第164話 護衛任務と森の賢者
今日は、王都へ向かう日だ。そして、少なくとも5日間は、パーティーハウスに戻らないと伝えている。4日後領主様を王都からフォレストメロウまで送った後、次の依頼でダンジョンへ潜るからだ。もしかも、祝賀ムードで大騒ぎしているフォレストメロウで僕たちを見かけても指名依頼の最中だということだ。
お昼近くまでのんびり過ごし、正午になる前に領主様の邸宅の前にゴーレム戦車を止めた。1階にミラ姉とシエンナ、領主様ご夫妻と領騎士3名。2階に僕とアンディーとロジャーというフォーメーションに落ち着いた。ゴーレム戦車のオットーは、揺れもなく快適だ。迎涼の月も終わりに近づき、夏の暑さを感じることは無くなっている。僕たちは、時折感じる涼やかな風の中のんびりと過ごしていた。
フォレストメロウを出て、1時間。目の前に魔物や盗賊が現れる気配もない。まあ、僕は、サーチも何もかけていないから、本当の所はどうか分からないけどね。
「そろそろ、護衛任務をできるかもしれないぞ。」
ロジャーがぼそりと呟いた。
『オットー:前方20km程の所に大型の魔物と商隊と思われる集団が戦闘中。後6分程で会敵します。』
「こんな草原の真ん中でどんな魔物が手て来たんだろうな。」
「オークかな?オークだったら、肉が手に入るかもしれないね。」
『オットー:後1分で会敵。見えてきました。』
3km以上離れているのに見えてきた。何もない草原だとしても、でっかい。5m以上ある。
「オークジェネラル。」
サーチで確認した。
「武器を持っているようだな。」
「戦斧か。アンディ―のウェポンバレットに加えたらさぞ威力が増すだろうな。」
「今、戦っている冒険者の物でしょう。」
僕が釘をさす。横取りは、争いの元だ。
「でもな、助太刀した方が良いような雰囲気なんだよな。」
「まず、聞いてみようよ。」
「戦闘の場所に近づいて停止して。シエンナに送信。」
ゴーレム戦車が商隊の馬車とオークの間に割り込んだ。オークは、戦車の右横にいる。
「助けてくれ。俺たちはもう、もちそうにない。」
「了解しました。ゴーレム戦車の陰に避難してください。」
「ソードショット。」
アンディーのソードショットは魔物の眉間に突き刺さった。
「ウムッ。」
ロジャーが投げ斧で首を落とした。
「何もすることないや…。」
「ありがとう。助かった。」
「大丈夫ですか?」
「仲間が一人やられた。まだ、息はあるが、長く持たないだろう。」
「ミラ姉、出番だよ。ミラ姉に送信。」
扉が開いて、ミラ姉が出てきた。
「どうしたの?」
「怪我人だってさ。助けてあげようよ。」
「怪我人なのに何そんなに落ち着いてるの。怪我人はどこ?」
「あそこです。馬車の陰に倒れています。でも、無理です。斧で右肩からバッサリやられているんで。苦しまないように痛み避けの治療をしていただければ奴も幸せだと思います。」
「とにかく、案内しなさい。あっ、あの人ね。」
ミラ姉は、怪我人に近づくと、手をかざした。
「アンチドート、ヒール。ヒール。ヒール。」
さっきまで、痛みに苦しんでいた男は、安らかな寝息を立てている。出血が多く、顔は青白くなっているが、寝息は、静かで安定している。
「もう、大丈夫。馬車に怪我人を乗せる余裕はありますか?」
「ああっ。ある。王都に向かって戻る途中だったから。しかし、あの大怪我を治療することができるなんて…。あんた、もしかして氷の聖女か?」
「あ~ん。誰がこおりの聖女ですって。」
ミラ姉がブチ切れた。氷が気に入らないのか聖女が気に入らないのか。何故ブチ切れるかは分からないけど、怖い。
「ひぇー、も、申し訳ありませんでした。」
「治療代は、銀貨1枚。ここで払うか、冒険者ギルドでアンデフィーデッド・ビレジャー宛てに払い込んでおいて。いいわね。」
「はっ、はい。ここでお支払いします。」
「毎度ありがとうごさいます。」
ビビッて土下座状態の冒険者から銀貨1枚を受け取るとさわやかな笑顔を向けるミラ姉なんだけど少し怖い。
オークジェネラルの素材と戦斧は、譲ってくれました。僕たちは、ほくほく顔で、また王都に向かって戦車を走らせ始めた。
その後は、特に何事もなく王都に到着した。まだ、日が高い時間だ。王都の魔時計は、2時30分を指していた。途中でオーク退治をしたし、正午過ぎに出て来たし、まあまあ順調な護衛任務だったんじゃないかな。
領主様は、王都の邸宅に久しぶりに行くそうだ。僕たちは、いつもの宿に部屋を取った。シエンナとミラ姉が同室。僕たち男3人が同室だ。領主様に、タブレットを献上し、連絡が取れるようにしておく。宝石代に金貨40枚も下さったということで、タブレットの代金はいらない。そういえば、王宮に渡したタブレット代金いくらにしようかな…。
「ねえ、王宮からタブレット代金、貰ってないんだけど1台いくらで設定したら良いのかな?」
「タブレットは、台数限定だからな。あんまり安くすると困ったことになりそうだ。」
「でも、今日の実験で分かったんだけど、中継用の部品を合成したら、違うコアとも連絡が取れるようになったんだよね。」
「ということは?数量限定が無くなるってことか?」
ロジャーの質問。
「そういう訳じゃないんだけど、うーん。いくつものグループを作っていけるってことかな。」
「どっちにしても数量限定なんだな。」
アンディーの結論だ。
「まあ、そう言うことかな。だから、幾らにしようか。金貨50枚でいいかな。カメラ付きは金貨150枚。カメラ付きドローンは金貨300枚。ドローンは、幾らだったっけ?」
「ゴーレムバイクと同じ金貨80枚で良いんじゃない。いくらで売ったか忘れちゃったわ。」
「じゃあ、それで、販売します。森の賢者の新製品は高級品ばかりだね。」
そんなこと話していると、冒険者ギルドのギルドマスターが尋ねてきた。
「レイ様。お待ちしておりました。で、時計の装飾はうまくいきましたでしょうか?」
「はい。森の賢者様にご相談して、金剛石の装飾をした時計を作っていただきました。」
「へ?森の賢者様?とは…。」
カクカクしかじかと、森の賢者の設定を真実としてギルマスに話し、献上用の時計を受け取ってもらった。ただし、魔石がうまく働くかどうかは、明日の正午を待たないと分からない。そのことを伝え、金剛石の宝石は、森の賢者じゃないと作れないと念を押した。デザインしたのはアンディーだということは教えている。
これで、時計の献上の件は終了だ。勿論国王陛下と一緒に、お妃さまの分も渡している。同モデルの値段は、ギルマスが商業ギルドや鍛冶師ギルド、錬金術師ギルドと一緒に決めると思う。その値段に応じた、人工ダイヤの値段にしようと思う。
このやり取りで、森の賢者が王都に伝わった。後は、ギルマスの商才に期待しておこう。きっと儲け話として、森の賢者の存在は広まっていくことになるだろう。
その日の夜は、王都の調剤ギルドのギルドマスターのジェイソンさんに招待されて、高級レストランで食事をした。シエンナもミラ姉もおめかししてドレス姿だ。僕たちも一応正装で出かけた。
「皆さんのご活躍、王都にも聞こえてきていますよ。沢山のロックリザードを討伐したということですが、いったい、何体くらい討伐されたのですか?」
「どのくらいだろう。アンディーたち数えてた?」
「いや。でも、後でギルドで聞いたぞ。何体だったっけ?最後の方は、サポートが多かったからな。」
「そうね。私たちなんて、ほとんど討伐してないわ。サポートばかりで。」
「でも、ミラさんは、大活躍だったですよ、たくさんの人の命を救って。」
「そういえば、聖女様の噂は、王都にも届いていましたね。」
「あっ、あの…。」
「ん?どうしたのですか?信じられないほどの威力の氷魔術とこれまた信じられないほどの回復力の回復魔術を使う冒険者が活躍しているって…。それは、アメリア様だったのですね。」
「誰彼、分け隔てなく治療をしてくださる聖女様がいると言う噂も届いていましたよ。」
「そ…そんな、聖女だなんて。ただ誰も死んでほしくなかっただけですし、それがギルドとの契約でしたから…。聖女だなんて言われると恥ずかしいですわ。」
「そのように謙遜なさるな。アメリア様の素晴らしい働きと献身は、見事としか言いようのない物ですよ。」
「まあ、そんなに褒めていただくなんて…、恥ずかしいです。」
あれ…、ミラ姉、ブチ切れない。良かった。
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