第166話 噂と真相と写真撮影
ティモシー様と献上品のゴーレム車の色や飾りの打ち合わせが終わった後、僕とアンディーは、貸して頂いた王宮の工房で、ゴーレム車の仕上げをした。色は王室のシンボルカラーになってしまった金色。それだけでは、趣味が悪いと基調は白だ。
二階部分の椅子を8脚に増やし、中央に折りたたみ可能なテーブルを配置。テーブルは普段は畳んでありその状態では手すりとして使用できる。椅子は、回転式になっていて、会議の時には中央を向くことができるような作りになった。
二階へ上がる階段も、一階の後方をつぶすことで少し急な勾配ではあるが設置することができた。走行中は、折りたたんで二階部分の床に一体化する作りだ。
一階部分は、運転席を中央に、その左右に護衛席。ドアは、前、中、後方の左右6か所。後方と中のドアは広く作ってあり、中は、前方、後ろは、後方開きで2席分の出入り用だ。後方は階段を設置したため2席ずつの4席しかないが、中に3席2列あるため前の席も含めて13人が乗れる。
基本的に下が護衛席、上が王室とゲストの席だ。上には、8席の他に護衛用の補助席を4席準備している。前後に2席ずつ少し沈めた場所だ。2階席は、腰の高さまでは、ミスリルでおおわれているが、それ以上は透明金属になっていて見晴らしがよい。護衛席からは景色を楽しむことはできないが、それは勘弁してほしい。
ゴーレムバスよりかなり小さいが、僕たちの小型ゴーレム戦車に比べると1.5倍の大きさになっている。戦闘には不向きだが、パレードや旅行には活躍するのではないだろうか。勿論、移動の場合、前後をマウンテンバイクなどに乗った騎士たちが護衛する。
この多足ゴーレムフェスティバルカーは、名前が長すぎるということで、王室車、ロイヤルカーと名付けられた。シエンナに試運転をしてもらって問題ないことを確認。すぐに運転手の選出が行われた。
運転手は、予想通り?ウィルさんとブランドンさん。シエンナが、二人に操作方法をレクチャーしてこの日の夕方には、宿に戻ることができた。
やっと、ゆっくりできると思っていると、ミラ姉とアンディ―のタブレットが振動し、連絡が入ったことを知らせて来た。しばらくして僕とロジャーシエンナのタブレッとにも連絡が入った。
ミラ姉は、チャールズ様、アンディーはミーシャ様、ロジャーは、オースティン様、シエンナは、エレノア様、そして僕は、ステラ様から連絡が入っていた。みんな内容は違うのだけど、簡単に言うとロックリザード討伐やロックバレーダンジョンの探索のことを聞きたいということだった。多分、アンディーとミラ姉以外は、くじ引きか何かで決めたんじゃないかな…。
その後ティモシー様から連絡が入り、王室の方々と夕食をともすることが伝えられた。いつもの流れで、迎えが来るから待っていろという内容だった。お風呂に入っておけばよかった。
いつもの流れで、簡単に清めて準備して頂いた服に着替え、食堂に案内された。上級毒消しポーションを王室と僕たちの人数分プラス10本献上すると伝えている。タブレットでの連絡の時、上級毒消しポーションの名前がちらほらと出て来ていたからだ。それとなく、におわすようなニュアンスだったけど、プラス10本と伝えた時のティモシー様の表情から、正解だったんだと思う。
今日の席は、タブレットで指名があった王室の方々の隣が僕たちの席になっていた。勿論、主賓席は、国王陛下だし、その隣は、お妃様なんだけどそ王様とステラ様に僕が挟まれるなんて何の罰ゲームなんだ…。王室の方以外に出席していたのは、ティモシー様。クーパー様、アンドリュー様、オードリー様、その他、公爵家から4名の方々。ティモシー様とクーパー様、それぞれのご婦人の10名だった。いったい何のパーティーなのだろう。
毒消しポーションが準備されているということで、出来立ての料理が運ばれてくる。どれもおいしく息をのむほどきれいだ。食事に出席している面々はとても優雅に、上品におしゃべりしながら食事をしていらっしゃる。緊張でほとんど味がしない僕たちとは大違いだ。
「グル・アンディー、グルは、大物食いのアンディーという名が王都に伝わって来たのですが、どうしてなのですか?必殺大剣魔術のアンディーなんて名前も聞こえていました。」
ミーシャ様がアンディーに尋ねた。周りの話し声が聞こえなくなり、みんながアンディ―の答えを聞きたがっているのが分かった。
「俺、いや私には、そのような名は聞こえていなかったです。どうしてかと言われたら、多分、狩場にあまり大きなロックリザードが入り込むと事故が起こる心配があったからです。俺…私たちは、狩場の奥にある餌場で、大きすぎる獲物を間引いていたんです。」
「私は、大物食らいはロジャーで聞きましたよ。頭落としのロジャーや一本鎗のロジャーなんか色々な名前で聞きました。なんでそんなにたくさんの名前が付いたのか知りたかったのです。」
次は、オースティン様だ。何か変な異名が王都に伝わっているみたいだった。王都からもたくさんの冒険者がロックリザード狩りに来ていたからその連中の口から広まったのだろう。
「確かに初めの方は、大物の首を落として仕留めていたからです。でも、仲間の道具屋が丈夫で鋭い投げ槍を作ってくれたんで、後半は、槍一本を頭に打ち込んで止めにしてたんだ。です。俺…私もアンディーと同じで狩場に大物が行くと事故が起こるってシエンナに言われていたから頑張ったんだ。です。」
「そう、シエンナさん。不動のゴーレム使い。ロックバレーの門番。ロックリザードの配給人。そして、フォレストメローのギルドマスターからは、最大の功労者って言われてますわ。どのようにしてそんなことおできになったのですか。」
「私は、そんなに言われるようなことしていないと思います。ただ,レイさ…、いえ、森の賢者様に使役させていただいたゴーレムのおかげです。」
「1体のゴーレムで王都に伝えられているようなことをしたのですか?」
「いいえ、私が使役していたゴーレムは4体です。狩場の入り口で冒険者たちが狩りをするロックリザードを誘導するゴーレムが2体。狩場で冒険者パーティーの連携が崩れそうな時に、救援に入るゴーレムが1体。私の護衛のゴーレムが1体ですね。」
「その4体すべての動きを把握していたのですか?」
「そうですね。初めは大変でしたけど、慣れれば何とかなりました。感覚共有で、全てのゴーレムの状況を把握できるのでほぼ同時に指示を出すことができるんです。」
「それは、すごいことですぞ。4体のゴーレムから送られて来る情報をすべて把握し、的確な指示を出すなど、常人がなせることではございませんぞ。」
アンドリュー騎士長様が思わず口をはさんでしまったという顔でエレノア様の方を見ている。その顔を見てカラカラと涼やかに笑うエレノア。
「アンドリュー騎士長が言うほどすごいことなのですね。シエンナさんがあんまり簡単そうに言うから、本当に大したことじゃないのかと騙されるところでしたわ。騎士長、教えてくれてう有難うございます。」
「もったいなきお言葉、私も思わず余計な口をはさんでしまいました。お許しください。」
「許すも許さないも、お礼を言っているではありませんか。シエンナ、あなたは、自分の力を過少に伝えないでくださいね。私も騙されるところでしたよ。」
「ももも…、申し訳ございません。し…、しかし、私そんな、騙すだなんて…。」
涙ぐんで泣きそうになっているシエンナ。そんなシエンナを見てエレノアも困った顔をしている。
「シエンナよ。エレノアはお主を叱っておるのではないのだぞ。もっと自信を持って欲しいと言いたかっただけなのだ。そうだろう。エレノア。」
「そ、そうです。お父さ…、父う…、国王陛下。シエンナさん。ごめんなさいね。あなたは、とってもすごい方だわ。」
「あ、ありがたきおことば…。」
「ねえ、ミラぁ。ミラは優しいよね。怖くなんかないよね。」
「どうしたのですか。チャールズ様?」
「騎士団の人が氷の聖女って言う怖い聖女様がいるって話していたんだ。それってミラのことじゃないよね。」
「まあっ…。」
言葉に詰まるミラ姉。その時、ミラ姉の横に座っいてたオードリー様が、チャールズ様に優しく話しかけてきた。
「チャールズ様が聞いた噂は、間違って伝わった噂ですね。本当に冒険者たちに広がっているのは、今回のロックリザードの討伐の時、恐ろしいほど強力な氷属性の魔術を使い、驚くほどの回復魔術を誰彼隔てることなく使って大怪我を治してくれた聖女のような冒険者が居たということです。それがアメリアさん。あなたのミラさんですよ。」
チャールズ様は、その話を聞いて、溢れるような笑顔で、ミラ姉を見ていた。ミラ姉も優しい笑顔をチャールズ様に向けている。良かった。ミラ姉が悲しい顔でこのお招きを終えるようなことにならなくて。
「オードリー様、ありがとう存じます。私の為にチャールズ様に、ご説明頂いて。」
「何をおっしゃっているの?あなたの為ではあり万よ。チャールズ様と私たちの為です。あなたを悲しい顔にさせたままこの食事を終わらせるなど、あってはならないことなのですよ。よく頑張りましたね。アメリア様。」
「レイよ。森の賢者との連絡役、大儀であったぞ。そして、砦づくりでのお主の活躍は王宮、全ての者が知ることである。お主たちが運んでくれた冷凍の魔術具のおかげでロックリザードの討伐が成功したと言っても過言ではない。それにしても、ロックリザードの討伐だけでなく、帝国への献上品への貢献。我が国の自由騎士団の中でも最難関地点であったフォレストメローポイントへの砦の建築。それらをすべて同時に行ってしまうなど、お主らに何をもって報えば良いのだろうなあ。わが王室と我が国は。」
「ありがたきお言葉。国王陛下のそのお言葉だけで、報われた思いでございます。本来なら明日、献上の謁見の場でお見せしようと思っていたのですが、この場で、ご披露させていただきたいものがございます。」
「それは、もしや。」
クーパー様が何か言いたそうに口をはさんできた。それを手で制して、
「皆様、今宵のこの
「では、王室の皆様方、タブレットは、手元にお持ちでしょうか?」
「持っておるぞ。」
国王陛下以外の方も持っていらっしゃった。
「では、ほんの少しの間でよございますので、タブレットを私にお預けいただけますか。」
「うむ。どうしてかは聞くまい。楽しみにしておるぞ。」
「はい。お楽しみにしていただいて結構です。きっと、喜んでいただけると存じます。」
王室の皆さんから預かっただタブレット全てにカメラとカラー写真対応の機能を追加し、すぐに返却した。
「色々と、注文をして申し訳ございませんが、国王陛下を中心に、お集まりいただいて宜しいでしょうか。」
王室の皆さん、僕たちパーティーメンバー、そのほかの出席者のみなさん全員が2列に並んだ。前列の王室の方々は椅子に座ってもらい、公爵様も座ってもらった。その後ろに家臣の方々と僕たち。僕の場所は、ロジャーの隣。その場所を確保してもらっている。
メイドさんにお願いして、僕タブレットを持ってもらった。
「皆さん。笑顔で、僕タブレットの方を見て下さい。写真を撮ってくれ。連続で10枚ほど。僕が笑顔と言った後だぞ。はい、笑顔!」
メイドさんがタブレットの画面を見て目を丸くして驚いている。
その後、コクコクと頷くメイドさん。写真撮影が終わったようだ。
「はい。終わりました。元の席に戻っていただいて結構です。」
僕は、今撮った写真を王室の皆さんとパーティーメンバーに送信する。
「すべての写真をグループ送信。パーティーメンバーに送信。王室の皆さんに送信」
王室の皆さんの顔が固まった。そして、ゆっくりと笑顔になって行った。パーティーメンバーは、側に座っている人たちに今の写真を見せている。反応は、王室の方々と同じ。クーパー様だけは、余裕があったけどね。
このサプライズで集いはますます盛り上がり、最後には王室の皆さんによる写真撮影会になってしまったけど、みんなずっと笑顔の集いだった。
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