第173話 初回限定サービス
寒い。寒すぎる。このままじゃあ、凍死確実だ。
「ざぶずぎる。(寒すぎる)もどどう。(戻ろう)」
ボス部屋のボスは、まだ復活していない。良かった。ここでの戦いで濡れたまま、下に行っていたら確実に凍死していた。その位寒かった。
「あの寒さは、装備で何とかなるんでしょうか?」
「分からない。でも、あんな寒さに対応できる装備は、今日はないわ。下の探索諦める?」
「ドローンに暖房を付けて、エスにも暖房を付けて、かんじきか、スキーを履かせたらいいかも。」
「かんじき?スキー?その前に、その暖房って何。」
「まず、暖房ね。火属性の魔石に魔法陣と魔力で熱を発生させて。風の魔法陣で、熱風を送り出すことで部屋や乗り物の中を温める道具。逆に氷属性の魔石で冷やして冷風を送りだせば、冷房ってことになる。」
「火属性の魔石はたくさんあるけど、ファイヤボールを撃ちだしたりしないわよね。」
「そこは、調節の問題だね。下手したら火炎放射器になる。」
「とにかく温風を出す魔道具ね。作ってみて。それとスキー、かんじきってなに?」
「エスに雪の上を歩かせる道具。今のままじゃ雪に足が埋まってしまって進めないでしょう。何なら、戦車のボディー全体をスキーの上にのせて多足部分で雪をかいて進むようにしても良いかもね。」
「何でも良いからやってみましょう。まず、暖房の魔道具から。」
まず、熱を発生させる魔石に小さな魔法陣を刻み込む。炎になっても小さい炎で収まるように細心の注意が必要だ。次にその後ろにそよ風の魔法陣。そよ風でも魔力を沢山送り込めばかなりの強風になる。その二つをアルミニウムの箱の中に並べて入れた。
前は火の魔石・後ろがそよ風の魔法陣を刻んだ魔石。その両方からミスリル導線をつないで…。一定の魔力を流し込む仕組みを作るのが面倒だから、ゴーレムコアに頼る。ゴーレムコアをボタン位の大きさにして、魔石に繋いで設定する。右側を押したらミスリル導線に流す魔力の量を増やす。左側は減らす。同様のボタンをその風の魔法陣の魔石にも取り付けた。そして、魔力タンクの魔石に魔力を充填する。
まず、温度の調節のボタんの右を押す。すぐに風量調節のボタンの右側。きちんとボタンの横に高温・低温 強風・微風と説明を書き込んでおく。アルミボックスの大きさは、30cm四方位にしておいた。
ボックスの前から暖かい空気が噴き出してきた。吹き出し口の反対側にも穴が開いていて、空気を吸い込む仕組みにした。そよ風の魔法陣は、空気を移動させているだけだ。だから、魔力はあまり必要ない。
「どう?暖かいでしょう。」
「凄い。これで、エスの中を温めるのね。ドローンはどうするの?空気取り込み口からその空気を取り込んでいるからいつも入れ替わっているわよ。取り込み口にこれを入れておくの?」
「空気が送られてくるなら、風の魔法陣はいらないかな。火の魔石だけを入れておいて、コントロールコアで流し込む魔力量を調節してもらえば大丈夫じゃないか。」
「じゃあ、さっそくドローンにも取り付けて。上空の飛行の時いつも寒かったのよね。」
「了解。エスには、暖房の魔道具をドローンには、火の魔石を取り付けて調整できるようにしておくね。」
エスには、更にボディー部分にスキーをはかせてみた。前の方は分離させておいて、進行方向をコントロールできるようにしておく。
シエンナがスキーで階段をすべるように降りさせていった。怖い。社内の温度が下がって来た。温度を上げて、風も強くする。暖かい空気が、戦車の中を温めていく。大丈夫。快適な温度を維持できる。
「凄いです。寒くありません。前面の透明金属が凍らないように、熱い空気を吹き付けておくんですね。」
「シエンナの感覚共有があるから、窓から外が見えなくなっても何とかなるんだろうけど、やっぱり見えた方が良いからね。」
「魔物が近づいてきます。」
進行方向に白いオオカミが現れた。凄い勢いでゴーレム戦車にかみついてくるけど、傷もつかない。ゴーレムハンドを一振りする。
『ギャウン』 と多分言ってるんだろう。
2匹のブリザードウルフが魔石に変わった。
魔術発出窓を開けて、ドロップ品を収納。反対側に落ちている物は、アンディーが収納した。氷属性の魔石とブリザードウルフの牙。
水属性の魔石は、どこにでもあるけど、氷属性の魔石は珍しい。
次の階層入り口をサーチで見つけて、その方向に向かって2時間位進んでいる。まだ、半分の距離にも届いていない。雪が深くて、時速50kmを超えて進むことができないためだ。
「次の階層入り口まで、最短でも2時間以上かかるみたいだ。今の時刻は、午後2時。風も収まってきたようだから、ドローンに乗り換えてみる?」
「今のところは、この近くに魔物はいないようです。」
「じゃあ、そうしましょう。ドローンに乗り換え。できるだけ早く次階層入り口前にたどり着きましょう。」
皆で一斉に外に出た。3人乗りドローンをシエンナとロジャーが取り出す。僕は、エスの収納。大急ぎでドローンに乗り込んだ。1号機がキャノピーを閉めてくれた。中の空気は暖かい。
『シエンナ:上昇します。次階層入り口に向かって高度200mで最速進行。』
シエンナの指示は、タブレットから1号機の方に流れてきた。
「了解。パーティーに送信。」
ロジャーが応え1号機を上昇させてシエンナに続いた。20分後には、次階層入り口に到着した。
「さっきとおんなじ布陣でいきましょう。大型戦車用の暖房魔道具すぐに作れる?」
「任せて。さっきエスごと収納しているから、精錬コピーですぐに作れる。」
「シエンナ、到着したら、すぐに大型戦車を出して。ガーディーとソーディーにも待機させていて。さっきと同じ布陣で突入するわよ。」
階層入り口に到着した。入り口扉が、小さい。大型ゴーレム戦車一台がやっと通れる広さだ。
「前回と同じ布陣は、無理ね。ガーディ先頭。戦車。殿、ソーディーの順で行くわよ。」
「シエンナ、ガーディーとの情報共有宜しく。危ないようだったら撤退よ。ガーディーには、申し訳ないけど、私たちの命が優先。良いわね。」
「はい。分かりました。」
ガーディーが先頭で扉の前に立った。今回は扉は消えない。引き戸のようだ。片方の扉の陰に隠れて、反対側の扉を全開にした。中からの攻撃はない。開いた扉側に盾を突き立て、その後ろに体を移動した後、反対側の扉を開いた。扉が全て開け放たれた。それでも攻撃はない。魔物の気配もない。
「ガーディー、中に入って、確認。」
盾を前に構えゆっくりと中に入るガーティー。何の攻撃もなく静かなままだ。
「ソーディーを先に入れて、背後を襲われるのも嫌ね。」
「中に入ろう。」
「シエンナ、ソーディーを
「了解。」
ゆっくりと、戦車を中へ進めた。ソーディーも後方を警戒しながら中に入る。
「ソーディー、扉が閉まり切れない場所に待機。退路の確保をお願い。」
『おいおい、せっかく来たのに会わずに帰るなんて寂しいこと言うなよ。』
頭に、直接声が響く。
『ガッガガガッガーン』
扉の方からソーディーが吹き飛ばされて転がって来た。その方向から、白い影が頭上を越え、前の広場に飛んで行った。
『よく来たな。招待はしていないが歓迎してやろうぞ。折角来たのだから、心ゆくまで遊んでいけばいい。まあ、帰ることはできないだろうがな。ガッハハハハハ。』
『バッターン』
扉が閉じられた。
「ソーディー大丈夫か?」
「大丈夫です。すぐに起き上がることができます。」
シエンナがすぐに応えてくれた。
目の前で笑っているのは、白いドラゴン。
「なんでこんな浅い階層にドラゴンなんかがいるの?」
『初回サービス。本来なら、我が相手にするのはここより30階層も下にたどり着いた者だけだ。初回限定サービスでな。こんな浅くて魔力も薄い階層に来てやったのだ。ありがたく思うのだぞ。』
「ふーん。そうなの。じゃあ、サービスお願いするわ。何かハンディを頂戴。」
『ハンディーか…。それでは、1回だ。1回だけお前たちの攻撃を受けてやろう。』
「1回ずつにしてちょうだい。ゴーレムたちの攻撃はしないから、私たち5人の攻撃を1回ずつよ。」
「ロジャー、アンディー、私、シエンナ、レイの順番で行くわよ。」
「デッキに出て、最強火力でぶっ放したらすぐに入って来て。バッキーには、魔法の盾を持たせて上で援護させて。」
『何を相談しておる。1回ずつだな。良いだろう。我を楽しませてみろ』
「ロジャー、首落としの異名を味合わせてやんなさい。」
「了解。」
「間髪入れずに連続攻撃するわよ。ゴーレムハンドはデッキの上に盾をかざして、ハッチの前よ。そこで全員待機。終わったものから戦車の中に入って。」
「ロジャーだ。行くぞ。」
「フムッ。」
いつもの投げ斧だ。スノードラゴンの首めがけて飛んで行った。
『ガッシャン』
何かが砕けるような音がした。
「ウェポーンバレット。」
アンディーが500本以上のウェポンを呼び出してすごい勢いでドラゴンの首めがけて発出して。ガシャガシャとぶつかり合いながら竜の首に殺到する大量の武器。
『ガッシャン、ガガガッシャーガガガガッシャーン』
『待て。待つのだ!誰がそんなに続けて攻撃して良いと言った。』
「待てと言われて待つはずないでしょうが。私たちは1回ずつの約束を守っているわ。」
特大の高速ファイヤーボールをセットしてある。魔力も最大まで詰め込んだようだ。
『ゴッゴビューン』
ドラゴンの首を半分削り取った。
続けてシエンナ。同様にライフル最大火力の体大魔力だ。
『ゴッゴビューン』
最後に僕がと思ったら、ドラゴンは魔石になっていた。ドロップ素材は、ヒヒイロカネ。
「人の好いドラゴンで良かったね。」
「そうね。普通、ハンディキャップなんてくれないわよね。」
笑顔で話すミラ姉だが、ミラ姉がごり押しした気がするんだけど…。黙っておくよ。そのおかげで生きていられるんだから。
ドロップ品は、魔石と竜のうろこ。それに深い青の宝石だった。その3つを回収して、アイテムボックスに収納する。
次の階層は、どんな所か見るだけにしようということになり、階段を下りていくと、広大な海が広がっている中にポツンと浮かぶ島の上だった。
僕たちは、すぐにUターンして、工房に戻ることにした。
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