第169話 異世界転生と工房性能実験
前の日は、夜遅くまで拠点の整備を行った。僕は、今回は地球の夕方6時30分位に転生する予定だ。こちらの時刻は、朝の4時近く。だから、向こうに着いたら6時間もしないで深夜になることになる。つまり、今晩あまり早く寝るとあっちで眠れなくなる。
だから、夕食後、仮眠をとって、朝まで起きておくことにした。まずにアンディーが付き合ってくれて、次にミラ姉、最後がロジャーに付き合ってもらう。シエンナは、明日、移動中のゴーレム戦車や製作予定の10人乗りドローンの操縦があるから、今日は、普通通りに眠ってもらう。
起きて何をしているかというと、家具の作成や、ポーションの精錬だ。特に初級ポーションは、たくさん作っておいた。身体強化ポーションの強化版を作り置きしてもらわないといけないからね。二人分の魔術が融合された身体強化ポーションは、いつもの強化ポーションの何倍かの効き目がある。
予備の机やベッド、賢者のローブも精錬でいくつか作っておいた。他にも、僕が精錬で作ったものを玲が再精錬すると効果が増すものが多いようだから、今まで作った魔道具で、魔力が関係するようなものは大目に作っておいた。
精錬窯も再精錬してみると、作ることができる魔道具の性能が上がった。更に森の賢者が精錬するとどうなるのか楽しみだ。この研究所の灯りは、魔道具屋から購入した灯りの魔道具で賄っている。光の魔石と普通の魔石、魔法陣の組み合わせで作ることができる魔道具で、材料の光の魔石が手に入ったから簡単に作ることができるようになった。
こんな風に研究所の工房で色々な物を作っていると、何か僕も一緒に玲と実験をしているような気分になって来た。さあ、明日…、いや、もう今日だな。向こうで、どんなことをしてみようか。
それから、ミラ姉と回復魔術の話やポーションを使った魔術の練習とミラ姉のポーションづくりの練習をした。いずれ練習しようと言いながらなかなかできていなかったので良かった。ミラ姉の作ったポーションは、ベン神父のポーションよりも良く魔術が練り込んであって、それを精錬すると、高級ポーションになった。次は、中級ポーションの材料で作ってもらおう。
中級ポーションづくりは、上手く行かなった。もう少し初級ポーションづくりで練習しないと無理なようだ。でも、ミラ姉は、器用だからすぐに作ることができるようになると思う。そうすれば、パーティー内で初級エリクサーを作ることができるようになる。
さあ、もうすぐ時間だ。ベッドに横になり、アイテムボックスを開けて、ホームスペースに移動する。ダイアリーを開き、一ページずつ確認しながら紙にコピーしようとすると…。目の前が、真っ暗になり、ダイアリーに吸い込まれて…、意識が薄くなっていった。
「お早う。森の賢者、レイモンド・フォレス・ポインターさん。」
目の前にミラ姉が居た。そして、僕じゃない人の名前を呼んだ。
「???」
「今、夜中の3時50分よ。少し寝て、明日、早くから行動開始よ。あんまり眠くないかもしれないけど。おやすみなさい。」
「ミラ姉、レイモンド…って誰?」
「あなたの名前よ。明日起きてしっかり説明してあげる。今は、おやすみなさい。」
目はさえているけど、身体は付かれているみたいだ。ミラ姉に言われた通り、少し眠ろう。僕は、目をつぶり、浅い眠りに落ちて行った。
朝だ。少し眠り足りない気はするけど…。ドアがノックされて、開いた。
「おっ、お早う。森の賢者がおいで下さったか。」
「ロジャー、ふざけて言ってるの?」
「よっ。久しぶりかな?森の賢者。」
「お早うございます。森の賢者様。」
「………。どうしたの。みんな、森の賢者ってだれ?」
「アハハハハ…。はい、レイが困った顔になってるわ。私が説明していい?」
「ミラ姉。説明お願い。俺が話したらふざけてるって思われそう。」
ロジャーの賢明な一言。確かに、ロジャーの説明だと担がれていると思うだろう。
「あのね。レイ。レイは呼び名で正式名は、レイモンド。
ミラ姉の説明では、帝国や様々な人物への説明のため、とんでもない魔道具の製作者として架空人物である森の賢者を設定したそうだ。その為、王宮から直接レイに与えることができない、今回の砦づくりに関わって収めた貢献の報酬によって、男爵に叙爵したというのだ。王宮としては、架空の人物である森の賢者に叙爵させることで真実味を増し、レイの存在を隠すとともに、保護するつもりだったらしい。
良く分からないけど、架空の人物なのに砦の運用も任されているという。まあ、実質、ミラ姉たちのパーティーに任されているということなんだけど、村長と話し合ったりする人物として転生した僕を森の賢者として紹介することにしたということだ。
その為に仮面の魔道具やローブなんかの装備までそろえてくれたということだった。それで、僕が森の賢者と呼ばれていた理由は分かった。でも、レイモンドなんだから、今まで通り、レイでお願いすることにした。
「それじゃあ、朝ご飯にしましょうか。」
「あれ…、ここはどこ?」
「ここはね。森のダンジョンの森の階層。あなたの工房よ。昨日みんなでっていうか、レイとアンディーで作ったの。あなたもこの世界で存在する人物になったのだから拠点が必要だと思ってね。」
「そうなんだ。ここってダンジョンの中なんだね。」
「しかも、コテージと同じように、外から見えないし、中の音も漏れないっていう結界に囲まれた、不思議な拠点の中だ。」
「そうなんだ。だったらこの中で大きな音出しても大丈夫ってことなんだよね。」
僕が聞くと、ロジャーが応えてくれた。
「その通りだ。まあ、でも、こんな早朝からこの階層に入ってくるパーティーはいないと思うぜ。」
僕たちは、完全に周りから離された空間にいるようなものだ。
「じゃあ、まず、この工房の性能実験をしてみようよ。」
「でも、その前に朝食にしましょう。みんなお腹空いているでしょう。」
ミラ姉に促されて、僕の部屋から食堂に移動した。シエンナがテーブルに料理を並べてくれていた。いつものことだけど朝からボリューミーなメニューが並んでいる。肉、肉、野菜の煮込み料理、そして肉。生野菜は少ない。
一度、アイテムボックスやストレージに入れてしまえば寄生虫なんかは取れてしまうんだけど、野菜に着いた寄生虫の卵なんかは取れないようだ。だから、生野菜は少ないんだと思う。きれいな流水が手に入りにくいからしょうがないのだろうけど…。でも、果物は、そこそこたくさん並んでいた。
今日の行動予定を話し合いながら朝食を食べる。
「まず、この工房の性能実験。どの位の音や振動までは、外に漏れないのかを調べよう。限度が分かれば、この中での実験で気を付けないといけないことが分かるからね。」
「それは、そうね。次に、大人数乗りのドローンを作ってもらえないかしら。国王陛下に約束しているの。王室の皆さんにも。」
「試し試しになると思うけど、今回の一番大きな目標だね。」
「そう。ドローンが出来上がるのがいつくらいになるかによって、その後の予定は変わって来るわね。」
「それは、そうだろうね。でも、今回は、このダンジョンの探索もしてみたいな。前回は、この階層でドローンを作って外に出て行ったからさ。ダンジョン探索っていうのも経験してみたい。それに、今回は、身体強化ポーションも作れたから、ほんの少しだけど、全開よりも動けるようになっていると思うよ。」
「じゃあ、朝ご飯が終わったら、この工房の性能実験をして、その後大型ドローンづくり。ドローンづくりには、私とロジャーは役に立てないから、二人で、ダンジョンの下見に行ってくる。下の階層のさらに下までの入り口は見つけているから、そこの様子を見てくるわ。攻略に必要な物が分かるかもしれないし。」
「分かった。じゃあ、その流れで。工房の性能実験から俺と、レイとシエンナの3人でやった方が良いか?」
「性能実験には、俺たちも参加したいな。耐性試験も見ておきたいし。」
「た…、耐性試験って外から攻撃してみるのか?」
アンディーがびっくりした声で聞いた。
「した方が良いだろう。この外はダンジョンなんだぞ。冒険者がこの前で魔物とドンパチやって流れ弾が結界にぶち当たることだって全くないわけじゃないんだから。」
「アンディーやロジャーみたいに高火力の攻撃が流れ弾で当たることって考えられないけど、ロックバレットやファイヤーボール、アイスジャベリンくらいはあり得るかもしれないわね。」
「まあ、まずないとは思うけど、ファイヤーボールとロジャーの投擲、ミラ姉のアイスジャベリンで耐性テストとこの結界に攻撃が当たった時に、この場所が特定されてしまうかを確認しておこうか。」
「それ、やってみたい。みんなで外に出ても、中に入れなくなることは無いのだから、みんなで外に出て、確認しましょう。中にいたら危ないかもしれないし。」
「じゃあ、まずは、音漏れや振動漏れの実験からしてみるよ。ロジャーたち外に出て見て。」
ロジャーとミラ姉、シエンナの3人が工房の外に出て行った。僕とアンディーは、まず、ゴーレムを出して、格闘訓練をさせてみた。ぶつかり合う金属音がうるさい。
「音漏れてる?パーティーに送信」
『シエンナ:漏れてません』
「次に、新しく作ることができるようになっているファイヤーボールライフルで的撃ちしてみようか。アンディー、丈夫な魔と作ってくれない?」
「じゃあ、レイが撃って、的に当たらなくても大丈夫な場所に作るな。」
「うっ…。うん。宜しく頼むよ。」
確かに、的を外す可能性は、否定できない。練習なんてしてないし…。アンディーが工房の建物から離れたダンジョンの崖の前に的を作ってくれた。厚さ1mの防壁だったらライフルの攻撃で壊れてしまうかもしれないからだ。的は、ミスリル製だ。大抵の魔術攻撃じゃあびくともしない。
「レイ、ライフルに使う火の魔石は一番小さい物にしておくんだぞ。そうしないと大事になるからな。」
アンディーが釘をさしてくる。危なかった。一番たくさんあった中くらいの魔石を使おうとしていた。
「アルケミー・ファイ―ボールライフル」
作ったライフルにを構えて、引き金に魔力を流し込む。そして、引き金を引く。
『ドビュッゴー』
「あああっ!外れた。」
『ドドッガン』
ダンジョンの崖の岩肌に直径50cmくらいの穴が15cm程穿たれた。
『シエンナ:音はしませんが、振動が伝わってきました』
「ごめんなさい。的を外して、ダンジョンの壁を撃った。もう一度、撃ちなおす。」
もう一度、今度は、少し的に近づいて、外さないように、慎重に引き金を引く。
『ドビュッゴー』
『ゴッガーン』
ミスリルの的から大きな音が響いた。的は無事だ。
「この位で良いかな?これ以上大きな音なんて、そうそうしないだろう。」
「じゃあ、ここからドローンで上昇した時にどんな風に見えるのか確認してもらう。」
アンディーがドローンを出して、二人で乗り込んだ。
「今から、ドローンで工房を出る。真っ直ぐ上昇するからどんな風に見えるか確認して。パーティーに送信」
『シエンナ:了解しました』
真直ぐ、上昇。結界を越えて上空に出た。すると真下にあったはずの工房はダンジョンの崖に紛れて見えなくなった。崖のすぐ前にミラ姉達が居る。アンディーは、ドローンをその横に着陸させた。
「どんな風に見えた?」
「そうねえ。なんか、崖の向こうの方から上昇してきたみたいに見えたわ。すぐ目の前から出てきたようには見えなかった。」
「それなら、この工房からドローンで飛び立っても、場所を特定される心配はないかな。」
「次は、耐性実験ね。まず、アンディーのファイヤーボールからね。」
「OK。あまり魔力を練り込まないで撃ち込んでみる。」
「ファイヤーボール・ファイーボール・ファイーボール・ファイーボール・ファイーボール」
『バフ、バフ、バフ、バフ、バフ』
ファイ―ボールは、崖肌にぶつかり消えて行った。
「次は、ロジャーの投擲。石の投擲をやってみて。」
『ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ』
『カッ、カッ、カッ、カッ、カッ』
ロジャーの投擲も崖肌に跳ね返されて落ちていく。よく見れば、素直に跳ね返りすぎているのが分かるかもしれないが、最中、外した投擲をじっくり観察するものなどいない。
「最後に私のアイスジャベリンね。アイスジャベリン、アイスジャベリン、アイスジャベリン、アイスジャベリン、アイスジャベリン。」
大きな氷の砲弾が崖肌で砕けていく。
『グギャーガラガラ、シャーンガラガラキャキーンガラガラ…。』
これもよく観察すれば、岩肌に貼りついた筈の氷の塊はなく、氷の欠片がすべて岩肌の下に落ちていることに不利自然さはあるのだけど、魔物との戦いの最中にそんなことに気づくものなどいるはずもない。
「防壁に異常がないか確認しましょう。」
「賢者の工房、結界を解除。賢者の工房に送信。」
防壁が現れた。壊れた場所も傷が入った場所もなかった。流石、アンディーの強化魔術だ。
「耐性実験も合格ね。これで、私たちも安心してダンジョンのお試し探索に行くことができるわ。レイたちもドローン製作頑張ってね。」
「シエンナ。エスを貸してくれない。ダンジョンの中なら魔力切れの心配もないから。」
「はい。どうぞ。」
ロジャーとミラ姉は、小型のゴーレム戦車にのってお試し探索に出かけた。今から、僕たちは、大型ドローン製作だ。頑張ろう。
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