第160話 酸化鉄と磁石と還元
今日は、昨日完成したラボで実験三昧を堪能しようと思っていたら、朝からメールが入ってきた。この前、カラオケに行った時に、退院祝いで買ってもらったスマホのアドレス交換をしたんだった。
「困った。」
スマホの画面を見ながらダイニングに降りて行った。朝食はさっき食べた。部屋で、レイのダイアリーを確認しようとしてスマホが目に入ったのがいけなかった。まあ、いけなかったわけじゃない。むしろ、目に入って良かったんだけど、その返事をどうしたら良いのか分からないんだよね。そんなこと、両親に聞ける訳がないけど、両親に了解を貰わないと返事ができない。二人とも、実験三昧を楽しみにして今日の用事はすべてキャンセルしているんだ。
「あのさ。今日、友だちが遊びに来たいって言ってるんだけど、無理だよね。で、どういって断ったらいいのか分からなくてさ。」
「どうして無理なの?遊びに来てもらったらいいじゃない。」
「それって、女の子なのか?だから無理って言ってるんじゃないか?」
「女子だよ。遊びに来たいって言ってるのは、女の子二人。本田さんと村上さんなんだけど、先週カラオケに一緒に行った子たちだよ。」
「女の子か。しかも二人?どういう関係なんだ?」
父さん、何か興味本位?
「二人ともただの友だちだよ。学校で初めてできた。まあ、言えばダンクシュート研究会仲間?かな。」
「ダンクシュート研究会?何じゃりりゃ?」
「体力増強強化ポーションを飲んでいった日の体育で偶然やってしまったダンクシュートを再現しようって言う研究会の仲間。二人ともバスケ部で、僕がやったダンクシュートにものすごく興味を持ってさ、きちんとできるようになろうって練習に付き合ってくれたことが友だちになったきっかけなんだよ。」
「まあ、やらかしきっかけの友だちか。なら、良いんじゃない。遊びに来てもらったら。」
「いやいやいや、遊びに来てもらってどうすんの。今日は、父さんと母さんも一緒にいろいろ実験やってみようって言ってた日でしょう。」
「あのね。まず、メールでこう聞いてみたら。」
「ん?どう?」
「今日は、父も母もいて、一緒に過ごすことになるけど大丈夫?って。」
「で、大丈夫って言ったらどうするの?」
「一緒に実験したらいいじゃない。その子たち理科嫌いってことないでしょう?ダンクシュート研究会なんてやっちゃうくらいなんだから。」
「好きか嫌いかは知らないけど、苦手ではないみたいだよ。試験の成績も良かったみたいだし。」
「じゃあ、メール送ってみたら。後は、実験楽しんでもらえたらいいんじゃない?」
「今日は、何の実験するの?」
「普通の実験よ。まず、玲に実験の意味を知ってもらわないといけないからね。化合と分解なんかどうかしら。意味が分かると色々広がるわよ。普通のラボじゃできないこともできるかもしれないし、機械も大きな設備もなくても世界初をいろいろできるかも。」
父さんは、僕と母さんの会話を聞きながらニヤニヤしている。何を企んでいるんだ。
僕は、本田さんに母さんに言われた通りのメールを送った。本田さんと上村さんは一緒に来るそうだ。『父さんと母さんにも会ってご挨拶したり、聞いてみたいことあったりするので大丈夫です。』だって。10時過ぎに来るってメールが返って来た。
リビングで、実験の打ち合わせをしているとチャイムがなった。本田さんたちが来たみたいだ。僕が玄関に出て行くと、両親もついてきた。
「いらっしゃい。」
「「初めまして。」」
「本田鈴と言います。」
「村上エリです。」
「初めまして。母の春奈です。」
「父の勇樹です。」
自己紹介が終わったところで、玄関からリビングへ移動する。
普通なら、このまま僕の部屋に案内して3人でおしゃべりするところなんだろうけど、母さんと父さんはそんなことさせてくれない。すぐに、ジュースとお菓子をだして、リビングに足止めすると、単刀直入に本題に入る。
「昨日ね。うちに実験室を作ってみたの。それで、今日色々と基礎実験をしようと思ってるんだけど、一緒に参加しない?」
「基礎実験?それって何ですか?」
「中学校で勉強するようなことをちょっと違った視点で確かめてみようと思ってね。きっと面白いわよ。一緒にやらない?」
「君たち二人、科学いや、理科は嫌いかい?」
父さんも母さんに被せて聞いてきた。本田さんと村上さんは少し唖然としていたけど、すぐに目を輝かせて答えた。
「「実験好きです。一緒にやってみたいです。」」
返事がシンクロするあたり、二人はとっても仲良しなんだな。
二人をラボに案内する。上履きは、今日はスリッパで代用。
「まずは、酸化と還元からね。まず、理科室でやるような実験をしてみましょう。」
カセットコンロ用のボンベにノズルを取り付けたガスバーナーでスチールウールを加熱した。これって理科の授業でやったかもしれない。ガスバーナーはちゃんとした奴だったけど。
小さな赤い塊がガスバーナーの火でスチールウールに広がって行った。ふうふうと息を吹きかけて赤く光る部分を広げていく母さん。赤い塊はやがて光を失い、下に引いたアルミホイルの上に落ちて行った。
「さて、このスチールウールは、十分に酸化されているでしょうか?確かめる方法は?分かる人。」
「磁石に近づける。」
「やってみましょう。」
母さんは、ビニール袋に入れた磁石を黒くて丸い偶に近づけた。黒い球は、磁石に引き寄せられてくっついて行く。
「???」
「教科書に、酸化鉄は、磁石にくっつかないと書いてあります。」
「そうよね。でも、磁石を砂浜で引っ張っていくと磁石に砂鉄がくっついてくるのよね。砂鉄って酸化されていないの?海水でさらされて空気にもさらされているのに。」
「海岸の砂鉄って本当にあるんですか?海岸で磁石を引きずって行っても砂鉄なんてくっつかないんじゃないですか?」
「今から行く?海岸に。磁石持って。」
車を30分くらい走らせて海岸に来ている。初秋の海岸は人影は多くはないけど、日曜日の今日は、ウィンドサーフィンを楽しんでいる人たちなんかで賑わっていた。そんな中を磁石に紐をつけて引きずっていく。磁石は、ビニール袋の中に入れている。そうしないとくっついた砂鉄を取るのに苦労するからだ。
暫く海岸を歩いて、ビニール袋を見ると黒い砂鉄がくっついていた。そう量は多くないけど確実にくっついている。
そのビニール袋を更にビニール袋の中に入れて持ち帰ることにした。
「実験結果を確認します。」
「海岸で、磁石にくっついてきた黒い物質を確認しました。皆さんも確認しましたね。」
「「「はい。確認しました。」」」
「では、この黒い物質は鉄なのでしょうか?鉄の性質である、磁石に引き付けられるというものは示しています。」
「でも、金属の他の性質もあるのでしょうか。例えば、金属光沢はないです。」
なんか、酸化鉄だけでこれだけ実験できるのって面白い。それに、食いついて行く本田さんたちも面白い。
「じゃあ、鉄の性質で他に確かめられるのはないですか?」
「電気を通します。」
「では、確認しますが、一つ一つの粒が小さすぎて確認が難しいかもしれませんね。」
母さんは、テスターを持ち出して砂粒の電気抵抗を測ろうとした。母さんが言ったように小さすぎてテスターの先が触れて針が動いているのか、砂鉄が電気を流しているのか確定することが難しかった。
「他に、この粒が鉄なのか鉄ではないのかを確認する方法はないでしょうか?」
とうとう二人とも黙ってしまった。僕は、教科書の中から鉄の性質の所に関係ありそうなものをサーチした。
「希塩酸に入れると鉄なら水素を発生するはずです。粒が小さくて水素を集めることが出来なくても、気体が発生するのを確認できると思います。それに、鉄なら希塩酸に溶けていって塩化鉄になるはずです。」
「では、希塩酸に溶けて、気体を発生するかを確認します。」
黒い粒は、希塩酸に反応しないで試験管の底に沈んでいった。
「このように砂鉄は、希塩酸に溶けません。金属の性質も十分には持っていませんが、鉄の性質である磁石に引き寄せられる問性質は持っています。」
ここから、母さんの独壇場だ。
「今から、この砂鉄の正体を探っていきたいと思います。」
「玲、さっき、砂浜でたくさん砂を収納してきたでしょう。その中から砂鉄だけを精錬で集めて頂戴。」
たしかに、砂浜で砂を沢山収納してきた。そうしろって言われたから分からないように少しずつ。
「お母さん。精錬って何ですか?」
「それはね。長い間病気だった玲の病気の原因。それがようやく解決して手に入れた不思議な能力よ。」
「玲、このビニール袋の中に少しだけ砂浜の砂を入れてみて。」
僕は、指の先にアイテムボックスを小さく開いて収納している砂をビニール袋の中に入れて行った。
「ねっ。これが、玲のスキル。アイテムボックスよ。その能力で、砂の中から砂鉄を分離して出すことができるの。」
「アルケミー・砂鉄」
「しゃあ、その砂鉄を乳鉢の中に入れて。3分の1位で良いわ。それから炭素。隅の粉ね。この前のバーベキューの炭の余りで良いわ。なるべく細かい粉にして乳鉢にいれて。」
「じゃあ、本田さん。この乳棒でゴリゴリかき混ぜて、均一になるように混ぜてね。」
「はい。」
本田さんが乳棒でゴリゴリと摺り潰しながら混ぜて行った。
「そろそろ良いかしら。」
「じゃあ、試験管の中に入れて、ゴム栓をして、加熱準備します。この中から出てきた気体は、この液体の中を通ります。この液体は、石灰水よ。」
「この試験化の中には、砂鉄と炭の粉が入っているのよね。」
ガスバーナーで過熱を始めたて、暫くすると、試験管から気体が出てきた。
「最初、今出ている気体は、はじめに試験管の中に入っていた空気が膨張した物。そんなものすぐになくなってしまうわよね。」
「試しに、気体を試験何の中に水上置換して集めておきましょう。」
だんだん、黒かった試験化の中が赤くなってきた。それに伴って泡が出来る勢いが激しくなってすぐに、気体は、試験管一本を満たしてしまった。
「出てきた気体を試験管の中に入れるなるべく水面近くでしてくれない。石灰水の変化も進めたいから。」
石灰水がだんだん白く濁って来た。やがて加熱しても気体が出なくなった。過熱を止める前に、石灰水の中からガラス管を引き上げるのを忘れないようにする。
「まだ、試験管は熱いから触らないでよ。」
暫く待って、冷えきたようだ。
「じゃあ、試験管の中身を水を入れたビーカーに移してみます。」
燃え残った炭と金色に輝く個体がビーカーに移され、個体は下に沈み炭は、水に浮いていた。浮いている炭を流してビニール袋に入れた磁石をビーカーの水の中に突っ込むと、銀色の個体の粒が磁石にくっついてきた。
その粒を希塩酸の中に入れると細かい泡を発生して溶けて行った。
砂鉄から鉄を取り出すことができたようだ。発生した機体は二酸化炭素。つまり、炭素の粉と鉄に結合していた酸素が結びついて発生した 気体だ。
このことから、砂鉄は、酸化鉄だったことが分かった。
「どう?磁石にくっつく酸化鉄の確認できた?」
「はい。面白かったです。玲君の能力も面白かった。」
「ありがとう。これからもよろしくね。」
この後も、楽しい実験の時間が続いた。面白かった。
夜、ダイアリーに今日のことを書いた。友だちに自分のスキルを伝えたこと。そして、来週末転生実験をしようと提案してみた。次の転生は、こっちの時間の金曜日の夕方。向こうの時間の明け方にしようと思う。その方が、時間を有効に使うことができる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます