第150話 領主様と妄想のダンジョンシティー

「この度のそなたらの偉業。本当にご苦労であった。私が、ここ10年の間、何度も願い、取り組んだが敵わなかったことを良くやり遂げてくれた。」


まず、領主様からの感謝の言葉から始まった今回の晩餐会は、僕たパーティーとギルドマスターだけの小さい規模の晩餐会だったが、とても心のこもった晩餐会だった。


「私からもお礼を言わせてください。あっ、私は、フローレンス・リア・マクスター。領主アーヴィン・ロイド・マクマスターの妻です。本当にありがとう。この人が、公の場から身を潜めていたのは、全て、あのロックバレーのトカゲたちの所為なのです。そのトカゲをフォレストメロウの財産にしてこの町を大きく潤して下さったこと本当に感謝いたしております。」


「チェイス。お主にも感謝しておる。お主の働きは、しっかりと耳に入っておるぞ。多くの冒険者ギルドに連絡を取り、たくさんの冒険者を集めてくれたこと。誠にお主あってこその討伐成功じゃとおもっておる。ありがとう。」


「もったいなきお言葉、領主様が、石切り場が使用できなくなったことの責任を取られて隠遁されたと聞いた時は、心を痛めておりました。今回の討伐成功を持って堂々と王都でもどこへでもいらっしてください。」


「おお、その言葉ありがたく受け取ろう。ロックバレー奪還を王都へ報告に行かせてもらうぞ。」


「領主様、その際は、私たち、アンデフィーデッド・ビレジャーが、ゴーレムバスでお送りしましょう。3時間程で王都に到着いたしますよ。何なら、王宮への連絡も致しましょうか?」


「レイ、調子に乗るんじゃありません。」


ミラ姉に怒られた。


「どういうことだ。確かに王都へ向かう時は、冒険者等に護衛を依頼することはあるが…。王都まで3時間とはなんだ?フォレストメロウの街には大時計の魔道具は取り付けておらぬぞ。それに、2週間以上の道のりだぞ。馬車で向かってもな。」


「ああ、あのですね。こいつらは、森の賢者様という方から、色々な魔道具の安全確認を依頼されて、試用実験を行っているんですよ。その一つが、ゴーレムバスって言いましてね。フォレストメロウの街からロックバレーまでを15分って言うとっても短い時間で移動することができるんです。その魔道具を使えば、王都まで3時間で到着するって言ってるんですよ。」


「ゴーレムバスか?一度乗ってみたいものだな。そうだな。一度、ロックバレーの拠点や石切り場の様子を見学に行きたいのだが、そのゴーレムバスとやらで連れて行ってくれぬか?」


「何人でいらっしゃるのでしょうか?」


「冒険者を護衛にして、儂一人だと思っているのだがダメか?」


「危なくないのでしたら、私も乗って見に行ってみたいですわ。」


「領主様とフローレンス様だけなら私たちが護衛し、お連れすることができますわ。ただ、ゴーレムバスではなく、別のもう少し安全乗り物でですが…。バスは、今、冒険者や開拓村の砦づくりに携わる方たちを定期的に運んでいますから臨時利用が難しいのです。」


「それと、領主様にご報告がございます。この度、ロックバレーにおきましてダンジョンが発見されました。そして、その5階層にて、ルビーやサファイヤなどの宝石類がドロップすることが分かりました。その宝石の価値については、只今鑑定中でございますが、フォレストメロウに大きな富をもたらすことは間違いございません。」


「なに。して、それを発見した物は誰なのだ。」


「それは、ここにいるアンデフィーデッド・ビレジャーの面々です。」


「お主ら…。ほっ本当に、かたじけない。」


「あなた…。良かったですね。…。」


領主様は泣いていた。後で聞いたところによると、10年に及ぶロックバレーの奪還失敗、奪還作戦の費用など様々な負債が重なり、廃嫡寸前だったのらしい。王都への凱旋報告も、廃嫡とりなしの為の報告にするつもりだったと言っていた。


領内に宝石が産するということになれば、その取引に関する課税だけで、町全体を潤すことができる。勿論関連産業も大いに潤うだろう。更に、今回の冒険者ギルドを通して行われているロックリザードの素材取引に関する課税。わずかな課税だけで、今までの負債をすべて返済し、新たな産業を興す資金を手にすることができるのだ。


今回の課税は、ギルドと町の外との取引のみに掛けられ、ギルドから冒険者への支払いには、表面上はかからない。勿論、品物の取引に課税されているのだから手元にわたる金額は減るわけだ。だから冒険者の手取りに課税されていないとは言えないのだが、冒険者の目には見えない。そのような課税の仕方だから、冒険者から不満は出ることは無い。ギルドに支払う手数料と同等だと考えているからだ。


そんな課税の仕組みなんかをギルマスに教えてもらいながらも、領主様方による心温まる晩餐は続いていった。それとなく、ゴブリンダンジョンの新ダンジョンタウン計画を打診してみた。今日明日から建築を開始するわけではないが、できるだけ早く始めたいという確認を取った。言質は取った。後は、言霊で縛り、実行させるだけだ。


「ヌフフフフッ」


目を見合わせて、悪人の笑いをする男3人の冒険者。ダンジョンに通う冒険者と冒険者が落とすお金に群がる廃頽の街。大人の遊び、大人の匂いがする街。その街へのダンジョンフリーパス。ダンジョンシティーに入る際、入場税が一生要らないパス。様々な優遇制度が受けられるパス。そんな妄想を膨らませている3人だった。


領主様の、ロックバレー見学は、翌日11時からに決まった。見学護衛は、アンディーとミラ姉とシエンナ。僕とロジャーは、最初の計画通り、砦の石の積み上げだ。


ロックバレーの見学には、ダンジョン内の見学も含めるそうだ。5階層で宝石のドロップを見て見たいとの要望だったけど、アンディーたちはそこまで潜るのだろうか?安全第一で考えると言っていた。


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