戦争放棄なの?」


「勿論。戦争放棄っていうのは、いかなる理由があろうとも、戦争を外交の手段に用いないってこと。侵略なんてやるべきじゃないし、経済的な理由でも戦争なんてすべきではない。人が死ぬことを前提とした交渉なんてやる意味がないと思うよ。」


「良く分からないけど、とにかく他の国を責める道具として絶対に森の賢者の魔道具を使わないって約束してくれればいいのね。その説得の為に、森の賢者が他の世界の知識を持っているって知らせたらいいと思ったっていう訳よね。」


「シエンナ、どう思う?」


 僕は、シエンナにも聞いてみた。


「レイモンドさんが、森の賢者だってことは、みんなに知らせたいことなんでしょう。そして信じて欲しいこと。じゃあ、王様にも信じていただきましょう。信じて下さらないなら、今回の献上品はなかったことにしましょう。そして、信じて下さるのなら、森の賢者の魔道具を戦争に使用しない契約をお願いしますと頼んでみましょう。」


「シエンナ…、そんなこと言ったら不敬罪で、牢に入れられるんじゃない?」


「国王陛下は、そんなことしません。きちんと話を聞いて下さる方です。」


 シエンナは、国王びいきだからな。でも一番ストレートで分かりやすい頼み方かも。いくつかの魔道具を見せて、戦争に使用しないようにお願いしよう。タブレットだってこの世界の戦争に使用したら反則品だ。


 それから、まず、国王陛下に正直?に話した。シエンナが言ってたみたいに。そうしたら信じてくれるって言ってくれた。本当に信じてくれたのか、政治的な意味合いがあってからなのかは分からない。そして、魔術契約もしてくれるそうだ。


 森の賢者の魔道具を戦争に使用しないっていう魔術契約。その他にも、砦は、国の為にこの力を使用する。王宮および王室は、森の賢者の砦を害することはない。なんていう付則契約もしてくれるそうだ。


 必要なのは、相当な大きさの魔石。これは、必要な数揃っていた。ドラゴン級の魔石。昨日手に入れた。後は、王室の皆さんが、魔石に満タンに魔力を貯めること。僕たちも満タンにすること。念のため、僕の魔力で満タンにした魔石は、準備した。僕の魔力とレイの魔力は微妙に違うらしいんで二人分準備しておいた。パーティメンバー全員の魔力で満タンにした魔石もいるそうだ。その全てが揃えば、魔術契約を実行することはできるらしい。


 王室の皆さんとパーティメンバーは、魔石に魔力を満タンにするのに数日かかるから、契約はその後になる。


 僕の希望。戦争に僕の魔道具を使用しないということは、約束されると思う。その確認をした後で、ドローンの献上の儀に入った。


「まず、乗組員の数です。ゲスト、王室の方は、同時に10名搭乗できます。しかし、ロイヤルファミリー全員が搭乗するのは、はばかれますので、試乗は二組にお別れください。」


「待て。森の賢者。この王宮で、先に搭乗した者の帰りを待つのと、そのドローンで飛行しておるのはどちらの方が危険なのじゃ。そのドローンは、過去、事故を起こしたことがあるのか?」


「過去と申しましても、このドローンが完成したのは、つい先日。事故など起こす間もございません。」


「そうか。しかし、この王宮では、過去何人もの王室ゆかりの者が殺されておるぞ。全員が乗らず、ここで待機するのとどちらが安全なのだろうな。」


「それでは、国王陛下。もしもの時の為に、このドローンに搭乗する護衛騎士の方は、縮地など墜落時点に、王室の方を抱きかかえて、無事に地上までお連れすることができる方をご指名ください。万が一の為の安全対策でございます。」


「聞いたか。騎士長。すぐに人選を行い、直ちに中庭に集合させよ。お主も、縮地は得意であったな。護衛、宜しく頼むぞ。」


「あの…、国王陛下、7名は確実に揃えないといけないのは分かるのですが、操縦席など含め、何人の人員をそろえればよいのでしょうか。そして、その全員が縮地などの空中護衛のスキルを持っておかねばならないのでしょうか?」


「おおっ、そのほかの人員の人数を聞いていなかったな。森の賢者よ、いったい何人必要なのだ?そして、何人乗れるのかお言えてくれぬか。」


「失礼いたしました。最低搭乗人数は、戦闘魔物などとのがない場合、操縦者1名でございます。操縦者1名でも前方の敵は、排除する能力はございます。最高搭乗人数は、王室ゲスト10名以外に、ドローン護衛射撃手・操縦者で7名。ロイヤルガード2名。護衛騎士6名でございます。」


「では、最大で25名が搭乗できるわけだな。ティモシー、搭乗したいか?」


「はい。お供させてくださいませ。」


「では、ゲスト護衛に我らの護衛も含めて8名。操縦見習いに2名。お主らは、ともに搭乗してくれるのだろう。森の賢者、アメリア、シエンナ。」


「はい。お供させていただけるのであれば。」


 ミラ姉が仰々しく答えた。

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