第156話 溶岩流階層
ロックバレーダンジョン。1階と2階はほぼスルーだ。昨日は、ミラ姉の妹分のパーティーがケインとエミリーを連れて一緒に小さなロックリザードの討伐をしたと言っていた。
ロックの討伐はしていないようだけど、1・2階はクラスも貰えてない初級冒険者対象のダンジョンだと言っていい。沢山の初級冒険者がロックリザードの討伐をすることで、ロックバレーがまた、ロックリザードに占拠されることもなくなるだろう。
3階層では、ゴーレムコア集めをした。どういう組み合わせでコアの回収をすると効率が良いか話して、僕とシエンナが組んで回収。もう一台小型ゴーレム戦車を作って、ミラ姉が運転してロジャーとアンディーが回収という組み合わせが効率が良いんじゃないかということになった。
だって、シエンナが、ゴーレムコアの回収をできるようになっていたんだ。シエンナが、運転とゴーレムハンドの操作と回収を行い、僕も回収を行う。
ミラ姉達は、アンディーとロジャーが回収を行い、ミラ姉が運転する二つとも小型ゴーレム戦車を使うけど、ミラ姉たちが使った戦車は、後で、精錬で新品に作り替えて、王室献上用にするゴーレム車にするつもりだ。帝国に献上したゴーレム車を見たティモシー様が王室用に欲しいと言っておられたから、買っていただいても良いのだけど、献上しない訳にはいかないだろう。
そう言えば、帝国に献上したゴーレム車の代金貰ったっけ?あれって、森の賢者からの献上品ってことになるのか?
ゴーレムバイクと有人ドローンの販売で大金が入って来たから献上品の値段を話すことを忘れていた。ゴーレムコアと材料の量だけなら、ゴーレムバイクの8台分くらいなんだけど、装飾なんかも大変だったからな…。そもそも、ゴーレムバイクを基準にしていい物なのかな…。これって、クーパー様に確認しないといけないことなのか?
そんなこと考えながらのゴーレムコアの回収だ。僕は、ゴーレム戦車の運転席左の魔術発出窓の席に座って、そこから目の前のゴーレムのコアまでの射線が出来たら、収納する。メタルゴーレムの時だけ、崩れ落ちたゴーレムの残骸を収納。それを繰り返していた。
シエンナは、とっても大変だ。運転席には座らず、その左側の護衛席から遠隔操縦しつつ、ゴーレム戦車の左右の手を操作して、僕とシエンナの前方にいるゴーレムコアまでの射線を作って、自分の方にいるゴーレムのコアは収納。僕と同様に崩れ落ちたゴーレムがメタルゴーレムの時だけ残骸も収納する。その全てを滞りなくやっている。凄すぎる。
二人同時にコアを収納する時もあったけど、ゴーレム戦車の右と左の腕は、全く違った動きをしていた。僕は、自分の目の前のゴーレムを見ておかないといけなかったから、どんな動きをしているのかしっかり見ることはできなかったけど、シエンナってどうやって周りの状況を把握して腕を動かしているんだろう…。後で聞いてみよう。
50分ほどコアの回収をしたところで、ミラ姉達の戦車と再会した。あたりにゴーレムが居なくなったところで、ミラ姉達のゴーレム戦車を回収して戦果報告会だ。
全員、小型ゴーレム戦車に乗車して次の階層入り口に向かいつつ、戦果の確認。戦果と言ってもゴーレムたちは、このゴーレム戦車を襲ってはこないから、回収成果と言っても良い位だ。
「僕が回収したゴーレム核は、158個、素材は、メタルゴーレム10体分だよ。そして、シエンナは?」
「私は、ゴーレム核が、202個、素材は、メタルゴーレム24体分です。」
「と、いうことで、僕たちの合計は、コア360個 メタル素材 34体分。ミラ姉たちは?」
「ロジャーが、コア108個、アンディーが、コア132個と素材10体分よ。コアの回収競争になるって思って素材回収は、アンディ―の方に出たメタルゴーレムだけにしたのに負けたわ。」
「それにしても、この階層だけでゴーレムコアを400個も回収できたんだ。タブレット200台と中継基地の分は、十分にあるね。」
このダンジョンのゴーレム階層は、王都のゴーレム階層の4倍近い広さのようだ。回収できたコアの数が凄すぎる。
次の階層は、溶岩流階層だ。小型ゴーレム戦車だと魔物が出た時の戦闘態勢が取りにくいということで、大型のゴーレム戦車に乗り換えた。ここをスルーして下の洞窟階層に行く手もあるのだけど、火属性の魔石も手に入れたい。
シエンナが運転席。ミラ姉がシエンナの護衛兼中距離攻撃手として1階席に残って、男性陣は、天井に登って、外からの攻撃だ。ハッチを開けて、上に出た。暑い。
「暑いね。あっ、そうだ。安全のために、デッキに手すりと熱気避けのフードを付けておかない?」
「そうだな。溶岩流に落ちたらたまったものじゃないかな。」
僕が、透明金属版と手すり用のパイプを精錬して出すとアンディーが取り付け加工してくれた。あっと言う間に、転落防止用の手すりに熱気避けの透明金属が付けられた。手すりの側で屈むと少しは、熱気が抑えられる気がする。
タブレットが振動して、連絡を知らせきた。
『オットー:前方右手から大型の魔物が接近します。』
『レイ:代表して、了解。これから、僕がロジャーとアンディ―の連絡役をする』
二人もタブレットは確認している。ロジャーは、投げ槍でアンディーはソードショットで攻撃すると言って来た。
右手に大きなフレイムベアが現れた。
「ソード・ショット」
ロジャーは、ストレージから取り出した、投げ槍を投擲する。
『ビュッ』
頭に、大剣と槍をはやした熊が、倒れ込み、すぐに大きな爪と魔石に変わった。僕がその二つを回収する。この魔石1個で昨日作ったファイヤーボールライフル8丁は作れると思う。
『オットー:前方から人が走ってくる。その後ろに中型の魔物。』
『レイ:了解』
「助けてくれー。」
前から走ってくるのは、ロックリザード討伐の時にも見たことがある冒険者だ。Bランク冒険者だったと思う。
後ろから追ってくるのは、赤いゴーレム。溶岩でできたゴーレムだ。
『ゴーッ』
ゴーレム戦車の横を真っ赤に焼けた溶岩が飛んで行った。この戦車を攻撃した物ではない。冒険者に向けて撃ちだしたものだ。冒険者がゴーレム戦車の陰に隠れると、飛んでくる溶岩の攻撃は収まった。
ゴーレム戦車を仲間のゴーレムと勘違いしてくれているようだ。冒険者たちは、ゴーレム戦車の陰で身を潜めている。ゴーレムコアへの射線はできている。でも、さすがに距離がありすぎる。
僕たちも、熱気避けの透明金属版の陰に隠れる。丸見えなんだけどゴーレムからは見えていないようだ。
『レイ:このまま、ゆっくり近づいて行って。ゴーレムコアまでの射線を確保したまま、近づける?』
『オットー:了解しました。やってみます。移動開始』
ゆっくりと溶岩ゴーレムに近づいて行く。後ろからぴったりくっついて冒険者も移動している。後50m、40m…。
「僕が先に、収納してみるね。アンディーは右側で、僕が収納に失敗した後のサポートと再収納アタックをお願い。」
20m、10m。
立ち上がり、ゴーレムコアに向かって右手を伸ばす。
「収納。」
魔力が吸い取られる。個体の体に埋まっているコアよりも収納しにくい。コアと溶岩の体に隙間がないためだ。魔力が移動し、動いている魔物は生き物と同じように収納できない。
「ウー…。シュウノーッ!」
ドロドロとゴーレムが崩れて行った。
魔力が3分の1は持って行かれた。それでも何とかコアを収納することができた。コアを収納して倒したゴーレムからはドロップ品はない。ゴーレムは、溶岩に戻って溶岩流の中に流れ落ちて行った。
「おぉー…。た、助かった。ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。皆さん大丈夫でしたか?」
「怪我人が居るのだが、治療をしてもらえないだろうか。中にいるのは氷の聖女様だろう?」
『レイ:ミラ姉、聞こえた?』
『ミラ:何が?』
ミラ姉には、聞こえてないようだ。
「ロジャー、怪我人を上まで運べる?」
「おう。大丈夫だ。ここに連れてくればいいのか?」
ロジャーは、ゴーレム戦車から飛び降りると、怪我人を抱えて、階段を駆け上がるように空間に足がかりを作ってデッキまで運んできてくれた。
『レイ:ミラ姉、上に出て来て。怪我人の治療をお願い。』
『ミラ:了解』
ミラ姉がハッチから出て来て、怪我人を治療してくれた。赤黒く焼けただれていた、右足の太ももふくらはぎの部分は、すぐに回復していった。痛みに顔をしかめて気を失っていた冒険者は、すぐに安らかな顔になり静かな寝息を立て始めた。
「もう大丈夫、起きなさい。」
ペシペシとほっぺをたたいて気付かせようとするミラ姉。少しほっぺが赤くなってきた。痛そう。
「ウっ、うーん。」
気が付いたようだ。目が開いて、ミラ姉と目が合う。
「こっ、氷の聖女…様…。」
言った途端、ミラ姉からはなれ、土下座しながらお礼を言い始めた。どうやら、面と向かって氷の聖女と言ってしまって、ひどい目に合わされた冒険者のことを見ていたようだ。
「あっ、ありがとうございます。アメリア様。」
「ミラで、良いわよ。治療代は、銀貨1枚が相場よ。冒険者ギルドからアンデフィーデッド・ビレジャー宛てに振り込んでいて。ここで銀貨1枚払っても良いわ。」
「はっ、はい。ここで支払います。たった銀貨1枚で命を助けていただけるなんて…。ミラ様、何か困ったことがあったら、何でもファルコン・ウイングのボフスラフにお申し付けください。ミラ様に頂いたこの命に代えてもその申しつけを果たします。」
「何、大袈裟なこと言ってるのよ。でも、何かあった時は、頼りにするわ。よろしくね。ボフスラフ」
また、ミラ様の下僕が増えた。ボフスラフは、戦車から飛び降りて行こうとして、立ち止まって聞いてきた。
「あの…、もしも手持ちのリキロゲンボムがあれば、譲ってくれないでしょうか?さっきの溶岩ゴーレムも一体は、行動不能にしたのですが、手持ちのリキロゲンボムが無くなってしまって、あんな無様なことになってしまったんです。」
「え?ああ、リキロゲンボムなら、ありますよ。いくつ位欲しいですか?」
「金貨1枚で譲ってもらえるだけ全部お願いします。」
「40個もですか?持てますか?」
「えっ?道具屋で販売している値段で譲ってもらえるのですか?それでしたら、それぞれのアイテムバッグに4個ずつ入れるとして、20個お願いします。銀貨5枚で宜しいのですか?」
「はい。毎度ありがとうございます。」
ファルコン・ウイングの皆さんは、元気に狩りに戻って行った。
溶岩流階層では、その後、溶岩ゴーレムを10体、ファイヤーバードを24体、フレイムタートル8体を倒した。全て、ミラ姉のアイスジャベリンか、僕のリキロゲンボールで冷却すれば、割と簡単に倒すことができた。
ドロップ品は、ファイヤーバードが、植物の種と燃える水この森る水を収納するのが難しかった。倒されて落下するまでに下にアイテムボックスの入り口を広げておくという荒業でやった。ロジャーは、ピョンピョン跳んで、キャッチしていた。
フレイムタートルは、肉とべっ甲をドロップした。べっ甲は、宝石に近い使われ方をするそうだ。
最短の道を通って下の階層に降りる入り口に着いたのは、丁度お昼の12時くらいだった。
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